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若者はクマをどう見るか? 野生動物と人間社会との共存に向けて ~18歳意識調査アンケートより~

落ち物パズルゲームをモチーフにしたイラスト。人間やクマ、自然、野生動物などを表すブロックが積み重なる中、上から猟銃(駆除)や注射器(保護・麻酔)の形をしたブロックが落ちてきている。人間とクマの生活圏が交差して緊張関係にある中、駆除や共存といった多様な対策をどのように組み合わせ、課題を解決していくか模索する様子を表現している。

取材:日本財団ジャーナル編集部


日本財団は、2025年12月、「クマ被害」(別タブで開く)をテーマに75回目の18歳意識調査を実施しました。有識者に印象に残った調査結果についてインタビューを通してお考えをお聞きしています。

「クマ被害」調査では、人間の生活圏に出没したクマへの対応として、若者全体の約65パーセントが「原則として駆除すべきである」と回答し、約28パーセントが「人間社会とクマの共存策をもっと検討すべきである」と回答しました。

質問:⼈間の⽣活圏に出没したクマは農業被害・⼈⾝被害防⽌のため駆除されています。⼈間の⽣活圏に出没したクマへの対応で、お考えに最も近いものを選んでください。(単⼀回答)

18歳意識調査の棒グラフ。「人間の生活圏に出没したクマは農業被害・人身被害防止のため駆除されています。人間の生活圏に出没したクマへの対応で、お考えに最も近いものを選んでください。」という質問に回答した人の項目別割合(%)。
全体(n=1000)で「原則として駆除すべきである」と答えた人は65.0%。「原則として駆除すべきではない」と答えた人は2.4%。「人間社会とクマの共存策をもっと検討すべきである」と答えた人は27.9%。「わからない」と答えた人は4.7%。
男性(n=513)で「原則として駆除すべきである」と答えた人は70.8%。「原則として駆除すべきではない」と答えた人は2.3%。「人間社会とクマの共存策をもっと検討すべきである」と答えた人は22.4%。「わからない」と答えた人は4.5%。
女性(n=487)で「原則として駆除すべきである」と答えた人は58.9%。「原則として駆除すべきではない」と答えた人は2.5%。「人間社会とクマの共存策をもっと検討すべきである」と答えた人は33.7%。「わからない」と答えた人は4.9%
出典:日本財団18歳意識調査 第75回テーマ「クマ被害」

また、クマの出没数の背景として挙げられることの多い「ドングリ等の凶作」「人口減少による人への警戒心の薄れ」「過疎化による放棄地等の増加」「保護政策による個体数の増加」「人里にあるクマの食糧となる果樹や生活ごみへの慣れ」のうち、知っているものについて調査したところ、「人里にあるクマの食糧となる果樹や生活ごみへの慣れ」への認知が最も多く、全体の約68パーセントが選択しました。「過疎化による放棄地等の増加」を認知していた割合は、約41パーセントとなりました。

質問:クマの出没数が増えた背景について知っていましたか。知っていたものを全て選択してください。

18歳意識調査の集合横棒グラフ。「クマの出没数が増えた背景について知っていましたか。知っていたものを全て選択してください。」という質問に回答した人の項目別割合(%)。複数回答可。「いずれも知らなかった」を除き、全体の降順で表示。
「人里にあるクマの食糧となる果樹や生活ごみへの慣れ」を選択したのは、全体(n=1000)のうち68.0%、男性(n=513)のうち66.3%、女性(n=487)のうち69.8%。
「ドングリ等の凶作」を選択したのは、全体(n=1000)のうち47.8%、男性(n=513)のうち50.7%、女性(n=487)のうち44.8%。
「過疎化による放棄地等の増加」を選択したのは、全体(n=1000)のうち41.1%、男性(n=513)のうち44.6%、女性(n=487)のうち37.4%。
「人口減少による人への警戒心の薄れ」を選択したのは、全体(n=1000)のうち31.7%、男性(n=513)のうち35.3%、女性(n=487)のうち27.9%。
「保護政策による個体数の増加」を選択したのは、全体(n=1000)のうち18.7%、男性(n=513)のうち22.0%、女性(n=487)のうち15.2%。
「いずれも知らなかった」を選択したのは、全体(n=1000)のうち11.3%、男性(n=513)のうち10.9%、女性(n=487)のうち11.7%
出典:日本財団18歳意識調査 第75回テーマ「クマ被害」

今後のクマ駆除において中心的役割を果たすべき組織についても聞いたところ、全体の回答は多い順に、猟友会(ハンター、マタギを含む)が約43パーセント、地方自治体が約17パーセント、自衛隊が約13パーセントとなりました。

質問:これからのクマ駆除の中心となるべき組織は何か、あなたの考えに最も近いものを教えてください。(単⼀回答)

18歳意識調査の棒グラフ。「これからのクマ駆除の中心となるべき組織は何か、あなたの考えに最も近いものを教えてください。という質問に回答した人の項目別割合(%)。「その他」「わからない」を除き、全体の降順で表示。
全体(n=1000)で「猟友会(地域ハンター、マタギを含む)」と答えた人は42.9%。「地方自治体」と答えた人は16.6%。「自衛隊」と答えた人は12.7%。「専門業者(鳥獣捕獲等事業者)」と答えた人は11.3%。「警察」と答えた人は9.6%。「地域住民」と答えた人は0.4%。「その他」と答えた人は0.5%。「わからない」と答えた人は6.0%。
男性(n=513)で「猟友会(地域ハンター、マタギを含む)」と答えた人は41.1%。「地方自治体」と答えた人は18.7%。「自衛隊」と答えた人は13.3%。「専門業者(鳥獣捕獲等事業者)」と答えた人は8.8%。「警察」と答えた人は11.7%。「地域住民」と答えた人は0.4%。「その他」と答えた人は0.6%。「わからない」と答えた人は5.5%。
女性(n=487)で「猟友会(地域ハンター、マタギを含む)」と答えた人は44.8%。「地方自治体」と答えた人は14.4%。「自衛隊」と答えた人は12.1%。「専門業者(鳥獣捕獲等事業者)」と答えた人は14.0%。「警察」と答えた人は7.4%。「地域住民」と答えた人は0.4%。「その他」と答えた人は0.4%。「わからない」と答えた人は6.6%

出典:日本財団18歳意識調査 第75回テーマ「クマ被害」

これらの18歳意識調査結果について、立命館大学政策科学部教授の桜井良(さくらい・りょう)先生にお話をお聞きしました。

桜井先生は、ヒューマンディメンション(※)研究をはじめとする野生動物管理・生物多様性保全の専門家でいらっしゃるほか、環境教育のご知見も持たれ、「環境教育プログラムの評価入門」(毎日新聞出版、2024年)等のご著書も出版されています。

  • 「ヒューマンディメンション」とは、「野生動物と住民との共存を実現するための社会づくりを行う実践科学」。野生動物管理について社会的側面からアプローチし、野生動物に対する地域住民などの人間の価値観やその価値観が及ぼす影響、および野生動物管理での合意形成、意思決定を促進するための手法について探求する学問。出典:【Human Dimensions】(人間事象)とは|桜井良研究室(外部リンク/PDF)
桜井良先生

駆除是認派が多いのは世界的には珍しい結果。背景にはメディア報道

私自身もこれまでクマに対する意識調査を行ってきましたが、18歳前後を対象とした今回の調査で、駆除是認が過半数であるという結果は、世界的な傾向からするとやや特殊であると感じます。

国外の研究では、年齢が高くなるほど、また地方に在住しているほど、人間の利益のために野生動物を利用、管理すべきとする考え方(Domination Wildlife Value Orientation、支配型野生動物価値志向)が強くなり、人間に危害を及ぼす野生動物は排除すべきであると考える傾向が見られます。

反対に、野生動物と共存するべきだという考え方(Mutualism、共存主義の野生動物価値志向)は、若者や都市部在住者ほど持ちやすい傾向にあることが分かっています。

今回の調査で駆除是認派が過半数となった背景には、2025年のクマの大量出没と被害の影響が大きいと思います。200人以上が負傷し、死者も13人出ているという状況が、若者の意識にも強く影響しているのではないでしょうか。

他の調査を見ても、18歳前後の若者に限らず、日本社会全体として駆除是認派が多数となっている状況だと思います。

一方で、クマの出没が広範囲にわたっているとはいえ、都市部に過半数が在住する日本国民のなかで、クマの存在を日常的に身近に感じている人はほとんどいないはずです。にもかかわらず駆除是認派が過半数であり、共存派が約28パーセントに過ぎないという結果には、メディアの影響もあるのではないかと思います。

メディアで連日クマの出没や人的被害が報道されると、視聴者は影響を受けてしまい必要以上にクマを恐れてしまうようになることが先行研究から分かっています。2025年は、日本でもテレビ・新聞・SNSでクマ被害が集中的に報道されましたので、それが若者の意識にも影響を与えた可能性は高いと思います。

メディアにより高まる”クマリテラシー”。環境教育によるさらなる理解向上へ

2025年のクマに関するメディア報道は非常に特徴的でした。

2023年にも大量出没はありましたが、2025年はそれ以上に社会問題として大きく取り上げられ、「今年の漢字」に「熊」が選ばれるほど、クマが象徴的に扱われる年でした。各メディアが特番を組み、1~2時間の番組でタレントや研究者が議論するケースも多く見られました。

従来の報道は「出没した」「被害があった」といった事実報道が中心でしたが、2025年は複数の専門家が登場し、個体数の増加や生態など大量出没の背景についても比較的丁寧に伝える番組が増えてきた、というのが率直な印象です。

その結果、一般市民のいわば“クマリテラシー”が向上してきていると感じています。今までは研究者でないと知らなかった知識でも、今は一般の人が知っていることもあり、クマへの意識、関心が高まっていると思います。

今回の調査で駆除是認を選択した若者が、クマ研究者や生態学者による「クマ被害を減らすためにはクマの個体数を減らさなくてはならない」との主張や科学的知見を理解したうえで回答しているとすれば、これもメディア報道の効果なのかもしれません。

今回は、クマ出没の背景に対する認知度も調査されていますが、学校教育のなかで獣害というテーマについて画一的に教えられる機会があまり存在しない現状を踏まえると、過疎化とクマ出没との関係性への認知も半数近くに上るという結果は、メディア報道で背景理解が促された影響と捉えられます。

生活ごみという人間社会の問題とクマ出没との関係も約68パーセントが認知しているという結果も併せ見ると、クマ問題は人間が取り組む必要のある問題だ、という理解は18歳前後の若者に広がっているのではないでしょうか。

もちろん、さらに若者の理解を向上させ、背景への認知も高めていくことが理想的です。そのためには学校教育のカリキュラムのなかで、獣害やクマ問題について学ぶ機会を増やしていく必要があると思います。

現在でも地方の学校を中心に総合学習の時間などで徐々に取り上げられるようになってきていますが、学校教育で獣害問題に取り組むことの良さは、ただ生徒の子どもの意識が高まるだけではなく子どもを通じて家庭や地域に知識が広がる波及効果がある点だと感じます。

地域のなかで学校が野生動物との関わり方を考えるプラットフォームとなれれば、野生動物と共存する地域づくりのために学校が大きな役割を果たすことができるでしょう。

私のいる大阪のキャンパスでもキツネやハクビシン、アライグマといったあらゆる野生動物が夜な夜な姿を見せます。この傾向は東京などの都市部でも見られることと思いますし、世界的にも野生動物が都市部に戻ってくる「再野生化」という時代になってきているともいわれています。どこに住んでいても、クマに限らずさまざまな動物と出会ってもおかしくない時代が到来しています。

そういったなかで、例えば野生動物を見かけても不用意に近づかない、触らない、といったような野生動物についての知識は、日本人全員が持っていて良いものになります。その意味で、安全教育としての位置付けも含めて野生動物と共存する方法を、地方だけでなく日本全国の学校で教えていくことは重要になってくると思います。

自治体に期待された「窓口」としての役割と専門人材不足という実情

クマ駆除における中心的役割を担うべき組織として「自治体」と回答した割合が約17パーセントに上りました。実際のクマの駆除は基本的には猟友会が担うため、本来であればもっと多くの人が「猟友会」と回答しておかしくないと思いますし、実際に自治体には銃などの狩猟免許を持った職員はあまりいません。

それにもかかわらず自治体が回答として挙がる背景には、「駆除そのもの」ではなく「管理全体の窓口」としての役割への期待があるのではないかと思います。地域住民に最も近く最も頼られる存在はやはり自治体であり、クマ被害に困っている住民の相談役になるのは猟友会ではなく自治体になることが多いでしょう。

クマの出没情報の発信や住民対応など、そういった「窓口」としての役割を自治体に求めて、約17パーセントの若者が回答した可能性はあると思います。

一方で、果たして実際にクマ対策や管理ができる人材が自治体にいるかという点は大きな問題でしょう。先進国に比べ、日本は野生動物の管理や対策について専門的に学んだ人材は多くはありません。そのうえ、行政でそういった専門人材を雇用している例も一部に限られます。クマ駆除の中心的役割を自治体だけが担うのは、現状としては難しいでしょう。

野生動物に関して自治体に寄せられる苦情への対応についても、アメリカやイギリスでは行政側にコミュニケーション専門の職員が何人も雇用されています。市民・住民からの苦情や要望に対して、コミュニケーションについて専門的に学んできた人材が職員としてチームで対応しているわけです。

この側面も、今の日本に大きく欠けている部分だと思います。その意味でも、日本の行政にはコミュニケーションの専門人材も必要であると考えます。

日本で野生動物問題の分野についてヒューマンディメンション的視点から学ぶことのできる大学は、アメリカ等に比べればまだ多くないと思います。一方で、現在、学会や研究者などが主体となって野生動物対策の専門人材を育成することのできる大学横断型のカリキュラムをつくっており、カリキュラムのなかで住民との連携、協力に関する授業も含まれています。

今後は、カリキュラムの修了生が行政などで活躍できるように、人材の雇用の面でも整備していく必要があります。

人間と野生動物との「共存」のかたちとは

今回の調査結果のなかで少し気になるのは、共存策を検討すべきと回答した約28パーセントの18歳前後の若者が、どのような共存策をイメージしたのか、という点です。

クマと同じ場所で生きていくことはできないので共存とは実際は棲み分け策になると思います。そういった意味での共存として回答者の若者が理解していたのか、それとも別のかたちを意識していたのか、「共存とは何か」についてさらに深堀して聞いてみたいですね。

若者に限らない話ではありますが、「共存とは何か」について、私たち市民全体でさらに理解を深めていくことが、今後さまざまな合意形成をする上で重要になってくると思います。

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