日本財団ジャーナル

【10代の性と妊娠】「予期せぬ妊娠」のリスクを抱えた全ての女性の健康を守るため。「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表の想い

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写真左から「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」を立ち上げた染矢さん、福田さん、遠見さん
この記事のPOINT!
  • 予期せぬ妊娠の背景には、性教育の遅れや緊急避妊薬の購入のしづらさも影響している
  • 必要な人に適切なタイミングで届けるために「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」が始動
  • 全ての女性が自分の選択で、安心・安全に緊急避妊薬にアクセスできる社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、10代を中心に若年層からの妊娠相談が急増している。

日本の若者の性に起こっている社会課題の解決に取り組むNPO法人ピルコン(別ウインドウで開く)では、新型コロナウイルス感染拡大により一斉に休校措置となった2020年3月以降、若者からの妊娠に関する相談が倍増。10代に限ると約半年間で4倍にまで膨れ上がったという。

こうした背景を受け、2020年6月に立ち上がった「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」(別ウインドウで開く)は、全ての女性が健康を守るために安心して、適切かつ安全に、緊急避妊薬(通称:アフターピル)を購入できる社会の実現を目指している。

今回は、同プロジェクトの共同代表を務めるピルコン理事長の染矢明日香(そめや・あすか)さん、「えんみちゃん」の愛称で親しまれ全国の中学校や高校で性教育活動も行う産婦人科医の遠見才希子(えんみ・さきこ)さん、スウェーデンの大学院に通いながら日本の性と健康をめぐる環境改善を目指す「#なんでないの プロジェクト」(別ウィンドウで開く)代表の福田和子(ふくだ・かずこ)さんの3人にお話を伺った。

画像:「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」公式サイトのトップページ
「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の公式サイト

世界から大幅に遅れをとる日本の性教育

ピルコンに寄せられる10代からの予期せぬ妊娠相談。その理由には、一斉休校措置により外出できないため自宅でパートナーと過ごす時間が増えたことや、SNSを通じて性被害に巻き込まれた、家族やパートナーなど身近な相手から性暴力を受けたなど、多岐にわたる。

日本では1年間で推計約61万件の予期せぬ妊娠がある(※1)と言われている。人工妊娠中絶は年間約16万件(1日換算で約440件)、10代では1日あたり約40件の中絶が行われている(※2)。さらに、児童虐待死(心中以外)が最も多いのは生後0日。その背景には、予期せぬ妊娠があることも少なくない(※3)。

画像:日本では1年間に…。
思いがけない妊娠推計61万件。大須賀譲、秋山紗弥子、村田達教、木戸口結子(2019年)、Erratum、日本における予定外妊娠の医療経済的評価、医療と社会、29(3)、435-435.
人工妊娠中絶約16万件。厚生労働省 平成30年度衛生行政報告例の概況
心中以外の虐待死(0歳児)22人。厚生労働省子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)
日本における1年間の予期せぬ(思いがけない)妊娠、人口妊娠中絶、心中以外の児童虐待死の数。作成:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト

「そもそも、何をしたら妊娠するかを理解していないという子も少なくありません。性器同士の接触なく一緒にお風呂に入るなど、直接妊娠につながるとは考えづらい行為であっても、生理が遅れて不安だという相談もあります。また、必ずしも家庭が安心・安全な環境ではない子や、相手からの暴力を恐れて避妊してほしいと言えない子もいます。私たちに寄せられる相談は氷山の一角で、水面下ではもっとたくさんの子がひとりで不安を抱えているのではと思います」

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若者を中心に性にまつわる啓発活動を行うNPO法人ピルコン代表の染矢さん

妊娠したかもしれない。そう不安に思ったときに、親や周りの大人を頼れる10代の若者がどれだけいるだろう。そんなときに、自分ですぐに緊急避妊薬を手に入れることができたら……。そんな染矢さんたちの想いから「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」は生まれた。

緊急避妊薬は、性交後72時間以内の内服で妊娠阻止率は約85パーセント。24時間以内であれば95パーセントであり、飲むのが早いほど効果が高い。実際の妊娠症例率は約1~2パーセントであり、なるべく早く72時間以内に内服することで、多くの妊娠を回避できる。

約90カ国では医師の処方箋なしに薬局で数百円~5,000円程度で購入できるが、日本では医師の処方箋がなければ入手できず、1~2万円と価格も高い。

画像:世界では約90ヶ国で薬局で入手可能!
「アメリカ」薬局:約4,200〜5,300円。病院、非営利団体、学校で無料提供も!
「オーストラリア」薬局:約1,100〜4,000円。
「イギリス」薬局:約900円。病院、学校で無料提供も!
「フランス」薬局:約900円。病院、学校で無料提供も!
「カナダ」薬局:約2,400〜4,200円。病院:約1,400〜2,100円。
「ドイツ」薬局:約2,200円。病院で無料提供も!
日本では…?病院:約6,000〜2万円
international Consortium Emergency Contraception(ICEC):https://www.cecinfo.org/より(為替レート2021年2月19日時点で算出)
先進各国の緊急避妊薬の価格帯。日本は飛び抜けて高額だ。作成:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト

「緊急避妊薬を薬局で」。多くの人からの賛同が得られれば難しくないことのように思えるが、そのハードルは高い。

2017年に厚生労働省の検討会で緊急避妊薬の市販薬化が検討されたが「避妊薬等に関する使用者自身のリテラシーが低い」「悪用や濫用の懸念がある」などの理由から否決され、2021年5月現在、未だ議論は再開されていない。

産婦人科医の立場から活動に関わる遠見さんは、緊急避妊薬に対して誤解を抱いている医療従事者も少なくないと話す。

「世界保健機関(WHO)の必須医薬品であり、ヘルスケア上ニーズが高く誰もが手に入れられる価格であるべき薬。安全性は高いにもかかわらず、副作用が強いとか、産婦人科医にしか処方できないとか、悪用させないように高額にすべきだといった意見があります」

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産婦人科医として、国際スタンダードな情報を発信していきたいと話す遠見さん

日本ではハードルが高い緊急避妊薬を国際スタンダードへ

現在、スウェーデンヨーテボリ大学大学院で公衆衛生学を学ぶ福田さんは、留学をきっかけに、海外諸国と日本とで性に関する社会状況が大きく違うことに衝撃を受け「#なんでないのプロジェクト」を立ち上げた。避妊法の選択肢と、性教育の不足を訴え、性についてきちんと考えようと呼びかける活動を行っている。

「スウェーデンでは、性教育は重要な義務教育の一つで、21歳以下であれば避妊具は無料、私の住む自治体では25歳以下ならピルも低価格で提供されますし、緊急避妊薬は薬局で購入することができます。また、15歳~23歳までの若者を対象にしたユースクリニックでは、性に関する相談やカウンセリングなどを行っています。若者をサポートする体制に、あまりにも日本と差があると思いませんか?」

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留学先のスウェーデンからオンラインで取材に応じてくれた福田さん

染矢さんらは、2020年11月に緊急避妊薬へのアクセス改善を求める10万筆を超える署名と要望書を厚生労働省に提出し、大きな反響を呼んだ。

さらに今年3月からは、署名活動と並行して、緊急避妊薬や性の健康についての正しい知識を提供・発信するためのクラウドファンディング「#緊急避妊薬(アフターピル)の知識をすべての人へ!」(別ウインドウで開く)を立ち上げた。集められた署名は11万人以上、クラウドファンディングの支援者は900人近くに及んだ。

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緊急避妊薬のアクセス改善を求める要望書及び署名を提出した時の様子。橋本聖子前内閣府特命担当大臣(男女共同参画担当 ※写真右から3人目)を挟んで、染矢さん(左)と遠見さん。写真提供:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト

プロジェクトには産婦人科医をはじめ医療従事者や著名人からの応援メッセージに加え、当事者からも多くの声が寄せられている。「緊急避妊薬は時間制限があり、いつでも手に入らないと時期を逃して使えなくなるものだから、薬局などで購入できれば助かる人はたくさんいると思います」「受診のハードルが高い。もし学生の頃に緊急避妊薬が必要な事態になっていたら、誰にも相談できず、病院にも行けずに諦めていたかもしれない」などの切実な声が、共感を呼んでいる。

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学生の頃、お正月三ヶ日にコンドームでの避妊に失敗し、病院を探すのに苦労したため。手軽に手に入れられると安心できます(20代女性)。
学生時代、交際していない相手との合意のない性行為があり、心身が傷つき、10年以上PTSDの治療をしています。コンドームが脱落しており妊娠の可能性がある状態でした。一人でインターネットを調べてアフターピルの存在を知り、慌てて婦人科で経緯を話し処方してもらいました。幸い、平日の午前中に受診できたため服用できましたが、土日や夜間、または実家のある田舎では、一人でアクセスするのが困難だったと思います。また、1万5千円もの価格は学生にとって大変な高額でした。ドラッグストアで千円台で買えるようになることを望みます(30代女性)。
受診のハードルが高い。もし学生の頃に緊急避妊薬が必要な事態になっていたら、誰にも相談できず、病院にも行けずに諦めていたかもしれない(20代女性)。
「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の公式サイトに掲載された当事者から届いた声(別ウィンドウで開く)の一部

クラウドファンディングで集まった資金をもとに、当事者やその周囲、実際に薬を処方する医師、調剤する薬剤師などの提供者、また、学校の先生などへの啓発ツールの開発や情報提供活動のために使いたいと話す遠見さん。

「若者には知識不足だという声がありますが、正しくは『知らされてこなかった』んです。性の健康に関する分野で日本は世界から大きく遅れていますが、緊急避妊薬の市販薬化は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利※)関連の遅れに関する突破口になると思っています」

  • ※自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められている「セクシュアル・ヘルス」。妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられるリプロダクティブ・ヘルス」。セクシュアリティ「性」を、自分で決められる権利「セクシュアル・ライツ」。産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利「リプロダクティブ ・ライツ」。それら4つの言葉の組み合わせで作られた権利のこと。参考:公益財団法人ジョイセフの公式サイト(別ウィンドウで開く)

性別を問わず、全ての人が当事者になり得る

こういった革新的な取り組みがある中でも、「そもそも性行為をしなければ緊急避妊薬は不要」「少子高齢化社会において避妊薬を認可する必要はない」「性暴力対象者だけに対象を絞るべきではないか」など、いまだに保守的・否定的な意見も少なくない。

2020年12月に内閣府が発表した「第5次男女共同参画基本計画」(別ウィンドウで開く)にようやく緊急避妊薬を薬局で提供する検討について触れられたが、転売を防ぐための条件の例として薬剤師の目の前での服用が記されている。

「妊娠をするのは女性ですが、それに至るまでには必ず男性が関わっています。どんなに気を付けていたとしても、誰もが当事者になり得るんです。意図しない妊娠は児童虐待などにつながることもあります」と遠見さんが言うと、染矢さんも「性暴力を打ち明けた人にしかアクセスさせないとか、必死な思いで買いに来た相手に対して、目の前で服用することを強制することは、人権に反することではないでしょうか」と問いかける。

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写真右から、オンラインで取材に参加した遠見さん、福田さんと意見を交わす染矢さん

いま、私たちにできることは?という問いに対して、染矢さんはこんなアドバイスをしてくれた。

「いま、緊急避妊薬が必要になったとして、いつ、どこで、どれくらいの価格で買うことができるかシミュレーションしてみてください。その中で情報が足りない、高い、学校や仕事がある時間しか病院がやっていないなど、何か感じることがあるのではないでしょうか。自分も当事者になり得ると考えた上で調べてみると、自分の問題として捉えるきっかけになるのではと思います」

福田さんも「日本では緊急避妊薬が必要になる=悪いことと思いがちですが、本来は心と体を守る当たり前の権利として認められているものです。そう認識することで、自分自身が使わないとしても、身近な人が苦しんでいるときに支えてあげられるのではないでしょうか」と語る。

遠見さんは「これからを生きる世代の人たちが、絶望しない社会に変えなくてはいけないと思っています。共感していただけたらぜひ、『#緊急避妊薬を薬局で』を付けてSNSで発信したり、署名に参加していただけたりするだけでも励みになります。男性にも、健康と権利という視点で一緒に考えてもらえたら」と言葉に熱を込める。

もしも自分が、あるいは家族や友人など大切な人が、いますぐ緊急避妊薬が必要な状況になったら、あなたはどうするだろう。

若者だけでなく、大人も緊急避妊薬について正しい知識を持つと同時に、改めて世界水準の性教育を受ける必要があるのではないかと感じる。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

染矢明日香(そめや・あすか)

NPO法人ピルコン理事長。自身の経験をきっかけに、慶應義塾大学在学中にピルコンを設立。民間企業のマーケティング職を経て、2013年にピルコンをNPO法人化・ 現職。中高生や若者、保護者・支援者向けに包括的な性教育として「性の健康・リレーションシップ教育」の講演やイベント、動画などを活用した啓発活動の他、専門家との連携のもと性教育教材の作成を手掛ける。
NPO法人ピルコン 公式サイト(別ウィンドウで開く)

遠見才希子(えんみ・さきこ)

産婦人科専門医、筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野博士課程。2005年、医大生の頃から中学校や高校で性教育活動を行い全国700校以上で講演。書籍「ひとりじゃない」(ディスカヴァー21)、DVD教材「自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ」(一般社団法人 日本家族計画協会)。2011年、聖マリアンナ医科大学卒業後、亀田総合病院、湘南藤沢徳洲会病院などで勤務。
産婦人科医 遠見才希子のホームページ(別ウィンドウで開く)
公式ブログ えんみちゃんの性教育(別ウィンドウで開く)

福田和子(ふくだ・かずこ)

#なんでないのプロジェクト 代表、スウェーデンヨーテボリ大学大学院公衆衛生学修士課程。She Decides SRHRアクティビスト世界の25人、 Women Deliver Young Leader 2020選出。スウェーデンへの留学をきっかけに、日本の性と健康をめぐる環境があまりに整っていないことに問題意識を持ち、「#なんでないの プロジェクト」を開始。性で傷つくのではなく、人生豊かになる社会を目指して、執筆や講演活動などを行う。
#なんでないのプロジェクト 公式サイト(別ウィンドウで開く)

連載【10代の性と妊娠】