未来のために何ができる?が見つかるメディア
2人目を目指す1人目に——Z世代が“自分たちの言葉”でつくった「海の教科書」が広げるアクションの輪
- 海洋問題に取り組む「Blue Campus」は、海が大好きな高校生たちにより結成された
- 海の問題をテーマにした教科書を自分たちで作り、同世代に届けることで、アクションの輪を広げている
- 社会課題を知り、小さな一歩でも行動に移すことが、自分たちの豊かな未来をつくるために大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
海の問題は、ニュースの向こう側の話だと思っていませんか?
「海水温の上昇」「海洋ごみ」「漁獲量の減少」——こうした言葉を聞いても、どこか自分の生活とは離れた話だと感じる人は少なくないでしょう。
しかし実際には、私たちが普段食べている魚、海辺で過ごす時間、そしてこれからの日本の食や産業とも、深くつながっているのです。
そんな“海の問題を自分ごととして捉えるきっかけ”をつくっているのが、一般社団法人海洋連盟と日本財団が共催する、全国の高校生向けコンテスト「うみぽす甲子園」(外部リンク)です。2022年の開始以降、4年間で延べ4,631人の高校生が参加し、海の豊かさを未来につなぐためのアイデアやアクションを生み出してきました。
2025年のグランプリに選ばれたのは、全国の高校生らで結成された団体「Blue Campus」(外部リンク)。彼らが制作したのは、海の問題を知識として学ぶのではなく、“自分の言葉で考える”ための教科書『Z世代が明日の海と語ってみた話』です。
「ダイビングが好き」「魚にくわしい」「釣りが趣味」。そんなメンバー一人一人の「好き」という好奇心を入り口に、大学教授やNPO代表、漁師、YouTuberなど、さまざまな海の専門家にインタビューを実施。海でいま何が起きているのか、その背景にある課題、そして「私たちにもできること」を同世代の目線でまとめました。
そして完成した教科書は、全国約2万2,000人以上(2026年1月末時点)の若者のもとに届けられています。
本記事では、「Blue Campus」のメンバーに、その活動内容とともに「うみぽす甲子園」に参加した理由や、海洋問題の教科書に込めた想いについて話を伺い、未来を担う若者が社会課題解決のためのアクションを起こしたいときのヒントを届けます。
〈取材した「Blue Campus」メンバー紹介(※)〉
- ※ 学年は2026年2月時点
大沼七奈(おおぬま・なな)
埼玉県・淑徳与野高等学校3年生。「Blue Campus」初代代表。メキシコ留学をきっかけに海への関心が高まり、高校時代は「Blue Campus」の活動以外に漁業ボランティアや海や藻場に関する研究に注力。趣味はダイビング。

片岸拓也(かたぎし・たくや)
神奈川県立横浜国際高等学校2年生。2026年度から「Blue Campus」の代表に就任。幼少期から海に触れるうちに、海が好きになる。高校2年の夏にタイへ留学し、海洋保護問題について学んだことを機に「Blue Campus」に参加。

山本詩(やまもと・うた)
石川県・小松大谷高等学校2年生。小学5年生の頃から一人で釣りに出かけるほど、釣りが大好き。海ごみの量が増える光景を見て、海の豊かさを守り、釣りの文化を未来に残すための行動を起こしたいと「Blue Campus」に参加。

中島想羽(なかじま・そわ)
市立札幌開成中等教育学校1年生。海洋教育を学びにフィジー諸島へ留学。その経験を経て「自分で研究するだけではなく、未来へのアクションにつなげたい」と感じるようになり「Blue Campus」に参加。趣味は魚の骨格標本作り。

同世代で海を守る大きなアクションを起こしたい
――はじめに、大沼さんが「Blue Campus」を結成したきっかけを教えてください。
大沼さん(以下、敬称略):もともと、私は個人で海に関する活動をしており、その時に得た学びや経験談を学校の友だちに共有していたんです。
その時、友だちから「話を聞くうちに、だんだん海に興味が湧いてきた」と言ってもらえるようになり、「このまま興味を持ってくれる人が増えれば、海を一緒に守る大きなアクションを起こせる!」と考え始めました。
そこでSNSを通して自分の想いを発信し、一緒に活動に参加してくれるメンバーを募集したんです。最終的に5人集まり、2024年の11月に「Blue Campus」を結成しました。いまは15~20人で活動をしています。

――片岸さん、山本さん、中島さんが「Blue Campus」へ参加したきっかけについても教えてもらえますか。
片岸さん(以下、敬称略):大沼さんのInstagramの投稿を見て、その想いに共感したのが大きな理由です。ただ学ぶだけでなく、仲間とひとつの目標に向かって取り組める「Blue Campus」の環境はとても魅力的でした。
山本さん(以下、敬称略):「Blue Campus」を知ったのは、知人からの紹介でした。そこで大沼さんのInstagramを見て「課題を抱えているだけでは何も変わらない。自分も大沼さんと同じように何か行動を起こしていきたい」と思い、メッセージを送りました。
中島さん(以下、敬称略):私は、フィジーに留学した時の探究テーマが「海洋教育」ということもあり、教育啓発の分野にはとても興味がありました。
と同時に国内外で起業や学生団体を立ち上げることも考えていましたが、まだ組織を動かす人としてのスキルや知識が足りていなかったんです。
大沼さんが結成した「Blue Campus」に参加すれば、教育啓発にも携わりながら組織を動かすためのスキルや知識も得られるのではないかと感じて、応募を決意しました。

――皆さんそれぞれ活動内容が異なると思います。現在取り組んでいることを教えてください。
大沼:私は2025年で代表を退きましたが、今後もメンバーの一人として活動していく予定です。今は「Blue Campus」を卒業した高校3年生や大学生と一緒にSNSの発信に力を入れています。
片岸:2026年度からは私が代表を務めるのですが、実は団体をまとめるのは初めてです。
大変なこともあるとは思いますが、大沼さんが作り上げた2025年の「Blue Campus」の良かった点を継ぎつつ、私とこれからのメンバーが思い描く「Blue Campus」の色を加えて、より良い団体にしていきたいと考えています。
山本:私は、教科書の英語版チームのリーダーを務めています。
2026年の夏までにフィリピンやインドネシアといった海と関わりが深い国に向けた英語版・海洋問題の教科書を作る予定です。世界中に日本の海洋問題に関する教科書を届けることで、各国の学生に「自分の国の海はどうなっているんだろう」と興味・関心を持ってもらえると嬉しいですね。
中島:私は小学生版・海洋問題の教科書を作るチームリーダーを務めています。
中高生版と異なる点は、海の問題だけでなく、海の魅力を伝えることに焦点を当てている点。子どもの海離れが進むいま、いきなり海の問題を説明しても興味を抱く小学生は少ないと思うんです。
だから、まずは小学生が海に興味を持つきっかけをつくり、海に対する自分なりの疑問を抱いてもらう内容に整えていきたいと思っています。
2月9日からは小学生版をつくるためのクラウドファンディングも実施しますので、関心のある方は、ぜひチェックしていただけるとありがたいです。

「うみぽす甲子園2025」に参加して得たもの
――「うみぽす甲子園2025」に応募した理由を教えてください。
大沼:団体結成時に、私たちは「2025年までに1万人の高校生に海の魅力と海洋問題を伝える」という目標を立てていました。一度立てた目標は達成したかったですし、何より「うみぽす甲子園」への参加は「Blue Campus」の活動をより活発にするきっかけになると思ったんです。
またコンテストのスローガン「2人目を目指す1人目になろう」に深く共感したことも応募を決めた理由でした。
――他の皆さんは大沼さんから「うみぽす甲子園2025」に参加すると聞いたとき、どのような気持ちでしたか?
片岸:素直にワクワクしました。海洋問題の解決に向けた活動は、明確なゴールが見えにくいので、ひとりではモチベーションを維持するのがとても難しいんです。
でも「うみぽす甲子園」なら、メンバーと支え合いながらひとつの目標に向かって取り組める。実際、常に高いモチベーションで活動することができました。いい刺激をもらったことに感謝しています。
山本:私は、自分が通っている高校から「うみぽす甲子園」への出場を打診されていましたが、勇気がなくて参加を見送っていました。
しかし、大沼さんから参加の意思を告げられたとき、途端に「大沼さんが参加するなら、自分もやるしかない!」と気持ちが沸き上がってきたんです。それからは無我夢中で教科書制作に取り組みました。
中島:当時、私はフィジーに留学をしていて、「うみぽす甲子園」に応募したことを大沼さんから電話で伝えられました。自分にとっていい成長の場になると思い、すぐに「参加したいです!」と返事をしました。
――グランプリを受賞したとき、どのような思いを抱きましたか?
大沼:グランプリをいただけたことはとても嬉しく、自分たちが信じてきたことを貫いてきて本当に良かったと思いました。
また、審査員で九州大学院工学研究院・准教授の清野聡子(せいの・さとこ)さんから「自分たちが目標としてきた学校教育に海洋教育を取り入れる試みを、高校生のあなたたちが取り組んでくれて嬉しい」とほめていただけて、大きな自信にもなりました。
片岸:喜びとともに、達成感に満ちていたことを覚えています。
また、私たちとは異なる視点から海の研究をしてきた他チームのプレゼンテーションを聞くことで、「なるほど、こういうアプローチの方法もあるのか」と新たな気付きを得られた機会でもありました。
中島:私も片岸さんと同じように、多くの高校生が異なる視点で海の課題解決に向けて取り組んでいることを知ることができて、とてもいい刺激になりました。
海の問題に対するアプローチの方法は無限大なのだと実感しました。
山本:グランプリ受賞はとても嬉しかったです。
あと、私の中で強く印象に残っているのは、コンテスト後に開催された交流会。他のファイナリストのチームと交流を深めていくうちに、全国には私たちと同じように海の課題解決に向けたアクションを起こしている人たちがいることを実感できました。
いまは小さなつながりかもしれませんが、この積み重ねが大きなアクションを起こすきっかけになるのだろうと感じています。

海洋問題の教科書を制作することが、仲間を増やすきっかけに
――教科書を制作するにあたり、工夫したことを教えてください。
大沼:私の担当は、主にチーム全体のマネジメントや仕事の割り振り。留学中のメンバーもいたため、全体ミーティングを開くことはせず一人一人と密に連絡を取るようにしました。
その中でメンバーが得意なことや取り組みたいことを把握し、それらに少しでも携われるように割り振りを工夫しつつ、作業負担も誰かに偏らないようにバランスを取っていました。
片岸:私は、教科書内のレイアウトを担当しました。
同世代の心を動かし、海に興味を持ってもらうには、各ページの文章の質、構成の質、デザインの質に妥協しないことが大事だと考えていたので、写真の配置やフォントといった細かい部分までこだわりました。


山本:私は、海洋問題の教科書を全国の同世代に届けるためのクラウドファンディング(外部リンク)を担当しました。
目的は、教科書やクラウドファンディング自体を通して海の問題が誰にとっても身近な問題であると知ってもらうことでした。
そのための工夫として取り入れたのが、SNSでのライブ配信やトークショーです。文章だけでなく、自分たちの声で想いを伝えることで、説得力も増すのではないかと考えました。
その結果、さまざまな人に支援をしてもらえるようになり、クラウドファンディングの目標額も無事に達成できました。
中島:私が担当したのは教科書内のワークシート作成です。
ワークシートは、海の問題を、少しでも自分ごととして考えられるような工夫をしました。多くの場合、壮大過ぎる海洋問題について知る途中で「自分とは無関係だ」と見放されてしまいがちです。
ただこのワークシートを通して思考プロセスを整理することで、より海洋問題を身近に捉えられるようになっています。


――教科書を配布したとき、支援者や同世代の方々からはどのような反響がありましたか?
大沼:いままで海洋問題に興味がなかった子が、この教科書を通して興味を持ってくれたという声をいただけて嬉しかったです。
また教科書内には「高校生がこの本を作るまで」というページを設けているのですが、それを読んだ人から「課題に対するアクションの起こし方や、伝え方の参考になった」と言っていただけたことも、励みになりました。
片岸:同世代の仲間が教科書を読んでくれて、一緒に海について話す機会が増えたことが嬉しかったですね。
大人の方からは「海の問題に、こんなに本気で取り組む高校生がいるんだ」と言葉もかけていただき、さまざまな世代の方に良い影響を与えられたのではないかと感じています。
山本:友だちから「教科書に書いてあるこれってどういうこと?」と、質問してもらえることが増えました。自分たちで起こしたアクションが、誰かの最初の一歩につながっていると実感できて嬉しいです。
中島:教科書を届けに訪れた学校の先生から、「ぜひ授業で使いたい」と言ってもらえたことが素直に嬉しかったです。当初のターゲット層を超えて「Blue Campus」が海について考える“2人目”を生み出すことができたと思います。


「Blue Campus」を世界規模の団体に成長させたい
――教科書の制作や配布を通して、得た学びや気づきはありますか?
大沼:高校生が社会課題に向けたアクションを起こすことは、あらゆる世代に「高校生が頑張っているのだから自分たちも頑張ろう」と思わせるきっかけとなるのだと気付きました。
これは海の問題に限らず、あらゆる社会課題を解決に導く上でとても意味のあることだと思っています。
片岸:教科書を作る側に回って、初めて「伝えること」と「伝わること」の違いに気付くことができました。そのおかげで、より海の問題を自分ごとにできたと思います。
山本:海の変化をどう伝えていくべきか、これまで以上に深く考えられるようになったと思います。またクラウドファンディングを通して、自分の発信する言葉には責任があることにも気付けました。
中島:行動力のある先輩方と一緒に活動したことで、これからの自分の目指す姿が明確になりました。似たような志を持つ高校生とチームとなって活動できたことも、自分の自信につながりました。


――皆さんの今後の目標を教えてください。
大沼:「Blue Campus」を世界スケールの団体にしていきたいと考えています。個人としては、研究者として藻場の観測研究を進めていきたいですね。
片岸:「Blue Campus」代表として、「50年後も豊かな海と暮らしていけるように同世代の仲間とつながり、海へアクションを起こす」という理念を大切に、教科書をアップデートしていきたいと考えています。
また個人的には大学受験を迎える大切な1年でもあるので、これまで学んできたことを整理して、自分の未来につなげていけるように準備していきたいです。
山本:これからは日本の海だけでなく、世界の海も含めて活動していきたいです。そして、いつまでも大好きな釣りができる未来を実現させたいですね。
中島:私は、引き続き「Blue campus」のメンバーとして、高校生の視点から海洋問題について伝え続けていこうと思っています。将来的には海洋研究機関に所属し、研究者として教育啓発に関わっていきたいです。

社会課題を解決するために、若者一人一人ができること
最後に、「Blue Campus」の皆さんに、社会を良くするために何か行動を起こしたいと思っている若者に向けて、一歩前に踏み出すためのヒントをいただきました。
[1]常にアンテナを張り、分野を超えてさまざまなトピックに触れる
アンテナを張り続けることで、自然とさまざまな社会課題に興味・関心を持つようになる。関心を持つだけでも、立派なアクションの1つ
[2]社会課題に対する思いを誰かと共有する
「自分はこの社会課題に対してこう思うんだけどどう思う?」と友人に振ってみるのもいい。もし同じ考えを持っていたのなら一緒にアクションを起こせるかもしれない。その思いをSNS発信したら、さらに多くの人に思いが届くかもしれない
[3]先駆者のアクションに便乗してみる
自分で一から行動を起こすのは「ハードルが高いかも」と思う人は、(「Blue Campus」のような)先駆者を追いかけて、そのアクションを自分でも実行したり、拡散したりするのも大事な一歩
社会課題に関する情報を収集する中で、全国から集まって海洋問題に取り組む高校生がいると聞き、「Blue Campus」の皆さんに取材を申し込みました。
お話を通して、思い切って世の中に思いを発信することの大切さや、それによって誰かとつながり、アクションを広められるかもしれないという可能性を強く感じました。
小さな一歩でもいい、自分のなかで思いを馳せるだけでなく行動に移すことが、より良い社会につながっていくのではないでしょうか。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。