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【障害とビジネスの新しい関係】リーダーにも「気付き」を促すことが必要。NTTグループのインクルーシブな組織づくり
- 「障害」と言ってもその種類はさまざま。一人ひとりに向き合い採用・定着に取り組む必要がある
- NTTグループでは、障害当事者を講師に迎えた研修などを通して、社員への障害者理解を深めている
- 企業を牽引するリーダーにも、障害が身近な存在であることへの「気付き」を促すことが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
この特集では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できる社会をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。
取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※)の面々。今回は、「ICT(情報通信技術)とイノベーションによる社会的課題の解決」を経営方針に掲げるNTTグループ(別ウィンドウで開く)の取り組みを紹介する。
- ※ 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団
NTTグループでは、特例子会社(※1)「NTTクラルティ」(別ウインドウで開く)を設立し、障害者雇用に向けた業務の検討、採用活動および定着支援までの包括的なサポート、グループ全体へのダイバーシティ&インクルージョン(※2)を推し進めている。
- ※ 1.障害者の雇用促進、雇用の安定を図るために設立された会社
- ※ 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり
また2020年10月には、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime-D(オリヒメディー」などの開発などを通して多様な障害を抱えた人の社会参加を促進するオリィ研究所(別ウィンドウで開く)と資本提携し、大きな話題となった。
NTTダイバーシティ推進室・室長の池田円(いけだ・まどか)さん、課長の田邉直記(たなべ・なおき)さん、そして障害当事者として勤務する伊藤祐子(いとう・ゆうこ)さんにお話を伺った。
【手話言語動画版】
一人ひとりの障害と向き合い、必要なサポートを探る
山田:ワーキンググループの山田悠平(やまだ・ゆうへい)と申します。まず、NTTグループではどれくらいの数の障害者の方が働いているのかお聞かせください。
池田さん:現在は、国内のグループ社員数18万人のうち、約3,990人の障害者の方を採用しています。
山田:障害者雇用の現状を見ると、採用しても定着しづらいという課題があります。
池田さん:その点については、私たちも課題を感じています。障害者の方に長く勤めていただけるよう、働きやすい環境づくりに力を入れています。具体的には、車いす用のトイレの設置、音声読み上げソフトの導入といったハード面に加えて、障害者の方やその上司にあたる社員とも定期的に面談を行うなど、ソフト面でのサポートも重要だと考えています。ひと言で「障害」と言ってもその種類はさまざま。グループ各社の障害者の方が今どんな状況にあり、何に配慮するべきか、数年後に予想できる症状の変化なども踏まえながら、お一人おひとりに向き合って取り組んでいるところです。
山田:私は精神障害者で、外見ではなかなか理解されにくいことも多いのですが、こちらでは一人ひとりに寄り添う環境が整っているのですね。
奥平:ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。NTTグループでは、社員に向けて障害を理解するための研修を行っていると聞きました。どのような内容でしょうか。
池田さん:障害がある社員を講師に迎えた「心のバリアフリー研修」(別ウィンドウで開く)というものを行っています。参加者は実際に、車いすでの移動や見えない聞こえない状態の体験、何に困っているのか障害当事者の方の生の声を聞いてみるなど、実体験を通して障害に対する理解を深めます。
奥平:重度障害者など体の一部しか動かせない人が、自宅に居ながら遠隔操作で人とコミュニケーションを取ることができるロボット「OriHime-D」の導入も大変興味深い取り組みですね。現在何名の方が遠隔でお仕事されているのですか。
田邉さん:今は4名です。4人とも受付業務になるのですが、丁寧で明るい接客がお客さまにも高評価をいただいています。世の中には高いスキルを有しているのに、障害などを理由に働けない方がたくさんいらっしゃるんだろうな、ということを改めて感じています。ここからは、実際に「OriHime-D」を使って遠隔でお仕事をされている伊藤さんにバトンタッチさせていただきますね。
遠隔ロボットでオフィス勤務。広がる働き方の可能性
山田:伊藤さんは、「OriHime-D」を活用して愛知県から遠隔でお仕事をされているということですが、NTT本社で働くことになったきっかけをお聞かせください。
伊藤さん:「OriHime-D」を開発したオリィ研究所が、2019年10月に主催した障害者が「OriHime-D」を使って働く社会実験「分身ロボットカフェ」(別ウィンドウで開く)に参加しました。それをご縁に、オリィ研究所から現在のお仕事を紹介していただきました。
奥平:伊藤さんは、なぜ「分身ロボットカフェ」に参加しようと思ったのですか。
伊藤さん:私は数年前に事故に巻き込まれて脊髄を損傷して以来、両下肢(りょうかし)機能障害となり、車いす生活を送っています。年々体が動かなくなり、外に出て働くのが難しくなってきて、このまま家で年老いていくのかな…と諦めていたんです。そんな時にインターネットでオリィ研究所の取り組みを知って、これなら私にもできるかもしれないと思いました。
山田:なるほど。実際にこうしてNTT本社で働くようになって、お仕事へのやりがいをどのように感じていらっしゃいますか。
伊藤さん:ロボットを介してお客さまをご案内することによって、打合せを前にしたお客さまの緊張がほぐれ、笑顔で会議室に入られる様子を見ると、とてもやりがいを感じますね。愛知県の自宅にいながら東京で勤務することができ、少しでも社会の役に立てることがうれしいですね。
奥平:「OriHime-D」だからこそ、打ち合わせ前のアイスブレイクにもなるのですね。伊藤さんの障害に対して、会社からはどのような配慮がありますか。
伊藤さん:オンラインを使った面接の際に、今の自分の障害の程度や状況を事細かに聞いていただきました。それをもとに、勤務が長時間に及ばないように調整していただいたり、ネットワークのトラブル等で「OriHime-D」が突然操作できなくなった際にも即座にフォローしていただいたり、細やかに配慮していただいています。また、社内の先輩の方々との交流機会も設けていただくなど、楽しく安心して働くことができています。
山田:楽しくお仕事されているのが伝わってきます。同じように、働く意欲がある障害者の方に向けてメッセージをお願いできますか。
伊藤さん:人のために働くことは、人生において大きなモチベーションになると思います。障害があると誰かに依存したり、甘えがちになったりしますが、自分が誰かのために何かをしたいと思うことは、誰かがまた自分を必要としてくれることにもつながりますよね。これから、障害者の方々が働くというたくさんの事例が増えて、一人ひとりの人生が光り輝くことを願っています。
障害がある人もない人も、当たり前に一緒に働ける組織を目指して
山田:ここからは、NTTグループが目指す組織や社会についてお聞かせください。NTTグループは、企業における障害者の社会参加を推進する世界的な運動「The Valuable 500(ザ・バリュアブル・ファイブハンドレッド)」(別ウィンドウで開く)にも加盟されていますが、その経緯について教えていただけますか。
池田さん:NTTグループは世界90カ国に関連会社があるのですが、国ごとによって法律や制度が違うなど、これまではなかなか障害者活躍推進に向けて足並みが揃えられずにいました。The Valuable 500に加盟することで改めてNTTグループの方針を国内外に明らかにできる良い機会だと思い、参加を決めました。
山田:The Valuable 500に加盟されて以来、取り組まれていることはありますか。
池田さん:各国の状況を調べながら模索しているところではありますが、やはり障害者のインクルージョン(Disability Inclusion)のためには、社員への研修が第一歩だと思っています。現在、考えているのは障害理解促進とアンコンシャス・バイアス(※)研修です。ほとんどの人は、データだけ見せられて、「全人口の10パーセントは障害者です」と言われても身近には感じられませんよね。研修を通して、社員の一人ひとりが自分の中にある「障害」に対する思い込みや偏見に自ら気付けるように促し、組織や社会を変えるために自発的に動けるようになることが大切だと思っています。
- ※ 無意識の思い込みや偏見
山田:池田さんは、今後社会全体で障害者雇用を進めるためには、何が必要だと感じていらっしゃいますか。
池田さん:まずは企業を牽引するリーダーの方に、障害が身近であることを気付いてもらうための働きかけでしょうか。弊社幹部も、今でこそLGBTQ(※)の取り組みを含めたダイバーシティ&インクルージョンに対して積極的ですが、はじめからそうだったわけではないと聞いています。ダイバーシティ推進室の前任者たちからは、世の中を取り巻くさまざまな状況を理解してもらうために、幹部とディスカッションを重ねたと聞いています。リーダーにも私たちと同じように「気付き」を促すことが必要なのです。
- ※ レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときに自身の性別に違和感がある)、クエスチョニング(自身の性別、好きになる相手の性別が分からない)の英語の頭文字を取った性的少数者の総称
奥平:最後に、今後の取り組みに対する意気込みをお聞かせください。
田邉さん:私がこの部署に異動する時、上司から「これから君は人のために働く部署に行く。みんなのために、みんなが幸せになることを考えて働きなさい」という言葉をもらいました。まだまだ課題はありますが、全ての社員が安心して働ける組織にしていきたいですね。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。