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自分たちにできることを“みんな”で考える。フラワーカフェ「ローランズ」に聞いたアフターコロナの障害者雇用のヒント

- フラワーカフェ「ローランズ」は、新型コロナウイルスの影響で収益が50パーセント減に
- スタッフの雇用を守るため初の在宅ワークを導入。工程を細分化し短時間からでも働ける環境を整備
- 自分たちにできることを“みんな”で考えることで、柔軟な発想と新たなアイデアが生まれる
取材:日本財団ジャーナル編集部
帝国データバンクの調べによると、新型コロナウイルスの影響で倒産した企業数は、2020年6月19日時点で、全国で273社に上ったことが分かった。インバウンド需要の激減や、緊急事態宣言による外出自粛のため、幅広い業種で業績が急激に悪化。それは障害者雇用にも大きな影響を与えており、障害者支援事業所が加盟する全国組織が実施したアンケートでは、障害者に働く機会を提供する作業所の約半数が減収に。作業所で生産する製品への発注が減り、このままでは利用者が生活の糧を失う恐れもある。
そんな中、東京・原宿と品川でフラワーカフェ「ローランズ」を営む一般社団法人ローランズプラス(別ウィンドウで開く)が、新型コロナウイルス禍の中で始めたプロジェクトが注目を集めている。今回は、代表の福寿満希(ふくじゅ・みづき)さんに、そのプロジェクトの取り組みや、アフターコロナを見据えた障害者雇用について話を聞いた。
新型コロナウイルスの影響で収益は50パーセント減
「花や緑を通じて、障害がある人たちの雇用を生み出したい」。そんな思いのもと「ローランズ原宿店」は、2017年にオープンした。地域に根ざした障害者就労のモデル事業の構築を目指す「日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」(別ウィンドウで開く)を推進する日本財団との共同プロジェクトである。運営元であるローランズはフラワーギフトや企業向け装花の製作、ウエディングフラワーのプロデュース等を行う他、フラワーショップやカフェの運営を行っている。
スタッフの8割が障害や難病と向き合う就労継続支援A型(※)の店舗で、カフェで提供するフレッシュなスムージーや、おしゃれなフラワーギフトなどが若い世代の女性を中心に人気を集めている。
- ※ 障害や難病のある人のために障害者総合支援法によって定められた就労支援事業。事業主と雇用契約を結んだ上で一定の支援がある職場で働くことができ、原則として働く人々は最低賃金以上が保証される

しかし、新型コロナウイルスによる式典やイベントなどの中止により、花業界、飲食業界は大打撃を受けた。ローランズも例外ではなく、全体の売り上げは50パーセント減収、カフェは80パーセント減収にまで落ち込み、2020年4月以降は店舗の営業時間を短縮すると同時に、多くのスタッフを在宅勤務に切り替えた。

「入学式や卒業式のお花、また、取引先の多くがリモートワークや休業になったため定期的に納めていた企業のエントランスやレストランの装花の受注がなくなりました。これは、緊急事態宣言が解除された現在も戻っていません。さらに大きな打撃だったのがウエディングのお花です。多い時で月に50軒入っていた結婚式の装花が、4月、5月はゼロ。今後も、いつになったら以前のように注文が入るか、先の読めない状況です」
ローランズでは、約60人の従業員を14のチームに分け、事業開発やカフェ、フラワーギフト、ウエディングなど、5人1組の小さなチームでそれぞれの業務を担当している。チームを細分化することで個人の適性に合う仕事に出合いやすくなるほか、少人数だからこそ障害や難病を抱えたスタッフをサポートしやすく、体調の変化にも気付きやすいというメリットがあるという。
新型コロナウイルスの渦中であっても、求められる商品はないだろうか。各チームのスタッフたちは福寿さんと一緒になって、アイデアを出し合ったという。
「自分ができることを考える」職場環境が突破口に
変化の大きい状況に不安を受けやすく、体調を崩しやすい、障害や難病を抱えたスタッフ。新型コロナウイルスの影響で家から出られなくなる人も現れ、在宅勤務に切り替えざるを得なかったという福寿さん。しかし、生花は傷みやすいため、現場での作業が基本。在宅勤務に当たって、どのような工夫がなされたのだろうか。
「例えば、ラッピングしたままお部屋に飾れる『スタンディングブーケ』という人気商品があるのですが、土台を作ったり、ラッピングペーパーを商品のサイズに合わせてカットしたり、一つの商品を作る工程を細分化して、生花に関わらない部分の作業を、個人の適性に合わせて振り分けました。ギフトチームのスタッフが、これなら在宅でもできるし、母の日のギフト商品として力を入れてみては?と提案してくれました」


クラウドファンディングを活用した「キャンセルフラワーを応援したい人に届ける」プロジェクト(別ウィンドウで開く)も、スタッフの声から生まれた取り組みの一つ。結婚式やイベント等の中止で受注キャンセルになってしまった花を、「いま、一番エールを送りたい相手」に贈るもので、プロジェクト公開からほどなくして目標達成。わずか2週間で100万円を超える支援金が集まった。また、自社のオンラインショップで展開する医療や学童従事者など「今」頑張る人に花を届ける「フラワードネーション」(別ウィンドウで開く)も好評だ。


「クラウドファンディングは、もともとはその週にキャンセルになった受注分だけでもギフトに変えられないかと思って始めたのですが、想像以上にたくさんの方が支援してくださいました。母の日のギフトや、病院やドラッグストアなどで働くお友達に贈る方、結婚式が挙げられなかったご夫婦に贈る方など、いろいろな方にご利用いただいています。『せっかくのお花を少しでも活かせたらと思い支援しました』『これからも、みんなが楽しく働ける場を提供し続けてください』など、応援メッセージもたくさんいただいて、本当に感謝しています」と福寿さんは笑顔を見せる。

さらに、オリジナルマスク「お花屋さんの春色マスク」(別ウィンドウで開く)の製作も始めた。花の装飾用に使うラッピングペーパーを活用したもので、1枚1枚スタッフが手作り。これもラッピングペーパーの切り出しをから、3枚重ねてのプリーツ付け、ゴム付けと工程を細分化することで、在宅勤務中のスタッフも積極的に携われるようにした。

これらの組みが功を奏し、2020年の「母の日」は例年の約10倍の売り上げを記録した。
「このようなコロナの状況ですから、何も対策をしなければ2019年よりも売り上げは低かったでしょう。また、自宅で過ごす時間が増える中、少しでも明るい気持ちで暮らしたいと、ご自宅にお花を飾るお客さまも増え、商品の売り上げ単価も上がっています。店頭販売とオンライン、販売方法が2つあったことも良かったと改めて思います」

時代のニーズに合わせて「今できること」を考える
新型コロナウイルスをきっかけに、生活スタイルや働く環境など、私たちを取り巻く環境は様変わりした。これまでのやり方に固執していては、店舗もスタッフも守れなくなると福寿さんは言う。
「当たり前のことですが、売り上げがなければ、継続してスタッフを雇用することはできません。今、私たちのキーワードは、アフターコロナのニーズに合わせた新しい商品やサービスを生み出すこと。そのためには、小さなことですがマスクのように新しいことに挑戦することも必要です。ただし、障害や難病を抱えたスタッフは突然の変化に弱い傾向にあるので、一人一人が無理をせずに働ける環境を整えていくことを並行して行っていくことが大切だと思っています」
そんな福寿さんが現在力を入れているのが光触媒を活用したフェイクグリーン(人工観葉植物)の開発だ。フェイクグリーンの葉に特殊な液剤を塗布することで、抗菌・殺菌・脱臭などの効果が期待でき、部屋の空気をきれいに保つというもの。また、カフェで新たにフルーツサンドの提供をスタートしたり、提供している人気のスムージーを冷凍保存して全国へ届ける通販サービスも考え中だ。


「当社は小さなチームの集合体で、一人一人の自主性を大切にしているからこそ、いろんなアイデアが出やすいのかもしれません。すでにある資材や技術を生かしながら、新しいことをどんどん始めていけたらと思っています」

現在、新型コロナウイルスの影響により戦後最大の経済危機に直面していると言われている。非常に厳しい状況の中でも、ローランズがスタッフを守り続けられるのは、福祉ではなくサービスや商品を売りにしてきたことや、ただ耐えるのではなく、常にスタッフ一人一人に気を配りながら、「今だからこそ、喜ばれる商品は何だろう」とみんなで前向きに取り組んだ結果である。そこに、これからの障害者雇用のヒントが見えてくる。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
福寿満希(ふくじゅ・みづき)
一般社団法人ローランズプラス代表。株式会社LORANS.代表取締役。大学卒業後、スポーツ選手の肖像管理や社会活動の企画運営を行うスポーツマネジメント会社に就職。2013年に独立し、フラワービジネスを通じて社会活動を行う。また、2019年には中小企業に向けた障害者の共同雇用プロジェクト「ウィズダイバーシティプロジェクト」を立ち上げた。
株式会社LORANS. 公式サイト(別ウィンドウで開く)
ウィズダイバーシティプロジェクト(別ウィンドウで開く)
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