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移動格差解消と高齢者の外出機会を創出する、オンデマンド交通サービス「チョイソコ」とは?

- 路線バスの廃止により、全国の交通不便地域では移動手段の格差問題が発生している
- 「チョイソコ」は移動格差解消と高齢者の外出機会を創出する、民間企業主体のオンデマンド交通サービス
- 移動手段の確保は健康につながる。免許返納の推奨とインフラの整備はセットで行うことが重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
高齢者の自動車事故は話題になりやすく、高齢者に対して運転免許の返納を求める声は日々強まっているように感じます。
しかし、車がないと生活必需品すら買いに行けない地域や、公共交通機関が廃止されている地域があるということも忘れてはいけません。
こういった課題解決のため、各地で導入され始めているのが、利用者の予約に応じて運行する乗り合い型の公共交通サービス「オンデマンド交通」です。しかし、なかなか利用者が伸びず、軌道に乗らないまま、廃止となる自治体も多いといいます。
そんな中、2018年7月に愛知県豊明市で始まったのが「チョイソコ」(外部リンク)です。これまでの運営コストの面で厳しいとされていた「オンデマンド交通」とは違い、民間企業主体で運用を行うことで、持続性の高いサービススキームを確立。さらに民間企業と共にイベントを実施することにより、高齢者の外出機会も創出し、健康を促進しているそうです。
「チョイソコ」の仕組みと、その背景にある地域による移動手段の格差問題について、「チョイソコ」を開発した株式会社アイシン(外部リンク)の鈴木歩(すずき・あゆみ)さんにお話を伺いました。
地方だけでなく、都心部近郊にも広がる移動格差問題
――まずは「チョイソコ」の仕組みについて教えてください。
鈴木さん(以下、敬称略):「チョイソコ」は簡単に言うと乗り合い送迎サービスです。会員登録した方が電話などで乗車申し込みを行い、何時にどこに行きたいのかをオペレーターに伝えます。その時間帯に複数の方の予約があれば、それぞれの希望到着時間、目的地を専用システムによって分析し、最適な経路、乗り降り順を割り出し送迎するシステムです。

――利用するのに料金はかかるのですか?
鈴木:はい。乗車料金など細かな運行ルールは自治体によって異なるのですが、「チョイソコ」が最初に導入された愛知県豊明市の「チョイソコとよあけ」を例にご説明しますと、片道200円で乗車が可能です。
公園や公共施設付近などに「チョイソコ」の停留所を設置しており、そこから乗り込んでもらいます。
――では、「チョイソコ」を立ち上げた経緯について教えてください。
鈴木:弊社はもともと事業の1つとしてカーナビの製造販売を行っており、地点と地点を結んでルート検索をする技術とノウハウを持っていました。
それを活用した新規ビジネスを立ち上げるにあたり、豊明市のご担当者と出会い、「高齢の方にさまざまな場所へ出向いてもらうための移動手段が必要である」「地域の交通環境に問題意識を持っている」と伺い、それを解決するための「オンデマンド交通」という形でスタートすることになりました。
――具体的にはどんな問題があったのでしょうか?
鈴木:豊明市には道の傾斜が激しく、道幅も狭くて、コミュニティバスが入っていけない交通不便エリアがあったんです。そのエリアは40、50年前に山を切り開いてつくられた、いわゆるオールドニュータウンで、住人の方の高齢化が進んでいます。
皆さんもご存知かと思いますが、今、高齢の方に対して免許返納を求める動きが加速しています。ところが免許を返納してしまった場合、このような交通不便エリアに暮らす方は、外出が難しくなり、買い物すらできなくなってしまうわけです。
さらに外出ができなくなると健康を維持するのも難しくなり、市の社会保障費が年々上がってしまう。豊明市が課題と捉えていたこれらの課題を、アイシンの「オンデマンド交通」が解決できるかもしれないということで、今のような形に行き着きました。
――「チョイソコ」は全国に広がっているということですが、全国で同じような問題が起きているということですね。
鈴木:はい。コミュニティバスのような交通機関が入っていけない、交通不便地域は全国各地に存在します。
また全国の公共交通機関で採算がとれず、毎年約1,000キロメートルに相当するバス路線が廃止されているといわれており、年々拡大しているのが現状です。
さらに「チョイソコ」を全国に広げていく中で分かってきたことですが、この問題が起きているのは地方の過疎地に限らないんですね。東京や千葉など都市部の周辺でも、スポット的に不便な地域があり、地方以外の場所でも「チョイソコ」の導入が広がっています。

民間企業主体のビジネスモデルで持続性を高める
――「チョイソコ」が他のオンデマンド交通サービスと異なる部分はどこでしょう?
鈴木:大きく分けて2つあります。1つ目は自治体の予算を下げ、採算性を上げることができる点です。
「チョイソコ」はエリアスポンサーという形で、地域の企業の方々に協賛をいただくビジネスモデルになっています。スポンサーになると停留所の1つとなりますので、利用者がその店舗や事業所に行きやすくなります。
また、会員の方に配る情報誌に、チラシを同封するなど広報的な利用も可能ですし、地域貢献企業として認知され、CSR(※)活動にもつながっているのではないかと思います。
- ※ 「企業の社会的責任」のこと
――もう1つの特徴は?
鈴木:単なる運行システムの提供にととどまらず、高齢者の方の健康増進につながる外出促進の“コト”づくり、つまりイベントなどの開催をエリアスポンサーと共に推進している点です。

鈴木:「チョイソコ」の導入により、利用者の移動格差問題を解消し外出の機会を創出するだけでなく、自治体、エリアスポンサーになっている企業、交通事業者の“四方良し”を実現しています。
――利用者からの声で印象的なものはありましたか?
鈴木:導入時点で「こういうものを待っていました」と言われることが多いです。これまで友だちや家族に頼まないと外出できなかったのが、自分の意思だけで出かけられるようになったと。
あとはご家族の方からも、送迎の手間がなくなるだけでなく、高齢者や自分たちも一緒にイベントに参加するようになり、外出の機会が増えたと喜ばれています。
実際、多くの自治体では、デマンド交通を導入したことで利用者数は増え、高齢者の方が外出をしやすくなっていると思います。
免許返納の推進は公共交通のインフラ整備と共に行われるべきもの
――地域や年齢による移動手段の格差問題があるにもかかわらず、高齢者が運転することへの批判や、免許返納を推進する空気が見られると思います。アイシンさんとしてはどう思われますか?
鈴木:実際に高齢者の免許自主返納のキャンペーンを行うなど、国が推進している空気はありますね。でも実際に免許を返納したあと、高齢者の方が移動できる環境がどれだけ整えられているかという問いに対しては、うまく答えられない自治体の方が多いのではないのかと思います。
過去に「チョイソコ」を導入していただいた自治体を見ても、もともと走っているコミュニティバスの走行本数が2、3時間に1本、もっとひどいと午前に1本、午後に1本という地域もあるんですね。そういった不便を解決しないまま、免許返納を迫ってもなかなか進まないと思います。
免許の自主返納というのは環境が整い、「これがあれば車はなくてもいい」と実感できたときに、初めて行うものだと思います。
――免許の自主返納を推進することと、インフラの整備はセットで行われないといけないということですよね。
鈴木:そうですね。また、移動手段がなくなると外出自体をしなくなります。
フレイル(※)予防には社会参加が有効的だと言われています。外に出て、お仕事をされたり、みんなとおしゃべりしたりすることで、健康が維持できるのであれば、外出しやすい移動手段を確保することがとても重要であるということを周知していけたらと思います。
- ※ 健康な状態と要介護状態の中間を意味する言葉。参考:シニアの国体「ねんりんピック」から探る高齢化社会の健康づくり(新規タブで開く)
――こういった移動手段の格差解消のために、読者一人一人ができるのは、どんなことでしょうか?
鈴木:公共交通機関というのは、人が乗らなくなると必要がないと認識され、なくなってしまいます。都市部を除いて、移動は車中心という方も多いと思うのですが、日常生活の中で少しでも公共交通機関を活用していただくといいのではないかと思います。それが実績と収益につながり、皆さんが暮らしている地域の公共交通を支えていくことになります。
また、移動問題の話になると、地方の高齢者に焦点が当たりやすいですが、先ほどもお話した通り、都心部の周辺でも起こることですし、高齢者以外にも移動の支援は必要だと私たちは認識しています。
例えば共働き世帯が増える中で、お子さんを塾に安心して通わせるための公共交通がないというのも移動問題の1つ。実際に熊本県熊本市では「チョイソコ」がお子さん1人でも安心して乗れる公共交通として、子育て支援に使われています。

鈴木:どんなに技術が発達しても、どこかに出向く、移動するという行為は残り続けます。移動の大切さを改めて感じ、公共交通の未来について考えてもらえるとうれしいです。
編集後記
都市部に住んでいると、移動手段の格差問題というのは気づきにくいものです。免許の自主返納は良いことのように語られがちですが、自分が高齢者だったら、もしくは公共交通がない地域に住んでいたとしたら、同じことが言えるでしょうか?
鈴木さんの話にもあったように、免許返納を促すのであれば、交通インフラの整備は必須だと思います。「危険だから返納する」ではなく「車がなくても安心だから返納する」という社会になってほしいと感じた取材でした。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。