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【増え続ける海洋ごみ】官民学一体の「楽しい」ごみ拾いで未来を変える。荒川クリーンエイド・フォーラムの海ごみゼロへの挑戦
- 海洋ごみの7〜8割は街から発生。雨が降った際などに路上のごみが川や水路に流出し、海へ至る
- 荒川クリーンエイド・フォーラムは行政と連携し365日ごみ拾いができる活動モデルを構築・実施
- 河川や海洋ごみ問題の意識を高めるには「現場体験」が一番。そのためには「楽しさ」が重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
私たちの海がごみで溢れようとしている。毎年少なくとも800万トンに及ぶ量が新たに流出し、そのうち2〜6万トンが日本から発生したものだと推計される(※)。特集「増え続ける海洋ごみ」では、人間が生み出すごみから海と生き物たちを守るためのさまざまな取り組みを通して私たちにできることを考え、伝えていきたい。
- * 参考:Jambeck JR et al : Plastic waste inputs from land into the ocean,Science (2015)
日本財団と環境省が実施する、海洋ごみ対策の優れた取り組みを全国から募集・表彰し国内外に向けて発信する「海ごみゼロアワード」(別ウィンドウで開く)。その2019年度で、最優秀賞に輝いたNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム(別ウィンドウで開く)は、市民だけでなく、国や自治体、企業、学校などとパートナーを組むことで、流域一丸となったごみ拾いを実現し、ごみで溢れていた東京・荒川の環境改善に大きく貢献している。
海洋ごみの7〜8割は街から出たもので、例えば、雨が降った際などに路上のごみが川や水路に流出し、海へとたどり着くものもその要因の1つ。今回は、事務局長を務める今村和志(いまむら・かずゆき)さんに話を伺い、海洋ごみをゼロにするためのヒントを探る。
荒川の「土」から見えてくる、地球のごみ問題
「荒川や私たちの活動についてお話する前に、まずこちらをご覧ください」
今村さんがおもむろに取り出したのは、荒川の河川敷で採集した「土」だ。
「これは、荒川河口から3キロメートルほど上流のエリアで河岸の土を適当に採ったものです。何が見えるでしょうか?」
さまざまなプラスチックの破片。土とプラスチック片の割合はほぼ半々と言っても過言ではない。
「よく見るとレジンペレット(※)などもあります。これらは、生活ごみ、産業廃棄物(過去に埋められたものが風化によって出てきたものも含む)、街から出たプラスチックごみなどがさまざまな経路を通って荒川に流れ着いたものです」
- ※ プラスチックを作るための原料。直径数ミリの円筒、球形のものが多い
荒川は1930年代に下流から約22キロメートルが人工河川「荒川放水路」として掘削され、流域には約1,000万人もの人々が暮らしている。そのごみ問題は複雑だ。風に飛ばされてきたごみもあれば、雨で排水路や支川を伝って流れてきた街ごみ、上流に投棄された出水で流れてきた産業廃棄物など。10年以上前のごみが出てくることも珍しくないという。
こういったプラスチックごみは、植物や虫、鳥、魚など河川の周りの生態系にも影響を与える可能性が高い。例えば、荒川にはトビハゼ(環境省準絶滅危惧、東京都絶滅危惧IA類)も生息しているが、大量のポリ袋がトビハゼの巣(※)の上に被さってしまい、貧酸素状態になってしまう可能性もある。
- ※ トビハゼは泥干潟に穴を掘って巣をつくる
「海洋ごみの7〜8割が河川から流出したごみだと言われています。また、世界の10の河川から海洋ごみの9割が出ている(※)という話も聞きます。河川の清掃は、海ごみを減らすための最後の砦とも言えるでしょう」
- ※ 参考:ドイツのヘルムホルツ環境研究センター(UFZ)
「百聞は一見に如かず」。体験することで自分ごとにできる
荒川クリーンエイド・フォーラムの最たる特徴は、国土交通省(関東地方整備局・荒川下流河川事務所)や沿川の自治体と「荒川下流部ゴミ対策協議会」を通して連携し、365日、団体でのボランティア活動ができる仕組みを整えている点にある。市民団体や自治体、企業、学校などと一緒に回収したごみを行政が処理する、流域一丸となった活動モデルを構築している。今村さんたちは今後、このモデルを全国、そして世界に広げていけたらと語る。
「“発生源対策”をするにもまず、現状がリアルにイメージできることが大切だと思っています。 年間30〜50社の企業の方に、CSR活動や新人研修のプログラム(別ウィンドウで開く)として体験いただいており、満足度98パーセントの評価をいただいています。都会、自然という2つの顔を持つ荒川で、体を動かしながら、環境問題はもとより、チームワークや社会課題解決について理解を深めることができます。自分たちの手でごみを拾い、美しくなった河川敷を見て、大きな達成感を得られるところも魅力だと思います」
ごみ拾いの回数は、2019年度で190回、これまでの参加人数は、延べ23万人以上にのぼるという。
「私たちが大切にしているのは『現場での原体験』。百聞は一見に如かず。先ほどお見せした土を見れば、誰もが『このままではいけない』ことに気付きますよね。だから、まずは現場を知り、ごみ問題について考えていただくきっかけづくりに努めています」
荒川クリーンエイド・フォーラムでは、5〜6人のグループに分かれてごみを拾いながらその種類や数を記録し、ごみを減らすにはどうすれば良いかをみんなで考える「調べるごみ拾い(International Coastal Cleanupに準拠)」を実施している。オリエンテーリング形式のごみ拾いが参加者の仲間意識を高め、楽しみながら気付きを得られる効果をもたらしているのだ。
ごみ拾いの他にも、荒川河川敷のごみの実情が体験できるVR動画(別ウィンドウで開く)の制作・発信や、河川ごみの問題を学んで遊べて協力できるアプリ「FLOAT (フロート)」(別ウィンドウで開く)の開発・提供などを通して、ごみ問題について楽しく触れられる活動を展開している。
「もう1点、社会貢献活動=まじめなもの、といった認識を変え、ごみ拾いをエンターテインメントにしていきたいと考えています」
荒川クリーンエイド・フォーラムには公式のキャラクターや萌キャラまでいる。さらに地味になりがちな会報誌(別ウィンドウで開く)の表紙は某大作映画を彷彿させるなど、遊び心満載だ。
「スタッフには日頃から新しいものにはすぐに飛びつくこと、遊び心を持って仕事することが大切、と伝えています。仕事を楽しめないと人生も楽しくないですよね」
「会報誌は2018年から表紙をガラッと変えました。会員の方からは『初めて開いて中を読みました』『この団体がどこに向かっているのか分からなくなってきました』といった、喜ぶべきか、つっこむべきか微妙なコメントもたくさんいただきました(笑)。ごみ拾いをされた方の中には、ごみ拾いにハマって頻繁に参加してくださる方や、日本の川のためにほぼ毎週来てくれるアメリカ人の参加者もいらっしゃいます。ごみ拾いを社会貢献活動というより、趣味みたいなものとして捉えてくれる人が増えるとうれしいですね」
ごみ拾いの可能性を広げたい
「僕らが海ごみゼロアワードに参加した理由は、荒川クリーンエイド・フォーラムの活動モデルをより多くの人に知ってほしいというところが大きかったです。ただ、最終優秀賞に選ばれるとは思ってもみなかっただけに、とてもうれしかったですね」
そう海ごみゼロアワード2019を振り返る今村さん。さらに多くの人に河川や海のごみ問題について関心を持ってもらうために新たな活動も企んでいる。
「荒川河川敷をマラソンしながら、ポイントごとにごみを1キログラム拾わないと次のポイントに進めない、といったスポーツとごみ拾いを掛け合わせたイベントなども面白いかと考えています。ごみ拾い活動だけで問題意識を広めていくには限界があります。なので、多様な分野と掛け合わせ、できるだけ楽しく広めていくことがこれから必要だと思っています」
26年もの間、荒川の豊かな自然環境を守るために活動を続けてきた荒川クリーンエイド・フォーラム。国や自治体を巻き込んでの活動といった困難な道を切り開きながらも、楽しむことを大切にするその姿勢が、海洋ごみ問題を解決する大きなヒントになるのではないだろうか。
撮影:佐藤潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。