日本財団ジャーナル

【難病の子どもと家族、地域を紡ぐ】「FLAP-YARD」が目指す“平等”の発育機会が得られる自由な社会(連載第4回)

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施設への寄付者の名前が記されたドネーションプラネットの前で微笑む「FLAP-YARD」代表の矢部さん
この記事のPOINT!
  • 日々ケアに追われる難病児の家族は気軽に外出することもできず、地域から孤立しがち
  • 難病児とその家族に必要なのは“特別扱い”ではなく“平等”の発育機会
  • 難病児も健常児も共にいることが“当たり前”の社会になれば、みんなもっと生きやすくなる

取材:日本財団ジャーナル編集部

現在の日本は「世界で一番赤ちゃんが安全に生まれる国」(※)と言われるほどの高い医療技術を誇っている。そのおかげで、一昔前であれば無事に生まれてくることが困難だった赤ちゃんの命もつなげるようになった。

  • 参考:ユニセフ「世界子供白書2017」

その一方で浮き彫りになってきたのが、その後のケアに関する問題だ。医療や福祉、教育分野との連携がいまだ整っていないため、その負担が全て家族にかかってしまう。

難病児を育てる家族には、私たちが想像する以上に「自由な時間」がない。数時間置きにアラームをかけ、我が子の様子を見る。必然的に睡眠時間は削られ、産後の母親が社会復帰をすることも難しい。感染症のリスクや、車いすでの移動の困難、周囲の人たちからの視線…。それらを意識するあまり、気軽に外出することもままならない。それ故、必然的に自宅にこもりがちになってしまう。

そんな難病児と家族が置かれている現状をより良くしたいとスタートしたのが、日本財団による「難病の子どもとその家族を支えるプログラム」(別ウィンドウで開く)である。

そこで謳っているのは、「難病の子どもと家族が孤立しない、みんながみんなを支える地域づくり」。文字どおり、地域で子どもを育てる体制が整えば、孤立しがちな難病児とその家族が救われるのだ。

でも、そんな社会は実現可能なのだろうか。

東京・足立区に、いち早く難病児とその家族を地域で支える取り組みを始めた支援施設がある。「FLAP-YARD」(別ウィンドウで開く)は、0~18歳までの重症心身障害児の支援施設であり、これまでに何組もの家族をサポートしてきた。代表を務めるのは、ユーモアにあふれ、いつも笑顔を絶やさない矢部弘司(やべ・こうじ)さんだ。

難病児や障害児を“当たり前”として受け入れる社会に

「FLAP-YARD」が行う支援は主に3つ。難病児や障害児を預かる「通所支援事業」と、難病児や障害児を育てる保護者に対する「相談支援事業」、そして家庭にヘルパーを派遣する「居宅介護事業」である。

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「FLAP-YARD」に通う子どもたち。スタッフが寄り添うようにケアを行う
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伸び伸びと施設での時間を過ごす「FLAP-YARD」に通う子どもたち

施設は、外観も内観も明るい色合いでデザインされており、一見すると福祉施設とは分からないほど。実はそこにも「地域に根付く施設にしたい」という矢部さんの想いが込められている。

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まるでカフェのような佇まいの「FLAP-YARD」の前で愛車に股がる矢部さん
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施設の内観はとてもポップで明るい印象

なぜ、矢部さんは「地域」にこだわるのか。

「元々、福祉業界で働くなんて考えたこともなかったんです。転機になったのは22歳の頃。当時、バックパッカーをしていた私は、イギリスを拠点にしながらヨーロッパに滞在していました。そこで借りていた家の近くに、知的障害者の通所施設があったんです。外からのぞいてみると何だか楽しそうで、気になって仕方ない。ある時我慢ができなくなって、いきなり飛び込んでボランティアをさせてもらうことにしました。そこで日本とイギリスの、障害者を取り巻く環境の違いに衝撃を受けたんです」

矢部さんが滞在していた街では、障害者が“当たり前”の存在として受け入れられていたという。支援者はもちろんのこと、地域の住民たちも彼らをただの隣人として普通に接していたのだ。まさにインクルーシブ社会(※)と言えるだろう。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害の有無に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

「障害者に対して、必要以上に遠慮することもなく、言いたいことをはっきりと言葉にする瞬間もありました。健常者と障害者の間に境界線がなく、至って平等な環境があったんです。日本でも、そんな地域をつくりたいと思いました」

当事者家族に“寄り添う”立場でありたい

帰国後、矢部さんは福祉、介護系の資格を取得し、福祉業界で経験を積んだ。その中で、重症心身障害児を預かる施設が存在していないことに驚き、それならばと自ら立ち上げることを決意する。

2011年12月NPO法人格を取得し、2012年7月に東京都足立区にて一軒家を使用した6歳以下の未就学期の重症心身障害児を対象とした小規模通園事業所である「療育室つばさ」を開設。2015年5月に相談支援事業を開始し、2016年11月には拠点を現在の足立区扇に移転して、日本財団の支援を受け「FLAP-YARD」を建設。同月、6歳~18歳までの学齢期の重症心身障害児を対象とした学童保育のようなサービスを提供する放課後等デイサービス事業を新たにスタートさせた。

「拠点を移転してFLAP-YARDを開所するタイミングで、これまでは未就学児のみの受入れだったところを、放課後等デイサービス事業を開始し、学齢期の子どもたちの受け入れもスタートさせることにより、支援が受けられる世帯を拡大したんです。また、その後は居宅介護事業も始めました。難病の子どもだけではなく、そのご家族やきょうだいたちの支援も包括できる施設にしたかったんです」

そこで見えてきたのは、難病児の家族が抱えている悩みだ。

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難病児とその家族に対し、社会が抱える問題点を見つめる矢部さん

「その多くは福祉や医療とあまり関わることなく生きてきた人たちなんです。だから、難病のある自分の子どもがどんな人生を歩んでいくのか、想像ができない。まるで真っ暗闇の中を手探りで進むように、難病児との人生をスタートします」

そんな家族との関係を築いていく上で矢部さんが大切にしているのは、「専門家ぶらず、一緒に考える」というスタンスだという。

「ほとんどの親御さんは、我が子の病気や障害を受容できずにいるのが現実です。だから、私たちはご家族に寄り添い、『一緒に揺れる』ことを大切にしています。同じ目線や立場に立って、親御さんが迷っているときは共に迷う。そうやって安定した関係を築くことができれば、それ自体が喜ばしい成果だと思うんです」

同時に、地域住民への働きかけにも力を入れている。健常児と難病児との世界を完全に切り離すのではなく、彼らが日常的に同じ空間で過ごせるよう、さまざまな工夫を凝らしているのだ。

施設のデザインを明るくポップな仕様にしているのも「地域の子どもたちが気軽に訪れられるように」との想いから。実際、夏にはテラスにプールを用意したり、使っていない部屋を小学生たちに開放したりするなど、施設利用者以外で遊びに訪れる子たちの姿も目立つ。

「あるとき、同じ地域にある保育園と合同で運動会を開催しました。FLAP-YARDで預かっている子どもにも積極的に競技に参加してもらい、中には“リレーのゴールテープ持ち”という大役を任された子もいます。そうやって触れ合うことで、これまで健常者しかいない世界しか知らなかった人たちに、難病児のことを知ってもらうことができました。そのイベントが追い風となり、健常児を育てる家庭からもポジティブな意見が増え、統合保育(※)を続けることができています」

  • 障害児と健常児を一緒に保育すること

“平等”な発育機会が得られる社会を目指して

障害のある子どもと、ない子どもを一緒に保育する統合保育に早くから力を入れ、積極的に地域住民との交流も図ってきた矢部さん。その目に映る今の社会には、どんな課題が残されているのだろうか。

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誰もがふらっと立ち寄れるよう、看板のデザインもカジュアルにした
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「FLAP-YARD」玄関前のベンチ。近所の人たちからも休憩場として親しまれている

「正直、社会にはまだまだ未熟な部分があると思います。私からすれば難病児も健常児も何も変わらないんです。でも、なぜか線引きをする人たちがいますよね。中には『病気のある子、障害のある子はピュアで優しい』と言う人もいる。でもそれは、健常者社会がつくり上げた幻想でしかない。別にはみ出し者の障害児がいたっていいじゃないですか。当事者たちが求めているのは“特別扱い”ではなく、“平等”の発育機会なんです。まずはそれを知ってほしい」

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近隣の保育園と一緒に開催したお誕生日会の様子

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近隣の保育園と一緒に実施したイベントの様子

ここでいう「平等」とは、難病児たちが当たり前のように隣にいる社会だ。彼らに対し、特別な眼差しを向けることなく、共にいることが当たり前であるという理解が広まっていけば、彼らはより生きやすくなるだろう。

そして同時に、矢部さんは難病児の家族に対してもはっきりとこう口にする。

「『施設に預かってもらえるだけでありがたい』『福祉のお世話になっているのだから、わがままを言っちゃいけない』という考えは捨ててほしいんです。もちろん、そういった気持ちを持ってしまうことは分かりますが、それは社会が悪い。難病のお子さんを育てるご家族は、もっと厳しい目で私たちのような事業者を見てもらいたい。そしていつしか、福祉事業者を“選ぶ”ようになってくれたら。そうなれば、福祉事業者側も受け手としてもっと価値のあるサービスを提供できるよう切磋琢磨していきますし、結果として、福祉全体の底上げにもつながると思うんです。もっと厳しく、ときにはわがままを言ってくれていいんですよ」

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矢部さんの目線の先にあるのは、誰もが平等で自由に生きやすい社会だ

呼吸器を付けている子ども、車いすに乗っている子ども、うまく話せない子ども。彼らが街に出たとき、誰一人として奇異の視線を向けない。そして、彼らを育てる家族も過剰に遠慮することなく、自分の意見を素直に言える。

そんな社会が訪れたとき、誰一人取り残されることなく全ての人が自由に生きられる世の中になっているはずだ。その実現に向けて、今日も矢部さんは奮闘している。

撮影:永西永実

〈プロフィール〉

矢部弘司(やべ・こうじ)

NPO 法人ソーシャルデベロップメントジャパン理事長。2012 年に 0〜6 歳までの重症心身障害児を対象にした通園施設「療育室つばさ」を開設。2016 年に「FLAP-YARD」の建設と共に、7歳〜18 歳までを対象にした放課後等デイサービス「療育室はばたき」もスタート。障害のある子どもも、ない子どもも一緒に保育する統合保育に力を入れ、難病児とその家族が豊かで自由に生きられる地域づくりに取り組む。
FLAP-YARD 公式サイト

連載【難病の子どもと家族、地域を紡ぐ】

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