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死を語ることは「生きる」を考えることにつながる。死を“カジュアル”に語る場「デス活」とは?

- 「デス活」とは「死」についてオープンに語るワークショップ。「デス活」によって、悲嘆を抱える苦しさが緩和される
- 死は非常に重い事柄ではあるが、涙を流す場を共有することで本音を話しやすい心理状況になる
- 気軽に死を語ることで、孤独死や自殺の社会問題に関心が向かうかもしれない
取材:日本財団ジャーナル編集部
日常生活で、死について語る機会はそれほど多くありません。しかし、家族や身近な人が病気を宣告される、突然亡くなるなど、予期せぬタイミングで死に直面することは少なくないでしょう。
もっと気軽に、死について話せる場があってもいいのではないか――。そう考えたのが、公認心理師の国家資格を持ち、涙を流しストレスを解消する「涙活(るいかつ)」の発案者でもある吉田英史(よしだ・ひでふみ)さん。
吉田さんは、死について気軽に話せるワークショップを「デス活」と称し、各地で開催しています。似たような取り組みは世界的に発生しており、海外では「デスカフェ」という名称で行われているそうです。
死について語れる場があることで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。 吉田さんに、「デス活」の具体的な内容や参加者の感想、死についてオープンに話すことの心理的な効果、社会的なメリットなどについてお聞きしました。

多くの人が、死について語りたいと思っている
――はじめに、「デス活」の概要について教えてください。
吉田さん(以下、敬称略):「デス活」とはお茶やコーヒーを飲んだり、お菓子を食べたりしながら、気軽にカジュアルに死について語る活動です。
交通事故や病気など、死が突然訪れることは少なくありません。あるいは、医師からがんを告知され「余命○年」と言われるといった、死に近い状態に陥ることもあるでしょう。それは誰であってもつらいことだと思います。
ただ、一般的には「死=タブー」とされているので、気軽に語ることが難しいし、そんな場所もありません。
もし、死についてカジュアルに語れる場があれば、もっと死を意識することができる。その結果として、生き方やライフスタイルを見つめ直すことにつながるのではないか、というのが「デス活」の大きなポイントです。

――「デス活」はどのような経緯で始まったのでしょうか。
吉田:私はもともと「涙活」という活動を2013年からやっています。涙を流すことによって、副交感神経というものが働き、脳がリラックスした状態になるといわれていて、つまりストレス解消になるんです。
「涙活」の講演では、感動する映像を見たり、泣ける話を聞いたりすることでストレス解消の効果を感じてもらうのですが、その後、参加者同士で輪になって、涙活体験で得た気付きや感想をシェアし合うんですね。なぜ泣いたのか、どういうポイントで泣いたのかなどなど……。
そこで多くの人が、死の話をするんですよ。感動的な映像や物語って、死がテーマのものも多いですよね。そういったものを見ると、身近な人を亡くしたことや、ペットを亡くしたことが思い起こされるんです。
死は非常に重い事柄ですが、涙を流す場を共有することで、知らない人同士であっても本音を話しやすい心理状況になるんです。
死にまつわる話を語った後、皆さんが清々しい表情になるのを見て、「実はみんな、死を語りたがっているんだな」と感じました。
――そこから「デス活」につながっていくわけですね。
吉田:はい。「デス活」という名前では2024年から始めたのですが、実は2018年から「デスカフェ」という名前で活動はしていたんです。
「デスカフェ」というのは、スイスが発祥とされている活動で、同じように死について語る集まりです。月1回のペースでデスカフェをやっていたんですが、コロナ禍で一時休止していました。
ただ、「涙活」は続けていて、「みんな死を語りたがっているな」と改めて再認識し、カジュアル感が出るよう「デス活」という名前に変えて、再スタートさせました。
――死について気軽に話せないと、どういうデメリットが生じるのでしょうか。
吉田:死を1人で抱え込み、苦しんでしまうことですね。昨今は高齢化が進み、人口減少が加速する「多死社会」となっています。家族を亡くして悲嘆に暮れている方や、身近に死を感じる場面がどんどん増えていると思われます。
悲嘆を自分の中に押し込めて苦しんだり、体調がおかしくなったりすることもあるでしょう。日常生活の中に、もっと死について話す場や時間を取り入れていくことが必要ではないかと感じています。
「デス活」によって、悲嘆を抱えることの苦しさが緩和される
――「デス活」はどのように進めるのでしょうか。具体的な内容について教えてください。
吉田:最初にテーマを1つ提示します。例えば、「もし死がなかったら?」というテーマで、参加者に話してもらいます。ただこれはあくまでも入り口で、テーマから外れても構いません。いきなり「死についてどう思いますか?」だと重いので、ちょっと外れたテーマを出すようにしているんです。
先日は「死ぬ前、最後に何を食べたいですか?」というテーマでした。でも話しているうちに、自分が体験した死の話になっていきます。

――確かに、いきなり「死について話し合いましょう」と言われても、ややハードルが高い気がします。「もし死がなかったら」というテーマのときは、どのような話になったのでしょうか?
吉田:遺伝や寿命の話が挙がりました。「医学の進歩によって、寿命が150年、200年とどんどん伸びていくんじゃないか」とかですね。
参加者はみんな「死はあった方がいい」と言っていました。「人間は死ぬからこそ、生きることに意味が生じる」「死がなかったら、のんべんだらりと生きていくことになりそう。それでいいのか?」といった話も出ていましたね。最終的には、今の自分の生き方、あり方を振り返ることにつながります。
それから、「デス活」では参加者の皆さんに「3つのルール」を伝えています。
――「3つのルール」というのはなんでしょうか。
吉田:1つ目が、「一人一人が自由に自分の考えを表現できるようにすること」。つまり、相手の考えを否定しないということですね。
2つ目が、「特定の結論を出そうとしないようにすること」。それぞれが自分の思いを話すので、どれも正解であり、一つの結論を出すようなことはしません。
3つ目が、「死を考えると信仰や信念が絡みますが、それを押し付けないようにすること」です。どうしても思想・信条や宗教が絡んでくる分野でもあるので、それぞれの考え方を尊重し合いましょう、ということです。
他にも、「もし会の途中で気分が悪くなってしまったら、自由に席を立って外の空気を吸いに行って構いません」と伝えています。
デリケートな部分に触れる話になってしまうので、気分が悪くなってしまう人もいるかもしれません。今のところは1人も出てはいませんが、「自由に途中退席してOKですよ」と伝えることで、皆さんリラックスして話しやすい状況にはなっていると思います。
――参加者の年齢や性別など、傾向はありますか。また、どういう理由で参加されているのでしょうか。
吉田:性別や年代はバラバラですね。20代から70代まで、会社員や定年退職した人、主婦など多種多様です。
参加の動機としては、「最近、身近な人を亡くした」という理由が多い気がします。「1カ月前に母が亡くなった」「叔父が亡くなった」とか。あとは、単純に興味本位で来られる方もいます。
――参加者からは、どういう意見や感想が聞かれますか。
吉田:「自分よりも重い体験をしている人たちの話を聞き、楽になった」「今まで人に言えなかったことを話すことができて、気持ちがスッキリした」といった感想をよく聞きます。同じような体験をしている人が集まるので、悲嘆を抱えることの苦しさが緩和されるんです。
うつ気味の女性が「デス活」に参加したあと、すごく前向きで明るい感じになったというケースもありました。他者の考えを否定しないというルールがあるので、皆さん素直に聞いてくれます。「ネガティブな状況を肯定的に捉えることができた」「前向きに生きるきっかけになった」と感想をもらす人も多いですね。
――参加者の話で、何か印象に残っているものはありますか。
吉田:ある女性が、おじいちゃんを亡くした話をしていました。おじいちゃんが山へタケノコを採りに行って、転落死したそうです。朝、いつも通り「頑張ってね」と声をかけたのに、帰ってこなかった……。
あまりにも突然過ぎて、そこから半年ぐらいは世の中が灰色に見えてしまうくらいだった、と話していました。

吉田:この女性いわく、その話を他人にしたのは初めてだそうです。しかも、わりと終盤のタイミングで話し出したんですよ。他の人の体験談がきっかけとなって、押さえ込まれていた記憶や感情がどどっと出てくる。それも「デス活」の良さかもしれません。
もちろん参加者の皆さんは、事前に「こういう話をしよう」と考えているでしょう。でも想定以上の話をしている感じはありますね。「そういえば、こんなこともあったな」って……。
相手が親しい友人だと「重い話は負担をかけてしまうから、話さないでおこう」となってしまいがちです。逆に、全く知らない人の方が話しやすいのかもしれません。
「デス活」が広まれば、孤独死や自殺の問題にも関心が向かうかもしれない
――いま「デス活」は、どこで、どれくらいの頻度で開催されているんでしょうか。
吉田:月に1回、鎌倉で開催しています。鎌倉は私の地元なんですが、神社仏閣が多い地域ということもあり、お坊さんの死に関する法話会が昔から行われていて、死を語る場所としても適しているなと感じています。
あとは、「『デス活』をやってほしい」という依頼も増えてきています。例えば、「商店街の人たちが集まる場があるので、来て話してください」とか、お寺でやってほしいという依頼も来ています。
もちろん、私がいろんな場所へ出向くのもいいですが、皆さんで司会進行者を1人立てて、真似してやってもらえればうれしいですね。
日本各地で死について気軽に話せる場が広まっていけばいいなと思っています。
――「デス活」のような取り組みが広がると、社会にどういう影響がもたらされると思いますか。
吉田:最近では、団地で一人暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんが孤独死するケースが増えていると聞きます。若者の自殺や孤独死に関する報道も、ときどき目にしますよね。
それはやはり、死を話すことがタブー視されているから、死が隠されているからという側面もあるのではないでしょうか。
もっと気軽に、カジュアルに死を語ることによって、普段は目に入ってこない孤独死や自殺の問題にも関心が向かうようになるのではないかと思っています。
編集後記
高齢化社会について調べているとき、おすすめとしてあがってきたのが、吉田さんの「デス活」についての取材記事でした。
普段の生活で、死について話したり考えたりする機会はあまりないでしょう。しかし、吉田さんのお話を聞き、「身近な人を亡くして、悲嘆を抱えながら過ごしている人は意外と多いのだな」と気付きました。
「デス活」によって自分の生き方を見つめ直し、前向きになれるのだとしたら、とても有意義なことだと思えました。
〈プロフィール〉
吉田英史(よしだ・ひでふみ)
1975年生まれ。早稲田大学で心理学、教育学を学び、同大学院で人材マネジメントを研究。高齢者福祉施設、学校勤務を経て、現職に。2013年から「涙活」をスタート。医師・脳生理学者で東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂氏と共に、認定資格「感涙療法士」を創設。感涙療法士として、教育機関や医療機関、福祉施設、企業、自治体において講演会やワークショップを実施。
デス活 公式サイト(外部リンク)
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