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障害者雇用は義務ではなく「投資」。障害者の採用や定着、活躍に必要な視点
- 法定雇用率を達成するための数合わせの採用では、障害者雇用は定着しづらい
- 企業側は「どんな仕事を担ってもらうか」を明確にしてから採用することが重要
- 障害者雇用は義務ではなく「投資」。個々の特性に合わせ、社内の仕組み等ソフト面のアップデートが必要
取材:日本財団ジャーナル編集部
現在、日本における障害者雇用は過渡期を迎えている。
厚生労働省が発表した「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の障害者雇用数は57万8,292人(対前年 3.2パーセント増加)、実雇用率は2.15パーセント(対前年比 0.04 ポイント上昇)となり、過去最高を更新した。
2021年3月に法定雇用率が2.2パーセントから2.3パーセントに引き上げられ、今後その数はますます増加することが予測される。
一方で厚生労働省「障害者雇用の現状等」によると、身体障害のある人の1年経過時点での職場定着率は6割程度、精神障害のある人の職場定着率は5割を切っている。
図表:一般企業に就職した障害者における障害別の職場定着率の推移
パーソルチャレンジ株式会社(外部リンク)では、「障害者雇用を、成功させる。」をミッションに、就職・転職を希望する障害者を対象とする就労支援サービスや、企業に向けたコンサルティングなど、さまざまな視点から障害者雇用の課題解決に取り組んでいる。
今回は、コーポレート本部・経営企画部ゼネラルマネジャーの大濱徹(おおはま・あきら)さん、人材ソリューション本部・キャリア支援事業部ゼネラルマネジャーの木田正輝(きだ・まさき)さん、人材紹介事業部・インサイドセールスグループマネジャーの戸田幸裕(とだ・ゆきひろ)さんに、障害者雇用を巡る課題について、障害者側、企業側の2つの視点から話を伺った。
改善しつつある障害者雇用を取り巻く環境
パーソルチャレンジは、人材派遣やアウトソーシングをはじめ、総合人材サービスを行うパーソルグループの特例子会社(※)だ。
- ※ 障害者の雇用促進、雇用の安定を図るために企業や企業グループ内に設立される子会社
障害者雇用支援事業は、もとはグループ内の各社で個人・法人向け事業を個々に展開していたが、点と点での支援に留まることや、支援範囲が限定されてしまうという課題があった。
そこで、「ただ人と企業とをマッチングするだけではなく、一気通貫でご支援することにより、障害者雇用の成功を目指したい」という観点から統合した。
自社やグループ内で障害者雇用を進めるだけでなく、障害者を対象とした転職・就職支援を行う「doda(デューダ)チャレンジ」、一般就労を目指す障害者をサポートする就労移行支援事業「ミラトレ」、先端IT技術に特化した新たな就労移行支援事業「Neuro Dive(ニューロ ダイブ)」などの個人向けサービスに加え、障害者の人材紹介や、特例子会社設立支援、定着支援コンサルティングなど法人向けサービスを展開。障害のある人が働く上で必要となる就業スキルの習得、就職や転職、採用後の定着までを支援している。
「パーソルチャレンジの特徴は、障害者雇用に特化した人材サービスを提供している点と、グループ内のBPO(※)的な役割を担っている点にあります。弊社ではさまざまな障害のある社員が働いていますが、障害種別にかかわらず、それぞれの特性や能力に適した現場で仕事をしています。グループ企業の経理部門、dodaに掲載される求人広告の原稿制作、人材派遣サービス『テンプスタッフ』の登録派遣スタッフさんの契約管理など、事業の生命線ともいうべき仕事を担っているのです」と大濱さん。
- ※ 企業の業務プロセスの一部を請け負う外部の企業
大濱さんは、日本における障害者雇用制度の歴史について教えてくれた。
「もともとは戦争で負傷した傷痍軍人(※1)、つまり身体に障害のある人を社会で受け入れる社会制度として始動したのが日本における障害者雇用の始まりでした。1960年に制定された障害者雇用促進法(※2)では、障害者雇用が企業へ努力義務として導入され、1976年には義務化されました。雇用率未達成の企業については雇用納付金制度(※3)が設けられています。その後も法制度は何度も見直され、法定雇用率が引き上げられたことで仕事を得る障害者の方は増えていますが、正直なところ、日本の障害者雇用は、法で定められているから、義務だからという理由で成長してきたという背景があります」
- ※ 1.戦闘やその他の公務のために傷を負った軍人
- ※ 2.1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定され、1987年に「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)と改称
- ※ 3.法定雇用率が未達成の企業から納付金を徴収し、そのお金を主たる財源として、法定雇用率を達成している企業に調整金や報奨金、助成金を支給する仕組み
しかし、障害者雇用を取り巻く環境はここ数年で大きな変化を遂げた。
転機となったのは、2018年より障害者雇用義務の対象に精神障害者が加えられたこと。さらに、ダイバーシティ&インクルージョン(以降、D&I※)の取り組みが日本に浸透し始めたことで、障害者雇用に対する価値観も変わりつつある。
- ※ 人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり
「義務」から「共に働く仲間」としての採用へ
障害者雇用に対する環境の変化は、2020年から続く新型コロナウイルスによる影響も大きいという。
「2016年に障害者雇用促進法に『合理的配慮※』が組み込まれたことで、企業側は一人ひとりに合わせて、どんな風に働いて活躍してもらうか、発想を変える必要が出てきました。さらにコロナ禍が追い風となって、障害のある方々と共に働きながら、生産性を上げるためにどうするべきか、いろんな企業で仕組みを見直す動きが出てきています」
- ※ 障害の有無にかかわらず、誰もが平等に権利を享受しできるよう、個人の特徴や状況に応じた調整を行うこと
障害のある当事者からも「在宅勤務とオフィス勤務の併用」や、「家庭との両立」など柔軟な働き方を希望する声が増えており、今後もさらに障害者雇用を取り巻く環境は改善すると期待される。
「共に働く」ことで見えた課題解決の鍵
dodaチャレンジを活用して転職・就職に成功した人は年間1,000人以上を超える。転職を希望する理由は「障害や特性に対する理解や配慮がされない」「周囲から評価されない」「スキルアップの機会が得られない」「仕事の意義が見つけられない」などさまざまだ。
図表:障害者のはたらく幸せに関する調査「幸せを感じられない時」
木田さんをはじめ、キャリアアドバイザーが丁寧にカウンセリングを行い、個々の特性や能力を理解した上で転職・就職先の提案を行っている。
「本来、私たちの仕事は、障害の有無や内容にかかわらず、個人の方のご経験やスキルを確認し、それらをもっと活かせる職場をご紹介することです。ただし、障害者採用においては採用する側にも障害について理解していただく必要がありますから、ときには面接に同行したり、ご自身でうまく説明ができない場合は、その方の障害について分かりやすくまとめた資料をお渡ししたりということもあります」
木田さんが大切にしているのは、企業に対して一石を投じるような採用支援をすることだという。企業が求職者の障害について正しく理解し、納得した上で採用し活躍させることが企業を変え、ひいては社会の仕組みまでも変えるきっかけになり、次の雇用にもつながる。 この連鎖を生み出していきたいと語るが、「実は、私自身もたくさん失敗してきたんです」と苦笑する
「以前はパーソルキャリアの前身となるインテリジェンスの特例子会社、インテリジェンス・ベネフィクスで採用担当をしていたのですが、恥ずかしながら、その頃のインテリジェンスは障害のある方が活躍できる場所も仕事も十分ではありませんでした。とにかく法定雇用率を達成するためにどんどん採用し、その後で仕事をつくる…。これではうまくいくはずがなく、収拾がつかなくなってしまったんです」
多くの失敗も重ねましたが、「人材サービスの会社である私たち自身が多様な方々と働くことで、初めて他社の障害者雇用のお手伝いができる」という思いを大切に、自身が障害のある社員と共に働いてきた経験が、結果として、人材紹介事業において、求職者にも、企業に対しても、より細やかな提案ができることにつながったという。
「何をしてもらうか」目的を持って採用する
一方、企業側もさまざまな課題を抱えている。法人向け人材紹介やコンサルティングを担当する戸田さんによると、採用後に「期待していたほど活躍してもらえない」「組織に貢献してもらえない」などの相談が増加しているという。
「これまでの経緯や採用の目的を伺ってみると、やはり数合わせで採用をした場合はうまくいかないことが多いですね。特に中小企業にその傾向が見られます。中小企業は大企業と違って障害者採用やダイバーシティの専門担当者がいることは極めて稀で、経験や知見が豊富な方が少ない場合も珍しくありません。採用を拡大したいという思いはあっても、社内で新しい仕事を創出できない、一人でいくつもの役割を担っているため十分に時間やエネルギーが使えないなど、煮詰まりを感じている企業や、孤軍奮闘する人事担当の方が増えているように思います」
また、内部疾患や精神障害など外見からは障害があるか分かりにくい場合や、相手の心情や状況をくみ取ることが難しいなど、コミュニケーションが苦手な障害のある当事者の場合、企業側が面談時にうまく対応できないケースもある。
「企業の方からどんな風に面談したらいいかとご相談を受けることもありますが、そんなときは実際に一緒に働きながら、その方のスキルを見てもらうのが一番早いんです」と木田さん。
「障害者だから」ではなく、一人の人材として「どんな仕事を担ってもらうか」が明確でなければ、雇用はうまくいかないと言う。企業側には画一的な視点ではなく、柔軟に障害者雇用に取り組む姿勢が求められている。
「最近ではD&Iの推進が企業の成長につながると体感している人が増え、ESG投資(※)も盛んになっています。つまり、企業側は、障害者雇用は義務ではなく“投資”であると視点を変えなくてはなりません。精神や発達障害のある求職者が多いことを理解した上で、一人ひとりの特性に合わせた働き方を考え、企業としても成果を出すためには、社内の仕組みや考え方といったソフト面のアップデートが必要だと思います」と大濱さんは語る。
- ※ 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業への投資活動
「『障害』を前提にした雇用の在り方を変えたい」と木田さんも言葉に熱を込める。
「パーソルチャレンジは特例子会社というよりも、BPO会社ではないかと言われることもありますが、逆に言えば、弊社のように企業を支える業務を担っている特例子会社が少ないんです。私たちは一人ひとりを『〇〇障害がある人』と見るのではなく、その方の経験やスキルを活かしたお仕事をしていただいています。私たちも障害者雇用に成功しているとはまだまだ言い切れません。これからも、障害のある個人の皆さまに寄り添い、障害者雇用に取り組む企業の皆さまと伴走しながら、『障害者雇用を、成功させる。』というミッションの実現に向けて、邁進していきたいと思っています」
最後に大濱さんはこうも語った。
「障害のある当事者の方も、一人の職業人として働く覚悟を持たなくてはなりません。『自分は採用される人材である』という感覚を持ち、選ばれるための努力が必要なんです」
dodaチャレンジを活用して転職・就職を実現した事例が掲載されている転職成功ストーリーの中にこんな言葉を見つけた。
「入社するときの入り口が違うだけ、職場で違いはありません。」
企業も障害のある人も、「できない」ことではなく「できること」に目を向けて歩み寄れば、両想いになれる雇用が増えていくのではないだろうか。
撮影:十河英三郎
パーソルチャレンジ株式会社 コーポレートサイト(外部リンク)
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