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【里親になりたいあなたへ】面談で申請要件を確認する(特集第3回/全8回)

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児童相談所で職員と面談する夫婦(イメージ)
この記事のPOINT!
  • 児童相談所の面接では、里親制度や要件の説明、里親希望者への家庭環境等の確認が行われる
  • 時間的、経済的に無理なく「普通に」子どもを育てられる環境であることが里親の条件
  • 里親になるには、実子や祖父母など家族全員の理解を得ることが大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

さまざまな事情により、生みの親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れて育てる「里親制度」。この特集では、里親登録するまでの準備や手続きの内容について、実際に里親になることを検討する「山田夫婦(仮名)の体験」をもとに、妻の視点を通してお届けする。

第3回のテーマは「申請要件の確認」について。この手続きでは、児童相談所の職員による面談が行われ、里親制度や申請要件などの説明を受ける。面談は堅苦しいものではなく、ざっくばらんに話をしながら、里親に必要な要件(里親を希望する動機、家族構成、住宅環境等)について話をする場だ。里親の登録や児童を預かることに対する不安や疑問があれば、気軽に聞くこともできる。

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「山田夫婦の体験記」登録ステップ2.申請要件の確認

無理なく「普通」に子どもを育てられることが条件

今日は児童相談所での面談日。夫に仕事を午前中お休みしてもらって、夫婦で児童相談所に向かった。児童相談所の建物は、想像していたよりもきれいで、歯医者さんの待合室にもあるような子どもの遊び場があり、雑誌や自動販売機も置いてあった。緊張していたけれど、どことなくアットホームな雰囲気に少し気持ちが軽くなった。

係の人に案内されて面談室へと行くと、職員さんが先にいて笑顔で出迎えてくれた。いい人そうで安心した。挨拶を済ませ、天気のことなど他愛もない会話を交わして場が和むと、まず職員さんから聞かれたのが、里親への志望動機だ。

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和やかな雰囲気で行われる面談(イメージ)

職員「里親の種類(別ウィンドウで開く)には、養育里親、専門里親、養子縁組里親、親族里親とありますが、山田さんご夫妻は、養育里親をご希望されていると伺っております」

夫「はい、高校生になる一人息子がこの春から下宿生活を始めて、私たちの手を離れたもので」

私「これまでの子育ての経験を生かして、少しでも子どもたちの力になれればと、問い合わせさせていただきました」

職員「なるほど。息子さんは、里親を希望される件についてはご存知ですか?」

私「実は、まだ息子には話をしていないんです。今日お話を伺ってから、相談しようかと思いまして」

職員「そうでしたか。里親になるにはご家族の同意が必要になりますので、しっかりお話をして理解を得るようにしてくださいね」

次に、職員さんから里親制度の概要や要件、登録するまでの流れ(別ウィンドウで開く)について説明があり、私たちの仕事や家庭環境について話を聞かれた。

職員「それでは、里子を迎え入れて生活するための環境について伺いたいと思います。まずはお2人のお仕事についてお聞かせいただけますか?」

夫「私は正社員として会社で働き、妻はパート勤めになります。勤務時間は、私は9時から17時までで、時々残業や週末に出勤することもあります」

私「私は週4日から5日のシフト制になり、1日だいたい4、5時間の勤務になるでしょうか。比較的都合も聞いてもらいやすいので、特に問題なく子どもを育てることはできると思っています」

職員「そうなんですね、最近は共働きのご夫婦がほとんどですので、里親さんになられることは特に問題ないかと思います。ただ、どうしても、里親さんと里子さんをマッチングする際にはお互いを知る時間も必要になってきます。ですので、何度も乳児院や児童養護施設に足を運んでいただいて、一緒の時間を過ごしたり、短期で家にお泊りしたりする交流期間があります。里子さんの年齢にもよりますが、全体で3、4カ月ぐらいの交流期間を持つことが多いです」

私「3、4カ月ですか?そんなに期間が必要なんですね…」

職員「里子さんの年齢や状況に応じて交流期間は異なりますが、交流中の費用は定額で補助があります。また、正式に委託されると、山田さんが希望される養育里親では里親手当というものが支給され、1人当たり月額9万円(※)になります。また、その他にも一般生活費として月額5万円程度が支給されます」

  • 2020年4月改正

私「あ!里親手当については里親制度の説明会に参加した時にそう教わりました。なら、パートをやめてもなんとかなるかも。里親になる上で子どもにかかる養育費を負担できるかというのも心配だったので、里親手当が支給されると聞いてなんだか希望が湧いてきました」

職員「それは良かったです。では次に、お2人の住まい環境と家族構成についても教えていただけますか。それと、どれくらいの年齢の里子さんを受託することが可能かもお聞かせください」

私「今は3LDKの賃貸マンションに2人で暮らしています。家族構成は息子を入れて3人。お預かりする子どもの年齢は特にこだわっていません。ただ…思春期は息子も難しかった経験があるので、できれば3歳くらいまでの子どもをまずは短期で預かれるといいなと思っています。可能でしょうか?」

職員「お願いする際は、里親さんの希望や状況も考慮しています。乳幼児を短期間で預かってくださる里親さんも、私たちはとても必要としています。里親の家庭の住居については、一定の広さや間取りを満たすことが要件の一つ(※)になります。例えば、2人のご家庭の場合だと40平方メートル以上の広さ、2部屋以上(LDK除く)の間取りが必要となります。お話を伺う限り、山田さんご夫妻は問題ないかと思いますが、子ども部屋にできそうなお部屋はありますか?」

夫「はい。将来的には息子の部屋を子ども部屋にしたいと考えています」

職員「それはいいですね。では、お2人のご実家についても簡単にお聞かせください」

夫「私は大阪、妻は都内に実家があります。共に両親は健在です」

私「あの…里親になるのに両親の承諾も得る必要があったりしますか?」

職員「そうですね。先ほどもお話ししましたが、里親になるには、一緒に暮らしていなくてもご家族の理解を得ることが大切です。後々、何か問題が起こらないようにするためにも、お2人のお気持ちや里親制度に関する理解をご両親にも深めていただけるよう、ぜひお話をしてみてください。よろしくお願いします」

息子や両親にはいずれ話をしようと思ってはいたけれど、手続きのことを考えると早めに話をして、ちゃんと理解してもらう必要があると思った。

里親制度は「地域で子どもを育てる制度」でもある

この他、世帯の収入や所得、負債や資産といった経済状況の確認や、私と夫の健康状態などについて質問を受け、面談は一段落した。職員さんから「何か質問はありますか?」と尋ねられたので、私たちは準備しておいた質問を投げかけた。

私「実は、預かる子どもにどのように接すればいいのか、正直不安な部分もありまして…。何か気を付けることなどありますか?」

職員「そうですよね、確かに里親に委託される子どもたちはさまざまな事情を抱えていることが多いです。でもどのような子どもであっても、里子さんが安心できる環境を提供してあげることが大事だと考えています。後は、できるだけ素直に受け入れてあげることでしょうか。今後受けていただく研修の中で、実際に里親をしてくださっている方々のお話や、実際に児童養護施設に行っていただく研修もありますので、その中で子どもたちのことを学んでいただけると思います」

夫「もし、子どもを家庭に迎え入れた後に何か問題が起こった場合、相談にのっていただけたりするんですか?」

職員「もちろんです。委託後は多くの方が子育ての壁にぶつかります。でも、里親さんだけで悩む必要はありません。東京都では、里親さんを子どもたちを育てるチームの一員としてとらえ、里子さんをみんなで支える体制をとっています。児童相談所だけでなく、児童養護施設や乳児院、里親会、社会福祉法人やNPOなどの里親支援機関といった、地域には里親さんを支援する多くの施設や団体があります。実のお子さんの子育てと違うこともあり、悩むこともあるかもしれませんが、お2人だけで悩みを抱え込まず、専門家や経験豊かな里親さんと悩みをシェアし、解決していくことが子どもにとっても大切なことだと思います」

私「そんなに多くの関係機関があるんですね!」

職員「そうです。子育てにおける里親さんの役割は大きいものですが、私たちは“地域で子どもを育てる”といった姿勢で取り組んでいますので、いつでも相談にお越しください」

地域で子どもを育てる。子どもの専門家や里親経験者でつなぐ地域のネットワークが、里親制度でもあることが分かってとても安心した。

児童相談所で面接するときのポイント!

  • 仕事や収入、家族構成や養育環境などは事前に答えられるようにしておくとスムーズ
  • 疑問や不安に思うことがあれば、躊躇をせずに質問をする

そうして無事に面談を終えた私たちは、里親になるための次のステップ「里親認定前研修」(別ウィンドウで開く)を受講するための申込書をもらって、児童相談所を後にした。

研修で目にしたことや耳にしたことをしっかりと受け止め、自分たちはそれについて何を感じ、どう子どもと向き合っていくのか夫婦でしっかり考えていきたいと思った。

  • 里親には養子縁組を前提とする養子縁組里親もいますが、今回の記事においては、養子縁組をせず、一定期間子どもを預かる養育里親(東京都においては養育家庭(里親))について記載しています
  • 里親にまつわる制度は、自治体によって異なります。詳細はお住いの地域を管轄する児童相談所までお問い合わせください
東京都のロゴーク

この記事の取材・編集は東京都福祉保健局にご協力をいただいています。

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