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第4回 NPO法人の従業員を解雇したい! 注意点は? 弁護士が解説

第4回.NPO法人の従業員を解雇したい! 注意点は? 弁護士が解説

執筆:阿部由羅

人件費の削減、または問題行動が見られるなどの理由でNPO法人の従業員を解雇すると、不当解雇を主張されてトラブルになるリスクがあります。

NPO法人にも一般企業と同様の解雇規制が適用されるので、事前に解雇の可否をきちんと検討しましょう。

本記事では、NPO法人が従業員を解雇するための要件や、解雇時の注意点などを弁護士が解説します。

イメージ:解雇予告通知書

NPO法人にも、一般企業と同じ解雇規制が適用される

解雇に関する規制は、労働契約法や労働基準法などの法律によって定められています。労働者は給与収入に生活を依存しているケースが多いため、使用者が労働者を一方的に解雇することは厳しく制限されています。

NPO法人で働く従業員も、一般企業の従業員と同じく「労働者」であるため、一般企業と同様の解雇規制が適用されます。

そのため、NPO法人が従業員を解雇する際には、法律上の要件を満たした上で所定の手続きを行わなければなりません。安易に従業員を解雇すると、不当解雇を主張されてトラブルになる恐れがあるので十分ご注意ください。

解雇の種類と満たすべき要件

解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があります。それぞれの解雇を行う際に、満たすべき要件を解説します。

懲戒解雇

「懲戒解雇」は、労働者の就業規則違反を理由とする解雇です。使用者が労働者に対して行う懲戒処分の中で、懲戒解雇は最も重い処分に当たります。

NPO法人が従業員を懲戒解雇するためには、次の要件を全て満たさなければなりません。

  • 従業員の行為が、就業規則上の懲戒事由に該当すること
  • 就業規則において、懲戒解雇があり得る旨が定められていること
  • 従業員の行為の性質や態様などに照らして、懲戒解雇を行う客観的に合理的な理由があり、かつ懲戒解雇が社会通念上相当であると認められること

犯罪行為をした場合や、重大な就業規則違反を複数回繰り返した場合などを除き、懲戒解雇は認められにくい傾向にあります。

整理解雇

「整理解雇」は、経営不振による人件費削減などを目的とする解雇です。

NPO法人が従業員を整理解雇できるのは、次の4つの要素を総合的に考慮して、整理解雇の客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であると認められる場合に限られます。

  • 整理解雇の必要性:整理解雇をしなければ経営破綻が避けられないなど、高度の必要性が求められます
  • 解雇回避努力義務の履行:整理解雇を行う前に、理事の報酬削減や希望退職者の募集など、解雇を回避する努力を尽くしたことが求められます
  • 被解雇者選定の合理性:整理解雇する従業員は、合理的な基準を定めた上で、その基準を合理的に適用して選定することが求められます
  • 解雇手続きの妥当性:整理解雇について従業員に対して説明を尽くし、納得を得られるように十分努めたことが求められます

普通解雇

「普通解雇」は、懲戒解雇と整理解雇を除く解雇です。

NPO法人が従業員を普通解雇するためには、次の要件をいずれも満たさなければなりません。

  • 労働契約または就業規則に定められた解雇事由に該当すること
  • 普通解雇を行う客観的に合理的な理由があり、かつ普通解雇が社会通念上相当であると認められること

能力不足や病気などを理由とする解雇は普通解雇に当たりますが、通常の労務に耐えないほど深刻な問題があるケースでなければ、普通解雇が認められる可能性は低いでしょう。

イメージ:従業員の解雇について弁護士に相談する雇用主
従業員の解雇を検討する際は、法律に反していないか、慎重に進める必要がある

NPO法人が従業員を解雇する際の注意点

NPO法人が従業員を解雇する際には、特に次の各点に注意しながら対応しましょう。

  1. できる限り合意退職を試みる
  2. 解雇せざるを得ない場合は、検討と手続きを尽くす
  3. 原則として、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要
  4. 解雇理由証明書の発行を求められたら、応じなければならない
  5. 解雇が禁止されている場合がある

できる限り合意退職を試みる

NPO法人が従業員を一方的に解雇すると、不当解雇を主張されてトラブルになるリスクがあります。

不当解雇に関するトラブルを避けるには、従業員を説得して合意退職に応じてもらうことが望ましいです。合意退職に応じてもらえる場合は、退職後に不当解雇などを主張して争わない旨を記載した退職合意書を作成しましょう。

解雇せざるを得ない場合は、慎重な検討を尽くす

従業員が合意退職を拒否しており、やむを得ず解雇せざるを得ないときは、解雇の種類に応じた要件を満たしているかどうかを十分に検討しましょう。

要件を満たしているかどうか分からないのに従業員を解雇すると、後で不当解雇を主張された際に適切に反論できず、不利な立場に置かれてしまう恐れがあります。

原則として、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要

NPO法人が従業員を解雇する際には、原則として30日以上前に解雇を予告する必要があります。解雇予告期間を短縮する場合は、1日につき平均賃金1日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法20条)。

ただし例外的に、次のいずれかに該当する従業員を解雇する場合は、解雇予告および解雇予告手当の支払いが不要とされています(同法21条)。

  • 日日雇い(にちにちやとい)入れられる者。※1カ月を超えて引き続き使用されている場合を除く
  • 2カ月以内の期間を定めて使用される者。※所定の期間を超えて引き続き使用されている場合を除く
  • 季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者。※所定の期間を超えて引き続き使用されている場合を除く
  • 試の使用期間中の者。※14日を超えて引き続き使用されている場合を除く

解雇理由証明書の発行を求められたら、応じなければならない

解雇の予告または解雇をした従業員が、解雇理由証明書の発行を請求してきたら、NPO法人にはそれに応じる義務があります(労働基準法22条1項)。

解雇理由証明書の発行に備えて、解雇要件を満たしていることを十分に示せるだけの解雇理由を準備しておきましょう。

解雇が禁止されている場合がある

次のいずれかに該当する場合には、従業員の解雇が法律上禁止されています。これらの解雇は、不当解雇として無効になるので避けましょう。

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
  • 業務災害の療養のための休業期間、およびその後30日間に行う解雇(同法19条1項)
  • 産前産後休業期間、およびその後30日間に行う解雇(同)
  • 労働基準監督署への申告を理由とする解雇(同法104条2項)
  • 労働組合員であること、労働組合への加入、労働組合の結成、または労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇(労働組合法7条1号)
  • 不当労働行為の救済申立てなどを理由とする解雇(同条4号)
  • 妊娠や出産、産前産後休業の取得などを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条2項、3項)
  • 育児休業または介護休業の申出、取得を理由とする解雇(育児介護休業法10条、16条) など

まとめ

NPO法人においても、従業員を解雇する際には厳しい解雇規制が適用されます。解雇の種類に応じた要件を正しく理解した上で、本当に従業員を解雇してよいかどうかを、代替手段も含めて適切に検討しましょう。

〈プロフィール〉

阿部由羅(あべ・ゆら)

ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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