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子どもの権利を軸に、多様な課題に向き合う
— 担当するプロジェクトは?
予期せぬ妊娠をした女性を支える産前産後の居場所づくりや、妊娠SOS相談窓口事業、性教育の普及、そして、こども基本法プロジェクトなどを担当しています。
「日本財団こども基本法プロジェクト」では、子どもの権利が日本社会の中で当たり前のものになることを目指し、特設サイトや日本財団主催の子どもシンポジウム「子どもWEEKEND」での情報発信などを通じた普及啓発を実施しています。
子どもの権利は、子ども支援チームのすべての事業の根幹にあるものだと思います。
不登校や予期せぬ妊娠など、課題の表れ方はさまざまですが、表面的な困難にとらわれるのではなく、その背景や根底にあるものに目を向けながら、一人ひとりの子どもや若者がより良い人生を歩めるよう、日々業務に取り組んでいます。

なりたくなかった大人像と重なって
— 日本財団に転職した経緯は?
大学卒業後、国際税務のコンサルティング会社に入社し、約15年間勤務していました。
前職はとてもやりがいのある仕事でしたが、以前から「社会課題」への関心が心の中にありました。新聞やテレビで、困難を抱える子どもや若者のニュースを目にするたびに、胸が痛みながらも、「自己責任だから仕方がない」と自分に言い聞かせ、仕事や生活を優先して目を背けていた自分がいました。
そうした自分自身や、「何かしたい」と思いながらも行動に移せない自分の姿が、大学生の頃に最もなりたくなかった大人像と重なり、はっとしました。このままではいけないと思い、日本財団の中途採用に応募しました。
子どもの声を、社会につなげる
— 「日本財団こども基本法プロジェクト」とは?
「日本財団こども基本法プロジェクト」は、子どもの権利を包括的に定めた法律の制定を目指し、2019年にスタートしました。2020年にこども基本法制定に関する提言を行い、2023年にこども基本法が施行されました。
しかし、法律が施行されただけでは不十分で、社会の意識や人々の行動が変わらなければ意味がありません。そこで日本財団では、助成事業による民間団体の活動支援に加え、情報発信やイベント開催などを通じて、子どもの権利が尊重される社会づくりに向けた取り組みを継続しています。
具体的な取り組みとして、「こども1万人意識調査」を実施し、国や社会に対する子どもたちの声を丁寧に集め、その結果をこども家庭庁への提言や報告書としてまとめています。
また、当事者である子どもたち自身にも調査結果をわかりやすく届けるため、絵本のような「子ども向けレポート」を作成しました。この事業の中で、子ども・若者たちが、自分の声が社会につながっていることを実感できるような工夫をもっと考えていきたいです。

予期せぬ妊娠は、社会全体の課題
— 「妊娠SOS相談窓口事業」とは?
妊娠SOS相談窓口事業は、予期せぬ妊娠に悩み、困窮や孤立といった困難を抱える女性たちの産前産後を支えることを目的とした取り組みです。日本財団では、そうした支援を行う民間団体の立ち上げや運営を、助成を通じて支えています。あわせて、助成先団体同士が意見や情報を共有できる場を設け、政策提言や、メディア・イベントを通じた啓発活動にも取り組んでいます。
今年度は、新たに立ち上がった支援拠点の視察や、ラジオ番組への出演、日本財団主催の子どもシンポジウムの分科会「困難を抱える若年女性や妊産婦への支援」におけるディレクター業務など、事業全体に関わるさまざまな役割を担いました。
予期せぬ妊娠については、今なお「自己責任」と受け止められてしまう場面が少なくありません。実は、私自身もかつてはそのように考えていた一人でした。しかし、支援の現場に関わる中で、予期せぬ妊娠が起きる背景には、個人の問題では片づけられない社会構造があることを知りました。だからこそ、誰かの責任として押し付けるのではなく、社会全体で向き合うべき課題であることを伝えていきたいと考えています。
助成先の団体から、「日本財団の支援によって道を切り開くことができた」と言っていただくことがあります。本事業の特性上、当事者の方と直接言葉を交わす機会は多くありません。それでも、視察の際にすれ違った女性の姿や、聞こえてくる赤ちゃんの声に触れるたびに、この仕事が持つ重みを実感します。
第三者である自分が、当事者の気持ちを完全に理解したり、代弁したりすることはできません。それでも、自分の仕事が間接的に支えとなり、SOSにたどり着いたことで「より良い人生を歩めた」と感じてもらえる経験につながっていく。その可能性を信じながら、日々の業務に向き合っています。

— 今後の目標はありますか?
子ども・若者分野において、問題が起きた後の事後対応よりも、予防に重きを置いた社会づくりに取り組みたいと考えています。
予防は非常に難しい課題でもあります。すでに傷ついた子どもは把握しやすい一方で、傷つく前の子どもは一見すると問題がないように見えます。
けれども、何らかの困難を抱えている場合、困難が長引く前、早い段階で支えることができていれば「これほど深く傷つかずに済んだのではないか」と感じる場面は少なくありません。
現在の日本では、予防的な取り組みに十分な予算がつきにくい傾向があります。しかし、将来的に重篤な困難に陥ってからようやく手厚い支援にたどり着けるのではなく、傷を負う前に支援に接続して困難に陥らせない方が、子どもや若者のため、さらには日本社会のためになると考えています。
目の前の社会課題への対症療法だけでなく、課題の根っこについても真剣に考えるように心がけています。また、夢や綺麗事を語るだけの大人にはなりたくありません。当事者の方が変化を感じられるよう、具体的な行動に落とし込み、一つひとつ実行していきたいです。

子どもたちに届けたい未来
安心できる“今”をつくることが、子どもたちの未来を変える。
— 自身の仕事を通じて子どもたちにどんな未来を届けたいですか?
子どもたちが安心して過ごし、希望を持てる「今」をつくり、その積み重ねによって、より良い「未来」へつなげていきたいと考えています。
自分の根底にあるのは、子どもたちに「楽しい子ども時代」を経験してほしいという思いです。子ども支援チームの職員として働く中で、さまざまな事情から、そうした時間を十分に過ごせなかった子どもや若者を多く見てきました。その現実に触れる中で、理想の「未来」を語るだけでは足りないと感じています。
今この瞬間も、頼れる大人がいなかったり、安全に過ごせる場所がなかったりする中で、必死に生きている子どもたちがいます。社会や大人に対して、強い不安や絶望を抱いているのではないかと感じることもあります。だからこそ、彼らが変化を実感できるスピード感をもって、「今」を変えていかなければならないと思うようになりました。
子どもたちが安心できる環境を「今」整えて、明るい「未来」を届けたい。その実現に向けて、これからも現場に向き合い続けていきます。
