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海洋事業部 海洋環境チーム

中廣遊

2016年に日本財団入会、海洋事業部に配属。現在はロンドンを拠点に、イギリス・ヨーロッパを中心とした海外プロジェクトを担当し、大学や国連などと連携した海洋分野の人材育成事業を実施。ほか、未発見の海洋生物の解明を目指す「Ocean Census」などに従事している。

Voice

人材育成と未知の海洋生物の発見、二つの取り組み

— 担当するプロジェクトは?

ロンドンを拠点に、海洋事業部の海外プロジェクトに携わっています。担当は大きく二つ、イギリス・ヨーロッパを中心に、人材育成と海洋探査の領域を見ています。

人材育成の分野では、大学や国連などと連携し、フェローシッププログラムを通じて、主に途上国出身の方々の学びや実務経験を後押ししています。知識やスキルを渡すだけではなく、異なる前提や価値観に触れながら、世界の海をめぐる議論の場に参加できる人を増やすことが目的です。

一方で、海の未知に迫る探査事業にも関わっています。目の前の課題にすぐ効く答えが出るとは限りませんが、未知を丁寧に解き明かすことが、長い時間をかけて社会の選択肢を増やしていく、そういう手触りのある領域です。

その一つが「Ocean Census」というプロジェクト、まだ発見されていない海洋生物を見つけることを目的とした取り組みです。現在、海洋生物のうち解明されているのは全体の約一割にすぎず、残りの九割は未知のままだと言われています。新種は毎年発見されていますが、その数は年間およそ二千種にのぼり、そうした未知を明らかにするための探査を進めています。

もう一つが、「DORI (Dark Oxygen Research Initiative)」と呼ばれるプロジェクトです。光が届かない海底において観測された未知の酸素、「暗黒酸素」についての謎を解明するためのもので、光合成とは異なる仕組みで酸素が生成されている可能性があるのではないか、という仮説を立て、その検証に向けた調査研究を行っています。

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海洋生物の未知の九割に挑む、海洋探査事業を語る中廣さん

ロンドンを希望した理由は?

ロンドンには、海洋に関する大学や研究機関が集まっており、人材育成や研究事業を進めるうえで最適な環境があります。また、国際海事機関(IMO)をはじめとする国際的な議論の現場が同じ都市にあることで、研究で生まれた問いがそのまま政策やルール形成の議論につながっていく距離の近さを実感できる点に魅力を感じ、ロンドンでの勤務を希望しました。

潜水艇で感じた、海の圧倒的なリアル

思い出に残っている仕事はありますか?

特に印象に残っているのは、潜水艇に乗った経験です。水深五十メートルほどまで潜りましたが、当時は潜水艇タイタンの事故直後でもあり、乗船にあたっては万が一の事態が起きても責任を問わないという内容の同意書に署名しました。

使用したのは古い型の潜水艇で、浮上時には艇内に水滴が落ちてきて、まるでスチームサウナのような状態になりました。そのときは正直、「本当に大丈夫だろうか」とかなり緊張したことを覚えています。現場でしか味わえない緊張感や、身体で感じるリアルな体験は、今でも強く印象に残っています。

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潜水艦の内部

固定観念が崩れていく瞬間

日本財団の仕事のやりがいは

やりがいを感じるのは、海外の研究者や関係者と直接対話しながら、異なる価値観や考え方に触れられることです。相手の論理や前提に入り込み、対話を重ねる中で、自分自身の固定観念が少しずつ崩れていく感覚があります。

そうした経験を通じて、以前の自分とは違う視点で物事を考えられるようになる。その変化そのものが刺激的で、この仕事ならではの面白さだと感じています。何かを一方的に学ぶというよりも、予想もしなかった角度から問いを投げかけられ、自分の立ち位置を見つめ直す。その積み重ねが、日々のやりがいにつながっています。

今後の目標はありますか?

まず大切なのは、「みんな海のことを知らない」という前提から始めることだと思っています。海には、まだ分かっていないことが本当にたくさんあります。

暗黒酸素や海洋生物の新種の発見もそうですが、これからも新しいことはいくらでも見つかるはずです。だからこそ、海を単なる資源として管理して利用する対象として見るのではなく、「よく分かっていない存在」として向き合うことが大事だと思っています。
その上で、人と海がどう共生していくのかを考え、仕事にいかしていきたいです。

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異なる価値観との対話を通じて、自分自身が変わっていく面白さを語る中廣さん

子どもたちに届けたい未来

正解を教えるのではなく、種をまく。

自身の仕事・プロジェクトを通じて子どもたちにどんな未来を届けたいですか

海洋事業部には、「次世代に豊かな海を引き継ぐ」という理念があります。自分たちが親しんできた海や自然を、次の世代にも残していきたい。その思いが、すべての活動の根底にあります。

海は、子どもたちにとって大切な原体験の場でもあります。だからこそ、できるだけ良い状態で引き継いでいきたいと考えています。国内では、子どもたちが実際に海に触れ、体験できるプログラムにも力を入れています。

子どもたちに「正解」を教えることが目的ではありません。例えば、海底にあるマンガンノジュールのように、非常に長い時間をかけて形成される資源を目にすることで、これは何だろうか、人間はこれを利用してよいのだろうかと考えるきっかけを持ってほしいと思っています。

体験を通して生まれた疑問や驚きは、時間が経ってから、その人の中で大きな意味を持つことがあります。無理に答えを与えるのではなく、海を通して「種をまく」というような活動をしていきたい。そうした積み重ねが、豊かな未来を子どもたちに届けることになると考えています。

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次世代に豊かな海を引き継ぐという理念を語る中廣さん

職員の想い

  • 海の未来とロマンを、 次世代へ引き継ぐ

    海洋環境チーム 中廣遊

    ロンドンを拠点に海の未知に迫る探査事業や人材育成に取り組む中廣遊。子どもたちが海と出会い、豊かな海を次世代へ引き継ぐきっかけを届けたいという想いを語ります。

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  • 地域に根づく支援を、 ミャンマーの子どもたちへ

    国際協力チーム 栗林フランツ健

    ミャンマー駐在事務所を拠点に、紛争や貧困の影響を受ける子どもたちのため地域参加型の学校建設を支援する栗林フランツ健。支援が10年、20年先も根づく仕組みを大切にする想いを語ります。

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  • 子どもが傷つく前に、 支える社会の仕組みをつくる

    子ども支援チーム 田中奈名子

    妊娠SOS事業や性教育、こども基本法プロジェクトを通じ、子どもの権利が尊重される社会づくりに取り組む田中奈名子。傷つく前に支援が届く仕組みで、すべての子どもの最善の利益を守りたいという想いを語ります。

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  • 災害支援の構造転換を起こし、 エコシステムを構築する

    災害対策事業チーム 江村拓哉

    被災者が集い支え合う「憩いの場」づくりに取り組む江村拓哉。孤立を防ぎ復興の希望を灯し、災害支援を善意任せにしないエコシステムづくりについて語ります。

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  • 障害や環境に関わらず、 夢へ踏み出せる社会へ

    障害インクルージョンチーム 川俣郁美

    東南アジア地域で、バイリンガルろう教育が学べる環境づくりに取り組む川俣郁美。現地の声に寄り添い、人材育成や教材開発を通じて学びの選択肢を地域に根づかせる思いを語ります。

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  • すべての学生が 未来を諦めなくていい社会へ

    ソーシャルイノベーション推進チーム 溝谷美音

    ZEN大学の設立・運営を担う溝谷美音。地理や経済の壁を越えて質の高い教育を届け、社会とつながる学びで学生の未来を広げたいという思いを語ります。

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