日本財団ジャーナル

未来のために何ができる?が見つかるメディア

第6回 契約トラブルが発生! NPO法人はどうすべき? 対処法を弁護士が解説

専門家コラム:阿部由羅さん NPOが知っておきたい法律のはなし 第6回. 契約トラブルが発生! NPO法人はどうすべき? 対処法を弁護士が解説

執筆:阿部由羅

NPO法人でも一般企業と同様に、取引相手との間で契約トラブルが生じることがあり得ます。万が一契約トラブルが発生してしまったら、和解交渉や訴訟などを通じて適切な解決を目指しましょう。

本記事では、NPO法人における契約トラブルへの対処法を弁護士が解説します。

NPO法人における契約トラブルのよくあるパターン

NPO法人でも、一般企業と同様に契約トラブルが発生することがあります。特に次のような契約トラブルには、NPO法人が巻き込まれてしまうケースが多数見受けられます。

  1. 購入した物品が不良品だった
  2. 業務委託報酬が支払われない
  3. 相手方の契約違反によって損害が発生した
  4. 入居している物件からの立ち退きを要求された

購入した物品が不良品だった

NPO法人の事業に必要な物品を購入したものの、最初から壊れていたり、事前に説明を受けていた機能を備えていなかったりするケースがあります。

このような場合には、NPO法人は売主に対して「契約不適合責任」を追及できます(民法562条以下)。

具体的には、物品の修補や損害賠償を請求可能です。売主が修補に応じない場合や、修補が不可能である場合には、代金の減額や売買契約の解除が認められることもあります。

業務委託報酬が支払われない

NPO法人が他の事業者から受託した業務を完了したのに、業務委託報酬の支払いが滞ってしまうケースも見受けられます。

業務委託報酬の未払いは「債務不履行」に当たります。NPO法人は委託者に対し、未払いとなっている業務委託報酬のほか、法定利率(=年3パーセント)または約定利率(=契約で定められた利率)による遅延損害金を請求可能です(民法415条1項、419条)。

相手方の契約違反によって損害が発生した

契約の相手方が契約上の義務に違反した結果、NPO法人に損害が生じるケースもあります。

例:

  • NPO法人が主宰するイベントの出演予定者が、直前になって出演をキャンセルした
  • NPO法人の広報業務を委託している取引先が、不適切な内容の広報を行った結果、NPO法人の社会的評判が低下した など

契約違反によってNPO法人が損害を被ったときは、相手方に対して損害賠償を請求することができます(民法415条1項)。

入居している物件からの立ち退きを要求された

NPO法人が入居している物件の賃貸人から、突然立ち退きを要求されるケースも稀に見られます。

建物の賃借人の権利は借地借家法によって強力に保護されているので、原則として立ち退きに応じる必要はありません。

ただし正当の事由がある場合には、契約期間満了時における賃貸人による解約が認められることもあります(借地借家法28条)。また、定期建物賃貸借の場合は、期間満了によって退去しなければなりません(同法38条1項)。

いずれにしても、賃貸人の立ち退き要求へどのように対応すべきかについては、個別の検討を要します。

「契約」と書かれた紙を、真ん中からハサミでカットする、契約破断をイメージした画像
契約トラブルのケースを把握しておくことも速やかな対処につながる

NPO法人における契約トラブルの解決手続き

NPO法人が契約トラブルを解決するための主な手続きは、次のとおりです。

  1. 和解交渉
  2. 民事調停
  3. 訴訟

和解交渉

まずは相手方との間で、契約トラブルの解決策を話し合いましょう。話し合いがまとまれば、早期かつ柔軟な条件でトラブルを解決することができます。

和解交渉で合意が得られたら、その内容を記載した合意書を締結することが大切です。合意書を作成しておけば、トラブル解決の内容が明確化され、後日における紛争再燃の防止につながります。

民事調停

和解交渉がまとまらないときは、民事調停を利用することも選択肢の一つです。

民事調停は、簡易裁判所で行われる紛争解決手続きです。*1

中立である2名の調停委員が、当事者双方から公平に話を聞いた上で、歩み寄りを促すなどして解決をサポートします。民事調停では、当事者同士の和解交渉よりも、論点を整理した上での冷静な話し合いが期待できます。

ただし、民事調停はあくまでも話し合いの手続きで、合意できなければ不成立となります。相手方との間で主張内容が大きく異なる場合は、民事調停を経ずに訴訟を提起した方がよいかもしれません。

訴訟

契約トラブルは、最終的には訴訟で解決することになります。

訴訟は、裁判所で行われる公開の紛争解決手続きです。*2

当事者双方が主張・立証を行い、裁判所が判決によって解決内容を示します。ただし、訴訟の途中で当事者間に和解が成立するケースもあります。

訴訟で勝訴判決が確定すれば、裁判所に強制執行を申し立てて、相手方の財産を強制的に差し押さえることができます。

訴訟は、長期化しやすいのが難点です。NPO法人の経営者や従業員だけで訴訟に対応するのは難しいので、通常は代理人弁護士と協力することになります。

ただし、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り、1回の期日で審理が終わる「少額訴訟」の利用が可能です。*3

イメージ:弁護士と握手する依頼人
場合によっては、法律の専門家に協力してもらうことも検討したい

NPO法人が契約トラブルに対処する際に意識すべきポイント

NPO法人が契約トラブルの解決を図る際には、次のポイントを意識して対応しましょう。

  1. 契約内容についてよく検討する
  2. 解決内容について、目標(ゴール)を設定する
  3. 手続きを適切に使い分ける

契約内容についてよく検討する

契約トラブルの解決指針となるのは、何よりも契約に定められた内容(条項)です。

どのような請求を行うとしても、まずは契約内容に照らしてどのような処理が見込まれるのかをよく検討しましょう。そうすれば、NPO法人側の請求が認められるためには何を主張すべきなのか、どんな証拠が必要なのかなどが見えてきます。

解決内容について、目標(ゴール)を設定する

契約トラブルは、どちらか一方の完全勝利(完全敗北)という形で解決するとは限りません。早期にトラブルを解決する観点からは、中間的な条件で妥協することも有力な選択肢です。

NPO法人としては、契約トラブルの解決に向けて最低限譲れない条件や、優先順位の高い条件などの目標(ゴール)を設定しておくとよいでしょう。適切なゴールを設定しておけば、和解交渉などを行う際の指針となります。

手続きを適切に使い分ける

契約トラブルをスムーズに解決するためには、手続きを適切に使い分けることも大切です。

相手方と建設的な話し合いができそうであれば、和解交渉や民事調停を行い、合意を目指すことが早期解決につながります。

これに対して、相手方との間で大きく主張が食い違っている場合は、話し合いによる解決は難しいでしょう。この場合は、時間の浪費を防ぐなどの観点から、速やかに訴訟を提起した方がよいと考えられます。

必要に応じて弁護士のアドバイスを受けつつ、紛争解決に向けてどのように手続きを進めるべきかをよく検討しましょう。

まとめ

NPO法人においても、事業に関して契約トラブルに巻き込まれるリスクは常に存在します。

契約内容に照らした解決の見通しや、手続きの進め方などを慎重に検討した上で、できる限り早期かつ適切な条件による紛争解決を目指しましょう。

[参考文献]

*1.参考:裁判所「民事調停手続」(外部リンク)

*2.参考:裁判所「民事訴訟」(外部リンク)

*3.参考:裁判所「少額訴訟」(外部リンク)

〈プロフィール〉

阿部由羅(あべ・ゆら)

ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
ゆら総合法律事務所 公式サイト(外部リンク)
阿部由羅 公式X(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。