日本財団ジャーナル

新型コロナの最前線で働く看護職を日夜支える東京都看護協会に、いま必要な支援を問う

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寄付者の名前が彫られたオブジェの前に立つ東京都看護協会会長・山元恵子さん
この記事のPOINT!
  • 新型コロナウイルス感染症による影響下で、中小規模の病院では人材・資材不足やクラスター対策に追われている
  • 東京都看護協会では看護現場が抱える課題解決を支援するため、看護職の教育研修を行っている
  • 看護職は慢性的に人材不足。潜在看護師も含め、全ての看護職が健康で生き生きと働きやすくキャリアアップできる社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

未だに終息の見通しが立たない新型コロナウイルス。医療現場では外来患者数の減少や、予定していた入院・手術の制限による経営難をはじめ、人材・資材不足も問題になっている。

各地の医療機関でクラスター(感染者集団)も発生しており、緊張感の続く現場で奮闘している看護職の多くは、身も心も疲弊しており、新型コロナウイルスとの闘いは続いている。

今回は、保健師、助産師、看護師、准看護師の4つの看護職に就く人々を対象に、教育研修や就業相談など支援事業を行っている公益社団法人「東京都看護協会」(別ウインドウで開く)の会長・山元恵子(やまもと・けいこ)さんに、看護に携わる人々が抱える課題について話を伺った。

医療現場の看護職はウイルス、偏見、差別、見えない敵と闘っている

新型コロナウイルスの感染拡大によって社会が目まぐるしく変化する中、常に感染リスクの高い環境で働き続けている医療従事者。医療機関では徹底した感染対策を行っているが、現在もクラスター発生が相次ぎ、対策に追われている。

「病院にとっての課題は、全ての病院に感染症の予防や蔓延時に適切に対処できる感染管理認定看護師(※)がいるわけではないこと。設備が整っていないなど、クラスター発生時に早急な対応が難しい病院もあります。また、1人の看護師が感染するとその周辺では少なくとも10人前後の看護師に濃厚接触者が出る可能性があります。そのため、病床数200~300床の中小病院は立ち行かなくなってしまうのです」と山元さん。

  • 感染対策において高度な専門知識や実践力を持つと認定された看護師。資格取得後、実務経験が常勤(週40時間勤務)換算で5年以上あり、施設長の推薦が得られる者などの条件がある
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新型コロナウイルス感染症と向き合う看護師の状況を語る山元さん

東京都看護協会が、2020年6月に都内の医療機関234施設に新型コロナウイルス感染症に関する緊急アンケート調査を実施したところ、「看護職の立場で困ったことはありますか?」という問いに対し94.4パーセントが「はい」と回答。具体的な内容には「個人防護用具不足」や「患者への対応」が上がっている。

図表:看護職の立場で困ったこと(複数回答)

看護職の立場で困ったことを示す横棒グラフ(複数回答)。個人防護用具の不足193人(82.5%)、患者への対応176人(75.2%)、未知の感染症に対する恐怖や不安、緊張によるメンタル不調の訴え等143人(61.1%)、患者数が減っていること135人(57.7%)、衛生材料の不足120人(51.3%)、看護師の働き方105人(44.9%)、診察器材の不足86人(36.8%)、人材不足80人(34.2%)、専門治療施設が転院を受け入れないこと43人(18.4%)、その他42人(17.9%)
アンケート調査を行った半数以上の施設で、「個人用防護用具の不足」や「患者への対応」に困っていると回答があった

また、医療機関でクラスターが発生した場合、出入りする清掃会社や配送会社、売店等が撤退してしまい、これらの業務を看護師が代わりにせざるを得ない現場も少なくないという。   

「白衣の洗濯委託先の撤退により、やむを得ず私物のTシャツやパンツで働いているという病院もありました。また、看護業務に食事の配膳や清掃、コロナ関連のさまざまな書類作成などが加わって業務が回らなくなったり、自動販売機の商品補充もストップし院内で食事を取ることができなくなったりすることも。そんな状況の中、ある病院では、近所のスーパーへ買い物に行った看護師が利用客からのクレームを受けて、店から来店を拒まれるケースもあったと聞いています」

こうした誹謗中傷は看護師の家族にも及んでおり、地域住民からのいわれのないクレームを受けたり、夫の勤務先や子どもを預ける保育園から出勤や登園を控えるよう、要請されたといった事例もある。

図表:スタッフに対する誹謗中傷等

スタッフに対する誹謗中傷等を示す円グラフ。ある55人(23.5%)、ない175人(74.8%)、無回答4人(1.7%)
看護師やその家族が、実際に誹謗中傷を受けたという施設が2割以上もあった

政府は4月に病床確保や人工呼吸器・ECMO整備費等を支援する「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」を創設したが、経済的支援だけでは十分とはいえず、「新しい機器を導入すれば、それを動かすための技術や、新たな人材が必要になります。看護職の役割が拡大することで看護職が、さらにそういった現場でたくさん必要になるのではないかと懸念しています」と山元さんは表情を曇らせる。

専門知識を有する看護職を増やし、クラスター発生を防ぐ

こうした状況を踏まえ、東京都看護協会は、新型コロナウイルス対策プロジェクトとして、感染管理認定看護師や、高い知識や技術を用いて心のケアを行う精神看護専門看護師など、専門職を中心としたチームを結成。人材が不足している病院への派遣や、看護師のメンタルヘルスケアを目的とした相談窓口を設置し、さらにクラスターが発生した病院へ出向いて、アドバイスや必要な支援について対策を講じるなどの活動を行っている。

「私たちは3つの感染対策研修を今秋からスタートします。Aコースは全ての看護職を対象に自施設内において感染対策の指導を行うために必要な知識・技術を習得することを目的としています。Bコースは、感染対策についての基礎知識や経験を有する者を対象とし、所属地域において自施設以外の施設に赴き指導を行うために必要な知識・技術を習得。Cコースは障害者支援施設などにおける感染対策を学び、実践できる人材育成を目指しています。感染管理認定看護師に認定されるためには、9カ月間勉強する必要があり、多くは休職して資格を取得しています。一人でも多くの看護職が正しい知識を持ち、迅速に対応できるようになれば、クラスターの発生を抑えることは可能です。まずは指導者を養成することが重要だと考えています」

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看護師を対象にした教育研修の様子

こうした活動が評価され、東京都看護協会は、日本財団とタレントの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんによる「新しい地図」が立ち上げた新型コロナウイルス対策プロジェクト「LOVE POCKET FUND(愛のポケット基金)」(別ウィンドウで開く)の支援先にも選ばれている。寄付金は、今後、緊急措置として派遣される看護職員に対して支給する「特殊看護派遣手当」や、派遣に当たって必要となる研修に当てられる。

「救急や医師など、直接患者さんの治療に携わる人が注目される中、日々、地道に活動している看護職に光を当て、東京都看護協会を選んで支援をしてくださった皆さまに心から感謝いたします。それぞれが現場で積み重ねている経験を生かして社会に貢献することができるよう活動に努め、分かりやすく明確に情報を発信し続けていきたいと考えています」

全ての看護職が、誇りを持って働ける社会をつくりたい

東京都看護協会では、これまでも看護職の資質の向上と働きやすい環境の提供をコンセプトに、さまざまな教育研修を行ってきた。

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西新宿にある東京都看護協会内にある図書室を案内してくれた山元さん

東京都からの委託事業である「東京都ナースプラザ」(別ウィンドウで開く)では、看護職を対象にした無料就職相談や、復職・定着支援、200床未満病院への勤務環境改善に向けた支援など、一人一人がキャリアを生かして働ける環境づくりに力を入れている。

山元さんは、今後重点的に取り組む課題として看護職の登録制度整備を挙げている。

「看護職は国家資格ではありますが、就業状況を就業地の都道府県知事に届けるのは2年ごとで、自分が勤務している病院等で登録するだけなので、日本全体での地域の分布状況などの正確な数が把握できていません。例えば、市区町村単位で何人の看護師がいるかが把握できると、災害時の支援体制が整えやすくなると考えています」

医療従事者の中でも慢性的に人材不足といわれている看護職。資格保有者数に対して現場で働いている人が圧倒的に少なく、「潜在看護職」と呼ばれる人々が東京都だけで7万人いると言われている。

また資格を取得すれば、どれだけブランクがあっても、あるいは一度も臨床の現場に出ていなくても「看護師です」と名乗ることができてしまう。日進月歩の勢いで進化する医療の現場で、質の高い看護サービスを提供するためには、看護職は専門職として常に学び続ける必要がある。

「ブランクがある方に向けた復職支援も行っています。幅広く活用してもらえるよう、教育研修の分野をさらに充実させたいですね。また、看護職の人員不足は、定年を1年延期するだけでもかなり解消されると思います。定年後もまだまだ働きたい、役に立ちたいというニーズもありますから、資格取得者の登録・更新制度も含めて、国に呼びかけ社会の仕組みを変えていくことができたらと考えています」

写真:東京都看護協会の職員が、看護師の復帰について相談を行っている様子
東京都看護協会ではキャリアアップや復職等の無料相談を行っている

医療現場で働き続けるのは、簡単なことではない。未知の感染症と闘わなければならない今、プレッシャーや不安を抱えながら仕事をしている医療従事者も多いはずだ。それでも今日も現場で働き続ける人々に感謝し、改めて日々の感染対策を見直すことが最善ではないだろうか。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

山元恵子(やまもと・けいこ)

公益社団法人東京都看護協会会長。2002年国立成育医療研究センターにて医療安全管理者、2004年東京北社会保険病院にて副看護部長兼医療安全管理者、2008年4月春日部医療センターにて副院長兼看護部長を務めて、2016年6月より現職に。3人の子育てをしながら、看護師として臨床、管理、教育の仕事に携わってきた一方で、ラオス都市部近郊の住民の健康に関するボランティア活動なども展開。2016年には経鼻栄養チューブ挿入の安全管理に関する論文で、看護職として国内初の危機管理学の博士号を取得した。
公益社団法人東京都看護協会 公式サイト(別ウィンドウで開く)