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ALTって、Xで140字以上書ける裏技……ではない! SNSから考えるウェブアクセシビリティ入門
- 「代替テキスト」とは、画像の内容を文字で簡潔に説明するための機能のこと
- スクリーンリーダーを利用するユーザーにとって、長文や関係のない代替テキストは負担であり、情報収集の妨げになる
- 障害の有無や災害時といった環境を問わず、全ての人が情報を受け取るにはウェブアクセシビリティの確保が不可欠
執筆:斎藤充博
こんにちは。ライターの斎藤充博(さいとう・みつひろ)です。本日はKINTOテクノロジーズ株式会社(外部リンク)に来ています。
というのも、最近X(旧 Twitter)でこんな議論を見かけたのです。
「XのALTって、好き勝手に文字を入れてはいけないの?(※1)」
Xに投稿された画像って、左下に「ALT」や「代替」という表示がついているものもありますよね。そこをタップすると出てくる文章が代替テキストです。Xの投稿は140字までしか入らないですが、代替テキストにはかなりたくさんの文章が入ります。

ここに140字に入れられなかった文字や、「隠しテキスト」のような形で文字を入れる行為が、一部のユーザー間に浸透しています。
この使い方って、正しいのでしょうか? そもそも、ALTってなんのための機能なんでしょうか?
この疑問をKINTOテクノロジーズ株式会社のアクセシビリティアドボケート(アクセシビリティを社内文化にする仕事)である辻勝利(つじ・かつとし)さんに伺いにきたというわけです。


斎藤:今日はよろしくお願いします!
辻:よろしくお願いします。なんでも聞いてくださいね。
そもそもALTって何?
斎藤:今日は「XのALT」にいろいろな文字を入れてしまう問題についてお伺いしたいのですが……。そもそもALTってなんなのでしょうか。まずはそこから解説をお願いできますか。
辻:ALTとは、ウェブコンテンツの中で「画像でしか表現されていないもの」を文字で簡潔に説明するためのものです。
斎藤:画像でしか表現されていないもの……? どういうことでしょう。
辻:例えば、Xのポストの本文には「かわいい!」とだけ書いてあって、そこに画像が1枚ついているとします。
さまざまな事情で画像が見えない状況だと「なにがかわいいんだろう?」と思ってしまいますよね。つまり、画像がないとこのポストはコンテンツとして成立していないわけです。
そこでALTに「猫の写真」と文字で入れると「ああ、猫がかわいいんだな」と理解できます。
斎藤:なるほど。すると、XのALTに140字で収まりきらなかった文字を入れたり、隠しテキストのようなものを入れたりするのは、本来の使い方とはちょっと違うんですね。
辻:そうですね。ALT本来の役割から考えると、少しずれた使い方になってしまうと思います。
目の見えない人は「スクリーンリーダー」を使ってインターネットを利用している
斎藤:実際に辻さんはどのようにXを使っているんでしょうか。
辻:スマホを使うときは「スクリーンリーダー」という機能を使って画面の文字やALTなどを読み上げててもらいます。iPhoneでは「VoiceOver(※2)」という名称で提供されていますね。
斎藤:試しに日本財団のXの投稿をスクリーンリーダーに読んでもらいます。
斎藤:本文だけじゃなくて、アカウント名とか、投稿時間とか、返信が付いているとか、いろいろな情報を読み上げるんですね。
辻:そうなんです。1つのポストを聞くだけで、結構、時間がかかりますよね。それに、なんと言いますか……、情報として「お腹いっぱい」になる感じがしませんか。
斎藤:実はそう思っていました(笑)。聞くのがちょっとめんどくさいな~って。
辻:そうですよね。ここにさらに「Xの140字に入りきらなかった長文のALT」が入ってくると、困ってしまうわけです。
斎藤:スクリーンリーダーを使うときって、毎回こんなふうに最初から最後まで読み上げられることになるんでしょうか。すごく時間がかかりそうですね。

辻:基本的にはそうなんです。ただ、ウェブページって「見出し」が設定されていますよね。見出しを抽出して、気になるところだけを読むということも多いです。また、本文で「改行」が入っている文章は、ちょっと聞いて興味がなかったら、次の改行まで飛ばすというようなこともします。
斎藤:ある意味「ザッと見る」に近いことができるんですね。
辻:そうですね。ただ、ALTに関しては見出しの設定はもちろん、改行の設定を入れることもできません。だから、ALTを付与されたものはスクリーンリーダーでずっと聞き続けることになります。
斎藤:そうか、そもそも長文を入れるようなことが想定されていないんですね。
辻:はい。ALTはなんでも入れることができる「魔法の箱」ではないわけです。
……それにね、これは私が古い人間だからかもしれませんが、Xは140字までだから、それに収めるように書くべきだと思うんです。そこに美しさがあるというか、ねぇ……(笑)。
斎藤:僕も2009年からの古参Twitterユーザーなので、めっちゃ分かります(笑)!
ALTは短く、簡潔に!
斎藤:では、ALTはどのように使えばいいのでしょうか。具体的な書き方などを教えていただけるとありがたいです。
辻:まず「本文」と「ALT」を区別して考えることが大切だと思います。ALTに入れるのは、あくまでも画像の簡潔な説明にとどめる。自分の気持ちや詳細な説明は本文に入れるという使い方がいいでしょう。本文なら改行も使えますし……。
斎藤:そこまで難しい話でもないですね。
辻:シンプルに考えてもらえたらと思います。逆に難しく考えすぎて、ALTを聞く人の負担になっているようなケースもあるんです。特に「目の見えない人向けに画像の全てを説明しよう」と意気込んで、長文のALTを設定してしまうのは注意してほしいですね。書いている人は良かれと思ってやっているだけに、聞くのが大変なことにはなかなか気づけません。
ちなみに、最近ではALTを設定していなくてもスクリーンリーダーに搭載されたAIが画像の説明をしてくれることもあります。正直なところ、長いALTを聞くよりもAIが要約してくれた説明のほうが聞きやすい、なんてこともありますね。

斎藤:ここまでの話をまとめると、以下のような感じですかね。
・本文とALTを区別する
・ALTは短く簡潔に
「ALTを本来の用途以外に使わない」ってことを心がければ大丈夫そうですね。
辻:はい。「ALTは公共のスペース」だと考えてみてください。例えば、公園の階段横のスロープを使って遊ぶのはよくないというのは誰だって分かりますよね。
斎藤:分かりやすいです。ALTを必要としている人のことを想像することが重要そうですね。
「ウェブアクセシビリティ」とは情報を届ける手段を増やすこと
斎藤:辻さんはウェブアクセシビリティ基盤委員会のメンバーとお伺いしています。先ほど聞いたような考え方もウェブアクセシビリティの一部ですよね。せっかくなので、そもそも「ウェブアクセシビリティとは何か?」 について教えていただけますでしょうか。

辻:ウェブアクセシビリティっていろいろ難しく考えてしまう人も多いと思うのですが、一言でいうと「情報を届けるための選択肢を増やすこと」だと思います。
斎藤:選択肢を増やす……?
辻:ウェブのコンテンツって、画面が見えて、動きのあるコンテンツにワクワクして、音が聞こえて……みたいに思っている人は多いと思うんです。
だけど実際には、スクリーンリーダーを使っているかもしれないし、音が聞こえないかもしれない。強い光の点滅があったら発作を起こしちゃう人がいるかもしれない。想像している以上にさまざまな人が見ています。
そういう人たちにとっても、情報が意味のあるものとして届くための選択肢を複数つくるのが、ウェブアクセシビリティだと思っています。
斎藤:いわゆる「障害者対応」のようなイメージでいましたが、ちょっとイメージが違いますね。
辻:それは半分合っていて、半分間違っています。例えば「やさしい日本語(※3)」ってありますよね。
斎藤:見たことがあります。自治体の発信でよく使われている印象です。
辻:あれを使えば、日本語が母語ではない人だけでなく、難しい言葉が分からない子どもにも伝わります。情報が伝わる人が増えるわけです。アクセシビリティの1つと捉えてもいいでしょう。
斎藤:それなら、ちょっと前の自治体のウェブサイトって、パソコンのブラウザで見ることが前提になっていて、スマホだと見づらいものが多かったです。スマホからの閲覧に対応することも広い意味ではアクセシビリティになりますか。
辻:僕はなると思いますよ。いま挙げたような例も、実はガイドラインの中で部分的に触れられているものがあります。ただ、ガイドラインを読むだけではなかなか気づきにくいんですよね。だけど「情報を届けるための選択肢を増やす」と考えると、自然とこういう発想も出てきますよね。
みんなに情報を届けられないと困る場面はたくさんある

斎藤:「情報を届けるための選択肢を増やすこと」にはどんな意味があるのでしょうか。
辻:例えば、病院って現在はウェブサイトからの予約が事実上必須なこともありますよね。そこにアクセスできない人は、どうすればいいでしょう。
斎藤:そうか……、アクセシビリティが確保されていないと、病院にかかれない人も出てきてしまうわけですね。
辻:実際は窓口に行けば受診できると思うのですが「ウェブサイトからの予約がない人は数時間後になります」なんてことを言われることもあります。
斎藤:そういうこと、実際にありますね。僕も経験したことがあります。
辻:さきほど自治体の話が出ましたが、自治体がウェブサイトで公開している情報って、PDFやExcelファイルが置いてあるだけのものが多かったんですよ。2011年の東日本大震災の時も、こうしたかたちで避難情報や被害情報がアップされていました。
このような発信方法は見られる人が限られてしまいます。あのときはネットの速度制限もかかっていて、そうしたファイルをダウンロードすることさえできない人がたくさんいました。
ですから、ウェブアクセシビリティは命に関わることもあるんです。
斎藤:命に関わる……!
辻:そこで、「誰でも読みやすいテキスト情報をTwitterにアップしよう」という、有志による流れができました。それが僕みたいにスクリーンリーダーを使う人間にもアクセスしやすい情報としてすごく役に立ったんですよ。
斎藤:僕もあの時のことは覚えています。不安ななか、さまざまな情報がシンプルな文字の形でTwitterに流れていて、すごく助かりました。
「発信するならいろいろな人に届いてほしい」
斎藤:特にウェブに関わる仕事をしていない、SNSを利用するくらいの人は、ウェブアクセシビリティをどのように考えていけばいいでしょうか。
辻:「自分が出す情報を必要としている人はたくさんいるかもしれない」ってことを常に考えてみてください。それに、情報をどうせ発信するのなら、いろいろな人に届いてほしいじゃないですか。それを実現するのがウェブアクセシビリティです。
斎藤:僕もライターとして、自分の書いたものはいろんな人に届いてほしいですが……。ライターじゃない人だって多分そうですよね。
辻:誤解されがちなのが、ウェブアクセシビリティには「ゴールがある」って思われがちなことです。実はウェブアクセシビリティの確保ってスタートでしかないんですよね。情報を受け取った人がどう判断して、その人の生活がどのように変わるか。それがストーリーとして完結して、初めて情報を発信することのゴールにたどり着くんです。
斎藤:情報があらゆる環境にいる読者に届くよう、さまざまな選択肢を用意しておく。そして、その情報を受け取った人の生活が少しでも良い方向に変わっていく。それこそが、私たちがインターネットで文字を書いて発信することの本質という気がしました。今日はありがとうございました!
ウェブアクセシビリティの概念を正しく伝えていくために私たち一人一人にできること
ウェブアクセシビリティの概念を正しく伝えていくために、私たち一人一人にできることを辻さんに伺いました。
[1]ウェブアクセシビリティ導入ガイドブックに目を通す
まずは、どのような状況でウェブアクセシビリティが重要になるのか、デジタル庁が発行しているウェブアクセシビリティ導入ガイドブック(外部リンク)を参考にし、ウェブアクセシビリティという概念を知る入口にする
[2]情報を届ける相手(ユーザー)をちゃんと想像し、見ること
全てを説明しようとするALTはむしろ不適当。どのようなユーザーが、どのように利用しているのか知ったり、想像したりして、情報発信方法を考えることが重要
今回の取材を通じて、同じ情報でも届け方ひとつで、受け取れる人の数が大きく変わるのだと気づかされました。そして、その届け方は、実際に使っている人の声を聞いて初めて見えてくるものでもあります。
発信した情報が、取りこぼされることなく一人でも多くの人に届くよう、さまざまな立場や状況の人の声に耳を傾けることが大切だと感じました。
撮影:永西永実
- ※ 1.XのALTはHTMLのalt属性(=代替テキスト)に由来する。alt は「alternative(代わりの)」の略。会話では「オルト」と読まれることも多いが、正確な呼称は「alt属性」、もしくは「代替テキスト」
- ※ 2.Androidでは「TalkBack」という名称で提供
- ※ 3.「土足厳禁」→「靴を脱いでください」のように、文法・言葉のレベルや文章の長さに配慮し、分かりやすくした日本語のこと。もともとは日本語が母語ではない人に正しい情報を伝えるための取り組み。参考:「やさしい日本語」とは | 東京都多文化共生ポータル(外部リンク)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。