未来のために何ができる?が見つかるメディア
少年院生と保護犬が共に再出発を目指す日本初の取り組み「GMaCプログラム」とは?
- 「GMaCプログラム」とは、少年院生が約3カ月かけて保護犬を訓練し、新たな家族へとつなぐ日本初の取り組み
- その背景には、対人関係に悩む少年や、人への警戒心が強く家庭になじみにくい保護犬が増えている現状がある
- 人も動物も、過去や生まれ育った環境だけで価値や可能性を決めつけるのではなく、再挑戦の機会をつくることが、誰も排除されない共生社会につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
千葉県八街市の八街少年院で、公益財団法人ヒューマニン財団(外部リンク)が実施している「GMaC(ジーマック)プログラム」。同財団が動物愛護センターから引き取った保護犬を、少年院生が一人一頭ずつ担当し、新たな家族のもとで暮らせるよう、約3カ月かけて家庭犬としての訓練を行う取り組みです。
犬にとっては、人との信頼関係を築き、新たな家族と出会う機会となります。一方、少年院生にとっては、思い通りにいかない相手と向き合いながら、対話や自己コントロールの大切さを実践的に学ぶ場となっています。
しかし、プログラム立ち上げから携わる同財団のドッグトレーニング・インストラクター、鋒山佐恵(ほこやま・さえ)さんは「このプログラムは魔法のように少年院生を劇的に変えるものではありません」と話します。
その真意と、「GMaCプログラム」のこれまでの歩み、そしてこれから目指すものについて、お話を伺いました。

少年院生が保護犬を訓練する「GMaCプログラム」とは
――鋒山さんが所属するヒューマニン財団では、どのような活動を行っているのでしょうか。
鋒山さん(以下、敬称略):主に茨城県と千葉県の動物愛護センターから犬を引き取り、健康管理や家庭犬として暮らすためのトレーニングを行いながら、新たな飼い主へとつないでいます。この千葉県九十九里にある「ヒューマニンハウス」は、犬の保護とトレーニングを目的とした施設です。
また、私たちは、保護犬の譲渡に加え、犬の力を人の教育や福祉に生かす動物介在活動(※1)にも取り組んでいます。その1つが、八街少年院で行っている「GMaCプログラム」です。
――改めて、「GMaCプログラム」について教えてください。
鋒山:八街少年院の少年院生が保護犬を一人一頭ずつ担当し、約3カ月かけて訓練するプログラムです。2014年の財団設立と同じ年に始まり、現時点で第25期を終えています。現在は年2回実施しており、1期につき3人の少年と3頭の犬が参加しています。
プログラムの目的は大きく3つあります。1つ目は、保護犬が人との信頼関係を築き、家庭犬としての力を身につけることで、新たな飼い主につながりやすくすること。2つ目は、犬の訓練を通じて少年たちに学びの機会を提供すること。そして3つ目は、保護犬も人が真剣に向き合い、適切に訓練すれば大きく成長できることを社会に知ってもらうことです。
「GMaCプログラム」を通じて保護犬や犬の訓練に関心を持つ人が増え、人と犬とのよりよい関係づくりにつながってほしいと考えています。
――少年たちにとっての学びの機会とは、具体的にどのようなものでしょうか。
鋒山:犬を訓練するには、相手の様子を見ながら、自分がしてほしいことを伝えるコミュニケーション力が必要です。うまくいかなければ、別の方法を試す問題解決力も求められます。感情的に怒れば、犬にも不安や恐怖が伝わってしまうため、自分の気持ちをコントロールしなければなりません。
これらは、人間関係や子育てにも通じる力です。少年たちのなかには、自分が親から適切な関わり方をしてもらえなかったと感じている子もいます。力や感情で押さえつけるのではなく、相手と向き合い、その成長を支える経験が、少年たちが将来親になったときに少しでも役立てばと考えています。
――プログラムの流れを教えてください。
鋒山:基本のカリキュラムは週4日、12週間で全48回です。毎回、散歩の練習から始め、その後、ブラッシングや歯磨きなどのグルーミング(※2)を行います。
犬を休ませている間は、教科書を使った15〜20分ほどの座学の時間です。その日の課題や訓練方法、犬に指示を出す際の言葉を学んだ後、犬と一緒に実践へ移ります。最後に記録をつけて、1回のプログラムが終了します。期間中には中間試験と修了試験も設けています。
プログラムを修了した犬たちは、その後もヒューマニンハウスで訓練を受けながら、新たな家族との出会いを待つことになります。
――一度決まったペアが、途中で解消されることはありますか?
鋒山:原則として、3カ月間は同じペアで取り組みます。ただし、少年が施設内の規則に違反して参加を続けられなくなった場合や、犬の体調が悪化し、プログラムの継続が大きな負担になると判断された場合には、途中で終了することもあります。
少年が参加できなくなった場合でも、別の少年が途中から担当を引き継ぐことはできません。途中参加では訓練を最初から受けることができないため、その犬もプログラムを継続できなくなります。
そのため、少年たちには最初に「自分がこの3カ月間をどう過ごすかが、犬の将来にも関わる」と伝えます。一頭の犬に責任を持ち、最後までやり遂げる経験は、少年たちが社会に戻った後にも生きるものだと思っています。


少年を変える「魔法」ではない。学びは本人の意思に委ねる
――プログラムに参加した少年たちには、どのような変化が見られますか。
鋒山:私は、プログラムが行われる1回90分の時間しか少年たちを見ていないため、人としてどのように変わったのかまでは把握できていません。ただ、犬との接し方が上達したり、思い通りにいかない場面でも粘り強く向き合えるようになったり、仲間と自然にコミュニケーションを取れるようになったりと、確かな変化は感じられます。
少年院の職員の方からは「人の目を見て話せるようになった」「ほかの活動にも積極的に取り組むようになった」という話を聞くこともあります。
――「GMaCプログラム」によって、少年たちを特定の方向へ変えようとしているわけではないのですね。
鋒山:そうですね。このプログラムは少年院で行われるさまざまな教育の1つであり、魔法のように少年を変えられるものではありません。社会に戻った後の歩みには、家族や社会からの支援、少年院で受けるほかの教育など、多くの要素が関係します。
私が行っているのは、少年たちに犬の訓練を教え、一緒にその犬を愛される家庭犬へ育てることです。学ぶ機会を提供することはできますが、そこから何を受け取り、将来どのように生かすかは本人に委ねられています。私たちが期待したものとは全く異なる学びを得るかもしれませんが、それでいいと考えています。
――少年たちが、「GMaCプログラム」から何かを学び取ったと感じた場面はありますか?
鋒山:ある少年が、保護犬と接するなかで「こんなにかわいい子が捨てられるなんて」と話し、命の大切さに気づいたことがありました。そのとき私は、「あなたも1つの命です。あなたを大切に思っている人もいるのだから、自分自身を大切にしなければいけないよ」と伝えました。
また、それまで他者に期待せず、「自分は一人で生きていく」と考えていた少年が、犬との訓練を通じて「自分が変わらなければ、相手も変わらない」と気づいたこともあります。相手に求めるだけでなく、まず自分に何ができるかを考えるようになったと話してくれました。
――プログラムを修了した保護犬を迎えたご家族から寄せられた反応のなかで、特に印象に残っているものがありましたら教えてください。
鋒山:「GMaCプログラム」を経た犬を迎える方の多くは、もともとプログラムの存在を知っていたわけではありません。保護犬を迎えたいと私たちの施設を訪れ、初めてその犬が少年院で3カ月間訓練を受けたことを知ります。
そうした方々の心に強く残るのが、黄色いバンダナです。プログラムの修了時、少年たちは担当した犬に、応援や感謝のメッセージを書いた黄色いバンダナを贈ります。少年は自分の名前や顔を明かすことも、新しい飼い主と会うこともできないため、このバンダナが少年の思いを新しい家族へつなぐ大切な架け橋になっています。
これまで、少年院の少年が訓練した犬だから迎えたくないと言った方は一人もいません。むしろ肯定的な反応が多く、「少年が大切に育ててくれた思いも受け継ぎ、この子を大切に育てたい」と話し、バンダナを手に涙ぐむ方もいました。
――活動を続けるなかで、保護犬を取り巻く状況にはどのような変化を感じていますか。
鋒山:私が活動してきた15年ほどの間に、動物愛護センターに収容される犬の数は大幅に減りました。ある施設では、かつて年間1万頭ほどだった収容数が、現在では1,000頭以下まで減っています。
以前に比べて放し飼いや屋外飼育が減り、避妊・去勢手術も広がりました。飼い主のモラル向上や動物愛護管理法の強化も影響していると思います(※3)。収容される犬が減っていること自体は、とても良い変化です。
一方で、現在センターに収容される犬は、人と暮らした経験がなく、野山で生まれ育った野犬の割合が高くなっています。そのため、人に対する不信感や恐怖心が強い犬が増え、家庭犬として迎えやすく、「GMaCプログラム」にも無理なく参加できる保護犬を選ぶことが難しくなってきました。
保護犬を取り巻く環境が変わる一方で、少年たちの傾向にも変化を感じています。反抗的な態度が表に出る少年だけでなく、近年はおとなしく、自分を表現することや人とのコミュニケーションが苦手な少年も増えています。限られた人数と時間のなかで接した私の印象ではありますが、時代とともに少年も犬も変わっているのだと思います。
――少年や犬の変化に合わせて、「GMaCプログラム」も変えていく必要があるのですね。
鋒山:そうですね。同じカリキュラムを続けていれば、いつでも同じ効果が得られるわけではありません。参加する少年や犬、実施する施設の環境に合わせ、双方にとってプラスがあり、負担が大きくなり過ぎない内容を考える必要があります。
「GMaCプログラム」を長く続けていくためにも、周囲の変化に合わせて、私たち自身も変わり続けなければならないと感じています。


誰もが再挑戦できる社会のために、一人一人ができること
最後に、人も動物も排除されることなく、誰もが再挑戦できる社会に近づくために、私たち一人一人にできることについて、鋒山さんに伺いました。
[1]過去や生まれた背景だけで、その命の価値を決めつけない
保護犬のなかには、生まれたときから「必要とされていない命」として扱われてきた犬もいます。しかし、新たな家族と出会うことで、かけがえのない存在になることができます。人についても同じです。過去の失敗だけで可能性を閉ざすのではなく、その人が再び社会とつながり、役割を持てるよう支えていくことが大切です。
[2]犬の可能性を決めつけず、学びながら向き合う
犬は、ただ飼うだけで自然に人と意思疎通できるようになるわけではありません。困った行動を見て「この犬は駄目だから」と諦めるのではなく、犬の様子をよく観察し、必要に応じてトレーナーやしつけ教室の力も借りながら向き合うことが大切です。保護犬も、適切な関わりと訓練によって大きく成長できることを知ってほしいと思います。
[3]子どもが人や動物と直接関わり、学べる機会をつくる
オンラインでのつながりが広がる一方で、相手の表情や反応を見ながら、自分の思いを伝えることが苦手な子どもも増えています。家庭や学校、地域のなかで、人や動物と直接向き合い、思い通りにならない経験を重ねられる機会をつくることは、次の世代のコミュニケーション力や問題解決力を育むことにつながります。
編集後記
保護犬と少年院生が関わる「GMaCプログラム」。そのなかで、両者にどのような変化が生まれるのかを知りたいと思い、今回取材を申し込みました。
ヒューマニンハウスで印象的だったのは、取材に訪れた私たちを少し離れた場所から不安そうに見つめていた犬たちの姿です。しかし、信頼するトレーナーがそばにいると、施設内を元気いっぱいに駆け回っていました。
安心できる存在がそばにいるからこそ見せられる姿がある。それは、犬も人も同じなのかもしれません。
「Give Me a Chance」の頭文字をとった「GMaCプログラム」は、その名が示すように、犬や少年を劇的に変える魔法ではなく、それぞれが自分なりの一歩を踏み出すための機会です。目に見える変化を急いで求めるのではなく、関わりを重ねながら、その過程を見守ること。鋒山さんへの取材を通じて、その大切さを改めて感じました。
撮影:十河英三郎
- ※ 1.「動物介在活動」とは、動物とのふれあいを通じて、人の情緒的な安定や教育、リハビリテーション、生活の質の向上などを支援する活動のこと
- ※ 2.「グルーミング」とは、ブラッシングや歯磨き、爪切り、シャンプーなど、犬の体を清潔に保ち、健康状態を確認するための日常的な手入れのこと
- ※ 3.「動物愛護管理法」とは、動物を「命あるもの」として大切に扱い、人が飼育する動物によって迷惑や危害が起きるのを防ぐための法律。正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」。出典:動物愛護管理法|環境省(外部リンク)
鋒山佐恵(ほこやま・さえ)
公益財団法人ヒューマニン財団 ドッグトレーニング・インストラクター。アメリカで補助犬訓練士の専門知識を学び、少女の更生施設や女子刑務所で犬の訓練指導に携わる。帰国後、2014年に八街少年院で始まった「GMaCプログラム」の立ち上げに携わり、現在もインストラクターとして少年院生に保護犬の訓練方法を指導している。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。