日本財団ジャーナル

新型コロナの感染再拡大、複合災害の発生。「医療崩壊」を防ぐために何が必要か?

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日々増加するさまざまなリスクと闘う医療従事者たち
この記事のPOINT!
  • 新型コロナで疲弊する医療現場、悪化する経営、感染再拡大など「医療崩壊」のリスクは高まっている
  • 日本財団では、医療現場の負担を軽減するべく、総額10億円規模の医療従事者の移動支援を実施
  • すでに起きつつある第2波、第3波、複合災害。医療崩壊を防ぐには一人一人の行動や備えも必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルスと長期戦を強いられている医療現場。最前線で働く医師や看護師たちの負担が増加している。

病院経営が悪化している中での東京都を中心とした感染再拡大、いまだ続く医療物資不足、豪雨など複合災害に対する対応など、医療従事者が立たされている立場は非常にシビアだ。「医療崩壊」という最悪の自体を防ぐために、今私たちにできる支援とはいったい何なのか。

高まる医療崩壊のリスク

新型コロナウイルス感染が再び広がる中、医療現場が抱える問題は多い。3月、4月にはフェイスシールドやマスクといった医療物資の不足が深刻化し、一度使ったものを洗って再利用せざるを得なかった施設も多い。加えて、病院経営の悪化による赤字の膨らみや退職者の増加による人材不足、東京を中心とする感染の再拡大がじわじわと現場を逼迫させ、医療崩壊のリスクが高まっている。

一度、医療が崩壊してしまえば重症患者だけでなく、別の重病で治療を必要としている人たちの命も救えなくなる。

「収益の元となる病床を、コロナ患者さんや疑いのある患者さんを受入れるために空け、また一部病棟を閉鎖し、スタッフをコロナ専用病棟に重点配置することで、通常の診療や手術を見送らざるを得ない状況が続いています。そのため、過去に例がないほどの減収が続いていることが最大の悩みですね」と、とある病院の関係者は語る。

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新型コロナウイルス感染拡大の最前線で奮闘する医師たち

現場外でも医療従事者の負担は大きい。夜遅くに長時間にわたる勤務を終えてタクシーで帰ろうとしても乗車を断られたり、人によっては、家族が仕事先や近所から言われのない差別にあったり、といったケースも多発している。

「公共の交通機関をなるべく使用しないよう心掛けているスタッフも多いのですが、病院での交通費負担が賄えない状況です。また、病院からタクシー会社に電話をしても、タクシーを回してもらえず、医療従事者や診察を終え帰宅できることになった患者さん、軽症者の方を、自宅や受け入れ施設に送ることも難しい状態が大きな負担となっています」

自身や家族の生活を守るために、医療現場から去る人も少なくない。新型コロナウイルスによる出費の増大と収入の減少、人材の不足。そんな負のスパイラルを断ち切る一つの手段として、日本財団では、医療従事者の移動支援に乗り出した。

医療従事者の身体的・精神的負担を軽減する移動支援

日本財団が、2020年5月20日に発表した新型コロナウイルス感染症に対する「タクシーを利用した医療従事者等の移動支援」(別ウィンドウで開く)。医療従事者が通勤・帰宅時に利用できるタクシーチケットを都内の医療機関(対象:200カ所)に各100万円分配布する「医療従事者の移動支援」と、感染防止設備を備えた患者移送用タクシー100台を整備し、病院から自宅・ホテルへの移送を支援する「感染患者の移送支援」を行っている。

タクシーチケットで支える「医療従事者の移動支援」

「医療従事者の移動支援」は、医療現場で日々奮闘している医療従事者の通勤や帰宅に伴う身体的・精神的な負担を軽減することを目的としている。これは、俳優の稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんによる「新しい地図」と日本財団による新型コロナプロジェクト『LOVE POCKET FUND(愛のポケット基金)』(別ウィンドウで開く)の第2弾支援策でもあり、全国から寄せられた寄付金のうち5,000万円が、50カ所の医療機関へのタクシーチケット配布に充当される。

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LOVE POCKET FUNDを立ち上げた「新しい地図」の稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さん

感染防止用タクシーで支える「感染患者の移送支援」

「感染患者の移送支援」で使用する専用タクシーは、車内の前方と後方を遮蔽(しゃへい)ボードで仕切り、後部座席の上部に空気清浄機を設置。飛まつが車内に飛び散らないようにすることで、安心して患者を病院から自宅・ホテルへと移送することができる。

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感染防止用車両として配備される専用タクシー
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遮蔽ボードや空気清浄機が設置された専用タクシーの車内

これらの支援に対する申請の際、医療機関からは安堵する声と共に、寄付者の方へのたくさんの感謝の声が届いた。

「病院に搬送された患者さんは、診察を終え帰宅できることになっても公共交通機関が使えないため帰る手段がなく、遠方にお住まいの方はタクシーを使って帰宅せざるを得ません。この専用タクシーによる移送支援はとても有効で大きな支援になることは間違いないです」

「病院の減収が厳しく、交通費負担が賄えない状況の中、タクシーによる移動支援は大変ありがたいです。ありがとうございます」

「長時間の労働で、体力・精神面でも大きな負担を抱える職員のために利用させていただきます」

「皆さまの温かいお支援を受けて、職員一同、改めて感染症との戦いに尽力していくつもりです」

寄付者の方による支援は、新型コロナウイルスと闘う多くの医療従事者や患者にとって、大きな心の支えとなっていることだろう。

医療崩壊を引き起こさないために

タクシーチケットを使った移動支援を含む、新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療機関、医療従事者への支援は、2020年4月に日本財団が開設した「新型コロナウイルス緊急支援募金」(別ウインドウで開く)や、前述した『LOVE POCKET FUND』に集まった寄付金により賄われている。2020年8月31日時点で、総額15億円以上に上る寄付が寄せられており、日本財団では経費などは一切含まず全額支援に活用している。

[医療機関・医療従事者に関する主な支援]

日本財団災害危機サポートセンターの整備(別ウィンドウで開く)

2020年4月3日に発表した船の科学館及び、日本財団パラアリーナに建設中の日本財団災害危機サポートセンターについては、5月中旬に日本財団パラアリーナの100床を完成。7月30日には個室型のプレハブハウス140室150床が完成した。同センターには、新型コロナウイルスに感染した軽症や中等症の患者や、PCR検査により隔離が必要になる人々の入居先として活用される。

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日本財団災害危機サポートセンター

●新型コロナウイルス感染症対策と複合災害に備えた緊急支援(別ウィンドウで開く)

「防ぐことができた死」を起こさせないために、そして第2波、第3波への備えや、甚大な複合災害への備えとして、いま般救急医療を担う施設及び医療従事者へ、総額約50億円の資金支援や救急医療人材の人材育成支援を実施している。7月29日には全国128の救急医療施設の支援先(別ウィンドウで開く)が決定。医療従事者の防護やケア及び院内のゾーニング、感染防止体制の強化のための資機材購入や複合災害に対応するための検査機器を積載した車両の購入などに活用されている。

その他にも、セブン&アイ・ホールディングス(別ウィンドウで開く)から1億円超の寄付を受けて、新型コロナウイルス感染症に対応する救急医療施設の医療機器や設備を改修。メットライフ財団(別ウィンドウで開く)からも約1億円の寄付を受け、全国約550のホームホスピス・訪問看護ステーションへの感染予防物資の提供や、自宅生活の高齢者をケアする専門職の労働環境をサポートするなど、企業からも協力を得ながら支援に取り組んでいる。

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医師と共に逼迫する医療現場で奮闘する看護師たち

医療従事者からは、新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波、あるいは複合災害の発生に対し、不安の声が上がっている。

「病院として第2波、第3波への備えはありますが、加えて大災害への対応は現段階ではとても不安です。救急搬送による被災者受入れは準備できますが、近隣住民が特に休日・夜間に多数押し寄せた場合、新型コロナウイルスの感染拡大は不可避と思われます」

「再び感染拡大や大災害が起こった際には人的支援を望みますが、いまの状況ではとても困難と思われますので、マスコミや政府により、国民の皆さんに日頃からの備えを促してほしいと思います」

国や企業の取り組みも重要だが、私たち一人一人の行動も、医療崩壊を引き起こさないための鍵を握っている。再び日本全国に拡大しつつある新型コロナウイルスの感染予防、いつ起こるか分からない災害に対する備えは十分に日頃から心掛けたい。