日本財団ジャーナル

医療と福祉が抱える新型コロナ禍の課題。「フェイスシールド」でつなぐ支援、心の支え合い

写真:左側が障害者就労施設でフェイスシールドを作る利用者。右側が無償提供されたフェイスシールドを運ぶ医療従事者
受注減少に苦しむ障害者就労施設と医療資材の不足に苦しむ医療施設をつなげる「フェイスシールド支援」
この記事のPOINT!
  • 新型コロナウイルスの影響で、医療施設では医療物資不足、障害者就労施設では売上減少の継続が懸念されている
  • 障害者就労施設へフェイスシールドの製造を発注し、それを医療施設へ無償提供することで、両方の支援につなげる
  • 資金や物資だけではない心の支え合いが、新型コロナウイルスと向き合う現場の活力につながっている

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。最前線で闘う医療施設では人材や医療物資の不足に悩まされ、障害者が働く現場では引き続き経営悪化が懸念されている。

そのような中、日本財団では障害者就労施設に医療現場で必要不可欠なフェイスシールドの製造を発注し、それを医療施設へ無償提供するプロジェクト(別ウィンドウで開く)に着手した。

それぞれが抱える課題を少しでも解消するために、障害者によるアウトソーシングサービスを展開するVALT JAPAN(ヴァルトジャパン)株式会社(別ウィンドウで開く)と連携し、第1弾として1都5県21医療施設に3万6,500個のフェイスシールドを供給した。また第2弾として1都1道2府14県377医療施設等、16万3,200個(2020年8月時点)の供給を計画している。

フェイスシールドを使い回さなくてはいけなかった緊急事態宣言時

「フェイスシールドはマスクと合わせて着用し、診療などの際に顔に飛沫がかからないようにする大切な感染予防資材。緊急事態宣言が出された当時はストックも少なく、消毒しながら使い回すといった、節約して使用せざるを得ない状況でした」

そう語るのは、フェイスシールド無償提供先の一つである総合川崎臨港病院院長室・事業企画担当を務める中村崇(なかむら・たかし)さん。緊急事態宣言時、マスクやフェイスシールド、ガウンといった感染予防に関する医療物資は流通量の減少により、価格が高騰化。手に入れることが難しかったという。

写真
提供されたフェイスシールドを運ぶ中村さん(写真右)

一方で、障害者就労施設が加盟する全国組織が実施した調査では、障害者に働く機会を提供する施設の約半数が減収に。多くの施設が工賃を引き下げ、中には支払うことができなくなるケースも出た。だが、中にはコロナウイルスを巡る状況を追い風にした施設もある。

「私たちの施設では、屋内で行うパソコン作業や、外出先で行うビルの清掃作業などを請け負っていますが、外出先に関する作業については新型コロナウイルスの影響で受注が減りました」

障害者就労施設、プラスエスの熊澤好悦(くまざわ・こうえつ)さんは、当時をそのように振り返る。

写真
前職は医療機関に勤めていたという熊澤さん。撮影:十河英三郎

「プラスエスでは、30名弱の幅広い年代の利用者が働いています。精神障害がある方が多く、全体の8割ほどを占めています。うちの特徴としては『やる気があればやってみよう!』というスタンスで、できるだけ利用者の方の希望に沿った仕事を提供するべく、幅広い業務を受注。その甲斐もあって、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化している障害者就労施設が多い中で、私たちの施設では受注が増えた仕事もあり、それほど被害を受けずに済みました」

外出先での作業減少のため、2020年の5月はほぼ全てを在宅勤務でできる業務に切り替えたという熊澤さん。

「隣にいればすぐできる指示やサポートが画面越しとなったことや、パソコンの機種の違いによって作業が滞ったこともありますが、通勤の手間が減ったため、かえって障害者の方の利用日数が増えました」

在宅勤務、パソコン業務に注力するなどしてピンチをチャンスに変えたプラスエス。ここに、障害者就労施設が感染拡大の危機を乗り越える1つのヒントが見えてくる。

質の高いフェイスシールドを安定供給

「VALT JAPANさんからフェイスシールドの製造について打診があったときは、二つ返事で受けました。もちろん仕事をもらえるありがたさもありましたが、新型コロナウイルスと闘う医療従事者の方たちの力になりたいという気持ちも大きかった」

現在は、1日約200個のペースでフェイスシールドを製造しているというプラスエス。医療資材を扱う上で最も注意している点は衛生面だ。室内や作業台、その周辺を何度も念入りに掃除し、ユニフォームにはホコリが付かないよう心掛け、手袋、マスク、ヘアキャップを装着した上で作業に当たっている。

写真
衛生面に細心の注意を払いながら作業するスタッフ。撮影:十河英三郎
写真
フェイスシールドの製造マニュアル。撮影:十河英三郎

フェイスシールドの素材はVALT JAPANから届く。衛生管理やフェイスシールドの作り方を記したマニュアルもVALT JAPANから支給されたものだ。ここに、一定の品質を担保するための工夫がある。

「VALT JAPANさんは、障害者が継続的に仕事と成功体験を得られる仕組みづくりに取り組まれています。なので、マニュアルを丁寧かつ分かりやすく作成し、多くの利用者の方が品質を保ちながらフェイスシールドを作ることができるよう工夫されています。またフェイスシールドを作る主な素材であるクリアファイルも、当初は自分たちで切断していたのですが、品質を向上するために、現在は型抜きされた素材が届く仕組みに。1日に生産できる数量やクオリティが格段に上がりました」

品質が担保されたフェイスシールドが定期的に届くことで、医療現場にも安堵感が広がっていると総合川崎臨港病院の中村さんは話す。

「フェイスシールドのおかげで、感染の予防面でも精神面でも安心して、診察に当たることができています。慣れない作業であるにもかかわらず、クオリティの高いフェイスシールドを作ってくださる障害者就労施設の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです」

写真
医療施設に無償提供されるフェイスシールド
写真:フェイスシールドを装着した男性
フェイスシールドは簡易ながらも感染防止に活躍している

医療従事者の力になりたいという障害者就労施設で働く人たちの思いと、フェイスシールドを身に付け日々奮闘する医療従事者たちが抱く、製造者への感謝の思い。資金や物資だけではない心の支え合いが、互いの現場の活力につながっているのではないかと感じた。

新型コロナウイルスの感染再拡大、複合災害に備えて

現在、東京をはじめとする各都市では緊急事態宣言時を上回る感染者数が日々報告され、九州をはじめ日本各地で豪雨による深刻な水害も出ている。本格的な第2波の到来や、いつ起こるかもしれない複合災害に備え、日本財団では、フェイスシールドの無償提供以外にも医療施設や医療従事者に対しさまざま支援を展開している。

2020年4月3日に発表した船の科学館及び、日本財団パラアリーナにおける日本財団災害危機サポートセンター(別ウィンドウで開く)の建設。5月中旬に日本財団パラアリーナの100床、7月30日に個室型のプレハブハウス140室150床が完成した。同センターには、新型コロナウイルスに感染した軽症や中等症の患者や、PCR検査により隔離が必要になる人々が入居する予定だ。

写真
日本財団災害危機サポートセンター

2020年5月20日に発表した「タクシーを利用した医療従事者等の移動支援」(別ウィンドウで開く)。医療従事者が通勤・帰宅時に利用できるタクシーチケットを都内の医療機関(対象:200カ所)に各100万円分配布する「医療従事者の移動支援」と、感染防止設備を備えた患者移送用タクシー100台を整備し、病院から自宅・ホテルへの移送を支援する「感染患者の移送支援」を行っている。医療現場で奮闘する医療従事者の身体的・精神的負担の軽減に貢献している。

写真
感染防止用車両として配備される専用タクシーの車内。遮蔽ボードや空気清浄機が設置されている

2020年5月20日に発表した「救急医療施設・医療従事者への総額50億円規模の緊急支援」(別ウィンドウで開く)。「防ぐことができた死」を起こさせないために、新型コロナウイルスの感染再拡大や複合災害の発生に備え、医療施設に対し設備等の拡充支援を行う。7月29日に全国128の救急医療施設の支援先(別ウィンドウで開く)が決定。医療従事者の防護やケア及び院内のゾーニング、感染防止体制の強化のための資機材購入や複合災害に対応するための検査機器を積載した車両の購入などに活用される。

いずれの支援も、日本財団に全国から届けられる企業や個人の方からの寄付金があってこそ早急に実現できた取り組みである。この未曾有の困難を乗り切るためには、みんなでみんなを支える思いやりの気持ちが、何よりも重要だと感じている。