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行政と民間の連携で全ての子どもが健やかに暮らせるまちづくり。東京・世田谷区の里親支援センターの取り組みとは?
- 里親制度を特別なことではなく当たり前にするため、世田谷区ではまちぐるみの環境づくりを始めた
- 2025年より民間機関が支援を包括的に担い、よりきめ細やかな伴走支援が本格化
- 家族という言葉に縛られず、子どもの「安心して暮らしたい」という本音に寄り添う、当事者視点に立った広報や支援が必要
取材:日本財団ジャーナル編集部
「社会的養護」とは、保護者のいない子どもや、保護者に監護させることが適当でない子どもを、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。
こども家庭庁支援局家庭福祉課による2024年の調査「社会的養育の推進に向けて」(外部リンク/PDF)によると、約4万2,000人の子どもが社会的養護のもとで生活しています。しかし、そのうち里親(家庭における養育やファミリーホーム)の環境で暮らしている子どもは約19パーセント。その他の子どもは乳児院や児童養護施設などで暮らしているのが現状です。
日本財団ではこうした現状を変えるべく「子どもたちに家庭をプロジェクト」(外部リンク)を通じて、里親や養子縁組の理解促進などを進めています。
- ※ こちらの記事も参考に:なぜ里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?(別タブで開く)
今回は東京都世田谷区で里親支援事業を担う「里親支援センターともがき」(外部リンク)のセンター長である岩田祐一郎(いわた・ゆういちろう)さんに、これまでの世田谷区での取り組みや、里親制度を地域に根付かせるために必要なこと、直面する課題とその解決の方向性についてお話しを伺いました。

■制度の変化とともに、里親支援の拠点としてスタート
――「ともがき」は、具体的にどのような業務を担っているのでしょうか。
岩田さん(以下、敬称略):「ともがき」は社会福祉法人東京育成園(外部リンク)を母体としており、世田谷区と連携しながら、里親支援センター(※)としての業務を包括的に担っています。現在8名のスタッフが在籍しており、そのうちの多くはもともと児童養護施設で子どもたちを支えていました。それぞれの経験を活かして里親支援に取り組んでいます。
主な活動は大きく分けて「里親制度の普及促進」「研修の実施」「マッチング」「養育開始後のサポート」「養子縁組成立後の支援」の5つです。
まず、「里親制度の普及促進」は、制度を知ってもらうための広報啓発活動、相談対応、登録までの伴走支援を行います。
「研修の実施」は、里親を希望する方や里親に対して、里親としての養育力を高める研修を児童相談所と連携して行っています。
「マッチング」は、社会的養護を必要とする子どもに対し、適切な里親家庭を検討、提案します。
「養育開始後のサポート」は、」乳児から中高校生まで、里親家庭それぞれの状況に応じて、子育ての相談関係機関との連携調整や、学校、医療、福祉との橋渡しなど、日常的な生活を支援しています。里親家庭から巣立った18歳以上の若者に対しても、必要に応じて対応します。
最後に「養子縁組成立後の支援」。子育てに関する支援、家庭訪問、サロン運営、相談援助などを行い、養子縁組成立後の家族を継続的にサポートしています。
このように、里親に関することを包括的に担う組織が「ともがき」です。
- ※ 2022年(令和4年)の児童福祉法の一部改正により、新たに創設された施設。設置・運営の主体は、地方公共団体、または社会福祉法人等で、都道府県知事等が適当と認めた者と定められている。参考:こども家庭庁「里親支援センターの設置運営について」(外部リンク/PDF)

――「ともがき」が立ち上がった背景についてお聞かせください。
岩田:里親支援センターとしての本格的なスタートは2025年4月ですが、基盤となる活動は2020年に始まりました。
2020年に世田谷区が児童相談所を開設した際、国の児童福祉法改正によって、里親の支援や普及促進、研修等のフォスタリング業務(里親の普及促進、研修、支援など里親制度を支援する活動のこと)を民間に委託できるようになりました。そこで私たちの法人が普及促進や研修といった一部の業務を受託することになりました。
その後、3年間は体制を整えながら活動を続け、フォスタリング業務を包括的に担う形へ移行し、さらに国の制度改正と区の準備が整ったことを受け、2025年からは組織体制を「里親支援センター」として再構築し、より広く里親制度を支える役割を担うことになりました。

里親制度を身近な存在に! まち全体で支える取り組み「里親子フレンドリーシティ」
――里親制度を身近に感じてもらうため、具体的にはどんな広報活動を行っていますか。
岩田:まずはウェブサイトの運営を軸に、Instagramやnoteなど複数のSNSで情報発信をしています。実際の里親の方に協力してもらい、YouTubeでインタビュー動画を公開したこともありました。紙のチラシやリーフレットも制作し、幅広く広報活動を行っています。
また、里親制度を「自分ごと」として感じてもらうため、現役里親と直接話せる「里親カフェ」の開催や、商業施設でのマーケット出店、展示なども行っています。
制度の紹介だけではなく、「なぜ子どもは家庭を離れることになるのか」「そのときどんな思いを抱えているのか」を丁寧に示すことで、より深い理解につなげることが目的です。

――イベントで大切にしていることを教えてください。
岩田:子どもたちは、「もとの家庭を離れたあとも「里子」という立場で壁にぶつかることがあります。だからこそ、特別扱いではなく、当たり前に地域に溶け込める環境をつくりたいんです。
制度の紹介だけでは見えにくい、子どもや実親の複雑な思いも伝えたい。そんな願いから世田谷区は「里親子フレンドリーシティ」を掲げました。
地域の誰もが子育てを支え合えるまちを目指した結果、今では多くの区民や団体との協力の輪が広がっています。ワークショップの開催や行政計画への反映など、一歩ずつ「誰もが暮らしやすいまち」へと近づいています

行政と連携し、多様化する課題の解決を目指す
――里親支援を進めるうえで、今感じている課題を教えてください。
岩田:現在の里親制度では、子どもの状況に応じて受け入れられる里親の「受け皿」が十分ではありません。東京都内でも登録家庭はあるものの、実際に子どもを受け入れている里親は限られており、近年増えている中高生の一時的な受け入れや、実親への復帰を前提としたケースに対応できる家庭が不足しています。
また、養育の難しさも課題の1つです。世田谷区では、経済的には恵まれていても、教育虐待や思春期の葛藤を背景に社会的養護につながる子どもが多く、信頼関係づくりに困難を抱えるケースも少なくありません。

――それらの課題を解決するためにどのような取り組みをされているのでしょうか。
岩田:里親の数を増やすだけでなく、子どもの多様なニーズに合った関わり方を広げることに力を入れています。近年増えている中高生の一時的な受け入れや、数日間のみの受け入れなど、里親にはさまざまな形があることを知っていただけるとうれしいです。
――多様なニーズに応えられる里親を増やすために、候補者の方々への働きかけや意識の醸成については、どのような工夫をされていますか。
岩田:里親登録前後の研修では制度や養育知識に加え、「なぜ里親になりたいのか」を見つめ直す自己理解のプロセスを重視しています。児童養護施設での実習や、小児医学・発達心理学・医療的ケアに関する専門的な講義などを通して子どもの背景を具体的に知り、子ども中心の関わりができるよう支援しています。
また、養育開始後も相談対応や関係機関との連携を継続し、里親家庭が孤立しない体制を整えることが大切です。こうした伴走型の支援を通じて、子どもと里親の双方にとって無理のない関係づくりを目指しています。

――制度を普及していくうえで、意識している視点や工夫はありますか。
岩田:普及啓発では、「家族」という言葉を安易に使わないようにしています。子どもが里親家庭を選ぶ理由は、「家族を求めて」ではなく、「より自由に、安心して暮らしたい」といった切実な思いであることも少なくありません。
そのため広報においても、年齢の低い子どもの写真を強調し過ぎないことはもちろん、大人側の「子育てしたい」という欲求に訴えかけるような表現を避けるなど、「子どもの当事者が見たときにどう感じるか」を常に意識しています。
今後も子どもの声に立ち返り続けることを大切に、行政や地域と連携して支援を続けていきたいです。
里親制度の正しい認識を増やすために、私たち一人一人ができること
最後に岩田さんに里親制度の正しい認識を増やすために、私たち一人一人ができることを伺いました。
[1]里親制度について正しい情報を知る
里親支援センターや支援団体のSNSをフォローし、記事や発信を読み正しい情報を得る。正しい認識を持つ人が増えること自体が、里親制度の理解につながる
[2]里親制度の背後にある社会課題を考える
里親家庭で暮らす子ども背景には、貧困、ジェンダー不平等、家族の分断など、さまざまな社会課題が重なっている。里親制度がそれぞれの社会課題にどう関連しているのかを理解することが重要
[3]里親制度にはさまざまな支援の形や方法がある
里親制度には、ボランティア参加やイベント運営、広報の手伝いなど、子どもを直接迎え入れなくても関われる役割がある。また短期間の受け入れや特定の年齢層を支える形など、多様な関わり方もある。最初は限られた時間での関わりでも構わない、関心を行動に移す経験が大切
里親制度を扱った記事はあまり多くなく、世田谷区が発信してるのが目に留まり、今回取材に至りました。
里親制度は「里親になる人と子ども」の関係だけで語られがちです。しかし取材を通して見えてきたのは、その背景にさまざまな社会課題が重なり合い、それらは私たちの身近にもつながっているということでした。どんな子どもであっても、「当たり前に暮らせる環境」が必要である。そのことを改めて考えさせられました。
行政や民間だけでなく、私たち一人一人もフレンドリーシティの担い手です。「子どもが特別視されないまち」を、自分たちの足元からつくっていきたいと思います。
撮影:佐藤潮
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。