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【避難民と多文化共生の壁】働き自立するための日本語の習得支援で後押しする、外国人が暮らしたい国づくり

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「外国人就労・定着支援研修」を行う一般財団法人日本国際協力センター(JICE)の長山さん(左)、川本さん(中央)、研修を受講するウクライナ避難民のカテリーナさん(右)
この記事のPOINT!
  • 避難の長期化により、ウクライナ避難民の一部は「自立」の段階に移行
  • 日本語と同時に文化や職場環境を学ぶことも、外国人就労にはプラスに働く
  • 少子高齢化社会で外国人材の力は不可欠。「暮らしたい」と思ってもらえる日本に

取材:日本財団ジャーナル編集部

ロシア連邦によるウクライナへの軍事侵攻が始まってから、間もなく10カ月が経とうとしている。

当初より予想されていた避難の長期化は実際のものとなり、ウクライナ避難民の中には「生活の安定」から「自立」のフェーズへと移行する人たちも出てきた。

しかし、そこで立ちはだかるのが「言葉の壁」。就労面ではもちろん、交通機関を利用して病院に行くなど、言語の違いがある中で今後暮らしの中で起こりうる多様なニーズにどう応えていくのか、という課題がある。

こういった定住外国人の日本語習得を支援しているのが、多文化共生事業・国際協力事業を手掛ける一般財団法人日本国際協力センター(JICE)(外部リンク)だ。

JICEが厚生労働省の委託を受けて提供する「外国人就労・定着支援研修」(外部リンク)事業では、身分に基づく在留資格(※)を持つ定住外国人がハローワークに登録をすることで、就労を目的とした3カ月間の日本語コミュニケーション講習を無料で受講することができる。就労の意思と必要性が認められる場合においては、身分に基づく在留資格以外の在留資格保有者にも門戸を開いており、現在(2022年11月時点)は約40名のウクライナ避難民を含む約2,500名が受講している。

  • 「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」及び「定住者」の在留資格を指す

今後もウクライナ避難民への支援を継続していく、というJICEの国際協力推進部の長山和夫(ながやま・かずお)さんと同部多文化共生課の川本裕士(かわもと・ゆうじ)さんに、外国人に対する日本語教育の意義や、ウクライナ避難民を通じて見えてくる言葉の習得と多文化共生の関係について話を聞いた。

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「働く」に特化した日本語学習で、外国人の就労を支援

1977年に設立されたJICEは、主にODA(政府開発援助)による開発途上国からの留学生受入支援事業や研修事業を通じ、国の発展を担う人材育成を支援してきた。現在は対象を全世界に広げ、国際プロジェクト・国際研修の実施支援や国際交流といった事業なども展開している。

定住外国人の日本語コミュニケーション能力向上を支援する「外国人就労・定着支援研修」事業が開始されたのは2009年。当初は「日系人就労準備研修事業」という名称で呼ばれていた。

長山さん(以下、敬称略):1990年代に入管法(出入国管理及び難民認定法※)が改正され、日本の労働者不足の解消を目指し、主にブラジルやペルーなど南米地域の日系人が定住者として入国できるようになりました。彼らの多くは自動車工場などに勤務していましたが、2008年のリーマンショックの影響で大量解雇が発生し大きな社会問題となったんです。そこで日系人の再就職対策として始まったのが「日系人就労準備研修事業」で、2015年に「外国人就労・定着支援研修」と名称変更され、いまに至っています。

  • 全ての日本人と外国人の出入国の管理および全ての外国人の在留の管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とした法律
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JICEの事業について説明する長山さん

現在は24都道府県・110都市で講習を実施。レベル1~3を各100時間、合計300時間の講習を終えると職場における基本的な日本語コミュニケーション能力が身につく、という内容になっている。受講に要する交通費を除けば、一切費用はかからない。

この研修の目的は外国人の安定就労であり、言葉の面で不利を強いられる優秀な外国人材の確保にある。

長山:受講者は無職の人が主ですが、1年以上の正社員契約がない人も対象としています。日本で働いている外国人は、安い賃金で短期契約を繰り返すケースがとても多いんです。そのループから抜け出すには日本語の習得がどうしても必要になる。受講者の国籍は非常に多様で2020年の実績では86カ国に及びました。現在は、多い順からブラジル、中国、ペルー、フィリピン、ベトナム。8番目にウクライナ、12番目にアフガニスタンが入っているのが、近年の避難民受け入れの影響だと思います。10代から70代まで受講実績はありますが、平均年齢は30代半ば。来日したばかりの人もいれば、20年日本に住んでいて初めて日本語を学ぶ人も。工場の仕事からキャリアアップを目指す人、国では大学院を出て日本のIT企業に就職を目指すという人、本当にさまざまです。

一般的な日本語学校では、専門学校や大学で日本語の授業を受けることを目指し、文法や文型を通じた総合学習で、日本語の理解を深める。しかし「外国人就労・定着支援研修」の最大の特徴は「日本で働く」ことに特化した学習内容であることだ。

長山:私たちが導入しているのは「課題達成型」という手法。例えば出勤時間に遅れてしまって、「遅刻の連絡を適切にする」という課題があったとします。実際にどういう展開があるのかを想定し、その会話の展開を通じて必要な日本語を学習します。具体的には、電話をかけ→上司に出てもらい→状況の報告をし→いつ到着するかを伝える、といったプロセスです。このとき同時に、職場習慣も学んでいただきます。遅刻を例に考えると、5分や10分は遅刻と見なさない国もあるので、「5分でも遅れるときは連絡する」「到着したらまず謝る」といった、日本の文化や考え方を学んでいくことも、外国人が正しい評価を受けて活躍する上で必要な知識である、と考えているからです。

また、カリキュラムの中には日本語学習だけではなく、キャリアプランニングの時間も設けている。

長山:日本語の習得状況によっては、母国でしていた仕事を日本でそのままできるとは限りません。職歴や学歴の棚卸しをしながら「自分ができること」と「やりたいこと」の区別を明確にし、求める将来像に向かっていくためにどういうステップを踏めばいいのかを一緒に考えます。

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JICEの「外国人就労・定着支援研修」では、職場見学なども実施。写真は2022年9月に、群馬県太田市の研修受講者が、群馬県でブラジル出身の社長が営むチーズ工房へ見学した時の様子。写真提供:一般財団法人日本国際協力センター
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チーズ工房で記念写真を取る受講者たち。写真提供:一般財団法人日本国際協力センター

意欲を持って学べるよう、避難民の置かれた背景にも目を向ける

講習に使用するJICE発行のテキスト「はたらくための日本語」は、ウクライナ避難民の受け入れ支援を行う団体からの要請を受けてロシア語版も作成し、実際に研修を実施したいと希望する自治体や交流団体など、150団体に無償で提供(※)を行った。

写真:レキストの表紙
日本語授業で使用されるテキスト。写真提供:一般財団法人日本国際協力センター

ここで、実際に研修を受講するウクライナ避難民の1人に話を聞いてみたい。ヴィエトロホン・カテリーナさんは19歳の大学生。2022年2月に母親と2人で来日し、現在はオンラインでウクライナの大学に通っている。先日「外国人就労・定着支援研修」のレベル1を終了し、現在レベル2を受講中だ。

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JICEの「外国人就労・定着支援研修」を受講中のカテリーナさん

――日本に避難を決めた時のいきさつをお聞かせください。

カテリーナさん(以下、敬称略):私はキエフ出身です。2月24日のロシア侵攻後、北部の街に避難したのですが、そこもロシア軍に占領されてしまいました。とても怖かったのですが、なんとか逃げ出してキエフに戻り、日本にいる友人と連絡を取ると「日本に避難するなら手伝うよ」と言ってもらいました。母は飛行機に初めて乗るのを怖がっていましたが、日本には友人もおり、他の国より安全だと感じて避難することを決意しました。

――現在はどのような生活を送っていますか?

カテリーナ:私は通訳志望なので、ウクライナの大学の授業をオンラインで受け、平日は毎日英語とスペイン語を学んでいます。母は日本の量販店で働き始めました。日本語は話せませんが、みんな親切なので困っていないと言っています。

――JICEの講習を受講したきっかけを教えてください。

カテリーナ:友人が「こんな講習があるよ」と紹介してくれました。来日するまでは「英語が話せるので海外でも大丈夫だろう」と思っていましたが、日本では想像していたよりも英語が通じませんでした。今後日本で働くことになり、英語が使える職場があったとしても、日本語が理解できたほうが良いはず、と思い受講することにしたんです。

――レベル1を終えて、日本語の習得にはどんな手応えを感じていますか。

カテリーナ:普段の生活にも役立つ丁寧な表現が分かるのがとてもいいですね。まだ日本語で会話ができるほどではないですが、日本人と話していても何となく会話の内容が分かるようになってきました。会話よりも難しいのは読み書きです。特に漢字が難しいですが、私の学んできた言語にはないものでもあるので覚えるのが面白いです。

――カテリーナさんのこれからの目標についてお聞かせください。

カテリーナ:通訳の仕事をしたいという夢は変わっていません。もし日本で通訳者になるとしたら、言語だけではなく文化やエチケットといった国民性の違いももっと勉強しなければと思っています。高校ではドイツ語、大学では英語、スペイン語と学んで来ましたが、いま日本語の勉強も始めてみてもっといろいろな言語を学びたくなりました。

日本に暮らす外国人の中でも、避難民はその背景が異なる。日本語を学ぶ上でも心理的なサポートが必要だ、と長山さんは話す。

長山:留学したい、就職したいと願って日本に来た外国人と比べると、避難民はもともと国を離れることを望んでいたわけではありません。カテリーナさんのように意欲を持って学んでくれる人もいますが、いつまで滞在できるか不透明である中で日本語を習得することに、困難を感じる人もいるのではないでしょうか。

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JICEの「外国人就労・定着支援研修」の特徴について話す川本さん

川本さん(以下、敬称略):同じ国籍の人で集まるコミュニティにいると、母国語で話せる環境が家庭でも仕事場でもあるので、せっかく学んだ日本語を忘れてしまって仕事に活かせないことがあるんです。そういった意味で、JICEはクラスに多様な国の人がいますから、休憩時間の共通言語も日本語が中心。また、「日本語を学んでいい仕事に就きたい」と願うクラスメイトに刺激を受け、意欲を保ちやすいという側面もあると思います。

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2022年6月に静岡県浜松市で行われたJICEの「外国人就労・定着支援研修」の日本語授業風景。さまざまな国から生徒が参加。写真提供:一般財団法人日本国際協力センター

日本人側も外国人が理解できる「やさしい日本語」を話す配慮を

避難民も含め、日本に暮らす外国人の就労を支える。このことについて時おり「困っている外国人を助けるため」という文脈で理解されることに、長山さん、川本さんは警鐘を鳴らす。

長山:農業や建設業だけでなく、さまざまな業界で、いまの日本は少子高齢化を背景とした労働力不足が始まっています。これからコンビニでも、ネット通販の配送でも、外国の人たちの力を借りないと社会が回らなくなるでしょう。そういった人たちに日本語を覚えてもらうのは、どちらかというと日本の都合です。「彼らのため」ではなく「私たちのため」に来てくれている、という認識も持たなければいけないように感じます。

川本:避難民の支援を行うのは当然ですが、日本で最も多い外国人は約120万人いる、いわゆる定住外国人(身分に基づく在留資格を持つ外国人)です。しかし、定住外国人が長年根づいている地域でも、日本語学習や就労支援施策が思うように進んでいないこともあります。定住外国人には就労制限がありませんから、彼らが日本語を話せるようになり、安定した仕事に就いて、その子どもたちまでも学業をしっかりと修めることができるようになれば、将来的に大きな労働力が生まれると考えられます。

長山:外国にルーツを持つ児童に対する就学支援・教育支援について、日本は大変遅れている国です。地域によっては全くと言っていいほど対策が取られていないところも。これから先、そのような国に子どもを連れて働きに来たいと思ってもらえるでしょうか?外国人の力がないと立ち行かなくなる社会を目前に、私たちは「日本は教育も充実しているし、ぜひ家族を連れて働きに行きたい。日本で暮らしたい」と思ってもらえる国になっていかなければ。

さまざまなルーツを持つ人たちが共に暮らす、多文化共生社会。その実現のために私たちができることについて、現場をよく知るお2人の意見を伺った。

川本:さまざまな自治体が「やさしい日本語」の普及に力を入れており、東京都でも最近プロサッカークラブと連携してユニークな啓発活動をされていました。自治体だけでなく、外国人を雇用する企業や日常生活で外国人が利用する施設などでも、この浸透に力を貸してくれると良いですね。外国人を雇用する側である企業の心理的なハードルとして「コミュニケーションを取れるのか」という懸念がよく見受けられます。このとき、外国人に日本語を学んでもらう一方で、日本人側も日本語が上手じゃない人たちとのコミュニケーションを諦めず、話し方や聞き方を意識してもらえば、業種業態にもよりますが日本語が流ちょうじゃなくてもできる仕事はたくさんあるはずです。例えば、外国人に「明日のシフトは何時が希望なのか聞きたいんだけど、分かる?」と聞いてしまうと通じないかもしれませんが「明日は何時に来ますか?」という表現なら通じやすいでしょう。

長山:「郷に入っては郷に従え」ということわざは日本人に染みついている言葉の1つですが、外国人と接する上ではそれを一旦忘れてみることも必要です。というのも習慣や宗教が異なる中で、私たちの当たり前は決して彼らの当たり前ではないからです。特に「自分の当たり前を押しつけない」「違うからといって排除しない」という2点は誰でもすぐに取り組めることではないでしょうか。日本のことを知ってもらい、習慣に慣れてもらうのも非常に大切ですが、同じように相手のことを知ろうとしてみてほしいですね。

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外国人にとって暮らしたい国づくりのヒントを教えてくれた長山さん(左)と川本さん

長山さん、川本さんが話すように、これからの日本のためには外国人の力が必要だ。ただ彼らは決して労働力ではなく、同じ社会を構成する仲間だということを心に留めておいていただきたい。学校や店舗などいろいろな場所に外国人との接点がある。ぜひ相手のことを理解することから始めてみてほしい。

撮影:永西永実

一般財団法人日本国際協力センター 公式サイト(外部リンク)

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