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【里親になりたいあなたへ】家庭訪問を受ける(特集第7回/全8回)

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家庭訪問で里親担当職員らと話をする夫婦(イメージ)
この記事のPOINT!
  • 児童相談所や里親支援機関の職員が、家庭訪問を行う
  • 家庭訪問は、一緒に暮らす家族全員が集まることができる日に行う
  • 申請書類に基づく職員による聞き取りでは、里親の要件を満たしているか確認が行われる

取材:日本財団ジャーナル編集部

さまざまな事情により、生みの親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れて育てる「里親制度」。この特集では、里親登録するまでの準備や手続きの内容について、実際に里親になることを検討する「山田夫婦(仮名)の体験」をもとに、妻の視点を通してお届けする。

第7回のテーマは、「家庭訪問」について。里親認定前研修の受講後、里親認定登録のための申請書類を児童相談所に送付した数週間後に児童相談所や里親支援機関(※)などの職員による家庭訪問が実施される。子どもが安心して暮らしていける家庭環境かどうか、家族全員への聞き取りを通して里親を希望する家庭が要件を満たしているか確認するための調査が行われる。

  • 民間団体が持つノウハウを生かして里親への子どもの委託を進めるため、東京都が委託している社会福祉法人等

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「山田夫婦の体験記」登録ステップ5. 家庭訪問

夫婦の持つ家庭観も、里親認定の判断材料

今日は児童相談所の職員さんなどによる家庭訪問の日。下宿中の息子が帰省する高校の春休み期間を利用して行われることになった。

この家庭訪問は、里子を委託する上で、子どもを適切に養育していくことができる環境かどうかについて、私たち夫婦の生育歴、里親を希望する理由、仕事や家庭生活の状況、さらに同居する息子の意思も踏まえ確認するのが目的だそう。

また、児童相談所の職員さんは家に訪れる道すがら、周辺環境を見て、幼稚園や学校、病院といった公共施設、公園などの遊び場、車の交通量など、暮らしやすい環境かどうかも把握するそうだ。

私「掃除もしたしお茶の用意もできたし、一応家庭訪問の準備は整ったわね」

夫「児童相談所の人たち、今どの辺にいるんだろうな」

私「家が分かりづらい場所にあるから、少し迷われるかもしれないわね」

そんな会話をしていると玄関のチャイムが鳴った。

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里親担当職員を出迎える夫婦(イメージ)

職員「本日は、どうぞよろしくお願い致します。調査は、だいたい2〜3時間程かかるかと思いますが、ご都合大丈夫でしょうか?」

夫「はい、問題ありません」

家に訪れたのは、児童相談所の職員さん、東京都の里親担当の方、東京都から委託されている里親支援機関の方の3名。調査といっても、雑談も交えながら和気あいあいとした雰囲気の中で進められた。

職員「里親認定前研修を受けられていかがでしたか?実際に児童養護施設の子どもたちとも交流いただいたかと思いますが」

夫「はい、座学では子どもたちの現状や、養育に関する知識を学べ、とても勉強になりました」

私「施設の子どもたちも、想像していた以上に温かい環境で育てられていて、なんだかほっこりしました。子どもたちもとても素直な子ばかりで」

職員「そう言っていただけると、私たちとしてもうれしいです。ではさっそくですが、家庭訪問で確認するポイントは、大きく分けて3つあります。1つ目は里親さんが育った背景や里親さんの生活環境について、2つ目は里子さんが育つ住環境について、3つ目は里親さんや一緒に暮らすご家族の意思の確認になります」

私たち「はい、よろしくお願いします」

職員「まずはじめに、お2人のご実家はどちらになりますか?子どもの頃のお話なども伺えると助かります」

私「私は東京生まれで実家も都内にあります。両親は健在で兄弟はいませんでした。実家の周りには畑や公園があって、子どもの頃はよく近所に住む友達と外で遊んでいましたね。親は共働きでしたが、ごはんは一緒に食べて、よく一緒に遊んでくれて、何不自由なく育ててくれました。家族旅行も年に一回は出かけたかな」

夫「私は大阪の出身です。両親と兄と妹の三人兄妹です。うちも共働きでしたが、兄がよく面倒を見てくれ、兄妹仲も良かったので、家庭は比較的円満だった方だと思います」

それから私たちは小学校から大学、就職に至るまでいろんな話を職員さんにした。

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里親担当職員らと話をする夫婦(イメージ)

職員「お2人ともご家族に恵まれたのですね。差し支えなければ、ご夫婦の出会いや結婚されてからこれまでのお話などもお聞かせいただけますか」

それからは、私たち夫婦が大学のサークルで出会い、交際5年目で結婚したこと、私が25歳の時に息子が生まれ、それを機にマイホームを購入し、今の家で暮らし始めたこと。その他それぞれの仕事と勤務時間、趣味やそれぞれが配偶者に対しどのような人物像を抱いているかなども聞かれ、答えた。

後で職員さんに質問の意図を尋ねると、里親の背景や家庭観を知るという目的の他にも、夫婦同士のやりとりなども観察し、里親として子どもを任せられるかどうかを確認しているらしい。

そして、先に送付していた「里親認定登録申請書」(別ウィンドウで開く) の内容に沿って、里親としての意思の確認や、里子をどのように育てていきたいか、受託可能な子どもの年齢や性別などについてのヒアリングが行われ、最後に自分の部屋にいた息子にも途中から加わってもらった。

職員「今回、ご両親は一時的に子どもを預かり育てる養育里親になることをご希望されています。息子さんはこのことについてどう思われていますか?」

息子「はい、父や母からもちゃんと理由は聞きましたし、自分でも里親制度について調べたんで一応は理解しているつもりです。子どもたちの役に立つのなら、父と母を応援したいと思っています」

職員「ご自身でも調べていただいたんですね。ありがとうございます。ちなみに息子さんは、里子さんの年齢や性別など何か希望はおありですか?」

息子「…少し兄妹にも憧れていたので、やっぱり小さい子がいいかな。性別は、僕の部屋を使うなら男の子の方が気を遣わなくていいかもしれません。僕が昔使ってたサッカーボールとかもあるし。でも、基本的にどちらでもいいと思ってます」

職員「そうなんですね。分かりました」

それから少しだけ職員さんと雑談を交わし、息子は自分の部屋へ戻った。特に動揺する様子も見せなかったので、ちょっとほっとした。

職員「理解のあるいい息子さんですね。里子さんを預かっていただくこちらとしても安心しました。ところで、山田さんご夫妻は、まずは短期委託を希望されていますが、レスパイトや一時保護の受け入れも可能でしょうか?」

家庭で虐待が行われている可能性があるなど、子どもの安全を迅速に確保するための「一時保護」の受け入れ先に里親もなることがあるらしい。一時保護される子どもは増えているらしく、通常の子どもの委託と違い、交流などを踏まえず、急に受け入れをお願いされることになるそう。もちろん、その時々の里親の家庭の状況で断ることもできる。

また、子どもを育てている他の里親家庭から、その里親家庭が一時的に子どもを育てることができないときに、「レスパイト」といって一時的に子どもを預かる制度があるということも職員さんから説明があった。

私「その時の家族の状況に応じてではあるのですが、前向きに検討したいと思います」

職員さんからの質問を通して、私たちがお互いに普段考えていることやそれぞれの価値観、息子の考えなど改めて知ることができた。また里親家庭に来る子どもの背景や事情、里親の制度についてもさらに知識を深めることができたことは良かったと思う。

里親担当の職員と共に考える里子が過ごしやすい環境

職員さんとの話の後は、家の中を一通り案内した。「すっきりして明るいお宅ですね」と褒められ、私も夫も掃除した甲斐があったねと笑みを交わした。

職員「ベランダの柵も比較的高めで問題なさそうですね。物が多少置かれていますが、小さな里子さんを預かる場合には危険ですので、整理をお願いすることになるかと思います。里子さんを委託する際には改めて施設の職員などが訪問し、注意する点などお伝えさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

私「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」

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里親担当職員らがベランダ部分の確認をする様子(イメージ)

職員「周りも比較的緑が多めですし、落ち着いた環境なので子どもを育てやすそうですね。スーパーなども近いですか?」

私「はい、近くに2軒あります」

そんな他愛もない話もしながら家の中の確認は10分程度で終わった。養育環境面での指導は、実際に里子を委託される際に行われるそうで、改めてしっかり臨みたい。

[家庭訪問調査のときのポイント!]

  • 家庭訪問は、緊張しすぎず、質問には素直に答えれば良い
  • 子どもの受け入れに関する不明点や懸念点があれば、包み隠さず質問する

家庭訪問は2時間半ほどで終了し、里親担当の職員さんたちは帰って行った。緊張していたけれど、終わってみればあっという間だった。里親登録も、あとは児童福祉審議会里親認定部会による審議の結果を待つのみ。夫と一緒に自分たちができることは全てやり切り、ちょっとした充実感が得られた。無事に里親に認定されますようにと心から願った。

撮影:十河英三郎

  • 里親には養子縁組を前提とする養子縁組里親もいますが、今回の記事においては、養子縁組をせず、一定期間子どもを預かる養育里親(東京都においては養育家庭(里親))について記載しています
  • 里親にまつわる制度は、自治体によって異なります。詳細はお住いの地域を管轄する児童相談所までお問い合わせください
東京都のロゴーク

この記事の取材・編集は東京都福祉保健局にご協力をいただいています。

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