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沖縄合同旅行レポート【体験編】新たなチャレンジや感動。子どもたちの世界を広げた2泊3日の旅
- 「第三の居場所」は、教育や体験といった機会を通して、子どもたちの将来の自立に必要な力を養う場
- 「これは何だろう?」という好奇心が、子どもたちの世界を広げる
- 新たなチャレンジや感動、豊かな体験が子どもたちの自信や成長につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
「旅」が持つ魅力とは何だろう。見たことのない景色、初めて食べる料理、旅先で出会うさまざまなバックグラウンドを持った人々…。本でも、パソコンの画面に映る光景でもない、リアルな世界を五感で体験する機会は、多くの知識や経験、友達を増やしてくれる。
今、日本の7人に1人の子どもが教育や体験の機会に乏しく、地域や社会から孤立し、さまざまな面で不利な状況に置かれてしまう傾向にある。日本財団では、行政や民間のパートナーと協働し、地域の子どもたちのもう一つの家である「第三の居場所」を設置。全国100カ所の展開を目指して取り組んでいる。そこでは、専門的な研修を受けたスタッフや地域のボランティアが、日々の関わりを通じて教育や体験機会を提供し、子どもたちにとって将来の自立に必要な力を育んでいる。
今回、「第三の居場所」に通う子どもたちが2泊3日の沖縄旅行に出かけることに。初めての沖縄。透き通るエメラルドグリーンの海に、遮るもののない真っ青な空。ワクワク&ドキドキの冒険の始まりだ。
「初めて」の連続。南国のパラダイス・渡嘉敷(とかしき)島に到着
強い日差しが照りつける、7月の沖縄。観光客でにぎわう那覇空港には、大阪、兵庫、広島、香川、佐賀、長崎、宮崎、沖縄といった西日本10カ所の拠点から子どもたちが続々と集結した。
身に付けているのは、拠点ごとに違う色のTシャツと、お揃いのゴムバンド、必要なアイテムを詰め込んだリュックサック。たくさんの人が行き交う空港のロビーに、少し緊張気味ではあるものの、お互いに荷物チェックをしたり、持ってきた懐中電灯を自慢し合ったりする子どもたちからは、これから始まる冒険へのワクワク感がひしひしと伝わってきた。
今回の目的地は沖縄県の離島・渡嘉敷島。慶良間諸島(けらましょとう)国立公園の中にある最大の島で、「ケラマブルー」と呼ばれる世界屈指の美しさを誇る海と、サンゴやウミガメなど豊かな生態系が息づくエリアだ。この島の歴史は長く、先史時代の遺跡もある。琉球王国時代には、中国と沖縄の間を行き来する、船を見張る烽火(のろし)台があり、第二次世界大戦では、米軍の攻撃で島民の半分が自決したという悲しい歴史も持つ。
島に渡る前に一行は那覇市の観光として、空港から30分ほどの場所にある首里城へと向かった。空港ではちょっと緊張気味だった子どもたちも、バスに乗車した後は、少しリラックスした表情に。「沖縄にマクドナルドはあるの?」「牛丼屋は?」「さっき『豚の丸焼き』ってお店があったよ!」。初めて見る沖縄の街並みに子どもたちは大興奮だ。大人から見たら何気ない街中の景色からも、子どもたちは自分の暮らしていた場所との違いを器用に見つけ出す。
「沖縄はとても暑いので白い建物が多く、塀などには、穴が空いたブロックを使い、風通しを良くしているんです。サンゴが積もって出来た地質で山も少ないので、よく水不足になります。だから、それに備えて屋根の上に貯水タンクがあるんですよ」
そんなガイドさんの説明にも「なんで白い建物なの?」「タンクはどこ?」といったたくさん質問を投げかける子どもたち。歴史地区・首里の街に入ると「(屋根の上に)シーサーを見つけた!」「僕は5つ見つけたよ!」といったシーサー探しゲームが始まった。旅が、想像以上に子どもたちの好奇心や探求心をくすぐるものであることと、子どもたちが遊びづくりの名人であることを実感させられる。
首里城でも子どもたちの好奇心は止まらない。美しい守礼の門や絢爛豪華な建築よりも、自然や小さな生き物に興味津々のようだ。木に止まっているセミが何ゼミなのか話し合ったり、珍しいカラフルな蝶を追いかけたり、ガジュマルの樹に宿ると言われている伝説の精霊キジムナーを呼び出そうとしてみたり…。
自然と触れ合うというのは、想像外のものを探し、発見して、触りながら理解していく行為でもある。そんな体験が、子どもたちの成長につながるのだ。
首里城を後にした子どもたちは、船で一路、渡嘉敷島へ。窓の外には真っ青な海と、そこに浮かぶ島々の影が見えた。穏やかな海を太陽が照らし出し、海面にはキラキラと輝く光の道が生まれては消える。そんな雄大な景色を眺め、波間を漂ううちに、日常の世界が遠ざかっていき、時間の流れまで変わっていくように感じた。これが世に言う「うちなー(沖縄)タイム」なのかもしれない。
35分間の船旅を終えた子どもたちは、バスでこれから2日間過ごす「沖縄青少年交流の家」へと向かった。その日は、夕ごはんを食べて他拠点の子どもたちと顔合わせをし、21時半には就寝。今日はまだ冒険の序章に過ぎないのだ。
透き通るケラマブルーの海。ワクワクのアクティビティの始まり
2日目は、待ちに待った海でのアクティビティ。渡嘉敷島にはたくさんの天然ビーチがある。その中でも有名なのは、「阿波連(あはれん)ビーチ」と「渡嘉志久(とかしく)ビーチ」だ。阿波連ビーチは、渡嘉敷島のメインビーチで、さまざまなマリンスポーツを楽しめる。渡嘉志久ビーチには、ウミガメが住み着いていて運が良ければ出会えるという。今回、子どもたちが向かったのは阿波連ビーチだ。
阿波連ビーチは宿舎から山を越えた、その裏側にある。バスで山道を走ること10分ほど、木々の間から絵に描いたような真っ青な海と、キラキラ輝く真っ白な砂浜が現れた。自然と歓声が上がるバスの車内。これまで見たこともないような、美しい海がそこにはあった。
この日、子どもたちが体験するアクティビティは3種類。約20人が乗船できる沖縄風の「大型カヌー」に、バタ足で簡単に進み、海底観察用の透明なのぞき穴から海の中の様子を観察できる特殊な浮き「スーパーフロート」、それと自由水泳だ。
まずは、カヌー班に密着。大型のカヌーに乗船する際は、バランスをとらなくてはいけない。片側が重くなり過ぎると転覆する可能性があるのだ。慎重にカヌーに乗り込む子どもたち。専用のオールを使い、掛け声をかけながら、力を合わせてアクアブルーの海に漕ぎ出した。カヌーの床には、透明なガラス板が張られており、海の世界をのぞき込むことができる。子どもたちの中には「さっきカクレクマノミがいた!」「サンゴが多い所に魚が集まるんだよ」といった魚博士も。
持ち運ぶのに少し苦労したスーパーフロートも海に入ると、楽に移動できる便利なアイテムだ。遠くまで行き、熱帯魚観察を楽しむ子どもや、海に浮かんでいる感覚を楽しむ子ども、波打ち際でのんびり過ごす子どもなど、各々が自分流のやり方で楽しんだ。
最後は、自由水泳。日差しは強烈だが、海水の温度は心地よい冷たさ。上級生の子どもたちの多くは、はしゃぎながら海へと入って行った。一方で、今回の旅行には、海で泳いだ経験がない子どももたくさんいる。最初は足だけ海につけていた子どもが、友達に誘われて少し深い場所に挑戦。大丈夫そうだと分かると、さらにもう少し深いところへ。救命胴衣を着ているとはいえ、初めての海で足が着かない場所にいくのは、とても勇気のいることだ。子どもたちにとっては大きな冒険に違いない。
美しい沖縄の海で、盛りだくさんのマリンアクティビティを体験した子どもたち。最後、波打ち際に戻ってきたみんなの顔は、ちょっと日焼けしながらも、沖縄の空のように晴れ晴れとしていた。
海と空と星と…。自然の中で成長して行く子どもたち
渡嘉敷島で過ごす最後の夜は、みんなで天体観測。宿舎がある丘のさらに上の丘へと登り、夏の夜空を観察した。どこからか星空の博士と望遠鏡も現れ、子どもたちは大興奮。はしゃぎながらも「望遠鏡を設定するためには周りが暗くないといけないので、懐中電灯を消してくださいね」という博士の言い付けはしっかり守る。
望遠鏡で木星を見た子どもたちは「縞模様が見えた!」「オレンジだった」とうれしそうに話した。
上空に広がる今にも落ちてきそうなくらいの星空。普段見ている世界が、大きな宇宙のほんの一部でしかないことを気付かされる。と同時に、自然の雄大さや、計り知れなさを感じさせられ、なんとも言えない感情が込み上げてくる。子どもたちにとっても忘れられない体験になったに違いない。
子どもたちの将来の自立に必要な力を育む「第三の居場所」。自立に必要な力とは、自分で何かを考え、行動する「生きる力」そのものとも言える。暮らし慣れた日常を離れて、さまざまなものと出会い、多くのことにチャレンジした沖縄の旅は、きっと子どもたちをひと回りもふた回りも成長させたことだろう。
撮影:永西永実
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。