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なぜ日本のまちからごみ箱が消えた? IoTを活用したごみ箱「SmaGO」の広がりに期待

- 日本のまちからごみ箱が消え、ポイ捨てが増加。公共のごみ箱がないのは世界的に見てもまれなこと
- スマートごみ箱「SmaGO」はIoT(※)の活用により、運用コストを約3分の1に削減できる
- ごみ箱はまちにとって必要なインフラ。不便の声をしっかりと行政に届ける努力が必要
- ※ 「IoT(Internet of Things)」とは「モノのインターネット」を意味し、家電製品・車・建物など、さまざまな「モノ」をインターネットとつなぐ技術。参考:IoTとは?基本的な仕組みや活用事例を紹介 | NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま(外部リンク)
取材:日本財団ジャーナル編集部
駅の中、公園、コンビニなど、長らく日本各地のまちの中から、ごみ箱が減少傾向にありました。
その理由として1995年にオウム真理教が行った地下鉄サリン事件による影響がよく指摘されますが、同年に起きた青酸ガス事件、2004年に起きたマドリード列車爆破テロ、コロナウィルスによる影響など諸説(※)あります。
まちからごみ箱が減ったことで、ポイ捨てされるごみが増えたり、ごみ箱からごみが溢れたりするなどの問題も起きています。一方で、まちに公共のごみ箱を設置したり、ごみを回収したりするのには多額の費用がかかります。
そんな問題をテクノロジーで解消しようとしているのがIoT技術を活用したスマートごみ箱「SmaGO(スマゴ)」(外部リンク)。その特徴は、太陽光で発電し蓄電を行い、ごみがたまると自動で圧縮。ごみの蓄積状況がオンラインで分かり、回収のタイミングを通知するだけでなく、分析も行うことができます。

アメリカの企業が20年ほど前から開発に取り組んできた「SmaGO」を、アジアの総代理店として取り扱っているのが、株式会社フォーステック(外部リンク)です。今回、同社で経営企画室長を務める柏村将平(かしわむら・しょうへい)さんに、日本から公共のごみ箱が減少している理由や、自治体に「SmaGO」が導入されることでどのような変化が起きるのか、お話しを伺いました。

適切にごみ箱が設置されれば、ポイ捨ては減少する
――日本は他の国と比べて、公共のごみ箱の設置数が少ないという話を耳にしました。
柏村さん(以下、敬称略):そうですね。日本では公共のごみ箱がほとんどない状況です。特に先進国の中で見たときにあまりにもごみ箱の数が少なくて、日本は特異な国だと言えるでしょう。
例えば、世界の観光都市と呼ばれるようなところでは、行政のソーシャルサービスとして公共のごみ箱の設置に力を入れています。弊社の調べ(2024年時点)では、パリには約2万9,000台、ニューヨークには約2万2,000台の公共のごみ箱が設置されおり、ごみ箱の大容量化やIoT化など、ランニングコストを下げるための努力がなされています。
また観光産業を強化している韓国やシンガポールといったアジアの国においても、当たり前のソーシャルサービスとして、自治体が公共エリアにごみ箱を設置し管理をしています。

――日本のまちからごみ箱が減っている理由は諸説あるようですが、オウム真理教が起こした事件がきっかけといわれていますよね。
柏村:そうですね、1990年代前半までは、まちのところどころにごみ箱が見られました。その後、国内外でテロ事件が起こるたびに、安全確保のため公共区画でのごみ箱が撤去されていったといわれています。
最近では、まちの中からごみ箱が消えた結果、ポイ捨てや本来捨てる場所ではないところにごみを捨ててしまうなど問題が起きています。それにより観光地や、民間施設などでごみの散乱やポイ捨てに悩まれるケースが多いと伺っています。

柏村:ただ行政側もこの問題を放置しているわけではなく、インバウンドの増大や食べ歩きという新しい文化への対応を見据え、徐々にソーシャルサービスとして、ごみ箱を改めて整備していく動きが広がりつつあります。
――一方で、ごみ箱が満杯だったとき、その周囲にごみをポイ捨てする人が増える気もします。ごみ箱を置くことで、逆に「ポイ捨てをしてもいい雰囲気」が生まれてしまうような雰囲気すら感じてしまいます……。
柏村:これは非常に難しい問題だと思いますが、確実に言えることは、多くの人はポイ捨てを好んでしているわけではありません。ごみ箱が見つからなかったり満杯だったりした際に、やむを得なく捨てているのが実態だと考えています。
ただ、そのやむを得なくしたポイ捨てが、「捨てている人もいるのか。だったら自分も捨てても大丈夫かもしれない」と、負の連鎖が起こり、ポイ捨てを助長させてしまっていることも事実です。
――では、ちゃんと捨てられるごみ箱が設置されていれば、ポイ捨てはなくなるとお考えですか?
柏村:はい。基本的にポイ捨てはしたくないはずなので、受け皿さえ用意すれば、適切な場所に捨てるということは間違いないと思っています。
その際に大切なのは、何よりもごみ箱からごみを溢れさせないこと、そして適切なごみ箱の数を把握して、適切な管理をすることです。その場所に集まってくる人の数と、消費活動の規模、つまりどれくらいのお店があって、どれくらいごみが出るのかしっかり把握するということなのですが、これまでそのようなデータを取得、分析する機会がなかったため、まだまだ手探りでごみ箱を設置することが多い印象です。
ただ、私たちが提供するスマートごみ箱「SmaGO」であれば、利用回数とたまったごみの量が把握できるので、ごみ箱を溢れさせることなく、より適切な設置箇所と台数を見極めるためにもご活用いただけます。

――行政としては、ごみ箱が減りポイ捨てが増えていることを、問題と捉えてはいるのでしょうか?
柏村:そのように捉えてはいる自治体も増えてきていると思いますが、当然自治体の予算や人手も限られており、自治体だけに任せて解決をするのは難しいという現実もあります。
地元の人々や地元企業等の協力で清掃活動などを行い、ポイ捨て問題を解決していくのも良いと思いますが、ボランティアによる清掃も簡単ではないので、効率的にごみを集積できるSmaGOのようなごみ箱を、行政・市民・民間の連携で設置・運営することも1つの選択肢と考えていただきたいです。
――一般的にまちにごみ箱を設置するコストというのは、どれくらいかかるのでしょうか?
柏村:一般的にはごみ箱の設置に伴って、1.初期費用(ごみ箱本体)、2.回収清掃費用(毎月発生)、3.ごみの処理費用(毎月発生)、の3つの費用が発生するものです。
ちなみに、一般的な屋外用のごみ箱1台は20万円前後といわれています。回収と清掃に関しては、その頻度・範囲によって変わってきますが、場所によっては高額となるケースも散見されます。
5倍量をためられるスマートごみ箱で、海洋ごみ問題にもアプローチ
――では、「SmaGO」についてお伺いしていきたいと思いますが、フォーステックがこのような事業を始めたきっかけはなんでしょうか?
柏村:前述したようなごみ箱に関する負のスパイラルを、テクノロジーで解消したいという思いと、貴重な海洋資源を後世に誇れるものとして継承したいという思いがきっかけです。
弊社の代表である竹村はずっとマリンスポーツをやっていたため、海岸清掃を行うことも多く、海洋ごみ問題に大きな課題を感じていて、自身の子どもに対してもきれいな海を継承したいという思いも強かったようです。
――海洋ごみへの問題意識から、まちの中のごみ箱設置に取り組み始めたのですね。
柏村:はい。海洋ごみは人間の生活圏であるまちから流れてくるものが8割を占めています。そして海洋プラスチックごみがどんどん増えており、2050年くらいには魚や魚類よりも海洋プラスチックが多くなるという予想もされています。
「SmaGO」を通じて、まちの中でごみが正しく集まり、分別もされて、適切な費用で処分ができる状態を実現できれば、皆さんの不便も解消できる上、海洋ごみ問題の解決、資源の循環につながります。社会的に大変意義のある事業として取り組んでいます。
- ※ こちらの記事も参考に:【増え続ける海洋ごみ】今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること(別タブで開く)
――自治体が「SmaGO」を導入した場合、一般的なごみ箱と比べてどのくらいのコスト削減が可能になるのでしょうか?
柏村:ごみ箱を設置する数やごみの回収頻度などによって変わってはくるのですが、先に説明した地方観光都市の例でいうと、5年間の運営費用が3分の1程度となると考えていただけるといいと思います。

――実際に導入した自治体や企業からは、どんな声が届いていますか?
柏村:自治体などからは、「ポイ捨てが7、8割は減った」「ごみの散乱がなくなった」「ごみ箱がなかった時は地域清掃活動や毎朝の店前の清掃にかなりの時間を使っていたが、その頻度も時間も減らせた」という声が届いています。
例えば東京の表参道にある商店街・原宿表参道欅(けやき)会では、4年ほど運用いただいていますが、1日に3~4回行っていた回収が、1日に1回、夏場はペットボトルだけ1日2回に減らせています。
また、表参道の「スマートアクション・プロジェクト」では、「環境配慮型のサステナビリティとDE&I(※1)を同時に実現する社会実験にチャレンジする」というアプローチで、日本特殊陶業さまに2023年からご支援いただいております。
そのラッピングデザインは、「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、国内外の主に知的障害のある作家の描く2,000点以上のアートデータのライセンスを管理し、さまざまなビジネスへ展開するヘラルボニー社(※2)にご協力いただいております。持続可能な社会づくりへの貢献はもちろんのこと、ごみをきちんとごみ箱に捨てたくなるような、華やかなラッピングデザインがまちを彩ります。
- ※ 1.ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの略。人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、公平性を重んじる、誰もが活躍できる社会づくりを指す
- ※ 2.こちらの記事も参考に:常識というボーダーに挑む“福祉実験ユニット”ヘラルボニーの軌跡(別タブで開く)

柏村:企業によるこうしたご協賛は、まちのクリーン活動への貢献はもちろんのこと、話題性や関心の喚起にもつながります。
表参道のプロジェクトの場合、「アート」という要素が加わることで、アート作品が目を引きプロジェクトや作家に興味を持つ、なぜその企業が協賛しているのか関心を持つなど、複層的に興味関心を高めることができます。
また、美しいアートが施されていることで、ごみ箱=汚いというイメージ自体も払拭してくれます。つい先日は、「SmaGO」の上でパソコンを広げる若者を目にしたのですが、ごみ箱が自然にまちに溶け込むこのような光景が、より多く見受けられるようになったらうれしいですね。
ごみ箱の設置をインフラサービスと捉えた、抜本的な対策が必要
――ごみのポイ捨てが増えないように、国や自治体が行うべき施策には、どんなものがありますか。
柏村:今の日本は観光産業が伸びている状態です。そして、日本は訪日外国人から「他の国に比べてもごみが少なくきれいな国」といわれています。国は今後もそこに力を入れていこうとしているので、ごみ箱の設置や管理をインフラと捉え、社会全体として進めるべきだと考えます。
また、観光庁や環境省が主導してごみ箱の設置も含めたオーバーツーリズム対策の補助金を拡大している流れもあり、自治体を含めて対策を我々と一緒に良い方向へ解決を本格化していければと思います。
――ごみ箱不足の問題のために、私たち一人一人ができることはどんなことでしょうか?
柏村:ごみを捨てる場所がなく困っていることを、社会の声としてお住まいの自治体に届けることも大事だと思います。そうすることで社会インフラとしてのごみ箱が復活していくのではないかと思っています。
そして、まちの中にごみ箱が設置されたら、ごみを資源として扱えるように、正しい分別を心がけることが、よりよい地球の未来のために必要だと確信しています。

編集後記
柏村さんの「公共のごみ箱はほとんどなかった」という話を聞き、ハッとさせられました。そして、自動販売機に併設されたリサイクルボックスなどは企業による善意で置かれているとのことでしたが、ではその善意がなくなってしまったら、まちに捨てられるごみを誰が処理するのでしょうか?
社会全体として適切な場所にごみ箱を増やしていくことの重要性はもちろん、もしごみ箱がない場合にも、ごみをポイ捨てしない、家に持ち帰るなど、一人一人ができることはたくさんあります。
また、もしまちの中で溢れているごみ箱やごみ置き場を見つけたら、見て見ぬふりをせず、自治体に連絡したり、SNSで呼びかけたりするなど、ごみの問題を自分事と捉えることができれば、少しずつ社会が変わっていくのではないでしょうか。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。