日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

【障害とビジネスの新しい関係】イベントやコンテンツを通して社会の「バリア」を取り除く。朝日新聞社が担う報道機関としての役割

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2019年秋に開催された朝日新聞社が実行委員会の一社として主催する「ジャパンウォーク in TOKYO」の様子。写真手前から、参加者と触れ合う、パラリンピアンの石原正治(いしはら・まさはる)さん、根木慎志(ねぎ・しんじ)さん、田口亜希(たぐち・あき)さん、河合純一(かわい・じゅんいち)さん。写真提供:ジャパンウォーク2019実行委員会
この記事のPOINT!
  • 障害のある人もない人も触れ合いながら過ごす時間や空間が、多様性を広める
  • 「情報」のバリアフリー化はメディアの使命。誰もが接しやすいコンテンツづくりに注力
  • 社内の仕組みをユニバーサルデザイン化し、多様な人が共に働ける企業を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※1)の面々。今回は、前回(外部リンク)に続いて、業界に先駆けてダイバーシティ&インクルージョン(※2)を推進してきた朝日新聞社(外部リンク)の取り組みを紹介する。

  • 1.特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団
  • 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり

新聞やデジタルメディアにおけるデザイン、主催イベント等を通して、社会全体に多様性を広げる活動に力を注いできた朝日新聞社。常務執行役員で編集担当の角田克(つのだ・かつ)さん、編集局デザイン部長の田邉貞宏(たなべ・さだひろ)さん、人事部の大川恵里奈(おおかわ・えりな)さん、オリンピック パラリンピック・スポーツ事業部所属の飛松風里(とびまつ・かざり)さん、同事業部所属で、パラノルディックスキー選手でもある森宏明(もり・ひろあき)さんにお話を伺った。

※肩書は2021年6月時点
※本記事には、後日手話動画を追加される予定です

イベントを通じて「障害」を身近に感じてもらう

山田:日本財団ワーキンググループの山田悠平(やまだ・ゆうへい)です。まず、多様性を広げる主催イベント「ジャパンウォーク」(外部リンク)について教えていただけますか。

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「ジャパンウォーク」の立ち上げ時に事務局を担当した、オリンピック パラリンピック・スポーツ事業部の飛松さん

飛松さん:オリンピック パラリンピック・スポーツ事業部では、東京2020オリンピック・パラリンピック応援イベント「ジャパンウォーク」を、2016年より春、夏、秋の年2〜3回にわたって、東京2020パートナー企業の数社と一緒に開催してきました。残念ながら2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により中止になってしまったのですが、これは「障害のある人もない人も一緒に歩こう!」というウォーキング大会で、オリンピアン、パラリンピアンの方も多数参加されます。みんなで一緒になって街を歩いたり、パラスポーツを楽しんだり、コミュニケーションを交わすことで「こんな障害があるんだ」「こういう時に困るんだ」という「障害」に対する理解を深めるきっかけになればという思いからスタートしました。

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2019年秋に開催された「ジャパンウォーク in TOKYO」より。新国立競技場の前で参加者たちと触れ合うパラリンピアンの瀬立(せりゅう)モニカさん(写真手前)。写真提供:ジャパンウォーク2019実行委員会
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2019年夏に開催された「ジャパンウォーク in FUKUSHIMA」より。会場では、「障害」を実体験できるイベントなども開催。写真提供:ジャパンウォーク2019実行委員会

山田:イベントにはどれくらいの方が参加されたんですか。

飛松さん:2019年の秋に開催した「ジャパンウォーク in TOKYO」の参加者は約5,000人になります。パラリンピアンの方も子どもたちと一緒にコースを歩いたり、言葉を交わしたり、皆さん本当に楽しそうでした。

バリアフリー(※)は、障害のある人もない人も、同じ空間で過ごすことで自然に広がっていくと思うんです。それも、強制的にではなく、純粋に楽しんでいただきながら触れ合いの場を提供することが、何よりも重要なことだと考えています。

  • 障害者や高齢者などが社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための取り組み

山田:普段過ごしていると関わり合う機会が少ない障害のある人、ない人。互いの理解を深め合う上で、一緒に楽しく過ごす場を設けるということは、とても大切なことですね。

「情報」のバリアフリー化で、誰もが接しやすいコンテンツに

山田:ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組みで、その他に注力されていることはありますか。

田邉さん: 「情報」のバリアフリーです。デザイン部では入社した際に、さまざまな障害のある方への配慮、特に「見え方」について学びます。それでも、体験したことがないと想像しきれないですよね。一例ではありますが、色覚に特性がある方の見えづらさが体験できる眼鏡型フィルターをかけて、実際に体感し、想像しながら、どうすれば全ての人にとって見やすい紙面になるか熟考を重ねています。

どんな人にも情報を確実に届ける上では、色を頼りにしないことも重要です。例えば、色分けが必要な場合、あえて同系色でデザインして濃淡で表現したり、折れ線グラフなどの場合は、絡み合う線を区別できるように太さや線の種類でも差をつけたりといった工夫をします。また、色使いを抑える工夫もしています。例えば朝日新聞デジタルのキーカラーは赤ですが、赤は強い色なので、使い過ぎるとどこを強調したいのか分かりにくくなります。余計な装飾を控えて、伝えたい見出しやビジュアルが引き立つようにシンプルなデザインにしています。

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色覚に特性がある人の見えづらさを体験できる眼鏡型フィルターをかけるデザイン部の田邉さん

手に取りたくなるようなデザインの質を保ちつつ、さまざまな障害のある人を含めて、あらゆる人に分かりやすく伝えることを心掛けています。

井筒:日本財団ワーキンググループの井筒節(いづつ・たかし)です。障害に限らず、いろんな違いを当たり前のこととして受け入れながらも、素敵なデザインに仕上げているのが本当に素晴らしいですね。

田邉さん:それでも「見えづらい」と読者の方からご意見をいただくこともあります。日々、改善の繰り返しですが、全ての人に優しく、見やすくて読みやすいコンテンツを目指して取り組んでいます。

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誰にとっても優しいコンテンツづくりについて語る角田さん(写真右)と田邉さん

山田:まさにユニバーサルデザインですね。

角田さん:私はユニバーサルデザインとは単にモノのことだけでなく、制度そのものをユニバーサルデザイン化することが大事だと思っているんです。新聞社には記者たちが書いた記事を精査する「デスク」という役職があります。以前は記者やデスクは深夜まで働くのが当たり前でしたが、そうなると障害のある方だけでなく子育て中などさまざまな事情のある従業員が活躍できない。また、従来のように記者がデスクを経てさまざまな役職に就くという仕組みでは、幹部にもなりにくい。メディアを通して日本をより良い社会にしていく立場としてこれではいけないと、2021年5月から本格的にワークフローの改革を始めました。

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朝日新聞社のデザイン部は、タイポグラフィやインフォグラフィックスを駆使し、情報を分かりやすくかつ魅力的に展開してきた姿勢を評価され、2020年3月に報道機関として初めて佐藤敬之輔賞(※)を受賞
  • 文字を使った表現にかかわるデザイナーや研究者らでつくる団体「日本タイポグラフィ協会」が設けた、タイポグラフィの活動に貢献した個人と企業に贈られる賞

山田:なるほど。とても興味深いのですが、具体的にどのような改革を行われているのでしょう。

角田さん:これまで夕方から動き始めていた新聞づくりの流れを大幅に前倒しし、午前中から動き出して19時頃には仕上げるようにしています。新聞という紙媒体と、朝日新聞デジタル(外部リンク)というウェブ媒体の役割を使い分けながら情報の発信に取り組んでいます。まだ始めたばかりですが、この働き方が定着すれば、障害のある方やさまざまな事情のある方にも平等にチャンスができるのではないでしょうか。

デジタル化、技術革新が多様性社会の推進の鍵に

井筒:仕組みを変えることができた理由には、デジタル化が進んだことも関係があるのでしょうか。

角田さん:大いにあります。毎朝、自宅に届く紙の新聞と違って、デジタルはよく見られる時間帯に波があるんですね。より広く情報を届けるためには、世の中の人の動きや流れに合わせた情報発信を心掛けなければいけません。そういう意味では、新聞社にとって紙だけでなくデジタルメディアも今や非常に重要なツールと言えるでしょう。

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朝日新聞社の働き方について質問をする、日本財団ワーキンググループの山田さん(写真左)、井筒さん

田邉さん:それに、以前は局員が一つの場所に集まり話し合って……というやり方が主流でしたが、現在はコミュニケーションツールが発達して、チャットやリモート操作もできるようになりました。これによって、多様な背景を持たれた方が新聞社の仕事に参加できるケースも増えていくんじゃないかなと考えています。

角田さん:そう考えると、情報のデジタル化や技術革新は障害のある方の社会参加を推し進める、最大の推進力かもしれませんね。

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朝日新聞社におけるダイバーシティ&インクルージョンを中心になって推し進める角田さん

山田:以前は聴覚障害者であればコミュニケーションツールは手話か筆談が主流でしたが、いまは音声を文字化するアプリができるなど、便利になりましたよね。

田邉さん:まだこれからという段階ではありますが、デジタルのバリアフリーにも積極的に取り組んでいます。2020年から朝日新聞社のポッドキャスト(外部リンク)が始まり、コンテンツが活字に加えて音声や動画にも広がっています。デザイン部は動画のテロップ作成にも関わっており、ひと目で説明か、セリフか、ナレーションか、違いが分かるように工夫しています。今後はイベント開催時もリアルタイムでテロップが表示できるようになり、どんどん進化していくと思います。

大川さん:森はパラアスリートとして仕事と競技活動の両立を目指しています。仕事をしっかりやりながら競技活動を続けられるよう、職場と私たち管理部門が連携して森をサポートしています。

山田:周りの方々の理解やサポート体制が整っているんですね。ちなみに森さんは、社内の障害のある方々とのつながりはありますか。

森さん:はい。同期入社した社員の中にも、全盲や聴覚障害などいろんな障害のある人がいます。とても個性が強い同僚ばかりで、新人研修ではそれぞれの視点から面白いアイデアがたくさん出ました。これこそが多様性だ!と強く感じました。

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写真左から、パラアスリートでもある森さんと、同じ部署で働く飛松さん

大川さん:新入社員は数カ月間の研修を経て各部門へ配属され、研修中は毎日一緒に過ごすことになるため、森たちの世代にとっては、障害のある人が隣にいることがとても自然なことなのです。彼らが研修を終えて、配属された職場に障害がある先輩がいれば、自然とサポートできる社員になっていると思います。社会人になって早々にこうした経験をすることで、これから先もいろんな場面で柔軟に対応できるのだろうなと思っています。

山田:森さんたちは、これからの朝日新聞社のダイバーシティ&インクルージョンを引っ張っていく、重要な世代でもあるんですね。今日は大変参考になりました。ありがとうございました。

撮影:十河英三郎

特集【障害とビジネスの新しい関係】