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高齢者の賃貸借契約にはなぜ壁がある? 「住まいの不安」を払拭する取り組みとは
- 高齢者が賃貸住宅を借りにくい背景には保証人、孤独死、認知症への不安がある
- 高齢者の住まい相談は「福祉」と「住宅」のはざまで支援が届きにくい現状がある
- 居住支援協議会や見守りサービスなど、民間や自治体による支援の仕組みづくりが進んでいる
取材:日本財団ジャーナル編集部
高齢者が賃貸住宅を借りようとすると、「家賃を払い続けられるのか」「保証人を確保できるのか」「孤独死や緊急時にどう対応するのか」といった不安から、入居を慎重に判断されるケースがあるといいます。
背景には、貸す側、借りる側の双方が抱える事情や不安があります。日本は超高齢社会であり、住まいの問題は、誰にとっても無関係ではありません。
こうした課題に対し、家賃債務保証や居住支援協議会への支援などを通じて、高齢者を含む「住宅確保要配慮者」の居住支援に取り組んでいるのが、一般財団法人高齢者住宅財団(外部リンク)です。
今回は、同財団の金浜貴行(かねはま・たかゆき)さん、榊原潤(さかきばら・じゅん)さんに、高齢者が住まいを借りにくくなる背景や、貸主側が抱える課題、さらに自治体や民間と連携した支援の仕組みについて伺いました。
なぜ高齢者は賃貸住宅を借りにくいのか?
――高齢者住宅財団の活動内容について教えてください。
榊原さん(以下、敬称略):高齢化が社会課題として顕在化し始めた1993年に設立されました。当初はUR(都市再生機構)のシニア向け住宅の管理運営がメインでしたが、現在はそれに加えて高齢社会における住まいと福祉のあり方を幅広く支援しています。
具体的には、高齢者が安心して暮らせる住環境や地域づくりのための調査研究を行っています。あわせて、自治体の担当者や事業者、生活援助員らを対象として研修を行い、人材育成にも取り組んでいます。
ほかにも、財団ウェブサイトやメールマガジン等を通じての高齢者住宅政策や福祉施策の情報を発信し、現場で支援に関わる人々への情報提供を行っています。
金浜さん(以下、敬称略):2001年に国土交通大臣から「高齢者居住支援センター」の指定を受け、高齢者世帯をはじめ、障害者世帯や子育て世帯、外国人世帯など、住まいの確保に課題を抱えやすい方々の入居支援も行っています。
その1つが、民間賃貸住宅を借りる際の「家賃債務保証」です。家賃滞納時の保証や原状回復費用、訴訟費用などを保証することで、連帯保証人の役割を担い、入居しやすくなるよう支援しています。
また、高齢者施設へ入居する際の持ち物の整理や、遺品整理、ごみ屋敷の片付けといった家財整理にまつわるお悩みの相談窓口も設けています。
――各種メディアでも高齢者が賃貸借契約を結びにくいという話題が取り上げられる機会が増えていますが、現状について教えてください。
金浜:2021年に国土交通省が実施した家主を対象にしたアンケートでは、高齢者の入居に対して約7割が一定の抵抗感を示しています。その背景には、家賃滞納への不安や、認知症による近隣トラブル、火災リスクなどへの懸念に加え、孤独死が起きた際の対応や、その後に事故物件として扱われることを不安視する声もあります。
一般社団法人日本少額短期保険協会が2025年12月に発表したレポート(※1)によると、孤独死は発見まで平均19日ほどかかるというデータがあるほか、なかには1年以上発見されないケースもあります。そうした現実が、貸主側の心理的なハードルにつながっているのは確かです。
ただ、家主自身は必ずしも「高齢者だから断りたい」と考えているわけではありません。実際には、不動産会社や管理会社が「トラブル対応まで手が回らない」と判断し、入居相談の段階で断ってしまうケースも少なくないのです。
榊原:現在の賃貸契約では、約9割の物件で保証会社が利用されていますが、実はこの仕組みが高齢者にとって大きな壁になることがあります。
保証会社の審査では、一般的に年齢や職業、収入、クレジットカードの利用履歴などがスコア化されます。
例えば、公務員は比較的高い評価を受けやすい一方で、どれだけ多額の預貯金があったとしても、「80代で収入源が年金のみ」といった場合は、審査において不利になりやすい傾向にあります。
また、高齢の方には現金主義でクレジットカードを持たない人も少なくありません。しかし審査のシステム上、カードの利用歴がないと、過去に金融事故を起こして信用情報が確認できない人と同じように見なされてしまい、結果として審査に通りにくくなるケースがあるのです。
金浜:行政側においても、高齢者の住まいに関するニーズを把握しきれていないという課題があります。そもそも、多くの自治体には「住まいに特化した相談窓口」が存在しません。
高齢者支援の主幹は福祉課ですが、その対応領域は医療や介護が中心です。そのため、住まいの相談を持ちかけても住宅課へ案内されることになります。
ところが、住宅課が管轄しているのはあくまで公営住宅です。戸数や応募期間が限られている上、「エレベーターなしの5階の部屋しか空いていない」といったケースもあり、根本的な解決につながらないことが多々あります。
その結果、地域包括支援センターの職員などが、個人的なつながりや善意で不動産会社を探すといった、属人的な対応によって現場が支えられているのが実情です。

「福祉」と「住宅」のはざまで起きる支援の空白
――不動産会社が高齢者の入居に慎重になるのは、なぜなのでしょうか。
金浜:空室によって家賃収入が減るのは家主であるため、不動産会社が直接的な損害を受けるわけではありません。それでも、「多少空室が続いたとしても、トラブルのリスクは避けたい」と考える不動産会社もあるのが現状です。
特に低価格帯の物件は、仲介手数料や管理手数料も低額に設定されています。そのため、入居後のトラブル対応や問い合わせにかかる手間を考慮すると、収益とのバランスが取れないと判断されるケースが少なくありません。
また、入居後に認知症を発症した際に「どこに相談すればよいのか分からない」と戸惑う不動産会社も多く見受けられます。居住支援法人や行政による福祉サービスの存在自体が、不動産業界内で十分に認知されていないことも要因の1つでしょう。
そして何よりも大きいのは、家主との関係性です。不動産会社の主な収入源は家主からの管理委託手数料であるため、「家主からのクレームは極力避けたい」という意識が強く働いているのだと思います。
――実際に、高齢者の入居によるトラブルはあるのでしょうか。
榊原:最も身近なのは、生活音に関するトラブルです。
例えば、耳が遠くなったことでテレビやラジオの音量が大きくなり、近隣から苦情が寄せられるケースがあります。反対に、高齢者側が夜遅くに帰宅する若い世代の生活音を気にしてしまうことも少なくありません。
また、認知症の症状が出始めると、以前は気にならなかったドアの開閉音などに敏感になったり、これまでとは違う行動が見られたりして、近隣トラブルに発展することもあります。
実際、高齢者とほかの入居者とのトラブルがきっかけで、別の住人が退去してしまったという事例も聞いています。家主にとって、こうしたトラブルによる経営への影響は決して小さくありません。
その結果、高齢者を紹介した不動産会社が、家主から「なぜあんな人を紹介したのか」「大丈夫だと言うから入居させたのに」と責任を追及される事態にもなり得ます。
不動産会社は、こうした精神的な負担や責任問題を避けるために、窓口の段階で高齢者の入居に慎重になってしまうのです。
――自治体や民間企業など、こうした取り組みに協力的な動きはありますか。
金浜:令和6年の住宅セーフティネット法(※2)の改正により、居住支援協議会の設立は自治体の努力義務となり、全国の市区町村で設置が進められています。現在、全国で約160の協議会が設立されており、2035年までに人口カバー率90パーセントを目指しています。
協議会では、住まいに関する相談窓口の設置や、不動産会社、福祉関係者など地域のプレーヤーが連携できる体制づくりが行われています。また、高齢者や障害者などの住まい探しを支援する「居住支援法人」も全国に約1,100〜1,200あり、NPOをはじめさまざまな団体が活動しています。
民間の不動産事業者の中にも、「見守りサービス」の導入など、高齢者を受け入れるための取り組みが広がり始めています。
例えば、室内センサーや電力メーターなどを活用し、一定時間生活反応が確認できない場合に通知が届く仕組みです。異変があった際には、警備会社が駆けつけたり、登録された家族へ連絡が入ったりするサービスもあります。
孤独死が発生した際の原状回復費用や、空室期間の損失などを補償する「孤独死保険」を活用する事業者も出てきています。こうした仕組みによって、家主や不動産会社の不安軽減につなげようという動きです。
また、「R65不動産」(※3)のように、65歳以上の部屋探しを専門に支援する事業者も出てきています。こうした取り組みが広がっていけば、高齢者を受け入れる環境も少しずつ変わっていくのではないかと思います。
人口減少が進むなかで、若い世代だけを対象にした賃貸経営は今後ますます難しくなっていくでしょう。特に築年数が経過した物件では、高齢者を「断る対象」ではなく、重要な入居者層として捉え直そうとする不動産会社も増え始めています。
ただし、地域差もあります。西日本のほうが居住支援の動きが活発な傾向がある一方で、協議会が設立されていても、実際には年1回の総会だけにとどまり、十分に機能していないケースもあります。
今後は、制度をつくるだけでなく、地域の中で実際に機能する支援体制をどう築くかが課題だと感じています。

高齢になっても住む場所に困らない社会をつくりたい
――高齢者の住まいの課題を放置すると、今後どのような影響があると考えていますか。
榊原:高齢者が賃貸住宅を借りにくい状況が続くと、現在の住まいが合わなくなっても、住み替えができない人が増えていくと考えています。
例えば、子どもが独立したり、配偶者に先立たれたりしても、世帯人数に合わない広い住宅に住み続けざるを得ないケースがあります。1人暮らしになった後も、4LDKの戸建てに住み続け、高い家賃や維持費を負担している方も少なくありません。
身体機能が低下しても、2階建て住宅に住み続けざるを得ず、不自由な生活を送るケースもあります。実際に、2階へ上がれなくなり、庭に洗濯機を置いて生活している方もいます。
こうした状況が続けば、貯蓄を使い果たし、最終的に生活保護を受給しながら転居を余儀なくされるケースも増えていく可能性があります。孤独死の増加など、社会的な負担にもつながっていくと考えています。
この問題は、不動産業界にとっても無関係ではありません。人口減少が進むなかで、高齢者を避け続けながら賃貸経営を成り立たせることは、一部の新築物件や高額物件を除けば、今後ますます難しくなっていくでしょう。特に築年数が経過した物件ほど、高齢者の受け入れが重要になっていくと考えています。
適切な住み替え支援の仕組みが整わなければ、本来はまだ活用できた住宅が流通せず、放置されるケースも増えていくでしょう。
高齢になっても住む場所に困らない未来のために、私たち一人一人ができること
高齢になっても住まいに困らない社会のために、私たち一人一人にできることを金浜さん、榊原さんに伺いました。
[1]「いざというときに連絡できる人」をつくっておく
家族をはじめ、困ったときに連絡が取れる相手がいるだけで、保証会社や不動産会社に対する緊急連絡先の設定などの将来の住まい探しのハードルが下がることもある
[2]日常の中で「ゆるやかなつながり」を増やす
行きつけのお店の人と会話をする、近所の人とあいさつを交わすなど、深い関係でなくても、人と関わる機会を持つことが重要
「高齢者が家を借りにくい」というニュースを見ても、どこか遠い問題のように感じていた人もいるかもしれません。しかし、誰もが必ず年齢を重ねます。家族構成や健康状態、働き方が変わったとき、「住み替えたいのに借りられない」という状況は、決して他人ごとではありません。
住まいの不安を減らす仕組みをどうつくるのか。それは高齢者支援というだけでなく、将来、自分自身や家族が安心して暮らし続けられる社会をどうつくるかということでもあるのだと感じました。
撮影:佐藤潮
- ※ 1.出典:第10回 孤独死現状レポート(2025年10月)|日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会(外部リンク/PDF)
- ※ 2.誰もが安心して賃貸住宅に居住できる社会の実現を目指して、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律。出典:住宅:住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~ – 国土交通省(外部リンク)
- ※ 3.R65不動産 公式サイト(外部リンク)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。