Voice
現場の声を踏まえ、支援の形を組み立てる
— 担当するプロジェクトは?
災害発生時の緊急助成と、防災に関する取り組みを担当しています。
災害が起きると、現地で何か力になりたいと考える方が多くいらっしゃいますが、自費で長期間活動を続けることは簡単ではありません。そこで交通費や人件費など、活動に必要な資金をNPOや社会福祉法人、一般社団法人などに助成し、継続的な活動が行える環境を整えています。申請内容を一つひとつ確認し、被災地域にとって本当に必要な支援かどうかを見極めながら審査を行っています。
2024年1月の能登半島地震では、現地対応と並行して審査を続ける中で、同年9月には豪雨災害も発生し、慌ただしい日々が続きました。現地に職員が駐在し各地域に足を運び、住民の方々や支援団体と対話を重ねながら、今必要とされている支援を考え続けていました。
— 日本財団の災害支援とは?
最も重視しているのは、初動の速さですが、そのために発災前からの地域での備えにも力を入れています。発災時には申請が届き次第、可能な限り迅速に審査を行い、必要な場所へ資金を届けることを大切にしていますし、現地に赴き、住民や支援団体と直接対話しながら、支援の形を組み立てていくことが、日本財団の災害支援の特徴です。

人が自然と集まり、安心して過ごせる居場所を
— みんなの憩いの場プロジェクトとは?
能登半島では、被災後の孤独や孤立を防ぐことを目的に、「みんなの憩いの場プロジェクト」に取り組んでいます。人が自然と集まり、安心して過ごせる場所をつくることで、地域のつながりを取り戻すことを目指しています。
第一弾として始まった珠洲(すず)市の狼煙(のろし)地区では、地域のお年寄りが料理をつくり、子どもたちが集まって一緒に過ごすなど、世代を超えた交流が生まれています。地域全体で子どもを見守るような、温かい空間が少しずつ育っています。
このプロジェクトは、設計段階から住民同士で話し合いやワークショップを重ね、「自分たちの地域にとって何が必要か」を考えながら進めてきました。支援される側から主体的な地域の担い手になっていることも大きな成果だと思っています。取り組みが進む中で形が変わることもありますが、その変化も含めて、地域に根差した意味のある活動だと感じています。

技術と調整力―災害現場に足りない二つのもの
— 災害現場に足りないものとは?
大きく二つあります。一つは、専門的な技術を持つ担い手です。重機の操作や応急修繕、倒木処理などに対応できる人材は、現場では圧倒的に不足しています。そのため、技術系ボランティアの育成や、企業のプロボノ人材が現場に関われる仕組みづくりにも取り組んでいます。
もう一つは、支援を調整する役割を担う人材です。災害時には、支援ニーズと支援者が一気に集まります。それらを整理し、「このニーズにはどの支援が適しているか」を判断できる人がいなければ、支援が一部に偏ってしまいます。これまでも被災地では同様の課題が発生しており、限られた人材に頼りきった場面が多くありました。そのため地域の中で調整役を担える人材を増やしていくことが重要だと考えており、その体制づくりにも取り組んでいます。

「この場所が希望の光だった」という言葉
— 日本財団の仕事のやりがいは?
能登半島で取り組んでいる「憩いの場プロジェクト」で関わった住民や団体の方から頂いた言葉で今も胸に残っています。このプロジェクトを通じて、住民同士の交流が生まれ、「ここからまた何か始めたい」と前を向く姿が広がっており、その様子を見るたびに、この仕事の意義を実感します。本当に胸が熱くなります。
これまで多くの災害現場に関わる中で、災害関連死や孤独・孤立といった課題を目の当たりにしてきました。命は助かっても、その後の避難生活の中で亡くなってしまう方がいる。その現実を変えたいという思いが、この取り組みの原点です。
人が自然と集まり、安心して過ごせる「憩いの場」をつくることで、地域に新たなつながりや希望を生み出したいと考えてきました。「前を向くきっかけになった」という声をいただくたびに、支援の意義を改めて感じています。
また、防災は日常の延長線上にあるものだと考えています。助成プログラムを通して、「やってみたい」と思えるきっかけをつくり、取り組み皆さんを後押ししてきました。その結果、団体や行政、社協などが連携する動きも生まれています。
日本財団の仕事の魅力は、社会課題のボトルネックに直接アプローチできることだと思います。ヒト・モノ・カネの課題に向き合いながら、災害支援を持続可能な仕組みとして支えていく。その一端を担えることにも、大きなやりがいを感じています。
小さな取り組みを一つひとつ積み重ねながら、地域の未来につなげていく。その歩みに伴走できることが、私にとって何よりの原動力です。

— 今後の目標はありますか?
災害支援の分野で、「構造の転換」と「エコシステム」を実現していきたいと考えています。
現在の災害現場は、人々の善意に大きく支えられていますが、無償で長期間活動を続けることには限界があります。災害が起きたときだけでなく、平時も含めて仕事として続けられる環境を整えることが必要だと感じています。
善意に頼るだけではなく、災害支援が社会の中で評価され、次の世代へと引き継がれていく。そのための体制づくりに取り組み続けたいと思います。
子どもたちに届けたい未来
災害支援を子どもたちの「憧れの職業」に。
— 自身の仕事・プロジェクトを通じて子どもたちにどんな未来を届けたいですか?
災害支援が「憧れの職業」になってほしいと思っています。
困っている人を助け、社会に必要とされる仕事として、きちんと成り立つ分野であってほしい。その姿を、子どもたちに見せたいと考えています。
災害が起きたとき、人を支える存在は、時にヒーローのように映ります。ただ、その多くは善意に支えられ、十分に評価されないまま活動を続けているのが現状です。支援に関わる人たちが、生活を成り立たせながら社会課題の解決に向き合える環境が整えば、災害支援は本当の意味で「仕事」として根づいていくのではないかと思っています。災害支援が、社会に欠かせない役割として正しく認識される未来をつくりたいです。
話は変わりますが、能登で出会った、ある親子の姿が今も心に残っています。厳しい状況の中でも、焚き火でお湯を沸かし、星空の下で過ごすなど、限られた環境の中でできることを工夫しながら、前向きに日々を過ごしていました。その姿を見て、「物事の捉え方次第で、見える景色は変わる」ということを強く実感しました。
災害は決してやさしいものではありませんが、困難に向き合い、乗り越える力や工夫する力を育てる側面もあると感じています。だからこそ、防災や減災を、災害が起きたときだけの話ではなく、教育の中でも広げていけたらと思っています。
また、現地に足を運ぶ中で、子どもたちの表情や振る舞いから多くのことを学んできました。同時に、大人が気づけていない変化や小さなサインも、きっとたくさんあると感じています。そうした声にならない変化に気づける社会をつくることにも、寄与できると嬉しいですね。
支える側と支えられる側が固定されるのではなく、互いに支え合い、支えられている関係が自然に成り立つ社会。そのような未来を、子どもたちに手渡していきたいです。
