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【難病の子どもと家族、地域を紡ぐ】難病児たちに“自分らしく”いられる「子ども時間」を届ける。クリニクラウンの活動を通じて見えてきた支援の在り方

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難病の子どもたちと共に「遊ぶ」クリニクラウン(写真右)
この記事のPOINT!
  • 難病の子どもたちは大人の期待に応えようと、我慢していることが多い
  • 病気や障害の有無など関係なく、全ての子どもが“子どもらしく”いていいはず
  • 「挨拶してみる」だけでもいい。アクションを起こすことでみんながハッピーになれる

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本に25万人以上いると言われている、難病児たち。彼らを側で支え、ときには呼吸器や胃ろう(※)などの医療的ケアをするのは、その家族である。

  • 病気やけがなどの理由で口から食事を取れない場合に、胃から直接栄養を摂取するための医療措置のこと

そういった当事者を前にしたとき、私たちは「自分には何もできない」と思いがちだ。そこには「彼らを傷つけてしまうのが怖い」「なんて声を掛けたらいいのか分からず、不安」といった気持ちがあり、それが「一歩踏み出す勇気」を邪魔する。

でも、私たちにできることは本当にないのだろうか。その答えを教えてくれたのが、認定NPO法人「日本クリニクラウン協会」(別ウィンドウで開く)で事務局長を務める熊谷恵利子(くまがい・えりこ)さん。

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日本クリニクラウン協会の熊谷さん

「『クリニクラウン』とはオランダから伝わったカルチャーです。入院している子どもたちの元を道化師の格好をしたクリニクラウン(臨床道化師)たちが訪れ、彼らに楽しい時間を届けています。多いところだと週に一度、平均すると月に一度の頻度で訪問しており、回数を重ねるに連れて子どもたちとの距離も縮まっていくんです」

オランダでは、実に8割の小児医療機関がクリニクラウンを導入しており、彼らの活動をサポートしようとする意識も高いという。それほどまでに、入院生活を送る子どもたちにとってクリニクラウンの存在が必要なものであると認識されているのだ。

子どもたちとワクワクをシェアする、クリニクラウンたち

日本クリニクラウン協会が発足したのはいまから15年前、2005年のことだった。当初は医療機関は“外部の人間”を入れることに対して、感染症などさまざまなリスクが考えられることから前向きではなかったそう。ところが、クリニクラウンが病院を訪問した時、そこにいた子どもたちがみるみる笑顔になっていった。それを機に、日本国内でも病気に苦しむ子どもたちのためにクリニクラウンが必須だと考えられるようになり、活動が広がっていったという。

現在、日本でクリニクラウンとして活動するメンバーの半数は、日頃からエンターテインメントの世界で活躍している人たち。役者、ダンサー、パフォーマーなどが参加している。もともとは熊谷さん自身もパントマイミストとして活動していたが、子どもの人権や教育問題に関心があり2005年に日本クリニクラウン協会のメンバーに加わった。

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2019年開催のチャティイベントで、参加者に日本クリニクラウン協会の活動を紹介する熊谷さん

そしてもう半数は看護師や保育士、普通の会社員などで、「子どもたちに何かできることを」と考えて参加しているそうだ。

「それぞれに想いがあって活動していますが、共通しているのは『こどもが主役』という考え方です。パフォーマンスを見せるだけでは、子どもたちが受け手側で終わってしまいます。そうではなく、子どもたちがやりたいことを一番に考え、私たちも同じ時間を一緒に楽しむんです。だから、子どもの一言から、かくれんぼが始まったり、おもしろい動きから、病室全体が、変な動きのダンス大会になったり、オルゴールの音に合わせて優しく歌ったりと、子どもたちの反応に合わせて臨機応変に対応しています。言ってみれば、パフォーマンスを見せているのではなく、一緒に遊びをつくり出す、というのが近いかもしれません」

共に同じ時間を楽しみ、ワクワクする気持ちや驚きなどをシェアする。それがクリニクラウンたちの役目なのだ。

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子どもと戯れるクリニクラウンたち(写真右2人)

難病児たちは、大人の期待に応えるために我慢しがち

長年、クリニクラウンとして活動している熊谷さんは、「子どもたちから教わったことがたくさんありました」と振り返る。中でも印象的だったのが、クリニクラウンに成り立ての頃に出会った、小児がんを患う3歳の男の子とのエピソードだ。

「最初に訪問した時はキョトンとしていたものの、何度も会いに行くうちに笑顔を見せてくれるようになりました。その後、退院されたのですが、後日、お母さんからご連絡をいただいたんです。それによると、その子には妹がいて、付き添いのお母さんに『ぼくは平気だからもう帰って。妹が待ってるでしょ』と言われていたそう。そんな中でクリニクラウンと出会い、心から笑顔になれる瞬間、3歳の子どもに戻れる瞬間が見られて、本当にうれしかった、と。それを聞いた時、難病の子たちがどれほど周囲に気を使っているのかを知りました」

難病児の中には、「自分の病気のせいで家族に迷惑を掛けている」と感じてしまう子どもたちがいる。周りに心配を掛けないように、どこか大人びて見える子も。

でも、本来であれば、どんな子どもも“子どもらしく”いていいはず。病気を理由に何かを我慢したり、余計な気ばかり使ったりするのは哀しいことだ。

だからこそ、日本クリニクラウン協会は「すべてのこどもにこども時間を」を理念に掲げている。病気や障害の有無など関係なく、全ての子どもが子どもらしくいられるように。その願いを込めて、熊谷さんたちは病院訪問を続けているのだ。

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子どもたちから届いたクリニクラウンたちへのお礼の手紙
写真:子どもたちから届いたクリニクラウンたちへのお礼の手紙
子どもたちからの手紙がクリニクラウンたちの励みになる

「頑張って笑顔を見せようとする子もいるし、大人の期待に応えようとする子もいる。でも、しんどいときには無理に笑おうとしなくたって構わない。その子らしい表情を見せてくれればいいんだよ、と伝えていきたいんです」

写真:ウェブカメラを通してクリニクラウンと交流する子どもたち
新型コロナウイルス感染症の拡大防止策に対する支援事業として、2020年3月からはクリニクラウンWeb事業も展開
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ウェブカメラを通じて難病児たちに笑顔を届けるクリニクラウン

小さなアクションで構わない。そこから社会は変わっていく

これまで大勢の子どもたちと関わってきて見えてきたのは、「子どもは何も違わない」ということだった。健康であっても病気であっても、子どもは子ども。そこに線を引いてしまうのは、私たち大人だ。

「だから、まずは会ってみてほしいんです。難病の子を前にしたとき、どう振る舞えばいいのか分からなくなりますよね。それは仕方のないこと。だったら、会って、話してみればいいんですよ。分からなかったら、教えてもらえばいい。私も最初は不安でした。それは無知だったから。でも、いろんな子どもたちに出会い、触れ合うようになって、『構えなくていいんだ』と気付きました。子どもは子ども。たとえ病気があったとしても何かしてあげなきゃいけないと気負わなくても大丈夫。ただそこにいることを認めて、普通にで『こんにちは』って声を掛ける、会釈するだけでもいいんですよ」

真面目な人ほど、「何かしてあげなきゃいけない、でも何もできない」と躊躇してしまうかもしれない。けれど、熊谷さんが話すように、まずは声を交わし、存在を意識するだけでも大きな意味のある一歩になるのだろう。

写真:大阪マラソンにて笑顔で走る日本クリニクラウン協会のメンバーと、それを応援する観客
大阪マラソンにも毎年参加。日本クリニクラウン協会は、大阪マラソンオフィシャル寄付団体に選ばれている
写真:「RED NOSE DAY with CliniClowns」でのチャリティイベントで、記念写真を撮るクリニクラウンと、それを楽しむ参加者の子ども
毎年8月7日は「RED NOSE DAY with CliniClowns」と題し、入院中の子どもたちに笑顔を届けるチャリティイベントを開催

そして、熊谷さんは社会に対してこう願う。

「多様性が謳われるようになりましたが、頭では分かっていても心が追いつかないこともあると思うんです。みんな、異質なものに出会うと警戒してしまう。でも、そこにある“違い”を楽しめるようになったらいいな、と思います。さらに考えたいのは、『この社会は、子どもにとって優しい社会なのか』ということ。いつだって子どもが笑っている社会って、大人にとってもいいものだと思うんです。でも、まだまだそこには至っていない。遠い道のりのように感じるけど、私たちができることがたくさんあると思うんです。大きなことをしなくたっていいんです。先ほどもお話ししたように『挨拶をしてみる』のもいいですし、そこから一歩進んで支援団体に『ありがとうと伝える』『寄付をする』』のも素晴らしいこと。何だっていいから小さなアクションを起こすことで、みんながハッピーになれると信じています」

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クリニクラウンとして活動する熊谷さん。子どもたちに素敵な笑顔を届ける

写真提供:認定NPO法人日本クリニクラウン協会

〈プロフィール〉

認定NPO法人日本クリニクラウン協会

「すべてのこどもにこども時間を」を合言葉に、赤い鼻がトレードマークのクリニクラウン(臨床道化師)を小児病棟に派遣し、入院している子どもたちが、子ども本来の生きる力を取り戻し、笑顔になれる環境をつくるために2005年から活動スタート。2020年3月17日には、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策に対する支援事業として、「病気や障害を抱えるこどもたちを支援するクリニクラウンWeb事業」も立ち上げ、ウェブカメラやYouTubeを通じて、病院・病棟にいる子どもたちに笑顔と勇気を届けている。
認定NPO法人日本クリニクラウン協会 公式サイト(別ウィンドウで開く)
認定NPO法人日本クリニクラウン協会 YouTube公式チャンネル(別ウィンドウで開く)

特集【難病の子どもと家族、地域を紡ぐ】

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