日本財団ジャーナル

【里親になりたいあなたへ】里親認定前研修(実習編)に参加する(連載第5回/全8回)

写真:子どもと遊ぶ里親認定前研修参加者
里親認定前研修・実習の様子(イメージ)
この記事のPOINT!
  • 実習では、子どもたちと一緒に過ごすことで児童養護施設や子どもたちの実情について学ぶ
  • 実習は2日間行われ、夫婦揃って受講する必要がある
  • 受講後、夫婦それぞれで感じた思いを共有し、養育に対する理解を深め合うことが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

さまざまな事情により、生みの親と暮らすことができない子どもたちを家庭に迎え入れて育てる「里親制度」。この連載では、里親登録するまでの準備や手続きの内容について、実際に里親になることを検討する「山田夫婦(仮名)の体験」をもとに、妻の視点を通してお届けする。

連載第5回目のテーマは、里親認定前研修の座学から日を開けて2日間にわたって実施される「児童養護施設(※)での実習」について。里親制度や子どもの養育に関する知識や理解を深める座学(別ウィンドウで開く)を受講した後日、子どもたちが施設でどのように暮らしているのかを体験。養育方針や、職員の思いについても触れることができる貴重な機会でもある。

  • 乳児院において実習をする場合もある

「山田夫婦の体験記」登録ステップ4. 里親認定前研修(実習)

家庭的な環境で養育することの大切さ

私たちが受講した施設実習は、大きく2つの工程に分かれていた。まず、職員さんに施設内を案内してもらいながら養育や児童養護施設の役割について学ぶ。その後、施設で暮らす子どもたちと生活を共にする体験を通じて、子どもたちの暮らしについて学ぶ。

[実習研修のスケジュール](※)

1日目

  • 14:00〜15:30 施設見学(オリエンテーション)
    • 児童養護施設の養育と役割、子どもの支援、地域との連携について知る。
  • 16:00〜20:30 施設実習
    • 子どもたちの生活や関わりを通して施設の実状を知る。
  • 20:30〜21:00 職員との振返り
    • 施設の職員と実習を振返り、質問があれば確認。
  • 21:00〜22:00 記録作成
    • 事前に手渡された実習記録を作成する。

2日目

  • 14:00〜20:30 施設実習
    • 実習を通して子どものことや施設の機能を知る。
  • 20:30〜21:00 職員との振返り
    • 施設の職員と実習を振返り、質問、質疑があれば確認。
  • 21:00〜22:00 記録作成
    • 事前に支給された実習記録を作成する。
  • 実施内容は、実習を行う施設や入所する子どもの状況により異なる

私たちが訪れた施設は閑静な住宅街の一角にあった。周りは緑が多く、高い建物も少ない。座学研修の時は、他にもたくさんの夫婦と一緒だったが、今回参加するのは私たち2人だけで、施設実習は、夫婦一組ずつの体験となる。

施設に到着すると職員の方が出迎えてくれた。窓からは暖かい太陽の光が差し込み、廊下には子どもたちが描いた絵や記念写真が飾られていた。

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長く子どもたちを受け入れてきた児童養護施設の館内

オリエンテーションでは、職員の方が施設や養育方針について詳しい話を聞かせてくれた。

職員「今日はようこそお越しくださいました。この施設には幼児から高校生まで、約60人の子どもたちが暮らしています。さらに、保育園や地域の親子が交流する『おでかけひろば』なども併設されており、地域に開かれた施設になっています。まずは子どもたちがどのような生活を送っているかお話してから、館内をご案内しますね」

夫婦「よろしくお願いします」

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児童養護施設でオリエンテーションを受ける夫婦(イメージ)

職員「私たちは、この施設での生活を通して、子どもたちの人間性や社会性を養います。まず、朝7時頃に起きた子どもたちは、5分から10分ほど、身の回りの掃除を行います。小さな子もカーテンを開けるなどちゃんとお手伝いをします。その後、みんなで一緒に朝ごはんを食べてから学校へ。事情があって学校へ行かない子は、職員と一緒に施設で勉強をします」

私「小さい子まで、みんな偉いですね」

職員「ここに来る子どもの中には基本的な生活習慣が身に付いていない子もいるんです。生活のリズムをつくって、生活習慣を整えることは、将来自立する力を養う意味でも大切なことなんです」

私「そうなんですね、私よりしっかりしているかも。土曜なんかは、おうちでごろごろしたりしてしまいますから。自由時間もあるんですか?」

職員「もちろん、子どもたちは学校から帰ったらおやつを食べて、自由時間を過ごします。施設の中で過ごす子もいれば、外に出て学校の友達と遊んで過ごす子もいます」

実際に、この時も外で遊んでいる子どもがたくさんいて、オリエンテーション中も元気な声が窓の外から聞こえてきた。

夫「やっぱりたくさん遊びたいだろうな」

職員「それから、小さな子どもは夕食前後、中高生は夕食後にお風呂に入ります。夜ごはんもできるだけみんなで一緒に食べて、配膳や片付けも子どもたちに手伝ってもらいます。その後は、思い思いの時間を過ごし、小さな子どもは20時頃、中高生は23時半頃に布団の中へ入るというのが、だいたいの1日のスケジュールになります」

私「夕食後は、みんなどのように過ごしているんですか?」

職員「テレビを観たり、高校生になるとパソコンやスマートフォンで動画を楽しむ子も多いですね」

私「スマホを持っている子もいるんだ。みんな好きなものは同じなんですね。」

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子どもたちの1日のスケジュール

職員「あと児童養護施設で近年特に重要視しているのは、食事作りです。こちらの施設では、献立を作るところから食材の購入、調理に至るまでホーム(※)ごとに職員が行っており、家庭に近い環境の中で子どもを養育することを大切にしています。栄養士さんの意見や子どもたちの要望を取り入れ、栄養のバランスを気にしながら食事を作っています」

  • 概ね6人から8人単位で子どもたちは養育されており、そのグループの単位をここでは「ホーム」と呼ぶ。それぞれのホームに複数の担当職員が配置されている

私「毎日ですか?子どもたちの世話をしながら手作りだなんて、職員の方は大変ですね」

職員「大変なこところもありますが、そうすることで食事の時間を楽しみにする子が増えたり、『ピーマンってこんな形だったんだ!』と初めて知る子もいたり。普通のご家庭と同じように食事を楽しむのはとても意味のあることだと私たちは思っています」

写真:誕生日会で用意される色とりどりの料理と誕生日ケーキ
誕生日会なども家庭らしく、栄養バランスも考えた料理やケーキが用意される

私「確かに、そうですね。子どもたちの目の前で調理するのって、大切なことですよね」

職員「はい。そしてもう一つ大切にしているのが、性教育や他人との適切な距離の取り方などを教える場を月に1回設けていること。これは対人関係を築く上でとても大事な教育です。人との距離感を適切に取れないと問題になる場合もありますから」

夫「性教育ですか、それは教えるのが大変そうだな。確かに同じ施設で一緒にいるとなると、いろいろ気を遣う部分もでてきますよね」

私「洗濯物とかも気になるわよね」

職員「そうなんです。施設の子どもの中には、さまざまな事情により極端に人との距離が近い子がいたりするので、そういったことを教えるようにしています。人と人との関係性や社会性を養う意味でも、年間を通じてイベントなどを行い、子どもたちが地域の人や近隣の大学生と交流できる場を設け、自然とコミュニケーション力を養う取り組みにも力を入れています」

そういえば、私が子どもの頃は、近所のおじさんやおばさんに遊んでもらったり、怒られたりすることもあったが、今の子どもたちは家族や学校の先生以外の大人と接する機会が少なくなっているような気がする。話を聞いて、子どもを育てる上で人と関わるという大事な視点に気付かされた。

それにしても、職員の方の養育に対する真摯な姿勢には頭が下がる。できるだけ家庭的な環境で、先々のこともしっかり考えながら育てようという、子どもたちへの想いがひしひしと伝わってきた。

オリエンテーションの後、施設内を案内してもらい、子どもたちが心理カウンセラーと話をする部屋や、もやもやした気持ちを抱えた時に一人で過ごすことのできる部屋、独り立ちを迎える子どもが一人暮らしを擬似体験ができる部屋などがあることを知り驚いた。子どもたちの心を支えるために、いろんな工夫がされているのだと感心させられた。

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子どもたちが一人暮らしを擬似体験するための部屋

注意しなければいけない子どもとの距離感

施設見学が終わったら、子どもたちと一緒に過ごす時間。小グループでの生活空間に入らせてもらうため、ここからは夫とは別行動となり、それぞれが一人で実習を受ける。

今回、私たちが実習を体験したのは、地域の中にある一軒家で子どもたちが暮らす「グループホーム」と呼ばれるところだ。グループホームに移動すると、まず職員の方が子どもたちへの接し方について説明してくれた。

職員「ここには、小さい子から高校生まで、6人の子どもたちが暮らしています。特に気負わず、子どもたちと交流していただきたいのですが、一点だけ気を付けてほしいのが距離の取り方です。子どもたちの中には、大人との触れ合いに飢えている子どもも少なくありません。見知らぬ大人についていかないようにするためにも、実習を受ける方にもベタベタしないように心掛けていただき、子どもたちに初対面の大人との適切な距離の取り方を身に付けてもらうようにしています」

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職員に子どもの接し方について説明を受ける様子(イメージ)

誰かに思いっきり甘えたい気持ちになることもあるだろうな…。と少し切ない気持ちにもなった。

いよいよ子どもたちと対面。実習はあくまで普段の生活にお邪魔する形で行われる。すでに家にいた子どもたちは「こんにちは!」と元気な挨拶で迎えてくれた。中には、「僕、コーヒーを作るのうまいんだ」と言って、コーヒーを入れてくれる小さな子も。「砂糖とミルクはどうしようか?」と一人前に気遣ってくれるところも愛らしい。

コーヒーをいただき、夕食まで小さい子どもたちと一緒に遊ぶ。他の子は、テレビを見たり、職員の方と話をしたりして時間を過ごしている。

はじめは緊張していた私も、子どもたちの無邪気な姿に癒され、知らないうちに馴染んでいた。自分が作ったレゴやマンガをうれしそうに見せてくれる、そんな子どもたちのことをもっと知りたいという気持ちが、自然と沸き起こってくる。

家庭における「食事」の大切さ

施設実習では、子どもたちと夕食も共にする。時間になると職員の方が声掛けをして、子どもたちもお手伝い。私も一緒に配膳や盛り付けをした。

並べられた食事を見て、その質の高さに驚いた。子どもたちの世話をしながらバランスの取れた食事を毎日用意する職員の方に、尊敬の念を覚えた。冷蔵庫には1カ月分の献立表が張ってあり、各施設が予算内に収まるように、職員さんと栄養士さんが話し合って献立を考えるそう。

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夕食の準備をする職員
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この日の夕食のメインは親子丼。他にもサラダや惣菜、お味噌汁など栄養バランスを考えて作られている

食べている間も、職員の方は子どもたちの様子をよく見ている。お箸の持ち方や三角食べ、好き嫌いをしないように注意し、時には「最近たまねぎが食べられるようになったね!」と褒めることも忘れない。後で、聞いてみると、食事の時間は子どもたちとしっかり向き合える重要な時間なのだとか。

夕食後は、就寝まで自由時間となる。お風呂に入る子どももいれば、洗濯物を畳む子どもの姿も。それぞれがゆっくりと寝るための準備を始めた。その合間を縫って職員の方が子どもたちに声を掛ける。毎日一人ずつ20分ほど「話を聞く」時間を設けているらしい。誰に気を遣うこともなく職員の方に甘えられる、きっと子どもたちにとって大切な時間なんだと思った。

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子どもと一緒に遊ぶ職員と子ども(イメージ)

施設実習におけるポイント!

  • 施設での子どもたちの生活や施設で大切にしていることについてしっかり学ぶ
  • 一緒に遊び、食事を共にする中で子どもたちのことを知り、関わり方を学ぶ
  • 実習後に自分が感じたことを夫婦で共有するようにする

実習を受ける前は、「施設での生活は窮屈なもの」という先入観があった。しかし、実際に体験してみると、職員の方は子どもたちのことを第一に考え、子どもたちは規則正しい生活を送りながらも伸び伸びと暮らしていた。と同時に、複数の子どもを分け隔てなく育てる必要があるため、子どもたちが無条件に甘えることが難しい環境であるということも感じた。

夫は、施設を見学してどんな思いを抱いたのだろう。早く家に帰って話を聞いてみたいと思った。

撮影:十河英三郎

  • 里親には養子縁組を前提とする養子縁組里親もいますが、今回の記事においては、養子縁組をせず、一定期間子どもを預かる養育里親(東京都においては養育家庭(里親))について記載しています
  • 里親にまつわる制度は、自治体によって異なります。詳細はお住いの地域を管轄する児童相談所までお問い合わせください
  • 取材した里親認定前研修は2020年1月初旬に実施されたものになります
東京都のロゴーク

この記事の取材・編集は東京都福祉保健局にご協力をいただいています。

連載【里親になりたいあなたへ】