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ADHDの夫が語る。障害を受け入れて得た信頼とパートナー
- ADHD(※)が原因で20回以上転職。人に気付かれにくい障害のためトラブルに発展しやすい
- 同じ発達障害者の妻が薦めてくれた訪問介護士が、今の仕事。理由は「一人でできる」から
- 障害があるから、自分の得意と苦手を理解し生きやすくなった。今では障害に感謝している
- ※ 発達年齢に比べて落ち着きがない、待てない、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性がある発達障害の1つ
執筆:日本財団ジャーナル編集部
西出光(にしで・ひかる)さんは発達障害であるADHDの当事者だ。
発達障害は脳機能の発達が関係する障害で、障害の程度や年齢、生活環境などによっても症状はさまざま。他人とのコミュニケーションや対人関係を築くのが苦手な傾向にあり、その行動や態度は「自分勝手」「変わった人」「困った人」などと誤解されやすい。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、本人が生きづらさを感じたりすることがある。
光さんはADHDが原因で、過去に20回以上も転職を繰り返してきたが、今の訪問介護士の仕事は3年以上続いている。薦めてくれたのは、同じ発達障害の1つアスペルガー症候群(※)の妻・西出弥加(にしで・さやか)(別タブで開く)さんだという。
- ※ 社会性・コミュニケーション・想像力・共感性・イメージすることに困難を抱え、こだわりの強さ、感覚の過敏などを特徴とする、知能や言語の遅れがない障害。自閉スペクトラム症
今では障害に感謝をし「それぞれに『生きやすい場所』はある」と、その理由と夫婦の関係性について話を聞かせてくれた。
※この記事は、日本財団公式YouTubeチャンネル「ONEDAYs」の動画「【発達障害の夫婦②】介護士の夫に1日密着してみた | ADHD」(外部リンク)を編集したものです
ADHDは「気付かれにくい」からトラブルに発展しやすい
光さんはADHDの生きづらさについて、自身の経験をもとに話す。
「ADHDは不注意が多いんです。物忘れが激しくて、気が付いたら電車のICカードを20枚くらい買っていました。仕事だと入力間違いが非常に多かったり、大切な書類をシュレッダーにかけてしまったり……」
日常生活において、ADHDという障害は他者に気付かれにくいと話す。光さんはそれが原因で、転々と職場を変えざるを得なかった。
「短い時間であれば、特に問題なくコミュニケーションはできるんですよ。でも、作業はうまくできません。説明を聞いて、頭では理解しているはずなのに、なぜかできないんです。そういう状態が続くと、同僚や上司からは『やる気がない』とか『この人は私のことが嫌いなのかな?』って思われてしまいますよね。『会話はできる』というだけに障害だと気付かれずに、人間関係のトラブルに発展しやすいんです」
入社してわずか1時間で仕事を辞めるということもあったそうだ。
訪問介護士の仕事は周囲のサポートもあり、3年以上継続
光さんの現在の仕事は訪問介護士。利用者の自宅を訪問し、身体的な介護だけではなく、生活のサポートも行う。勤続3年を超えて今も続けられている。
「仕事は楽しくやっています。『1人でできる』ということが一番大きいですね。誰かと一緒に作業をするという時点で、頭が混乱してしまうんです。一人でできる仕事は他にもあるとは思うんですが、訪問介護が良いのは『指示待ち』でも問題がないから。利用者の方に何か言われたときに、言われた分だけお返しするのがこの仕事。利用者さんの手足の役割なんです」
同僚も光さんの障害を理解しており、サポート体制も万全だという。
例えば、同僚が作製したカレンダー型の薬入れ。利用者がいつ、どの薬を飲めばよいか一目で分かるようになっている。
「それでも利用者さんと外出するときに、薬を取り忘れることがあります。なので、職場の人が気を遣って、僕に薬の入ったジップロック(チャック付きポリ袋)を渡してくれます。カレンダーから取り忘れても、このジップロックがあるから大丈夫」
光さんの上司である加藤さんはこう話す。
「例えば『ドアが開いたままだった』とか、『物をあるべき場所に戻してない』とか、そういうミスって、光さんに限らず誰にでも起こり得えますよね。なので、何か足りない部分があったときは、『全員で補っていきましょう』と社員たちに伝えています。光さんにはそれ以上の仕事をしてもらっているので、頼りにしていますよ」
発達障害でも環境次第で実力を発揮ができる
仕事が終わり、光さんが帰宅すると、出迎えてくれたのは妻の弥加さん。3年前にSNSで出会い結婚した。弥加さんにも発達障害があり、アスペルガー症候群と診断されている。
光さんに訪問介護の仕事を薦めたのは弥加さん。その理由は、弥加さんの実体験にもとづくものだった。
「光と出会って、とにかく『光のことを知ろう』と観察していたら気付いたんです。1対1の会話ならスムーズにいくけど、相手が複数になるともうダメ。そこでふと思い出しんたんですけど、うちの叔母もADHDで、仕事を転々としていたんですよね。でも、訪問介護の仕事だけは10年以上続けられていたんです。なので、光くんに薦めました」
それから光さんは1カ月で訪問介護士の資格を取得、現在まで続く仕事となっている。
「弥加さんは命の恩人だと思っています。誰も助けてくれなかった僕に手を差し伸べてくれました。この恩は何があっても返していきたいなと思います」
そう語る光さん。最近、日々の生活の中で感じたことがあるという。
「障害があっても環境次第で楽に生きられるし、頑張れるというのを、同じく発達障害を抱えている方に伝えたいと思いました。障害であることと、実力を発揮できるということは、別の問題なんですよ。僕は障害がきっかけで、何が得意で何が苦手なのかを明確にできました。だから、今の仕事に出会えたんだと思っていて、そういう意味では障害に感謝しています」
光さんはこう続ける。
「複数人でまとまって動くということは、正直、今も5分とできないんですけど(笑)。そんな僕でも仕事ができていて、弥加さんがいます。きっとみんなに、それぞれの『生きやすい場所』があると思います」
自身の強みと弱みを自覚する。一見簡単なことのように思えるが、見栄やプライドが邪魔をして難しいものだ。自分に素直になり、相手を理解しようという気持ちを、一人一人が持てるようになれば、世の中はもっと生きやすくなるのかもしれない。
【発達障害の夫婦②】介護士の夫に1日密着してみた | ADHD」(動画:外部リンク)
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