未来のために何ができる?が見つかるメディア
なぜ「若者の献血離れ」が進むのか? 将来の血液不足リスクと、知られざる「健康メリット」
- 「献血」とは、病気の治療や手術などで輸血を必要とする人に、健康な人が自分の血液を無償で提供するボランティア
- 少子高齢化により献血可能な人口が減少。特に若者の「献血離れ」が深刻化し、将来的に血液不足によって必要な医療を受けられない人が出てくる可能性も考えられる
- 「献血が当たり前」の社会づくりが大切な人の命を救う
取材:日本財団ジャーナル編集部
あなたは「献血」に行ったことがありますか。
「献血」とは、病気の治療や手術などで輸血や血漿分画製剤(けっしょうぶんかくせいざい※1)を必要としている人に、健康な人が自身の血液を無償で提供するボランティアのことです。
日本での献血可能年齢は16歳から69歳までですが、今、この献血人口が減少していることが問題になっています。
日本赤十字社の調べでは、日本の献血者数は年々減少傾向にあり、特に若者の「献血離れ」が深刻化しています。10~30代の献血者数はこれまでの10年間で約2割減少しているというデータもあります(※2)。
この先、さらに少子高齢化が進んで献血可能な人口が減り続ければ、輸血するための血液が足りなくなり、必要な医療を受けられなくなる人が出てくる可能性も考えられます。そうした危機を前に、私たちはどうすればよいのでしょうか。
この記事では、日本における輸血医療の学術団体である一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会(外部リンク)の松本雅則(まつもと・まさのり)さん、紀野修一(きの・しゅういち)さん、田中朝志(たなか・あさし)さんに、若者の献血離れによって直面する問題、そして、この危機を乗り越えるために私たちにできることについてお話を伺いました。

なぜ毎日約1万4,000人分の献血が必要なのか? 血液の短い「保存期間」
――はじめに、一般社団法人日本輸血・細胞治療学会の活動内容について教えてください。
松本さん(以下、敬称略):「安全で適切な輸血医療・細胞治療を推進すること」を目的に、誰もが安心して輸血を受けられる社会を目指して、各種認定制度や病院評価機構など、さまざまな事業に取り組んでいます。
医師だけではなく、看護師、臨床検査技師、薬剤師といった多職種が参加しているのが特徴で、現在は6,546人の会員がいます(※3)。輸血医療・細胞治療においてそれぞれの専門性を高め合いながら、若手の育成や研究にも力を入れています。
――献血の仕組みについて教えてください。集められた血液はどのように使われているのでしょうか。
紀野さん(以下、敬称略):献血というのは、日本赤十字社が国から委託され、行っている事業のことです。血液を提供していただける方を募集し、採取した血液を血液製剤として、治療を必要とする患者さんのために病院や診療所などに供給しています。
献血で集められた血液は、そのまま使われるわけではありません。大きく分けて2つの使用目的があります。
1つは「輸血用血液製剤」というもので、白血病やその他のがんの治療、手術や出産時に出血が起きた場合に輸血として使われます。
もう1つは「血漿分画製剤」といい、免疫グロブリン製剤(※4)やアルブミン製剤(※5)などの薬の原料になります。
――輸血だけに使われるわけではないのですね。
紀野:はい。意外と知らない方が多いと思いますが、献血で集められた血液のうち、輸血用として使われるのは約45パーセントです。残りの約55パーセントは、血漿分画製剤の原料として使われています。
――輸血用血液製剤や薬剤を作るためには、どのくらいの血液が必要なのでしょうか。
田中さん(以下、敬称略):日本では毎日、約1万4,000人分の献血協力が必要とされています。なぜ毎日必要なのかというと、血液は生もので保存できる期間が短いからです。
成分ごとに保存期間は異なり、例えば「赤血球製剤(※6)」の有効期限は、採血後28日間。「血小板製剤(※7)」にいたっては、わずか6日間しか保管できません。しかも、使用前の検査に時間がかかるので、実際に使えるのは最後の2日間だけになります。
全国の医療機関では、毎日約2,500人の患者さんが輸血を受けています。医療で使われる輸血用血液製剤を常に備えておくには、継続的に献血に協力していただくことが不可欠なのです。
紀野:今は安定して献血血液を供給できていますが、将来的に少子高齢化で献血者数が減っていけば、そのバランスが崩れてしまうかもしれません。特に深刻な課題は「若者の献血離れ」です。


献血が不足するとどうなる? 「2030年問題」と医療現場への影響
――若者の献血離れについて、現状を教えてください。
紀野:献血者数の推移を見ると、10~30代で減少傾向が続いています。
例えば、20代の献血者数は2015年〜2024年の10年間で約81万人から約66万人と、1割近く減少しています(※2)。現在、必要な血液の約3分の2は、40~60代を中心とする中高年の献血リピーターによって支えられているんです。
――「献血の2030年問題」として、2030年に献血血液が不足する事態になるという報道を目にしました。
紀野:幸いなことに、現時点では2030年に血液が不足することは考えにくいです。とはいえ、この先、少子高齢化が進むことで、さらに献血者の数が減るのは間違いありません。
将来の推計人口から考えると、2045年には16~69歳までの献血可能人口が今よりも1,379万人減ることが分かっています。今後20年で、毎年70万人ずつ減っていく計算です(※8)。
日本赤十字社として予測しているのは、おそらく輸血用の血液製剤の需要はほとんど変わらないのに対し、薬剤の原料となる献血血液の必要量は増えるだろうということ。
特に免疫グロブリン製剤の需要は増え続けていますので、それに対応するためには、献血者数が約500万人(2024年度時点)から、20年後には約580万人に増えていなければならないと推定しています。
――献血ができる年代の人口は減っていくのに対し、薬剤としての需要でさらに献血血液は必要になるということですね。
紀野:そうです。そのため、新たに献血をしてくださる方の数を増やすか、1人当たりの献血回数を増やさなければ、需要と供給のバランスをとることが難しくなります。
――献血血液が足りなくなると、医療現場にはどのような影響がありますか。
松本:もし、献血血液の供給量が需要を下回るようなことになれば、自分や家族が輸血を必要としたときに、血液が足りなくなる事態が起こる可能性があります。
私がふだん診療をしている血液内科の患者さんたちは、輸血用血液製剤がなければ、すぐにでも命に関わります。手術やがん治療を行っているような病院であれば、医療は1日ももたないでしょう。
田中:それに加えて影響が大きいのが、免疫グロブリン製剤の製造が減ってしまうことです。この薬は、神経難病や自己免疫疾患の治療で使われているものですが、適用範囲の拡大により、日本での使用量は年間3パーセントずつ増えています。
現在も国内の製造体制が十分ではなく、一部を輸入に頼っています。そのため、もし献血血液が足りずに国内での製造量がさらに減少してしまうと、必要な治療を受けられない患者さんが出てくると考えられます。


なぜ「若者の献血離れ」が進むのか? 身近なメリットと健康管理
――なぜ、若者の献血離れが進んでいるのでしょうか。
紀野:まず第一に、高校への献血車の巡回が減少したからです。多いときでは、高校生の献血率が20パーセントを超えていた時代もあるのですが、医療現場で400ミリリットルの全血献血の需要が高まってからは、男性で17歳以上、女性で18歳以上という年齢制限があるため、高校での献血活動が徐々に減っていった背景があります。
また、コロナ禍をきっかけに、大学や企業で行われていた集団献血が減少したことも理由の1つです。若いときに献血に触れる機会が少なくなったことで、「献血離れ」が進んでしまったと思われます。
日本赤十字社の調べによると、10~20代で献血に1回でも行ったことがある人の割合は、10パーセントに満たないことが分かっています(※9)。
このまま1回も献血をしたことがない若者が増えていけば、10年後、20年後に献血をする人の数が大幅に減ってしまう可能性があるため、私たちは強い危機感を持っています。
――献血に触れる機会がなかった今の若者たちは、献血に対してどんなイメージを持っているのでしょうか。
紀野:献血は身近にできるボランティアであり、大切な社会貢献だと思ってくれている方たちがいる一方で、「痛そう」「大変そう」と、献血をすることに対してハードルを感じている方もいます。
実際には、針を刺すときの痛みはあるものの、「思っているほど痛くなかった」と言う人も多いので、必要以上に怖がらないでほしいですね。全血献血であれば、採血にかかる時間は10~15分ほどで、検査を含めても1時間前後で終わります。
最近の献血ルームは、自由に本やマンガが読めたり、飲み物やお菓子、アイスなどが置いてあったりと、若い人たちが楽しめるように工夫されているので、「友だち同士で一緒に行く」という人たちも増えてきています。
――まるでカフェのような雰囲気ですね。気軽に足を運べそうです。
紀野:そう思ってほしいですね。それに、献血をすると自分の体の状態が分かるので、実は健康管理の面からもとてもメリットがあるんです。
例えば、血液中のヘモグロビンの数値を測ると、貧血かどうかを調べることができます。特に女性は自分でも気づかずに貧血になっている人が多く、成人女性の約30パーセントは鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ※10)の状態だといわれています。
また、若い男性が注意したいのが脂肪肝(※11)。肝機能ALTの数値を見れば、脂肪肝のリスクが分かります。わざわざ病院に行かなくてもそうした数値を測れるので、献血に定期的に通ってくださっている方のなかには、「健康のバロメーターにしている」という方もいます。
――若者の献血離れを食い止めるために、どのような取り組みをされていますか。
紀野:日本赤十字社では、若い世代の方たちに向けてパンフレット(※12)を配布したり、将来の献血者を増やすために、小中高生に向けた体験学習や血液センターの見学会を実施したりといった取り組みを積極的に行っています。
田中:東京では、医学部の学生たちが血液センターを見学し、そこで自身が献血したり、できない人は献血の呼び込みをしたりする自主的な活動も始まっています。学生時代にそうした活動に参加する意義は大きく、自身の体験を通して献血への意識が高まると思っています。


献血は「誰かのため」ではなく「自分のため」
――国内では実用化に向けた人工血液の開発が進められています。松本さんが所属されている奈良県立医科大学の研究チームでも人工血液の製作に取り組まれていらっしゃいますが、人工血液とはどのようなものなのでしょうか。
松本:私たちが開発している人工血液は、献血血液から作られた使用期限切れの血液製剤(赤血球)を再利用したものです。そのなかから酸素を運ぶヘモグロビンだけを取り出し、人工的な膜で包んだものになります。
この人工血液の特徴は、どんな血液型の方にも使えて、常温保存ができること。そして、赤血球製剤の有効期限が冷蔵で28日間なのに対し、これは室温で2年間保存することが可能です。
そのため、輸血用血液の確保が難しい離島やへき地での医療、ドクターカーやドクターヘリなどの病院前診療、災害時などでの活用が期待されています。
――実用化に向けて、今はどのような段階なのでしょうか。
松本:現在、安全性を調べるための第1段階の治験が終わったところです。健常な人に人工血液を400ミリリットル投与し、重篤な副作用がないことを確認しました。まだ、実用化までにはさまざまな治験が必要ですが、2030年頃までに新薬としての申請を目指しています。
日本では、京都大学でiPS細胞から人工血小板の作製に成功している(※13)ほか、慶應義塾大学発のベンチャー企業でも脂肪から人工血小板を作製している(※14)など、人工血液の開発においては世界をリードしているといえます。
――人工血液は献血の代わりになるのでしょうか。
松本:一時的に血液が不足した場合に、その不足分を人工血液が補うことはできるかもしれませんが、私たちは人工血液が献血の代わりになるとは思っていません。実際、人工血液の開発に使われているのも、献血で集められた血液の余剰分です。
今後も献血血液が必要なことには変わりません。
――将来的な献血量の不足を回避するために、社会全体でどのようなアップデートが求められていますか。
松本:今や献血は「誰かのためのもの」ではなく、「自分や家族を守るためのもの」だと知ってほしいと思います。若い方たちに限らず、「誰かがやってくれるだろう」と、どこか他人ごととしてとらえてしまっている方も少なくありません。
私たちが当たり前のように医療を受けられるのは、毎日、献血をしてくださっている方たちがいるからこそ。その“当たり前”を続けていくためには、「誰かがやってくれるからいい」のではなく、「自分たちが行かなければ始まらない」と意識を変えていく必要があります。
田中:私は離島やへき地での輸血療法の研究をしているのですが、実はそうした地域では献血率がとても高いことが分かっています。
自分たちの医療が、献血によって支えられていることを知っていらっしゃる方が多く、当事者意識がすごく強いんです。私たち一人一人が当事者意識を持てば、「献血をするのが当たり前」の社会になっていくのではないでしょうか。
紀野:献血に行かれる方たちの理由として、「家族が輸血で助けられたから」という声が多くあります。そうした動機も、献血に行く大きなきっかけになります。
もし献血血液がなければ、すぐにでも医療は崩壊してしまいます。自分や家族が病気になったら……。 献血は誰にとっても決して関係のない話ではありません。献血は自分や家族のための医療貢献の1つ。まだ献血をしたことがない人は、まずは一歩踏み出すことから始めてみてください。

献血で医療を支えるために、私たち一人一人にできること
最後に、紀野さん、松本さん、田中さんに、必要な医療を安心して受けられる社会であり続けるために、私たち一人一人にできることを伺いました。
[1]献血ができる年齢になったら献血に行く
400ミリリットルの全血献血ができるのは、男性は17歳、女性は18歳から。200ミリリットルの全血献血に関しては、男性、女性ともに16歳から可能。献血ができる基準を確認し条件を満たしていれば、まずは献血に行ってみる
[2]献血について知り、情報を広める
体質や病気により献血ができない人も大切な協力者。家族や友人と献血について話すだけでも、「献血に行こう」と思うきっかけになる
[3]献血は「自分や家族を守るため」の自分ごととしてとらえる
自分や家族が医療を受けるときに、献血血液に助けられるかもしれない。誰もが安心して治療を受けるために、自分ごとだという問題意識を持つことが大切
少子高齢化により、献血に行く人の数が減っているというニュースを見て、「このままで大丈夫なのだろうか?」と不安を感じたことをきっかけに、今回、一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会の皆さんに話を伺いました。
献血は需要と供給のバランスによって成り立っており、不足する事態を招かないよう、1回でも献血をしたことがある人への来訪の呼びかけや、小中高生に向けた体験学習など、さまざまな対策が取られていることを知りました。
ただ、若者の献血離れは深刻で、1回目の献血をする人をいかに増やすかが現在の課題となっています。献血者の数が減れば、将来、自分や家族が医療を受けられなくなるかもしれない――。決して他人ごとではないと実感しました。
撮影:十河英三郎
- ※ 1. 「血漿分画製剤」とは、血漿中に含まれる血液凝固因子、免疫グロブリン、アルブミンなどのタンパク質を抽出・精製したもの
- ※ 2. 出典:「献血」は命をつなぐボランティア。あなたもご協力を!|政府広報オンライン(外部リンク)
- ※ 3. 2026年3月31日時点の人数
- ※ 4.「免疫グロブリン製剤」とは、健康な人の献血血液から作られる、病原体から体を守る抗体(免疫グロブリン)を集めた医薬品のこと
- ※ 5.「アルブミン製剤」とは、健康な人から提供された血液から「アルブミン」というタンパク質を抽出・精製した医薬品(血液製剤)のこと
- ※ 6.「赤血球製剤」とは、出血及び赤血球が不足する状態、またはその機能低下による酸素欠乏がある場合に使われる
- ※ 7.「血小板製剤」とは、血小板の減少またはその機能低下による出血ないし、出血傾向のある場合に使われる
- ※
- 出典:「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)(外部リンク)のデータをもとに日本赤十字社が算定
- ※ 9. 血液事業年度報 令和7年度統計表|日本赤十字社(外部リンク)
- ※ 10.「鉄欠乏性貧血」とは、体内の鉄分不足が原因の貧血
- ※ 11.「脂肪肝」とは、食べ過ぎや飲み過ぎなどにより、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態のこと
- ※ 12. 血液事業紹介パンフレット「愛のかたち献血」〜広げよう、献血の輪!|日本赤十字社(外部リンク)
- ※ 13. iPS細胞を用いた人工血小板の作製の効率化に成功|京都大学 iPS細胞研究所(外部リンク)
- ※
松本雅則(まつもと・まさのり)
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会 理事長。奈良県立医科大学輸血部・教授。自治医科大学卒業後、地域医療を経て1999年より現職。一般社団法人 日本血栓止血学会・理事長も兼任し、日本の血液・輸血医療を牽引する。希少疾患研究の第一人者であり、将来の血液医療インフラ維持などの課題解決にも尽力している。
紀野修一(きの・しゅういち)
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会 理事。日本赤十字社 業務執行理事 血液事業・本部長。旭川医科大学にて輸血医学や安全な輸血管理体制の研究に従事したのち、日本赤十字社北海道ブロック血液センター等で要職を歴任。長年にわたり日本の安全な輸血医療インフラの構築と血液事業の発展に尽力している。
田中朝志(たなか・あさし)
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会 理事。東京医科大学八王子医療センター 臨床検査医学科教授兼輸血部科長。血液疾患や輸血学の専門医として血友病などの診療を支える傍ら、離島の血液製剤支援などで安全で有効な輸血医療インフラの確立に尽力している。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。