日本財団ジャーナル

ウィズ・コロナ、子どもたちの地域支援はどうあるべき?渋谷区の取り組みからヒントを探る

写真:左がパソコン画面に向かって子どもたちとコミュニケーションをとる景丘の家の尾見さんとスタッフ。右がパソコンの画面に写った参加者親子たち
東京・恵比寿にある多世代コミュニティ施設「景丘の家」でオンライン開催した「おうちでつくるこども食堂」の様子

取材:日本財団ジャーナル編集部

自治体や地域住民が主体となって、共働き世帯やひとり親世帯、生活困窮世帯の子どもに食事を提供する「子ども食堂」。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言が解除されたいまも全国で活動を自粛しているところが多く、対象とする子どもや家族への影響が懸念されている。

そんな中、東京・渋谷区が「地域で子どもを育てる」ことを目的に、区内にある子ども食堂と共に展開する「渋谷区こどもテーブル」(別ウィンドウで開く)が、子ども食堂の活動再開に向けて取り組み始めている。

子どもと地域をつなぐ渋谷区こどもテーブル

学校や親だけでなく「近隣住民全体で子どもを育て、見守る」という目的のもと、2016年11月にスタートした渋谷区こどもテーブル。「テーブルさえあればできる活動」をコンセプトに、区内にある75団体(2020年6月現在)が地域の大人たちを巻き込みながら、生活困窮家庭だけでなくより多くの子どもを対象に、食事の提供をはじめ、学習支援や季節ごとのテーマに合わせたワークショップなどさまざま活動を行っている。

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渋谷区こどもテーブルの公式サイト(別ウィンドウで開く)

全国で子どもの第三の居場所事業(別ウィンドウで開く)も展開している日本財団では、「渋谷区×日本財団 ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」(別ウィンドウで開く)に基づき、2019年より3年間にわたって同プロジェクトを支援している。

「団体によって活動方針や内容はさまざまですが、子どもたちが地域住民の皆さんや、障害がある方、中高生たちと交流できる場を大切にされているところも多いですね。食事の提供スタイルもさまざまで、『初台キッズ食堂』では、昔ながらの一汁三菜をみんなで食べたり、ファミリー層が多い笹塚・幡ヶ谷エリアの『ささはたっこ』では、大人も子どもも一緒になって食事の後のだんらんを楽しんだり。他にもプロのアーティストを講師に招いてアートワークショップを行っている団体などもあります」

写真:桜丘こどもテーブル ~渋谷のラジオの教室~」で行われたアートワークショップで、自分で作った作品を持って記念撮影する子どもたち
渋谷・桜丘の「桜丘こどもテーブル ~渋谷のラジオの教室~」で行われたアートワークショップの様子

各子ども食堂の活動内容について、社会福祉法人「渋谷区社会福祉協議会」(別ウィンドウで開く)の遠藤慎之介(えんどう・しんのすけ)さんは、そう語る。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため3月より活動を自粛せざるを得ない状況に陥った。

「緊急事態宣言下では、各家庭から『収入が減少した』『毎日3食作るのが大変』『子どもと一緒に買い物に行くのが難しい』といった声も聞かれました。宣言が解除されたいまも、多くの子ども食堂が運営できない状況にあるので、両親が共働きだったり、ひとり親だったりする子どもたちと保護者の方が孤立しないか心配です」と遠藤さん。

現在、渋谷区社会福祉協議会では、子ども食堂を開催している団体には東京都の感染拡大防止の方針に則ったマニュアルを送付する共に、テイクアウト方式での食事提供や、ビデオ会議システムを活用したオンラインでの活動を紹介。子どもたちと継続してつがなるために、さまざまな工夫を行っている。

あらゆる世代が集い、寄り添う、みんなの居場所

東京・恵比寿にある「景丘(かげおか)の家」も、渋谷区こどもテーブルの拠点の1つ。かつてこの場所で暮らしていた郡司(ぐんじ)ひさゑさんの「子どもたちのために遺産を活用してほしい」という遺志により寄贈された邸宅で、2019年3月の建て替えを経て、「こどもと食」をテーマに幅広い世代が集まり、交流できる「みんなの居場所」として生まれ変わった。

地下2階、地上2階からなる敷地内には、景丘の家の象徴とも言える大きな囲炉裏をはじめ、乳幼児を連れた保護者のための「おやこフロア」、小中高校生たちが体を動かして遊べる「プレイルーム」などがあり、開館中はどのフロアも地域の親子、住民を中心に多くの人で賑わう。

景丘の家で子ども食堂が開催されるのは月に1度。旬の有機野菜をたっぷり使ったおかずを参加者で作り、かまどで炊いたごはんと一緒に、囲炉裏を囲みながらみんなで一緒に食べる。肉団子をこねたり、ときには餃子やシュウマイを皮から作ったりと、親子で楽しめるイベントとして、子どもにも保護者にも大人気。子ども食堂の他にも、ものづくりや音楽など、さまざまなテーマでワークショップを展開している。

写真:囲炉裏を囲んで楽しそうに仲良く食事をする保護者や子どもたち。食事の配膳するスタッフたち
景丘の家で開催する子ども食堂の様子

新型コロナウイルスの影響により3月から5月まで休館していたが、「このような状況でも何かできることがあるはず」と、公式SNS上において料理のレシピ配信や自宅でも楽しめるプログラムの動画配信などを行ってきた。さらに5月19日には親子でダンスを楽しむ初のオンライン講座を開催。そして、6月17日には待望の子ども食堂がオンラインで復活した。最近増えつつあるオンライン料理教室の形式だが、幼い子どもも参加できるようにするため、試行錯誤を重ねたという。

「ウイルス感染の危険があるいま、大勢で集まって一緒にごはんを作ったり、食べたりということが一番難しい状況です。もしかしたら年内に再開できないかもしれない。だったらいまできることをやろう!とオンラインに切り替えることにしました」

オンラインでの子ども食堂の実施に踏み切った理由を、景丘の家の館長を務める尾見紀佐子(おみ・きさこ)さんはこう話す。

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「子どもたちに日本の食や文化に触れてもらいたい」という景丘の家・館長の尾見さん

オンラインを活用し、子どもたちとつながる

「基本的には親子で一緒に作ってもらうのですが、一から家庭で準備するのは大変なので、こちらで事前に使用する食材の下ごしらえをし、参加者の皆さんに景丘の家まで取りに来ていただくことにしました。画面越しに食材を組み立てるだけでなく、仕上げにほんの少し包丁を使う工程を加えるなど、子どもたちが『自分が作った!』と達成感が得られるような工夫も。また、子どもたちの集中が途切れないよう1時間以内に料理が完成することもこだわったポイントです」

野菜をたくさん使うという基本はそのまま。失敗が少なくて見栄えもよく、1品でも満足度が高いものをと考案された第1回「オンラインでつながるこども食堂」のメニューは「押し寿司」。今回、特別にその裏側を取材させていただいた。

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各家庭に配布された押し寿司の材料。押し型も用意され、各家庭で準備するものは酢飯と卵のみという手軽さ
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オンラインで挨拶を交わす尾見さんと子どもたち

参加したのは5組の親子。子どもたちはスタッフの指導のもと、母親に手伝ってもらいながら一緒に炒り卵を作り、包丁を使って野菜を切って、用意してもらった食材を重ねていく。

尾見さんも傍らで「大丈夫そうかな?分からなくなったら言ってね」「すごい!上手だね!」と、いつもの子ども食堂と同じように声を掛け、子どもたちを励ます。

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画面を通してスタッフに教えてもらいながら包丁で食材を切る子どもたち
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尾見さんたちは「できたかな?」「上手だね」と声を掛けながら一つずつ工程を進めていく

途中、画面の向こうではちょっとしたきょうだいげんかが始まったり、つまみ食いをしてしまう子どももいたり、そんな予想外の出来事も楽しみながら一緒に作っていく。予定終了時間を少しだけ過ぎてしまったが、みんな無事に華やかな押し寿司を完成させることができた。

「できた!」とお皿をカメラに向ける子どもたちの満足げな笑顔を見て、尾見さんもほっとした表情を見せる。今後も状況に合わせて、オンラインでの子ども食堂を開催していくという。

写真:スタッフが完成させた押し寿司
押し寿司もいよいよ完成
写真:自分が作った押し寿司をうれしそうにカメラに向けて差し出す子どもたち
自分の力で押し寿司を完成させ、子どもたちも得意げ

ウィズ・コロナで求められる子どもたちの支援

「子ども食堂の活動にオンラインを取り入れることで、乳幼児がいる家庭やきょうだいが多い家庭など、気軽に外出できない親子も参加できるという発見がありました」と、尾見さんはいう。

一方で、設備上の問題からオンラインに対応するのが難しいという家庭や、そもそも親が共働きで参加できない子どももいた。新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波の到来が懸念されている中で、子どもたちにどのような支援が必要なのだろう。

渋谷区社会福祉協議会の遠藤さんは、新型コロナウイルスによる活動自粛期間中、子どもたちの置かれている状況が把握しきれないことが最大の課題だったと話す。

「渋谷区は核家族や共働き世帯が多く、一人で子ども食堂に参加されるお子さんも多いのが特徴です。自粛期間中は子どもたちの顔を見て話すことができなかったので、各家庭で子どもたちがどんな風に過ごしているのか分からず、心配でした」

特に渋谷区では他の自治体から引っ越しをした世帯は、地域とのつながりが希薄な傾向にある。そんな状況から子どもたちを守るためには、渋谷区こどもテーブルの存在を知ってもらうことも大切だと遠藤さんは思いを語る。

「親以外に、何か困ったことがあったときに手を差し伸べてくれる大人がいる。子どもたちが健やかに成長するためには、そのような環境がとても重要です。社会から孤立する家庭や子どもをなくすために、地域の人々と子どもたちがつながりを持つきっかけとなる場所として、世の中の状況に柔軟に対応しながらこどもテーブルを発展させていきたいと考えています」

撮影:佐藤潮