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「こどもまんなか社会」を実現するには? 自治体が直面する課題と、子どもの意見を聞き活用するためのカギ
- こども基本法施行後、各自治体では子どもの意見聴取を始めているが、どう活かせばよいか悩みを抱えている自治体も多い
- 子どもの声を施策やまちづくりに活かしている自治体にはいくつか共通点がある
- 子どもを社会の一員と尊重して意見を施策に反映することが、地域全体のウェルビーイングにつながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
2023年4月、「こども基本法」が施行されました。これは、すべての子どもが将来にわたって自分らしく幸福に暮らせる社会の実現を目指し、国や自治体などの社会全体で子どもに関する取り組み(こども施策)を総合的に進めるための法律です(※1)。
1989年に国連で「子どもの権利条約(※2)」が採択されましたが、日本では長らく国内法の整備が進まず、子どもの権利は十分に浸透していませんでした。しかし、こども基本法の施行を契機に、子どもに最も身近な自治体で、子どもの権利を尊重する取り組みが本格化しつつあります。
しかし、取り組みを進めるうえで各自治体はさまざまな課題を抱えています。そうした自治体を支え、子どもの権利や意見聴取の理解・実践などをサポートしているのが、認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、FTCJ)(外部リンク)です。
子どもの意見を尊重し、それをどのように社会実装していくのか。FTCJの創設者で代表理事を務める中島早苗(なかじま・さなえ)さんと、事務局長の出野恵子(いでの・けいこ)さんに、実際のサポート活動を通して見えてきた自治体の課題や先進自治体の事例について伺い、どの地域でも応用できる実践のポイントを探ります。
子どもの権利を社会に広げるFTCJの役割
――FTCJは、カナダで誕生したFree The Children(フリー・ザ・チルドレン)の理念を日本の子どもや若者に紹介したいという想いで設立されたと伺いました。
中島さん(以下、敬称略):はい。カナダ人のクレイグ・キールバーガーさんがフリー・ザ・チルドレンという国際協力団体を設立したのが1995年のこと。立ち上げが12歳という若さ、そして“子どもが声を上げて世界を変える!”という話を、1997年に私がアメリカのNGOでインターンをしていた時に知りました。
当時の日本にはまったくなかった発想に衝撃を受けたことを覚えています。これはぜひ、日本の子どもたちにも伝えたいという使命感のようなものが湧き上がったんです。
FTCJは1999年に設立しましたが、それから1年半くらいは活動する子どもが集まらず、苦労もたくさんありました。けれどその後、クレイグさんが本を出版したり、活動内容がテレビで紹介されたりして認知度は徐々に向上。今では“世界を変える”同じ志を持った多くの子どもたちが参加してくれています。

――FTCJの主な活動はどのようなものになるのでしょう。
中島:子どものウェルビーイングが実現できる社会を目指して、次の5つの柱で事業に取り組んでいます。
[伝える]
学校や自治体などで授業や講演を行い、子どもたちが「自分の権利」を知り、社会に関わるきっかけをつくっています。例:出前授業、教材作成、子ども意見聴取サポートなど
[つなぐ]
さまざまな理由で社会とかかわりづらい子どもやご家族が、学びを通じて社会とつながり、自立できるようにお手伝いしています。例:国内・海外における自立支援、災害や紛争発生時の緊急・復興支援など
[育てる]
子どもたちに向けて、実際の活動の始め方や、困っている人を助けるための正しい知識について、深く学ぶ場を提供します。例:現地が抱える問題を学ぶ海外スタディツアー、社会課題へのアクションを学ぶ「テイク・アクション・キャンプ」、対話や意見交換の進行役を育成する「ユースファシリテーター育成」など
[支える]
「社会を良くしたい」「人の役に立ちたい」と自ら行動を起こす子どもたちの活動をサポートしています。例:活動サポートツールの提供、活動相談会、アクション伴走プログラムの実施など
[広める]
子どもたちの活動が長く続くように、情報発信やイベントを行ったり、他の団体と協力したりして仲間の輪を広げています。例:子ども・若者がアクションを起こした成果を共有し合うイベントの開催、SDGs実践事例集や動画の制作、政策提言活動など
私たちはこうした実践のノウハウを、団体設立当初から教育先進国であるカナダのリーダーシップ教育(※3)をベースに勉強を重ね、独自の知見として蓄積してきました。


――具体的に自治体へはどのようなサポートを行っているのですか。
出野さん(以下、敬称略):自治体へのサポートは3つの領域に取り組んでいます。
1つ目は、こども政策課などと連携した、行政職員の意識改革や政策への子どもの意見反映のサポート。2つ目は、子ども会議や意見聴取など、実際に子どもと関わる事業のサポート。3つ目は、子どもや教職員向けに子どもの権利の理解を深める授業や研修の実施です。活動としては「伝える」ことの比重が最も大きいでしょうか。
法律の力は大きく、こども基本法の施行以降、自治体の子ども施策に対する意識が高まったのは事実です。一方で、「何から始めればよいのか分からない」という声も少なくありません。
そうした課題解決に向けて、私たちは団体発足時から大切にしてきた「子どもたちとの関わり方」の知見を活かし、こども家庭庁の委託事業として、子どもの意見を引き出すファシリテーター養成講座の研修プログラムの作成を担わせていただきました。以降、同庁の研修講師も務めさせていただいています。
その他にも、東京都世田谷区や渋谷区、仙台市、新潟市などの地域で実施したサポート事業の実績が認知拡大のフックとなり、現在は多くの自治体からサポートのご依頼をいただいています。

“自分ごと”から始まる持続可能なこども施策
――実際にサポートしていくなかで見える、自治体の課題を教えてください。
出野:まず挙げられるのは、子ども施策を継続的に進めていくための組織体制づくりです。
自治体では職員の異動があるため(※4)、専門的な知見を有する外部の団体などと連携しつつ、施策の企画や運営を進めるケースが多くあります。一方で、外部の力を活用しながらも、自治体のなかに経験やノウハウを蓄積し、担当者が変わっても取り組みが続いていく仕組みをつくることが重要です。
私たちも、自治体の皆さんと一緒に取り組みを進め、将来的には自治体自身が継続して実践できるような体制づくりを支えていくことが大切だと考えています。
次に、施策や計画は策定されたものの、それが十分に活用されていない点です。
施策を推進していくと、例えば、「〇〇条例」のようなものが制定されますが、つくって終わりになってしまう自治体も少なくありません。条例は活用されて初めて意味を持つのであり、制定された段階では、子ども施策に向けたスタートラインに立ったに過ぎません。
――なぜ活用されないのでしょうか。
出野:やはり「伝える」ことが十分にできていないのが大きいと思います。
単に条例の制定を知らせるだけではなく、どのように活用できるのかを地域の皆さんが具体的にイメージできる形で伝える必要があります。そのためには多くの子どもたちがたくさんの時間を過ごしている学校の協力も欠かせません。子どもたちに、自分たちが権利の主体であることを知ってもらいたいです。
そして自分に権利があるように相手にも権利がある。その理解が、他者への尊重や対話につながり、その集合体が社会であり、子どもが政策に意見をするということにもつながっていくと私たちは考えています。
中島:子どもの権利について、おとなが十分に理解していないことも大きいですね。私自身も学生時代に学ぶ機会はありませんでした。
しかし、近年は、2023年に施行された「こども基本法」によって、「子どもの権利条約」の理念が国内法にも明確に位置づけられました。学校の学習指導要領や教員養成課程についても、子どもの権利を学べるようにしていこうという議論が、今まさに進んでいるところです。
まずはおとなが子どもの権利について正しく理解し、互いを尊重しながら関わる姿勢を社会全体に広げていくことが大切です。その先に、ウェルビーイング(幸福)な社会の実現があるのではないでしょうか。

地域ぐるみで子どもの声を聞く仕組みづくりとは
こども施策が進んでいる自治体と、施策が進んでいない自治体にはどのような違いがあるのでしょうか。ここからは自治体の先進事例をいくつか紹介してもらいました。
●A町の事例
出野:人口約8,000人のコンパクトなまちです。自治体と教育委員会の連携が密で、子ども施策に関する情報共有がスムーズに行われています。
特に教育長が「日本一の教育のまち」を掲げて熱心に取り組んでおり、「こどもまんなか(※5)」の考え方が町全体に浸透している印象です。実際に、地域で行われるイベントはすべて子どもたちと一緒に計画し行われて、丁寧に意見を汲み取り、まちづくりに活かされていますね。
子どもの幸せがおとなの幸せにもつながるという理念のもと、地域住民が一体となってイベントや教育活動を盛り上げる風土が根付いていると思います。
●B市の事例
中島:人口75万人の政令指定都市です。10年の歳月をかけて2022年に子ども条例を施行し、こども基本法の施行をきっかけに改定しました。人権教育機関も発足し、独自の調査機関として機能し始めています。
現在は子どもの声を聞き出すファシリテーター育成をするなど、地域で活動するNPO団体だけでなく市民の参加も進めています。施策を持続的に成長させていくには、市民の皆さんと一緒に地域全体の力を高めていくことがとても大切です。
●C県の事例
出野:こども基本法の施行にともない、自治体や児童館、学童、保育の現場職員を対象に、子どもの権利に関する研修やファシリテーター養成を行っています。
意見聴取を行う際には、そうして育成された現場職員の方々と連携して進めるため、外部だけに頼ることなく自治体内部にノウハウを蓄積することができます。また、日常的に子どもが集まる地域の児童館や子ども食堂などで意見聴取を行うため、ゼロから子どもを集める負担も少なく、スムーズに声を聴くことができています。
もともと子どもと関わる専門職の方々が中心だったためアプローチが非常にスムーズで、地域の現場施設を研修や実践の場として活かせる理想的な体制が整っています。

「こどもの権利を守る」ことから、ウェルビーイングな社会へ
――ほかにも、FTCJが自治体に行っている特徴的な取り組みがあれば教えてください。
中島:私たちはさまざまなネットワークに参加しており、例えば「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン(※6)」の実行委員や、「NPO法人 子どもの権利条約総合研究所(※7)」の活動等にも関わっています。
他のNPO団体と学び合いながら政策提言を行うほか、研究所では年1回、全国自治体フォーラムを開催。各地の自治体関係者が集まるので、いい意見交換の場になっています。
現在(2026年9月時点)、全国約1,700の自治体のうち、子ども条例を制定しているのは約80自治体ですが、こども基本法の施行を機に自治体の関心は確実に高まってきました。その背中を押せるように、私たちもネットワークを活かしながら、より積極的に情報発信していきたいです。
――最後に、子どもの権利が尊重され、意見表明することで社会がどのように変わるのかFTCJの見解を聞かせていただけますか。
中島:意思決定の場で自分の意見が尊重されることは、自己肯定感の向上につながります。「子どもの権利条約」ができるまでは、子どもは保護の対象でしたが、子どもは権利の主体であり、社会の一員です。何かを決めるときに「意見を聞かせて」と言える社会になれば、子どもたちはもっと自信を持てるようになると思うんです。
出野:子どもの権利が守られ、意見が尊重されると、子どもたちは自信を持ち、自分らしくいられるよい状態(=ウェルビーイング)になります。
正直、おとな自身の意識を直接変えるのは社会のしがらみもあり簡単なことではありません。だからこそ「子どもの権利」を中心に据えておとなが関わることで、おとな側の意識や関わり方も自然と変わっていく、子ども起点のアプローチはひとつの有効な手段だと感じています。
子どもから取り組むこの好循環、温かい変化は、巡り巡って社会全体の幸せにつながっていくと信じています。

「子どもの声を聴くだけで終わらせない」5つのチェックポイント
子どもの意見を聞く機会をつくるだけでは、施策への反映にはつながりません。今回お話を伺った自治体の事例から、子どもの声をまちづくりに活かすための5つのポイントが見えてきました。
あなたの自治体は、いくつ実施できていますか?
□ いつもの場所と、現場のプロを活かす
地域と人材を活かせていますか?
新しい仕組みをゼロからつくるより、保育士や学童の先生など、普段から子どもと接している専門職との連携が近道です。児童館などの身近な場所を利用したり、意見聴取に興味がある職員の方に研修に協力してもらうなど、地域の力を活用しましょう。
□ 子どもの意見の反映は義務であるという意識を醸成する
組織内で、子どもの意見を政策に反映させていくことの大切さについて、理解を浸透できているでしょうか?
その理解がないなかで、こども政策課だけが孤軍奮闘しても、子どもの意見を社会に反映することは困難です。ミニ研修や実践講座など、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
□ 担当課と教育機関の連携
担当課と教育機関の連携はできていますか?
子ども施策を進めていくうえで、担当課と教育機関の連携は重要です。日頃から情報共有をこまめに行い、お互いが協力し合える関係をつくることで、子どもたちへの一貫したサポートが可能となり、意見を政策に反映しやすくなります。
□ 子ども自身に「権利の主体者」であると知ってもらう
子ども自身に子どもの権利を伝えられていますか?
子ども自身が政策に対して意見を言ってもいいこと、知りたいと思うことにつながっていないかもしれません。日々の生活のなかで、意見表明について知り、体験を積み重ねていくことが大事です。
□ 市民を巻き込む
まちづくりに市民の皆さんを巻き込めていますか?
行政だけでなく、NPOや一般の市民も巻き込んで、地域全体で子どもの声を大切にする文化を育てることが大事です。イベントや講座など、おとな向けの啓発事業も行うことで、浸透スピードは上がっていきます。
また、町長や教育長などトップが「子どもの幸せは地域の幸せ」という目標を熱心に掲げ、行政内だけでなく地域全体へ共有していく「リーダーシップと目標共有」も、これらを持続的に推し進める大きなエンジンとなります。
これらのチェックポイントが揃っていなくても、できるところから始めることが肝心です。あなたの地域は、何から始められそうですか。
編集後記
こども施策の基本的な方針を具体化する「こどもまんなか実行計画」は、年1回改定される仕組みになっています。その理念を実際の施策へどう落とし込むかは、国も自治体も模索中です。今回取材した自治体の事例は、そうした試行錯誤の最前線といえるかもしれません。
子どもの声を社会にどう位置付けるのか。「子どもの声を聴く」ことは自治体だけの仕事ではありません。学校の先生なら、子どもが安心して話せる場をつくる。地域のおとななら、地域のルールを決めるときに子どもたちにも聞いてみる。自治体職員なら、「意見を集めた後、子どもに結果を返しているか」を確認してみる。
そうして一人一人が「こどもの声」に向き合うことが、これからの社会の姿を形づくっていくのではないでしょうか。
撮影:十河英三郎
- ※ 1.出典:こども基本法|こども家庭庁(外部リンク)
- ※ 2.「子どもの権利条約」とは、世界中すべての子どもたちが有する基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。正式名称「児童の権利に関する条約」
- ※ 3.カナダは、OECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA)でも常に世界トップクラスに位置する教育先進国。その最大の特徴は、「自分で考え、行動する力」や「多様性を受け入れるリーダーシップ」を育てる教育システムにある。参考:カナダで未来を変える夏「世界のリーダー育成プログラム 」|JPブリッジサービスカナダ(外部リンク)
- ※ 4.自治体(市区町村や都道府県)の職員の人事異動は、毎年4月1日を基本として行われ、多くの自治体で3〜4年周期で実施されるのが一般的。参考:公共ビジネスの着眼点「地方自治体の人事異動の時期です」|公共ビジネスサポート株式会社(外部リンク)
- ※ 5.「こどもまんなか」とは、子どもや若者の視点に立ち、常に子どもにとって最も良いことは何かを考え、社会全体でその健やかな成長や幸せを支えていくという、こども家庭庁が掲げる社会ビジョン。出典:こどもまんなかアクション|こども家庭庁(外部リンク)
- ※ 6.「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」とは、子どもに関する活動を行う団体や個人が連携し、日本国内での「子どもの権利条約」の普及と権利の実現を目指す取り組み。公式サイト(外部リンク)
- ※ 7.「子どもの権利条約総合研究所」とは、国連の「子どもの権利条約」に関する総合的・実践的な研究や普及活動を行い、子どもの権利実現を目指す非営利法人。研究者や専門家だけでなく、弁護士、医師、教職員、施設職員、自治体職員、NPO・NGOスタッフなど、幅広い分野の人々が参加している。公式サイト(外部リンク)
中島早苗(なかじま・さなえ)
学生時代に環境保護団体に所属し活動を始めたことから社会問題に取り組むようになる。アパレル会社勤務を経て1997 年に渡米し、NGOでのインターン中にフリー・ザ・チルドレンの理念に共感。日本に紹介しようと帰国後の1999年にフリー・ザ・チルドレン・ジャパンを設立。以後、活動に従事。2007 年国際ソロプチミストより「青少年指導者育成賞」受賞。2022年から新潟市子どもの権利推進委員会委員に就任。
出野恵子(いでの・けいこ)
学生時代にフリー・ザ・チルドレン・ジャパンと出会い、インド支援事業チームに参加。以後、インドを始めフィリピン、カンボジア、モンゴルなどの自立支援事業に関わる。卒業後はコンサルタント会社を経て、2008年より当団体に参画。子どもの権利や子どもの社会貢献活動を軸に、延べ3万人以上に出前授業や研修を実施。子どもの権利や国際問題に関する教材開発を担当。保幼小の教員免許所有。
認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン 公式サイト(外部リンク)
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