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南鳥島沖海底に眠る2.3億トンもの海底鉱物資源。そして「暗黒酸素」とは?
- 南鳥島近海で発見された大量の海底鉱物資源。採掘は深海の生態系に影響を及ぼす恐れも。最新の科学とデータを大事にし、慎重なアプローチが必要
- 世の中のどのような物事とも同じように、海底資源採取にもメリットと懸念されるデメリットがある
- 海底資源採取を通して、物事の「光」と「影」のバランスをどのように取るべきか、自分なりに考えるきっかけにしてほしい
取材:日本財団ジャーナル編集部
「レアメタル」とは「希少な金属」の総称で、地球上に存在する量が少ない、または採掘・精製が難しいにもかかわらず、世界的に安定した供給が求められる金属のこと。その中でも17種類の元素グループは「レアアース」と呼ばれています。
これらは私たちの身近な製品に広く使われており、電気自動車やスマートフォン、パソコンなど、数えきれない製品の製造に欠かせません。現代の豊かな生活を支える重要な資源となっています。
しかし今、この資源の採掘・精錬・供給が限られた地域に集中していることや、国際情勢の緊張を背景に、各国が資源を安定的に確保できるのかという懸念が世界で高まっています。
こうした中、日本財団と東京大学大学院工学系研究科は、2024年4月下旬より日本の排他的経済水域(EEZ※)内、特に南鳥島近海で海底鉱物資源の調査を進めてきました。
その結果、この海域にはレアメタルを豊富に含む海底鉱物資源「マンガンノジュール」が推計2.3億トン以上も存在する可能性が明らかになりました。「資源を持たない国」とされてきた日本の常識を覆し、将来の選択肢を大きく広げる発見として、国内外から注目を集めています。
本記事では、この調査プロジェクトに携わる日本財団海洋事業部の海野光行(うんの・みつゆき)常務理事にこの調査結果について話を伺い、日本の未来にどのような可能性をもたらすのかを探ります。
- ※ 「排他的経済水域(EEZ)」とは、沿岸国がその範囲内において、天然資源の探査・開発などを含めた経済的活動についての主権的権利と、海洋の科学的調査、海洋環境の保護・保全等についての管轄権を有する水域のこと

日本の海底に眠る国産レアメタル資源「マンガンノジュール」
――そもそも、海底鉱物資源とはなんでしょうか。
海野さん(以下、敬称略):深海を含む海底に存在する鉱物資源やエネルギー資源のうち、これまで経済的・技術的な理由から、十分に利用されてこなかった資源の総称です。
代表的なものとしては、「レアアース泥(でい)」や「マンガンノジュール」「コバルトリッチクラスト(コバルトを多く含む海底鉱物資源)」、そして海底から熱水が噴き出す場所に金属成分が集積して形成される「海底熱水鉱床(銅、鉛、亜鉛、金、銀などのレアメタルを含有)」などがあります。
――なぜ今、海底鉱物資源が注目されているのでしょうか。
海野:電気自動車や再生可能エネルギー、半導体といった現代社会を支える先端産業には、レアアースをはじめとする鉱物資源が欠かせません。これらは、将来の産業基盤や社会の持続可能性を左右する存在として位置付けられています。
資源の乏しい日本にとって、自国の排他的経済水域(EEZ)内にまだ利用されていない資源が存在することは、極めて大きな意味を持ちます。現在、レアアース市場のほとんどを中国が占めており、供給が滞るリスクは、各国にとって大きな課題となっています。
もし日本が自国で資源を確保できれば、他国への依存度を下げることができます。さらに、実際に採掘するかどうかにかかわらず、「資源が存在すること」、そして「それを採取できる技術があること」を示すだけでも、国際的なビジネスだけでなく、外交上の重要なカードになるといわれています。


資源が開く未来の可能性と環境配慮を探る、3段階の調査
――日本財団は、これまでにどのような調査を行ってきたのでしょうか。
海野:大きく3つのフェーズに分けて調査を進めてきました。
第1フェーズでは、海底にあるマンガンノジュールをどのように回収するか、技術的なシミュレーションを行いました。深い海の底から安全に資源を引き上げる方法や、作業に必要な技術を検討する段階です。
第2フェーズでは、実際に南鳥島周辺の海域に調査船を出し、海底鉱物資源のサンプリングを行いました。回収した資源について、重さや質、含まれるレアアースの量を詳細に調べたほか、放射能の有無など、安全性の確認も行っています。
併せて、資源がどの海域にどの程度分布しているのかを調査した結果、南鳥島周辺ではマンガンノジュールが高い密度で存在していることが明らかになりました。現在までに確認されている資源量を日本の年間消費量に換算すると、コバルトは約75年分以上、ニッケルは約11年分以上に相当することが分かっています。
今回、調査した海域の範囲は、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)のうちおよそ2パーセントに当たります。これは関東平野とほぼ同じ広さです。
――こうした調査結果を踏まえ、現在はどのような段階に入っているのでしょうか。
海野:現在は第3フェーズに入り、将来的な利用を見据えて、環境への影響を予測・評価することに重点を置いて調査を進めています。海底には観測機器を設置し、潮の流れを長期的に測定するとともに、水深5,500~6,000メートルの深海では、遠隔操作の無人潜水機を用いた観察や、深海生物・水質のサンプル採取を行っています。
これにより、資源を採取した際に海底で巻き上がる「プルーム(泥や魚の死骸などの堆積物)」が、周囲の環境や生物にどのような影響を与えるのかを、科学的に明らかにしようと動いています。


1,000万年の深海に眠る奇跡と「暗黒酸素」の謎
――マンガンノジュールは、どのようにして出来たものなのでしょうか。
海野:マンガンノジュールは、核となる物質に金属成分が少しずつ付着し、非常にゆっくりと成長していきます。大人のこぶしほどの大きさになるまでに、およそ1,000万年かかるといわれています。つまり、人間がこの世に誕生する以前から、とてつもなく長い時間をかけて形成されてきたのです。
調査で回収されたマンガンノジュールの一部には、三角形になっているものがあります。これは、「メガロドン」と呼ばれる古代ザメの歯が核になってできたものなんです。サメの骨は時とともに分解されてしまいますが、歯はとても硬いため、深海でも消えずに残ってノジュールの核になったのですね。
――最近、ニュースで話題になった「暗黒酸素」とマンガンノジュールは何か関係があるのでしょうか。
海野:まず「暗黒酸素」とは、太陽の光がまったく届かない深海底で酸素が観測される現象を指します。通常、酸素は植物や海藻、それに植物性プランクトンなどの光合成によって作られますが、光の届かない深海において、マンガンノジュールといった鉱物が関与して酸素が発生している可能性がある、という論文が2024年7月に学術誌で発表されました。
この論文は、私たちがマンガンノジュールの調査を進めている最中に発表されました。酸素の発生源が資源そのものに関係している可能性がある以上、採取した場合に生態系へどのような影響が及ぶのかを、科学的に検証する必要があります。
現在は、「暗黒酸素」の謎についても、スコットランドやアメリカの研究機関と共同で調査研究を進めているところです。

未知の可能性と海洋環境に向き合う、日本財団の多面的なアプローチ
――海底鉱物資源について、日本財団はどのように考えているのでしょうか。
海野:まず優先すべきなのは、採取が環境にどのような影響を及ぼすのかを科学的に明らかにすること。採取の判断は、その結果を踏まえた上で行うべきものです。
環境への影響が十分に検証されないまま進めることについては慎重になるべきです。少なくとも私たちは、科学的な裏付けがない段階で採取に踏み出すべきではないと考えています。
――海底鉱物資源や「暗黒酸素」は、日本や社会にどんな可能性をもたらすと考えていますか。
海野:深海だけでなく、海については、ほとんどのことが未解明だともいわれています。言い換えれば、それだけ未知と可能性が広がっているということです。
「暗黒酸素」のように、深海底では、これまでの常識では想像もできなかった自然現象が存在する可能性が次々と明らかになっています。日本財団として科学を重要視しているからこそ、暗黒酸素のような新たな研究にも目を向けたうえで、商業利用を始める前に、それが海底環境で果たしている役割などを見極めなければならないと考えています。
さらに、いま私たちの判断で商業利用を進めるべきなのか、それとも次の世代に判断を託すべきなのかを判断する上でも、最新の科学に目を向けることは不可欠なプロセスだと考えています。言い換えれば、その時代の感覚や勢いだけでなく、科学に基づいて冷静に判断していくという多面的なアプローチが大切だと考えています。

「無知・無関心・無視」を超えて、未来を考える
――未来の資源利用を考えるとき、環境問題とも向き合う必要があります。私たち一人一人にできることは何でしょうか。
海野:長年、海と向き合う仕事をしてきて感じるのは、海に対して「無知」や「無関心」な人が多いということです。日本は海に囲まれた国ですが、意外と海のことを知らない、考える機会が少ない人も多いのではないでしょうか。
日本財団では、海に関心を持ってもらい、海を未来へ引き継ぐために、さまざまなプロジェクトや情報発信を行ってきました。
「問題がある」「何かよくないことが起きている」と気づいているにもかかわらず、知らないふりをしてしまい、その問題を放置してさらに悪化させてしまうことがある。「無知」や「無関心」以上に、「無視」だけはいけないと思っており、特に子どもたちに知ってほしいと思っています
もう一つ理解してほしいのは、物事には必ず「光と影」があるということ。私たちは何かを評価するとき、どうしてもどちらか一方だけを見て判断しがちですが、本来はメリットとデメリットの両方が存在します。その両面を見た上で物事を考える姿勢が重要です。
例えば今回の調査では、「南鳥島周辺で大量の海底鉱物資源が見つかった」という点が大きく報道されました。すると、「資源が乏しい日本にとって朗報だ」「積極的に採掘を進めるべきだ」という声が出てきます。これは、いわば「光」の部分に注目した見方ですよね。
しかし、必ず「影」の部分もあります。その影が何なのかを、きちんと調べなければなりません。もしかすると、その影が次の世代に影響を与えるかもしれない、環境に影響が及ぶかもしれない。
だからこそ、今の段階で慎重に向き合う必要があるのです。自分がどの立場に立つとしても、そうした現実に思いを巡らせながら、海との向き合い方を考えてもらえたらと思います。

未来の資源活用や環境問題を考えるために、私たち一人一人ができること
海野さんから、未来の資源活用や環境問題を考えるために、社会全体や私たち一人一人ができる3つのアドバイスをいただきました。
[1] 無関心と無知から離れ、自分なりに考えてみる
何事も「知ること」から。今回のような研究発表や、環境問題に関する報道など、気になることがあれば、自ら調べて情報を得る。そして自分なりの意見や考えを導き出してみる。こうした姿勢の積み重ねによって、興味関心の幅が広がり、考える力を養うことができる
[2] 分かっている問題を無視せずに向き合い、行動する
「地球温暖化」「海洋ごみ問題」など環境にまつわる課題の存在を知っている人は多いはず。知って終わりにするのではなく、自身の行動がどのように課題に影響を及ぼしているのかを考え、小さなことから行動に移してみることが大切
[3] 物事の「光と影」を見つめる
新しいテーマや課題に触れたとき、第一印象だけで判断せず、いったん立ち止まり、ニュートラルな視点で見つめ直してみる。そして、その課題にどんな「光と影」があるのかを考える。そうした思考を繰り返すことで、より良い未来を選び取ることにつながっていく
海野さん自身は、海底鉱物資源の商業的な採取について、個人的な考えとして「とても難しい判断になると思う」と語っていました。取材でも話されていたように、マンガンノジュールは、形成されるまでにおよそ1,000万年もかかるといわれています。
一度手を入れた自然は、同じ姿に戻るとは限りません。そう考えると、未知へのときめきを感じる一方で、決して簡単に結論を出してよい問題ではありません。だからこそ、もし手を入れるのであれば、地球環境にどのような影響を及ぼすのかを、あらゆる側面から徹底的に明らかにする必要があるということを、改めて実感させられました。
2026年6月から9月にかけて、2度目となる航海調査が予定されています。今後どのような事実が明らかになるのか、その動向を見つめていきたいところです。
撮影:佐藤潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。