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【障害とビジネスの新しい関係】違いを認め合い、その先の可能性を探る。電通の社内外におけるインクルーシブな取り組み

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ボディシェアリングロボット「NIN-NIN」や読める点字「ブレイルノイエ」の発明家である高橋さん(写真右)と電通社内で人権啓発活動を牽引する安藤さん(写真左)。中央は日本財団ワーキンググループの奥平さん
この記事のPOINT!
  • 人を惹きつけるプロダクトやコピーは、人と人とのつながり、対話を通して生まれる
  • 他者の目線に立ち、考える機会を設けることが啓発活動を推し進める
  • 互いの違いを認め合い、その先の可能性を探求し続けることがインクルーシブな社会づくりには大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

この特集では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※)の面々。今回は、前回(別ウィンドウで開く)に続き日本の広告業界をリードする株式会社電通(別ウィンドウで開く)の社内外における取り組みを紹介する。

  • 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団

体の機能を他人とシェアするロボット「NIN-NIN(ニンニン)」(別ウィンドウで開く)や目が見える人も見えない人も読める新しい点字「ブレイルノイエ」などを発明したコミュニケーションデザイナーであり発明家でもある高橋鴻介(たかはし・こうすけ)さんと、社内で人権啓発活動に取り組む法務マネジメント局の安藤勉(あんどう・つとむ)さんにお話を伺った。

【手話言語動画版】

体の機能を補い合うことで新しい体験を

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。まず、高橋さんの肩書きは「発明家」なのですね。

高橋さん:まだ最近名乗り始めたばかりなのですが、僕は生まれが東京の秋葉原で、身近にコンピューターの部品などがあって、新しいアイデアを考えることやものを作ることが子どもの頃から好きでした。いろんなプロダクトを手掛けるようになり、「こうなればいいな」っていうアイデアを形にしていくことって「発明」と言えるのではないかと考えるようになってから、発明家を名乗っています。

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コミュニケーションデザイナーの傍ら発明家としても活動する高橋さん

奥平:本日お持ちいただいたボディシェアリングロボット「NIN_NIN」、とっても可愛いですね。どういった働きをするロボットなのでしょうか。

高橋さん:NIN_NINは、テクノロジーの力を使ってさまざまな障害を抱えた人の社会参加を促すオリィ研究所(別ウィンドウで開く)と共同開発したロボットで、「身体の機能を他人にシェアする」ことをコンセプトにしています。例えば、足の不自由な人が内蔵のカメラを通して視覚が不自由な人の「目」となり、逆に視覚が不自由な人が足の不自由な人の「足」となるなど、体の機能をシェアすることができます。人々が体の機能を補い合うことで、今までできなかった新しい体験ができるようになります。

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高橋さんが開発したボディシェアリングロボットNIN_NIN

奥平:なるほど。製作に当たって大切にしたことがあれば教えてください。

高橋さん:ロボットを介して人と人とのつながりが生まれることを重視しました。デザインも愛らしさにこだわり、人の温もりを感じられるものを目指しました。おしりをプリッとさせたり、(忍者の)ニンニンのポーズができたり。遊び心があった方が社会にも受け入れられやすいと思うんです。一度、子どもたちにNIN_NINを体験してもらったのですが「乗せたい!」と大人気でした(笑)。ただ機械的に支援するのではなく、人の温もりを持ったNIN_NINとしてサポートしたり、障害のある方はもちろん、さまざまな方がつながりを持つきっかけになればと思っています。

奥平:面白いし、とても大切な視点ですね。

高橋さん:学生時代にロボットの動きが人の心に及ぼす影響について研究していたことがあるんです。そういった経験も今の活動に生きていると思います。

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実際にNIN_NINを肩に乗せた奥平さん

難しい点字をもっと身近なものに

奥平:次は、目が見える人も見えない人も読める点字「ブレイルノイエ」についてお話を聞かせてください。

高橋さん:これを作ろうと思ったのは、僕自身が「点字を読めたらいいのに」と思ったことがきっかけでした。とある福祉施設にお邪魔した時に、視覚障害のある方から「点字が読めれば、暗闇でも本が読めるよ」と言われたんです。

僕にとってはすごく衝撃的な一言でした。もし自分が点字を読めたら、例えばスピーチをするときも指で触りながら読めて便利なのに。何で僕は点字が読めないんだろうと思いましたね(笑)。

写真:ディスプレイに表示されたアルファベットと数字の点字
読める点字、ブレイルノイエ

奥平:その方の一言で、点字に関心を持たれたんですね。

高橋さん:そうです。障害とか関係なく、普通にかっこいいなって。それから点字のことをいろいろ調べていくとその世界は奥深いんです。例えば日本の仮名の場合、縦3点、横2点の6点で1文字を表し、上の3点が母音で他が子音を示していて…。ちょっと難しいんですけどね。

奥平:そんな仕組みになっているのですね。確かにシンプルですが、指で読むのは難しそうな気もします。

高橋さん:そうなんですよ。もっと点字を身近なものとして感じられたらという気持ちで作ったのが読める点字、ブレイルノイエです。点字を読んだことがない人にとって点字を学ぶのはハードルが高いし、そもそも視覚障害のある人全てが点字を読めるわけではない。その点字に対するハードルを少しでも低くすることができたらと。

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ブレイルノイエを開発するきっかけについて話をする高橋さん(写真右)と奥平さん

奥平:こちらもこだわりのポイントについて教えてください。

高橋さん:デザインは可愛いとかっこいいの中間くらいのものにこだわりました。また色は僕の好きな青色を採用したのですが、実は青色は色盲の人でも見え方が変わりにくい色だということを友人から後から聞き、その偶然に自分でも驚きました。

奥平:点字が私たちにも読めることで、これまで知らなかった世界に触れることができそうです。

写真:エレベーター内の操作パネル
ブレイルノイエは、電通社内のエレベーターでも使用されている

高橋さん:そうですね。僕自身いろいろなバックグラウンドを持った方々と出会う中で、いろいろな気付きを得られています。近年「多様性」という言葉を耳にする機会が多いですが、お互いの違いを認め合うだけでなく、その先でどう共感し合えるのか、「対話」をしながら探して行くことが大切だと感じています。

今後も「暗闇で本が読めるよ」と言われた時のような「お互いの壁が消える瞬間」をもっと増やしていけたらと考えています。

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対話の大切さについて語る高橋さん

いろんな人の目線に立って言葉を考える

奥平:いろいろお話を伺っていると、電通さんには多様性を受け入れる文化が根付いているように感じます。ここからはそんな文化を普及させる取り組みの一つでもある「人権スローガン」について担当者の安藤さんにお話を伺えたらと思います。

安藤さん:まず「人権スローガン」とは何かというところからご説明しますね。これは1988年から始まった、電通社員やその家族の方に人権啓発を目的とするスローガンを自由に考えていただき、その中で選りすぐったものを広く社会に向けて発信するという取り組みになります。2020年には、約8,000もの作品が集まりました。

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法務マネジメント局で電通における人権啓発活動を牽引する安藤さん

安藤さん:広告事業では、良かれと思って作った言葉でも、誰かを傷つけてしまう可能性もあります。そういったことが起きないよう、いろいろな人の目線に立って言葉を考えられるようにといった意図も含めた取り組みですね。

また、社員も他の人がどんな内容をどういった切り口で、どのように発信しているか勉強できる良い機会になると思っています。

奥平:最終的に選ばれるのは何作品くらいなのでしょうか。

安藤さん:20〜30作品ほどですね。社員の推薦や、コロナの影響がなかった年は会議室に集まって選考員の社員が審査をして選びます。

奥平:選考の基準などはあるのでしょうか。

安藤さん:人気順と併せて、多くの人が気付きを得られるか、伝わりやすいかなど、メッセージ性を重視して選んでいます。もっと具体的に言うと、「人の心の痛みに敏感になれるか」「今後の行動につながりやすいか」といった点でしょうか。

例えば、「『予約のとれないレストラン』が、車いすの私にはたくさんあります。」というスローガンがあるのですが、通常であれば味や人気などで評価されるでしょう。しかし障害のある方など違う立場の方の視点では評価軸が異なることを伝えたものです。

他にも「スマホを見て歩くあなたが、私には見えません。」というスローガンがあるのですが、これは視覚の不自由な人の視点に立ったもので、目にした人の多が直感的に歩きスマホをやめようと思えるのではないでしょうか。

画像:「『予約のとれないレストラン』が、車いすの私にはたくさんあります。」というメインコピーの背景に、5つ星満点で、4つの点灯した星を持った健常者の女性、高齢者、シェフ、外国人と、1つの無点灯の星を持った車いすの女性が写ったポスター。下部に「障がい者の人権のために」「dentsu」「電通人権教育委員会」と記載
「『予約のとれないレストラン』が、車いすの私にはたくさんあります。」(「障害者の人権」がテーマの2017年度入賞作品。ポスターは電通のクリエーターが制作)
画像:「スマホを見て歩くあなたが、私には見えません。」というメインコピーの背景に、駅のホームの点字ブロック上に健常者と視覚障害者がぶつかって折れた白杖とちぎれたヘルプマーク、壊れたスマートフォンの絵が描かれたポスター。下部に「障がい者の人権のために」「多摩美術大学×電通」「人権アートプロジェクト」と記載
「スマホを見て歩くあなたが、私には見えません。」(「障害者の人権」がテーマの2017年度入賞作品。ポスターは女子美術大学との人権アートプロジェクトで制作)

奥平:なるほど。確かに伝わりやすいスローガンですね。入選したものはどこかに発表されたりするのでしょうか。

安藤さん:イラストと合わせてポスターにして額に入れ、行政や学校、企業の方に無償で貸し出ししています。「ポスターが貼られていることで、立ち止まって考えることができた」と好評をいただいています。

奥平:人権スローガンに関連した他の取り組みもされていると伺いました。

安藤さん:新人社員は、入社のタイミングで人権啓発に関する研修を受けてもらいます。他にも定期的に講習会などを実施し、繰り返し人権について考えてもらう機会を設けています。

また私の部署から、月に2回ほど人権に関する、最新情報や法律などに関するニュースメールを発信していますね。

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人権についてみんなで考える機会を増やしたいと話す安藤さん

奥平:会社を挙げてさまざまな取り組みをされているのですね。

安藤さん:人権スローガンを含め、“みんなで考える”機会を設けるということが、大切だと考えています。今後はさらにそういった対話の機会を増やしていきたいですね。

奥平:本日は、どうもありがとうございました。

撮影:十河英三郎

特集【障害とビジネスの新しい関係】