【会社づくりの参考書】多くの企業が注目。障害者が笑顔で働く原宿のおしゃれなフラワーカフェ

写真:お店の中で植物や花に囲まれ、手に花を持つ一般社団法人ローランズプラスの代表・福寿満希さん
みんなが働きやすい会社づくりのヒントを、企業の代表に聞く

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!
・障害者雇用に必要なのは障害者への“配慮”ではない。みんなが抱える“働きづらさ”を解消すること

・「もっとがんばりたい」「知識と技術を身につけたい」というスタッフの思いに応えた結果、賃金は全国平均の約2倍を達成

・数合わせの雇用をやめて“欲しい人材”を探すことが障害者雇用の「質」を上げる


障害者が地域の一員として “普通”に暮らせる「共生社会」実現の理念の下、日本の民間企業には、社員数に対して一定の割合の障害者を雇用することが義務づけられている。2018年4月1日に法定雇用率が2.0%から2.2%に引き上げられ、多くの企業が目標を達成するために努力を重ねている。

そこで、障害者雇用のモデル事例を紹介し、ヒントを探るのが、この連載企画「会社づくりの参考書」だ。

第1回は、東京・原宿にあるフラワーカフェ「ローランズ」。3店舗ある中の1つである原宿店は就労継続支援A型の事業者として、全国平均7万4,085円(2017年度、厚生労働省調べ)の約2倍の賃金を実現している。店舗を運営する一般社団法人ローランズプラスの代表・福寿満希(ふくじゅ・みづき)さんに、事業を軌道に乗せるまでの道のりや、働く環境づくりのヒントを伺った。

将来はパイロットになりたい!障害のある子どもの言葉が事業を始めるきっかけに

ローランズプラスは法人対応のフラワーギフトやイベント装花を製作するほか、フラワーショップの運営を行っている。天王州アイル店、駒込店に続き、2017年には障害者雇用のモデル事業を日本全国につくる「はたらくNIPPON!計画」を実施している日本財団との共同プロジェクトとして、カフェが併設された原宿店がオープンした。

写真:フラワーカフェ「ローランズ」の店内
グレーや木目調をベースにした内装に花と緑が映える

原宿店の店内に一歩足を踏み入れると、明るく開放的な空間に並ぶみずみずしいグリーンが目に飛び込んでくる。生花コーナーには色とりどりの花が揃い、カフェスペースでは、フレッシュなフルーツや野菜を使ったスムージーをはじめ、オープンサンドやスープも販売している。

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食べられる花、エディブルフラワーを使った華やかなメニュー

ローランズ原宿店は就労継続支援A型の店舗で、働くスタッフのおよそ8割が障害者である。就労継続支援A型とは、障害や難病のある人のため、障害者総合支援法によって定められた就労支援事業のこと。事業主と雇用契約を結んだ上で一定の支援がある職場で働くことができ、原則として働く人々は最低賃金以上が保証される福祉サービスである。

代表の福寿さんは、なぜこのような事業を始めるに至ったのだろうか。

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ローランズプラスの代表、福寿満希さん

「大学時代に特別支援学校の教員免許を取ったんです。初めて障害者と関わったのは、免許取得にあたって教育実習を受けたときでした」

福寿さんはもともと、スポーツ関連の学科を専攻していた。教員免許が取れるカリキュラムもあったため、「せっかくなら」と、小中学校、そして特別支援学校の免許を取得したという。

特別支援教育を学ぶ中で、福寿さんは当時の障害者の就職率が1割程度であることを知る。さらに就職できたとしても、用意されている仕事はシール貼りや商品の箱詰めが多く、選択肢が少ないということにもショックを受けた。

「障害のあるなしに関係なく、子どもたちは夢を持っているんです」と、福寿さん。特別支援学校の子どもの「将来はパイロットになりたい!」と話す笑顔が、ずっと心に残っていた。

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障害者も健常者も、同じようにチャンスのある世の中を目指す福寿さん

大学卒業後、福寿さんはスポーツマネジメント会社に就職している。そこでスポーツ選手の社会活動を企画・運営する仕事を任された彼女は、ソーシャルビジネスのやりがいに魅了されたそう。しかし、1年半で部署異動を言い渡される。「好きな仕事が続けられないなんて耐えられない!と思ってしまったんです(笑)」と会社を辞めて、23歳の時に独立を決めた。

ソーシャルビジネスを仕事にしたい一心で退職した福寿さんだが、自分に何ができるのか見当もつかなかったそう。そんな中でふと学生時代に習っていた華道を思い出した。「お花って見ているだけで人の心を癒やしてくれますよね。社会の役に立つことにつながるんじゃないかと思ったんです」と、フラワーアレンジメントの勉強をすることに。腕を磨き、展示会に出品するまでに成長した彼女は、企業からエントランスなどに飾る装花製作を依頼されるようになる。

写真:木でできたカゴの中に緑や赤などカラフルな花が詰まったフラワーギフト
「雇用を生み出す」という社会貢献を、植物の力を借りて行う

花や植物を通してできるソーシャルビジネスをしよう。そう決めた福寿さんは装花やフラワーギフトの製作を行う会社を起こす。そして3年目に入った頃、障害福祉サービス事業所からフラワーアレンジメントのレッスン依頼が舞い込んだ。そこで、手先も器用で真面目なのに、“障害がある”という理由で就活がうまくいかない人がいる現状を改めて知る。

「お花の仕事は、細かく作業を切り出せば障害者の方も一緒に取り組めるのでは」と考えた福寿さん。特別支援学校で出会った子どもの言葉も思い出し、障害者の雇用枠を少しずつ設け始めた。

「“障害”という枠を取り払い、その人の持っている個性や能力を見るようにすると、一緒に働きたい人材であるかどうかに気づくことができるんです」

その視点が、ローランズの障害者雇用の軸となる。

目指すのは、みんなが抱える“働きづらさ”を解消し、働き続けたいと思える会社づくり

都心型の店舗を目指していた福寿さんは初号店である川崎店(現:天王州アイル店)に続き、赤坂にお店をオープンすることを予定していた。しかしオープン直前になり、ビルのオーナーから障害者雇用承諾の契約書類のサインをもらえないというハプニングに見舞われてしまう。

「代わりになんとか駒込に2号店を出したのですが、都心に進出するという夢が破れてしまい…。どうしようかと悩んでいた時に、日本財団さんから障害者雇用のモデル事業となる原宿店立ち上げの共同プロジェクトについてお声がけいただいたんです」

福寿さんは「こんなチャンスはなかなかないはず」と、すぐさま話を受けることを決意し、新店舗のオープンに向けて走りだす。そして誕生したのが「ローランズ原宿店」だ。

福寿さんも最初から順調に障害者を雇用できていたわけではない。

「はじめの頃は壁にぶち当たってばかりで、ずいぶん悩みました」と福寿さん。もっとも苦労したのは、障害者スタッフの体調を配慮した勤務体制だ。がんばりすぎて翌日の勤務に響かないよう、個々に適した就労時間の管理を徹底するようにした。

写真:笑顔で話す福寿さん
失敗と成功を繰り返し、障害者雇用の枠を増やしてきた

オープン当初は、障害者スタッフから些細な質問をされることも多かったという。「正解を求められるたびに一つひとつ丁寧に答えていたんです。それも管理する側のパンクの原因になっていた」と福寿さん。

例えば、1つの花束を作る際、「この花の位置はここでいいですか?」と1本ずつ質問されることもあった。「でも、今は逆に質問を投げかけるようにしています。“あなたはどう思う?”と。すると実は、みんな自分なりの正解を持っていて、次第に質問も減り、自分で考えて仕事を進められるようになりました」。

今までは答えすぎていた。そう気づいた福寿さんを含むサポートスタッフは、障害者スタッフの意見が反映されるお店作りを意識するようになった。「成功体験を積み重ねて、スタッフがどんどんたくましくなるのは嬉しいものです」と福寿さんは笑顔で語る。

写真:ジュースをお客さまに手渡すスタッフ
働きながら力をつけ、スタッフは優秀な人材に育つ

では改めて、障害者が働きやすくするためにどんなことに配慮しているのだろう。

「そうご質問いただくことが多いんですけど…。特別なことはしていないんです。障害者雇用って、いかに障害がある方への配慮ができるかが重要と思われているかもしれません。でも配慮って、障害のあるなしに関係なく誰でもしてほしいものですよね」

福寿さんはスタッフみんなが抱える“働きづらさ”を解消し、働き続けたいと思える会社づくりに注力している。必要以上の配慮をすることは、かえって障害者スタッフの成長につながらないと考えている。なぜ配慮してくれないのか?と本人から意見をぶつけられ、話し合いになることもあったそう。

障害があるから配慮されて当たり前と思ってほしくない。どこへ行っても愛される、この人の力になりたいと思ってもらえる人材に育ってほしい。そんな思いを持って、福寿さんはスタッフと向き合う。「なんでもしてあげることは難しい。あなたと一緒に働き続けるためには、お互いどうしたら良いだろう?」と。

実際にローランズ原宿店で働いているスタッフの声も聞いてみた。

今回お話を伺ったのは、生花販売の担当をしている佐藤さん(仮名)。生花販売チームにいるリーダー「スリーキャップ」の3人のうちの1人として活躍している。人当たりが良くテキパキと仕事をこなすため、とても頼りにされているそう。

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「忙しく働くことが好き!」と語る、生花販売チームのリーダー佐藤さん

——ローランズに就職を決めたきっかけを教えてください。

佐藤:もともとこのお店で働いていた知り合いに紹介され、見学に来たことがあるんです。とても雰囲気が良く、私も働きたいなと思って。面接を受けて無事に合格し、1年半ほど前から勤務しています。

——カフェ運営と生花販売がある中で、今のお仕事を選ばれたのはなぜですか?

佐藤:最初から生花の担当をしていたわけではないんです。以前、大規模なパーティーの装花の依頼をいただいたことがあり、その際に私も赤と青の2色のお花だけで製作したんですよ。これが本当に楽しくて、どっぷり生花の魅力にハマってしまったんです。それ以来、生花販売の担当をさせてもらっています。

——現在はどのような形態で勤務されているのでしょうか。

佐藤:私は難病があり、はじめは週5日勤務で4時間の日と5時間の日を混ぜていたんです。最近は体も慣れてきたので、すべて6時間にしてもらっています。大変なこともありますが、全然苦に感じませんよ。私は忙しく働くことが好きなんだなと、このお店で知りました(笑)。

——働いていて楽しい瞬間を教えてください。

佐藤:花束のデザインやお客さまの接客をしているときは、やっぱり楽しいですね。いろいろな技術が身について、1年半前までの自分とはまるで違うことを実感しています。一緒に働きたいと思える先輩や仲間に出会えて、毎日の仕事が本当に楽しいです。

数合わせの障害者雇用は長続きしない?本当に欲しい人材を妥協なく探して

就労継続支援A型の認可を受けているローランズ原宿店の最低賃金は、全国平均値である7万4,085円のおよそ2倍だ。なぜこのような結果が出せたのだろう。

「仕事が忙しくなると、最初は健常者のスタッフに入ってもらってしのいでいたんです。でも実際はもっと働きたいと思っている障害のあるスタッフがいて。そんな意欲とやる気のある人にお願いしたほうが、現場は活気づくんですよね」と福寿さん。「もっとがんばりたい」、「知識と技術を身につけたい」。そんなスタッフの希望に沿って仕事を増やしたことが、最低賃金の底上げにつながったのだとか。

写真:笑顔を浮かべて並ぶ福寿さんとスタッフたち
福寿さんとスタッフの間柄は、代表と社員というよりも“働く仲間”。撮影中も笑い声が絶えなかった

そんな福寿さんに障害者雇用の現状をどう見ているのか伺うと、「良くなっていると思います」とのこと。「法定雇用率制度ができて、障害者の雇用率は約50%にまで上がりました。次は雇用の“質”を上げていくことが課題かなと思っています」と話す。

法定雇用率制度において、障害者が1日6時間就労すれば、1人雇用しているものとしてカウントされる。本当はもっと働きたいと思っていても、雇用率を達成することを重視する企業はコストをかけたくないため、6時間以上の就労を認めないことが多いという。また、就職したはいいが実際に仕事を振り分けてもらえない“社内ニート状態”になり、居づらくなって辞めてしまう障害者もいるなど、定着率が低いことも問題である。

「数を埋めるための障害者雇用ではなく、戦力として欲しい人材を妥協せずに探すことが、雇用の質の向上につながると思うんです」と福寿さん。「“障害”という枠を取り払って、フラットな目線で考えたらどんな人材が欲しいだろう?これを軸に障害者雇用を進めれば本当に企業の力になってくれる人材が見つかり、定着にもつながるはずです」。

最後に今後の目標を伺うと、「ありがたいことに、多くの企業の方が見学に来てくださるんです。ローランズの工夫や働き方から、何かしらのヒントを持って帰っていただいていることもあるようで。より一層スタッフがいきいきと働き続けられるお店作りに力を入れて、少人数でも強い、障害者雇用におけるモデル企業になれたらいいなと考えています」と、笑顔で語ってくれた。

撮影:佐藤潮

〈プロフィール〉

福寿満希(ふくじゅ・みづき)

一般社団法人ローランズプラス代表。株式会社LORANS.代表取締役。大学卒業後、スポーツ選手の肖像管理や社会活動の企画運営を行うスポーツマネジメント会社に就職。2013年に独立し、フラワービジネスを通じて社会活動を行う。
株式会社LORANS. 公式サイト

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