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【増え続ける海洋ごみ】100年後の子どもたちに豊かな海を。多企業が協働で目指す、プラスチックごみを出さない社会
- 海洋ごみ発生のプロセスには、社会・経済活動そのものが深く関わっている
- 海洋ごみ問題の解決には、商品企画から流通、製造、消費まで一気通関した多企業の協働が必要
- 海洋ごみ問題を自分ごと化し、生活者に行動を促すことで循環型社会の構築を目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
いま、世界中で大きな問題となっている海洋ごみ。その7〜8割は街から川を伝って海に流出したごみが占めており、このまま何もしなければ、2050年には魚よりもプラスチックごみの量が多くなると言われている。
この問題を早急に解決するべく、日本財団は、海洋プラスチックごみ対策を目的とする連携組織「ALLIANCE FOR THE BLUE(アライアンス・フォー・ザ・ブルー)」(別ウィンドウで開く)を結成した。この組織には、プラスチックの原料となる石油化学業をはじめ、日用品や包装材メーカー、小売、リサイクルなど多業種の企業が参画(2020年8月時点で14社)。共に海洋ごみによる海への負荷を軽減する商品開発・共同研究・社会実験などを推進しながら、資源循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現を目指す。
海洋ごみを減らしたい。同じ思いを抱く企業をつなぐアライアンスが誕生
「『7つの海』という言い方を良くしますが、世界は一つの海でつながっているのです。海洋ごみ問題は、世界が抱える問題なのです」
これは、日本財団・笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長が発した「ALLIANCE FOR THE BLUE」キックオフミーティングの冒頭での言葉。
「人類がこの地球上で生存し続けていくためには、海洋環境に全てがかかっているといっても過言ではありません。1000年先も美しい海を保全するためには、海に守られた日本から海を守る日本へ、さらに、世界の海を守る日本へと変わっていく必要があります。日本の企業には、海洋の問題に取り組む上で必要なノウハウや人材が揃っており、日本財団がハブとなって活動を進めていきたいと考えています」
日本財団では、海への興味・関心を高め、海が抱える問題解決に向けたアクションの輪を広げることを目的に、2015年に「海と日本PROJECT」(別ウィンドウで開く)を設立。さらに、2019年には、一人一人が海洋ごみの問題を自分事として捉え、「これ以上海にごみを出さない」という社会全体の意識を高めるため、オールジャパンで海洋ごみ問題に取り組む「CHANGE FOR THE BLUE」(別ウィンドウで開く)をスタートさせた。
日本財団の海野光行(うんの・みつゆき)常務理事は、これらの取り組みを通して、大きな課題が浮き彫りになったと言う。
「海洋ごみの発生プロセスには、企画や開発、製造、販売など、複数の企業が関わっています。つまり、海洋ごみに対する取り組みを推進するためには、こうしたバリューチェーン(価値の連鎖)を構成するさまざまな企業の連携が必要なのです。しかし、既存のやり方では海にごみを出さないための仕組みをつくり出すのは難しく、企業間や業界を超えて海への思いを共有する場(アライアンス)が必要だと考えました」
「ALLIANCE FOR THE BLUE」は、参加企業を中心に地域・行政・学校なども巻き込みながら海洋ごみ問題に対応するためのプラットフォームになることを目指す。主なプロジェクトは、以下の3つ。
- 海洋ごみの約40パーセントを占める魚網利用の実態調査とごみ化の抑制
- 海洋ごみが発生しやすい場所での容器利用と再資源化の試行、検証
- 生活者が海とのつながりを実感する仕掛けづくり
「海洋ごみは、長い年月をかけなければ自然に還らない、もしくは、完全には還らないと言われています。すでに生態系や海洋環境への影響が出始めていますが、すぐにでも手を打たなければ、100年後、1000年後は、いまと同じように海から大きな恵みを受けることができなくなるかもしれません」
そう語るのは、「ALLIANCE FOR THE BLUE」においてアライアンス・コーディネーターを務める堀口瑞穂(ほりぐち・みずほ)さん。
「なるべく無駄を省いて、『混ぜてしまえばごみ、分けて扱えば資源になる』という発想で一つの素材を使い回すことは、技術的には可能です。しかし、1社、1業種の努力だけでは海洋ごみの問題は解決できず、経済合理性や収益性といった面でまだまだ壁がある。アライアンスをつくることで、新しい『サーキュラーエコノミー(循環型経済)』の仕組みや価値観を築いていきたいと考えます」
人材、技術、知見を生かした海洋ごみへの取り組み
「ALLIANCE FOR THE BLUE」の参加企業によるパネルディスカッションでは、各企業が取り組んでいる海洋ごみ対策の紹介や、協働による課題解決に向けての話し合いが行われた。
大手文具メーカーのコクヨ株式会社(別ウィンドウで開く)は、主な製品原料の7割が森林資源となり、2007年より環境負荷を下げる活動として「結(ゆい)の森プロジェクト」(別ウィンドウで開く)を展開。社内公募により立ち上がった2つのプロジェクトが現在進行している。
「1つは、30代女性をターゲットに、海洋ごみ由来の素材を使ったおしゃれなワークツールや生活雑貨を開発し、ごみ削減に向けた具体的な行動につなげたいと思っています。そしてもう1つは、親子で海洋ごみについて学べるような体験型のツールを考えているところです。これまで海洋とはあまり関わりがありませんでしたが、社内公募により新たな人材を育て、社会課題を解決することで、私たちの中にもイノベーションを起こしたいと考えています」
この取り組みにより、次の100年を世の中から認められるコクヨにしていきたいと、経営企画室・事業推進センター・センター長の井田幸男(いだ・ゆきお)さんは話す。
カーペットタイルのリサイクルをはじめ、廃棄物を原料にさまざまな素材を作り出す素材メーカーのリファインバース株式会社(別ウィンドウで開く)では、約20年前から魚網など漁具のリサイクルに取り組んでいる。
「毎年約1万トンの魚網が海に捨てられていると言われ、その背景には廃却コストが年々上がっていることも影響していると考えられます。そこで私たちは、廃魚網を回収して再資源化することで廃却コストを削減し、資源を有効に使えないかと考えました。魚網の原料にもプラスチックは使われていますが、プラスチックにも多種多様な素材があり、素材によって価値が大きく違う。経済合理性の面でリサイクルが難しいものも多く、生活者の価値観を変えるために訴えることや、法規制を変えていくことも課題の一つだと考えています」
図表:漂着ごみ(プラスチック類のみ)の種類別割合
そのように、常務取締役を務める加志村竜彦(かしむら・たつひこ)さんは熱を込めて語る。
参画企業の中で、最も生活者に近いのが、フードデリバリー&テイクアウトサービス「menu(メニュー)」(別ウィンドウで開く)を展開するmenu株式会社。執行役員の佐藤裕一(さとう・ゆういち)さんは、取引先の飲食店で「おいしい魚が食べられなくなったら困るでしょ?」と言われたことをきっかけに、海洋ごみは自分たちの問題でもあるのだと考えるようになったという。
「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、デリバリーやテイクアウトの需要は増えたのですが、その分プラスチック容器などごみの量も増加。生活者の海洋ごみに対する課題意識も高くなっていますが、自分たちがどうするべきか、選択肢がないことが一番の課題だと思っています。飲食店が、海に流出してもダメージの少ない容器やカトラリーを使用し、また利用者がサービスを選び、容器をきれいに洗ってリサイクルする流れができれば、循環的な社会を築くことにつながる。新しい容器の開発や、飲食店、利用者への働きかけも含め、私たちの問題と捉えて解決したいと考えています」
自社だけでは難しい海洋ごみ問題。アライアンスに期待すること
参加企業は、独自で海洋ごみ問題に取り組む一方で、自社だけでは解決することが難しいと感じていた。だからこそ、高い技術力を有する多業種の企業が参画する「ALLIANCE FOR THE BLUE」に対し、大きな期待を抱いているという。
すでに魚網のリサイクルに取り組んでいるリファインバースは、エンドユーザーに届く商品開発が課題だったと言う加志村さん。
「技術的には、海洋ごみのリサイクルは可能です。しかしそれを実現するためには、まだまだ試行錯誤しなければなりません。協働企業の皆さんと組むことで、従来にはない手法を取り入れたものづくりに挑戦するなど、このアライアンスがハブとなって海洋ごみ対策の活動が広がっていくことを期待しています」
雑誌や書籍の印刷から、エレクトロニクス、エネルギー分野など幅広く事業を展開する大日本印刷株式会社(別ウィンドウで開く)では、製品のライフサイクル全体から考えたリサイクルしやすい包装材「GREEN PACKAGING(グリーンパッケージング)」(別ウィンドウで開く)を開発。しかし、いくら企業が環境に優しい製品を作り出しても、生活者が理解し、購入しなければ循環型社会の実現は難しいと、CSR・環境部部長を務める中込隆(なかごめ・たかし)さんは話す。
「私たちは、パッケージをごみとして海に流出させず、資源としてリサイクルすることに力を入れています。そのためにはまず、生活者の意識を変えていくことが必要です。このアライアンスで皆さんと一緒に問題解決に取り組むことで知見を増やし、どうすれば生活者が理解し、積極的に参加してくれるかを模索していきたいと思っています」
日本最大の総合化学メーカー三菱ケミカル株式会社(別ウィンドウで開く)で、サーキュラーエコノミー推進部・事業開発グループ・グループマネジャーを務める板東健彦(ばんどう・たけひこ)さんは、ヨーロッパを中心に、環境に配慮した製品に関する問い合わせが増えているという。そのニーズに応えるため、製品の再設計が必要だと感じている。
「環境に配慮した製品でなければ購入しないという声が増えている一方で、今まで石油由来の原料を使ってきた私たちにとって、バイオ由来の原料に変更したり、リサイクル可能な製品を開発したりすることは、重要なチャレンジです。お客さまの声に耳を傾けながら、高品質で、よりリサイクルしやすいもの、環境に優しいものへと、製品を再設計する必要があると考えています。そういった面でも『ALLIANCE FOR THE BLUE』は、非常に有益なコラボレーションだと思っています」
生活者が価値観を変え、行動を起こすタイミング
2020年7月よりスタートしたレジ袋有料化をはじめ、一般の人々の間でも海洋ごみ問題に対する関心は高まってきてはいるが、削減するための取り組みは不足していると多くの人が感じている。
menuの佐藤さんは、取り組むきっかけをつくり出せば、海洋ごみ問題に対する人々の行動も加速すると提言する。
「menuでは、配達員への任意によるチップ制度を設けているのですが、私たちが思っていた以上にチップを支払うユーザーが多く、日本人には恩返しやお礼をしたいという気持ちがあるんだということを実感しています。海を守るために自分たちができる行動の選択肢があれば、多少金額が上がっても、環境に負荷がかかりにくい物やサービスを選ぶ人は多いと思います」
コクヨの井田さんも、生活者の意識改革に向けて意欲を見せる。
「もはや、消費行動としてエコやCSR、SDGSを進めることには限界があると感じています。私たちが取り組んでいるのは、我慢や無理をするのではなく、おしゃれにエコを楽しむ人を応援したいプロジェクトや、学びに循環型社会を組み込みたいという思いから始まったプロジェクト。皆さんと一緒に、ものの消費活動ではなく、体験することが新しい世の中をつくることにつながるよう、人々の価値観をアップデートしていくことができればうれしいですね」
実際に、日本生活協同組合連合会(コープ)と日本財団の共同調査では、環境への配慮ができるのであれば、多少コストが上がったとしても、そのサービスや商品を選ぶと多くの人が回答している。
図表:生活者の海洋ごみ問題に対する意識
日本財団の海野常務理事は、今後はさらに参加企業を増やし、生活者が海洋ごみ問題を自分ごととして行動につなげられるよう、さまざまな視点から「ALLIANCE FOR THE BLUE」に取り組みたいと意気込みを語る。
「『ALLIANCE FOR THE BLUE』を成功させるためには、3つの取り組みが重要だと考えます。1つ目は『仲間づくり』。地方の企業なども巻き込みながら、制限なく仲間を増やしていきたい。2つ目は『場づくり』。技術革新や新たな仕組みづくりに加え、解決策を実証するための社会実験の場をつくる必要があると考えます。3つ目は『機運づくり』。新型コロナウイルスの蔓延をきっかけに、感染症という社会問題が自分たちの生活と密接に結びついていると感じるようになりました。だからいまこそ、海洋ごみ問題も生活と密接に結びついていることを理解し、自分ごととして行動を促すために変化を起こすタイミング。この『ALLIANCE FOR THE BLUE』が企業や生活者のハブとなって、子どもたちのために豊かな海を未来につないでいけるよう努めたいと思います」
撮影:佐藤潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。