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「72時間」の壁を越えろ――横須賀市消防局が挑む“命をつなぐ重機救助”の最前線

全国的にも新しい試みとなる、横須賀市消防局と横須賀市消防団からなる2つの土砂災害機動部隊(LTF)。写真提供:イカロス出版・JレスキューWeb(外部リンク) 撮影:小貝哲夫―
この記事のPOINT!
  • 横須賀市では、消防局と消防団がより一体となった災害救助活動を行うため重機運用に特化した「土砂災害機動部隊」を発足
  • 発災時の役割を消防局と消防団で明確に分けることで、迅速な救助を可能にした
  • 「公助」に頼るのではなく、自分の身を守る「自助」と隣近所で助け合う「共助」が、災害時には重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

災害が起きたとき、人命救助のタイムリミットは「72時間」といわれています。

一刻も早く助けに向かいたいのに、救助隊の前に立ちはだかるのはがれきや寸断された道路。助けたいのに、たどり着けない。そんな状況が実際に起きています。

2011年の東日本大震災でも、道路復旧が進まず救助活動が遅れたことが大きな課題に。その経験を受け、国や自治体では災害時の救助活動に重機を活用する体制づくりが進められてきました。

しかし、2024年の能登半島地震では、重機を十分に活用するための人材や運用面の課題も指摘されています。人材や技術の不足、運用面の問題などが重なり、現場で力を発揮したのは専門スキルを持つボランティア「プロボノ」たちでした。

もし自分の住むまちで同じことが起きたら……。そんな問いに向き合い、いち早く対策を進めているのが横須賀市です。2023年に消防局内に、2024年には消防団にも「土砂災害機動部隊(LTF)」を発足させました。全国でも珍しい2つの専門部隊が重機を活用し、合同訓練を重ねながら災害への備えを強化しています。

災害は決して“他人ごと”ではありません。本記事では、横須賀市消防局警防課長の福本亨(ふくもと・とおる)さんと総務課長の小山幸男(こやま・ゆきお)さんに、LTF発足の背景や訓練の様子、そして私たち一人ひとりにできる備えについてお話を伺いました。

合同訓練の様子。重機で土砂を掘り起こす消防団LTF隊員と連携し、救助活動を行う消防局LTF。写真提供:イカロス出版・JレスキューWeb(外部リンク) 撮影:小貝哲夫―

2つの専門部隊が連携することによって、迅速な救助が可能になる

――横須賀市では2つの土砂災害機動部隊が発足されていますが、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

福本さん(以下、敬称略):横須賀市が位置する三浦半島は狭い道路や急な斜面が多く、大雨の際には土砂災害が起こりやすい地域として以前から課題となっていました。そのため、以前より重機を用意しておく必要があるのではないかと考えていたんです。

そんな矢先、隣にある逗子市で斜面の崩落が起き、高校生の方が亡くなるという痛ましい事故が起こりました。そういった災害が起きたときに、自分たちの手元に重機を用意しておけば迅速に救助に向かえると改めて痛感したんです。

「早めに用意しなければいけない」、そう考えていたところ、横須賀市消防団で団長をされている方が、建設業を営んでいることもあって2台の重機を寄贈していただくことになりました。

しかし、操縦できる人材なんて当然いません。どの部隊に重機の運用を任せればよいのかも判断がつきませんでした。土砂災害機動部隊となる下地がなかったんです。

そこで予算を確保するために、重機を操縦する訓練ができる場所に最も近い、浦賀の消防隊に土砂災害機動部隊を兼務させることにしたのが始まりです。

――消防局LTFと消防団LTFとでは、どのように役割分担されているのでしょうか?

福本:土砂災害が起こったら、まずは周辺の道路を整備しなければいけません。その対応は、高度な技術を持つ建設業の団長率いる消防団LTFにお願いをして、私たち救助部隊が進入できる経路をつくってもらいます。そこから消防局LTFが現場へと入っていき、人命救助にあたります。

――消防局と消防団が密に連携されているのですね。

福本:それが大きな特徴と感じています。幸いなことに、まだ土砂災害機動部隊の出動を要するような災害は発生しておりませんので、現場での実感はないんですが、それでも訓練を通じて消防局と消防団の距離が縮まっているように感じます。

土砂災害機動部隊を発足したとはいえ、消防局には重機が2台しかない。それでは災害規模によっては対応しきれないですし、これまでは神奈川県内に応援要請をかけるしかなかった。

しかし、これからは消防団と協力し合えるので、より迅速な対応が可能に。また、団長をはじめ、消防団LTFには重機の扱いを専門とする人がたくさんいます。ですので、訓練の際に専門的な操作を教わることができ、局員のスキルアップが図れています。

これから先、災害が起こったとしても上手く連携できると感じていますね。

横須賀市消防局・警防課長の福本さん
本番さながらの救出訓練をする消防局LTF(オレンジの制服)と消防団LTF(青いビブス)の隊員たち。写真提供:東京新聞デジタル2025年9月26日(外部リンク)

現場で活動する若い隊員たちのリアルな声を反映

――重機を扱う訓練はどのように行われているのでしょうか?

福本:個々が技術向上を図るための訓練をしているほか、実際の災害現場を再現した環境下で2つの部隊が連携する総合的な訓練も行っています。

――消防局LTFに所属する隊員さんの声も反映されているのでしょうか?

福本:もちろんです。隊員たちの生の声を隊長が吸い上げて、現場に反映しています。もっとリアルな環境で訓練を積みたいという声があれば、建築現場などから残土やがれきをもらってきて被災地の状況を再現したり、グラウンドを掘り下げて泥濘地(水分を含む土砂)をつくったりして、訓練しています。

そもそも私たちには重機に関する知見がなかったものですから、さまざまなところからご教示いただきながら経験と知識を積み上げている段階です。その過程において、実際に現場で活動する隊員たちの声は非常に重要だと考えています。

しかし、若手の隊員たちが声を上げることは容易ではありません。だからこそ、隊長がしっかり耳を傾ける姿勢が重要だと思います。その点、局内では上下の信頼関係はできていますし、ざっくばらんに話せる関係を築いています。

――横須賀市の反応はいかがですか?

福本:議会の方々は、私たちの活動に理解を示し、応援してくださっています。昨今、日本のあらゆる場所で災害が発生していることもあり、皆さん災害対策への意識が高い。

ですから、土砂災害機動部隊にかける予算についても理解してくださっていて、「これで安心できる」と言っていただけることが多いですね。

小山さん(以下、敬称略):2025年に消防団LTFと合同訓練を行ったのですが、かなりの人数の議員さんも出席してくれました。間近で訓練を目にしたことが、より深い理解につながっているのかもしれません。

横須賀市消防局・総務課長の小山さん
重機で障害物を取り除く消防団LTF隊員。写真提供:東京新聞デジタル2025年9月26日(外部リンク)

大切なのは「自助・共助・公助」という考え方

――一般市民の方々への周知活動は力を入れているのでしょうか?

福本:そうですね。おかげさまで大きな災害が発生していないこともあり、市民の方々が重機のメリットを実感する機会がないのが現状です。だから、例えば消防パレードなどを行う際には重機も加えて、広く地域にアピールすることにも取り組んでいきたいと考えています。

小山:今後は一般公開を積極的に行っていきたいと。小学生を対象にしたイベントなどで重機を披露していけたらいいな、と考えています。

福本:さらにSNSでの発信も強化し、広く知っていただく機会をつくっていくつもりです。

――改めて、各自治体に重機を整備する重要性をどのように考えていらっしゃいますか。

福本:先ほども申し上げたように、横須賀市の地形的な特性を考えますと、土砂災害が発生したときに重機は必要だろうと考えていたんです。人手による作業よりも重機を使ったほうが、多くの命を救える可能性が高まりますから。それは他の自治体にも通ずることかもしれません。

また、横須賀市は狭くて急峻な地形が多いこともあり、小型重機も採用しています。そんなふうに地形に合わせて、臨機応変に整備しておくことは重要かもしれません。

――最後に、私たち一人一人が自分の身を守るために大切な考え方を聞かせてください。

福本:「自助・共助・公助」という言葉があります。発災時、消防のような「公助」はどうしても発動させるのに時間がかかってしまう。だからこそ、まずは自分で自分の身を守る「自助」、そして隣近所で助け合う「共助」が大切ではないかと。

日頃からそれを意識してもらいながら、例えば津波が発生したときにはどこへ逃げればいいのか、家族がバラバラになったら連絡手段はどうするのか、食料はどのように備蓄しておくのか、地域の皆さんにも危機感を持って考えていただけると、より多くの方の命を守ることができると考えます。

YOKOSUKA消防パレードの様子。画像提供:横須賀市観光情報

災害発生時に1つでも多くの命を守るために、私たち一人一人にできること

発災時、被害を最小限に抑えるために、私たち一人一人に何ができるのか。福本さん、小山さんに教えていただきました。

[1]自分の身は自分で守る

発災時、まずは自分の身を自分で守れるようにしておくことが大切。そのためにも事前の防災シミュレーションをしておくとともに、それを家族や身近な人に共有しておく

[2]地域で助け合う精神を持つ

長く続く避難生活のなかでは、周囲の人と連携し助け合う精神が大切。足りないものを補い合い、ともに命をつないでいくことで、より多くの人が救われる

[3]普段から災害に備えて準備をしておく

災害が起こったら少しでも冷静になれるよう、避難の流れ、連絡手段の確保、備蓄の用意などは日頃から心がけておくこと

全国でも類を見ない土砂災害機動部隊を発足させた横須賀市消防局は、人命救助に対してとても熱く、真摯な思いを抱いていることが分かりました。

しかし、発災時、彼らが助けに来てくれることを待つだけではいけません。大事なのは一人一人が、「自分の身を守る」という意識を持つこと。改めて、そんな基本的なことを思い出させてくれる取材となりました。

撮影;十河英三郎

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