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聞こえない子どもたちに、学びの選択肢を
— 担当するプロジェクトは?
障害インクルージョンチームに所属し、主に東南アジア地域における、障害者支援を担当しています。特に、ろう者・難聴が手話で学べる環境を整える事業に力を入れており、私自身もろう当事者として、この分野に携わっています。
この事業では、現地の音声言語の読み書きと手話の両方で学ぶ「バイリンガルろう教育」の普及に取り組んでいます。学校の設立支援や教員の育成、教材開発、運営体制づくりまで、教育の基盤を包括的に支援しています。子どもたちが自分の国の言語で学び、将来につながる力を身につけられる環境を整えることが目的です。
また、兼務をしているグローバル・イシューチームの一員として、アジア各国の財団や支援団体と連携し、アジア発の課題解決を進めるためのネットワークづくりにも関わっています。年に一度開催されるアジアフィランソロピー会議では、事務局を担当しています。

ロールモデルとの出会いが、未来を変える
— 東南アジア地域におけるバイリンガルろう教育について教えてください。
バイリンガルろう教育とは、現地の手話と、音声言語の読み書きを両立して学ぶ教育方法です。例えば、ベトナムではベトナム手話とベトナム語、ラオスではラオス手話とラオス語というように、それぞれの国の言語環境に根ざした形で学びます。
これまで多くの地域では、聞こえない子どもたちに対して、発話や読唇を中心とした口話教育が行われてきました。その結果、授業内容を十分に理解できず、進級試験に合格できず、中途退学につながるケースも少なくありませんでした。
2000年には、ベトナムでアジア初となる手話教育の中学校モデル校を開設し、その後、小学校・高校・大学へと順次拡大しました。手話と読み書きの両方で学べる環境を整えたことで、それまで中学を卒業できなかったろう者が、高校や大学へと進学できるようになりました。大学には教員養成コースも設けられ、卒業生が教員資格を取得し、次の世代を教える立場になるという好循環も生まれています。
これまで、ろうの子どもたちは、同じろうの先生に出会う機会がほとんどありませんでした。同じ立場の先生と出会うことで、「自分も先生になれるかもしれない」と将来を思い描けるようになり、悩みを相談できる存在にもなっています。現在は、このベトナムでの取り組みをもとに、フィリピンやラオス、インドネシアへと展開しています。

目的を見失った高校時代、そして気づき
— 日本財団に入会した経緯はなんですか?
私自身、日本財団の奨学金を受けて、アメリカの大学に留学した経験があります。留学したのは、自分と同じようなろう者や難聴の子どもたちが、十分な教育を受けられる環境をつくりたいと考えたからと、それを手話で学べる大学があったからです。
高校時代は地域の学校に通っていましたが、音声のみで進む授業についていくのが難しくなり、将来に不安を感じていました。正直、何のために学んでいるのか分からなくなり、目的を見失っていた時期もあります。
そんなときに、ガーナで暮らす兄弟を特集したドキュメンタリー番組を見ました。父親はおらず、母親は病床にあり、当時は社会保障制度もなく、兄弟が家計を支えるために学校へ行かず働いていました。学校に通えない子ども達がいる現実に衝撃を受けるとともに、同じ状況のろう児や難聴児はどうしているのだろうと強く疑問を抱きました。同時に、学校は勉強だけでなく、人との関わりや社会性、人としての土台を育む場所なのだと改めて実感しました。その経験をきっかけに、特にろう児・難聴児の将来につながる教育支援に関わりたいという思いが強くなり、留学を決意しました。
留学からの帰国後、日本財団で長年ろう者支援に取り組んでこられた方にお声がけいただき、ろう者の支援事業に関わるようになりました。実際の取り組みを知る中で、この分野に長く携わりたいと考えるようになり、日本財団に入会しました。

支援を受けた人が、社会のリーダーに
— 日本財団の仕事のやりがいは?
日本財団の仕事のやりがいは、支援が人の成長につながり、その先で社会を動かしている姿を実感できることです。
国際会議やイベントの場で、過去に日本財団の奨学金などの支援を受けた方々と再会することがあります。かつて支援を受けていた方が、今では社会を変えるリーダーとして活躍している。その姿に触れるたびに、支援が次の世代へと確かにつながっていることを感じます。デフリンピックや世界ろう者会議などの国際的な場で再会することもあり、その積み重ねに大きなやりがいを感じています。
日本財団には、「みんながみんなを支える社会」という理念があります。一方的に支える、支えられる関係ではなく、互いに支え合う社会を目指すという考え方が、こうした現場の実感と重なっています。入会して7年目になりますが、これからも同じ志を持つ仲間と出会いながら、社会を動かす輪をさらに広げていきたいと考えています。
— 今後の目標はありますか?
今後の目標は、東南アジア地域における、ろう児・難聴児への教育支援を、個別の取り組みから地域全体で機能する仕組みへと発展させることです。
これまで、東南アジア地域でいくつかのモデル事業を立ち上げてきましたが、多くは個別の「点」にとどまり、十分につながっていないという課題を感じてきました。そこで、今後はこうした取り組みを「点」から「面」へと広げ、地域全体で支え合える体制をつくっていきたいと考えています。
政府関係者や現地の当事者団体とも連携しながら、支援のネットワークを強化し、より持続可能な形で展開していく。その先に、東南アジア地域全体で、ろう・難聴の子どもたちが安心して学べる環境を整えることを目指しています。

子どもたちに届けたい未来
障害の有無や家庭環境に左右されることなく、だれもが学び、夢を持ち、自分の可能性を信じられる環境を整えたい。
— 自身の仕事・プロジェクトを通じて子どもたちにどんな未来を届けたいですか?
子どもたち一人ひとりが、「なりたい自分」を思い描き、その実現に向かって挑戦できる社会を届けたいと考えています。
障害の有無や家庭環境に左右されることなく、誰もが学び、夢を持ち、自分の可能性を信じられる環境を整えることが大切だと思っています。
教育の選択肢を広げ、安心して成長できる土台をつくることで、将来の選択肢も自然と広がっていきます。子どもたちが自分らしい人生を主体的に選び取れるよう、これからも現場に寄り添いながら支援を続けていきたいです。
