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【スポーツマンガ100選】車いすバスケ元日本代表・根木慎志さん、理学療法士・山岡彩加さんが出合った、人生を変えるマンガ『リアル』

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パラスポーツの普及に尽力するあすチャレ!メッセンジャーとして活動する理学療法士の山岡彩加さん(左)と、車いすバスケットボール元日本代表キャプテンの根木慎志さん
この記事のPOINT!
  • スポーツマンガには競技の魅力や楽しみ方など、学びの要素がたくさん詰まっている
  • 理学療法士の山岡さんは、マンガ『リアル』を読んで仕事への向き合い方が大きく変わった
  • パラスポーツを通じて、誰もが素敵に輝いている存在であることを伝えていく

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本財団と一般社団法人マンガナイト(外部リンク)が取り組む、「学び」につながるマンガを選出し、世界に向けて発信する「これも学習マンガだ!〜世界発見プロジェクト〜」(外部リンク)。同プロジェクトではスポーツの面白さや、普段知る機会の少ない競技の魅力を伝えることを目的に「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」(外部リンク)を選書した。

画像:「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」公式サイトのTOP画面
「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」公式サイト

今回は、シドニーパラリンピックで車いすバスケットボール日本代表キャプテンとして活躍した根木慎志(ねぎ・しんじ)さんと、公益社団法人日本ボート協会パラローイング委員会(外部リンク)の広報兼トレーナーを務める理学療法士の山岡彩加(やまおか・あやか)さんが、スポーツマンガの魅力について対談。お2人は、日本財団パラリンピックサポートセンターが運営するパラアスリート、パラスポーツ指導者の講演講師派遣プログラム「あすチャレ!メッセンジャー」(外部リンク)の認定講師として、講演活動を通じでパラスポーツの普及にも尽力している。

対談では、山岡さんが理学療法士としての「私の原点」とも言い切る車いすバスケットボールマンガ『リアル』(集英社)(外部リンク)を中心に、熱いトークを交わした。

※取材は万全の感染対策のもと、撮影する数分のみマスクを着脱。対談はマスク着用で実施しました

パラスポーツをサポートする、あすチャレ!メッセンジャー

山岡さん(以下、敬称略):今日はありがとうございます。ずっと憧れていた根木さんにお会いできて、とても緊張しています。

根木さん(以下、敬称略):光栄です(笑)。こちらこそよろしくお願いします。山岡さんは病院で理学療法士として働きながら、パラローイング(※外部リンク)のトレーナーとしても活動されているんですよね。

  • 障害者のボート競技
写真:山岡さんに語りかける根木さん
アスリートの社会貢献を推進する日本財団HEROsプロジェクト(外部リンク)のアンバサダーとしても活動する根木さん

山岡:はい、つい先日も諏訪湖(長野県)で行われたパラリンピックに向けた強化合宿に同行しました。あと2020年8月に、子どもたちを対象にけが予防の啓発や出張講座を行う「posimedsports(ポジメドスポーツ)」(外部リンク)という団体も立ち上げたばかりです。

根木:子どもたちにとってもアスリートにとっても、けがの予防はとても大事ですよね。

山岡:ええ、病院で仕事をしているとけがをしたアスリートに出会うことも多いのですが、もう少し手前の段階でケアをすることができていたら、けがをせずに済んだのに……と思うことがたくさんあります。子どもの頃から体のケア方法を身に付けておけば、けがとうまく付き合いながら長く競技人生を送ることができるのでは、という思いで始めました。根木さんも、学校などで子どもたちによく講演をされていますよね。

写真:根木さんに満面の笑みで語りかける山岡さん
レジェンドアスリートとして根木さんにずっと憧れていたという山岡さん

根木:これまでに全国各地の小中高等学校・特別支援学校など3,600校へ赴き、「出会った人たちと友達になる!」をキーメッセージに、延べ80万人以上の子どもたちに授業を実施してきました。もはや僕のライフワークと言えます。山岡さんはさらに、僕と同じくあすチャレ!メッセンジャー認定講師ですよね。パラアスリートを支える立場から、競技の魅力やダイバーシティについて講演活動もされていると聞きました。活動の幅が広いな。

山岡:私が認定講師になるためのスピーチトレーニング(※)参加したのは、ある時身近な人が「障害者」と呼ばれる側になったことがきっかけです。社会の中では、障害があるというだけで一線を引かれやすい。同じ人間なのにおかしいと感じたのですが、ただ「おかしい」というメッセージを暗く、重く受け止められるのではなく、ポジティブにみんなで考える機会をつくりたいなと思っていました。例えば、初めて出会う車いすユーザーが根木さんのような車いすバスケの選手だったら、パラスポーツを切り口に競技の魅力を伝え、違いを知り、認める大切さを子どもたちにうまくお話されると思うんですよね。そういう機会を私もつくりたいと思ったんです。

  • あすチャレ!メッセンジャー認定講師は、マンツーマン形式でロジカルシンキングに基づいたメッセージの組み立てを中心に、プレゼンテーションの基礎やテクニックを習得するためのトレーニングを約3カ月間受講し、実際の講演にて既定の採点基準を満たした者が認定される

私自身はパラアスリートではありませんが、講演などを通じて私のようにパラスポーツに関わるメディカルスタッフを増やせたらと思って、パラスポーツを支える仕事の魅力などを伝えています。

根木:それもすごく大事。あすチャレ!メッセンジャーは、「パラスポーツの普及に尽力したい」「多様性のある社会にしていきたい」という想いのある講師がたくさんいます。パラスポーツのことをもっと知りたい、パラアスリートやパラスポーツに携わる方に話を聞きたいという人と、講師をつなぐためにできたプラットフォームになっていて、現在認定講師は74人(2021年7月末時点)に上るそうです。それぞれ自分にしか伝えられない素晴らしい物語を持っていると思います。山岡さんのように東京以外で活動している方も多くいますし、全国各地で1人でも多くの方に彼らが発信するパラスポーツの魅力や夢・目標、社会への思いを聞いてもらいたいですね。

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コロナ禍ではオンライン講演等を通して、パラスポーツの魅力を伝える根木さん。提供:日本財団パラリンピックサポートセンター

自分と重ねて読めなくなってしまった『リアル』

根木:ところで、山岡さんが「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」に『リアル』(集英社)を推薦した理由は何ですか?

山岡:実はこの対談のお話をいただくまで、7~8年ほど読むのを封印していた作品なんです。理学療法士になって1年目の時に、友人から理学療法士が出てくるマンガだと薦められて読んだのですが、3巻では主人公の高橋久信(たかはし・ひさのぶ)くんが交通事故でけがをして、目が覚めた時に何を感じて……ということがまさにリアルに描かれているんです。

その中で高橋くんと理学療法士の先生がやりとりするシーンが、自分にとって大きな衝撃でした。自分がいま高橋くんを前にしたら、この先生のように対応できるだろうか。教科書で学んだことなら話せるけれど、突然車いす生活を送ることになった人とどう向き合えばいいんだろう……。そう考えたら怖くなって、その先が読めなくなってしまいました。

画像:『リアル』1巻の表紙
3人の主人公がそれぞれの現実の困難に向き合う、車いすバスケットボールマンガ『リアル』 ©️I.T.PLANNING,INC.

根木:山岡さんにとって、とても思い入れのある作品なんですね。

山岡:就職して8年経ったいまも、何かあるたびにこのシーンが浮かんでは「自分はいま、この先生のように対応できているだろうか」と自問自答しています。私は介護施設を経て2019年からいまの病院に勤務しているのですが、転職して初めて『リアル』の影響でけがをした直後の患者さんと向き合うことを、無意識に避けていたことにも気が付きました。

根木:いまはもう向き合うことができるようになったんですか?

山岡:私が尊敬する上司のスポーツドクターが、初めてアスリートを執刀した際の話をしてくれたことがあったんです。「怖かったけれど、絶対に逃げないと決めてやったんだ」という言葉を聞いて、「まず目の前の人から逃げないと決めることが、人と向き合うということなのか」と納得ができ、それからは患者さんともちゃんと向き合えるようになりました。

ちなみにその上司は、小学生の時に『リアル』と同じ漫画家・井上雄彦(いのうえ・たけひこ)さんが描いたバスケットボールマンガ『スラムダンク』(集英社)(外部リンク)に憧れてバスケットボールを始めたそうです(笑)。

画像:『スラムダンク』完全版1巻表紙
90年代にバスケを一躍世界的ブームにしたバスケマンガの金字塔『スラムダンク』 ©︎井上雄彦 I.T.PLANNING,INC.

根木:そうですか(笑)。作者の井上雄彦さんは、この『リアル』を描く時に多くの車いすバスケの選手にインタビューされているんですよ。国内の大会や直前合宿だけなく、私が出場した2000年のシドニーパラリンピックにも来られました。その後のパラリンピックを含め国内外の大会にも足を運んで取材されていますね。このマンガは、かっこいいだけじゃなくて、葛藤や苦しみとか、一人ひとりの感情が丁寧に描かれていますが、自ら足を運び取材されて得た気付きがもとになっているように思います。私自身、心の中を描写されていると思うシーンや言葉がたくさんありました。

山岡:理学療法士の視点ですが、体の動きとかも本当に丁寧に描かれているなと驚きます。

根木:以前、僕のように脊髄を損傷した子どもに会いに行ったことがあります。もしかしたら、今の自分を受け入れられずにふさぎ込んでいるかも、と思っていたんです。でも会ってみたら落ち込んでいる様子はなかったんですね。ふと横を見たら『リアル』が置いてあって、「僕はけがをする前からリアルを読んで、人間の可能性ってすごいと思っていた。まさか自分がこうなるとは思っていなかったけれど、もしもけがをしたら車いすバスケをやりたいと思っていた」と言うんです。漫画を通じて自分の生き方を学んでいた、すでに自分のロールモデルを見つけていたんですよね。その時、マンガの力って本当にすごいんだなと思いました。

山岡:マンガが次の目標を持つことの手助けになるって、とても素敵なことですよね。

根木:『リアル』にまつわることで、最近感銘を受けたことがもう1つあるんです。あるお笑い芸人の方が深夜番組で好きなマンガとしてこの作品を挙げていました。彼は障害がどうとかではなく、純粋に作品の素晴らしさや、登場人物の一人ひとりの生き方、葛藤について素晴らしいと語っていた。パラスポーツを知らなかった彼が『リアル』を手に取り、そこで得られた気付きがあって、それを等身大の言葉でテレビの前で話すことで、多くの人が新しい気付きを得る機会となっている。これも、マンガの力はすごいなと感じさせられるシーンでした。

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『リアル』への愛を語る山岡さん。ちなみに着用しているのは、作者の井上雄彦さんが東日本大震災の復興支援の祈りを込めて描いたイラストがプリントされたチャリティTシャツ

全ての人が輝いていることを知ってほしい

根木:38年前にさかのぼりますが、当時はまだまだ社会全体が障害者への見方も偏っていたように思います。僕が講演をするようになったきっかけは、恩師に小学校での講演を頼まれたからです。

自分の生い立ちや車いすでの生活について、それまで人前で話したことがあまりなかったのですが、とにかく知ってもらおうといろんなエピソードを必死で話ました。講演終了後、聴講された大人の方から評価をいただいたのは、車いす生活で不便なこと、車いす生活で大変なことのお話でした。

それは大切だし、必要なことだけれど、子どもたちから見た僕は「困っているかわいそうな人」……。そのことにずっと違和感を抱いていました。

そんなある時、講演に競技用の車いすを持参して、体育館でプレーして見せたんですね。そうしたら子どもたちが「かっこいい!」「根木さんみたいになりたい!」って言ってくれた。きっと、彼らの目には、障害の有無は関係なく、僕がチャレンジしている姿が美しく、輝いて見えたんじゃないかと思うんです。

当時からパラリンピックを目指していたけれど、それ以上に僕はこれから一生かけて、このスポーツを通じて「誰もが素敵に輝ける存在」なんだということを伝えていこうと思うようになりました。

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パラスポーツ談議に花が咲く根木さん(左)と山岡さん

山岡:素敵ですね。今のお話を聞いて、『リアル』1巻に登場する『シャックは鋼鉄の巨体を持ってる。アイバーソンは全身バネのカタマリ。戸川清春(とがわ・きよはる)はマシン脚!これはこいつの才能だ』というセリフを思い出しました。

これは、賭けバスケで負けたコンビが、車いすでプレーをする主人公の戸川くんにずるいと突っかかるシーンで、戸川くんの相棒でもう1人の主人公の野宮朋美(のみや・ともみ)くんが言う言葉なんですが、野宮くんは車いすを「障害のある人ができないことを補うための道具」ではなく、「スポーツで極限を目指すためのマシン脚」と捉えているんですよね。ここを読んで、私自身が大きな勘違いをしていたことに気が付きました。

根木:そういえば、僕の競技用車いすを「最新のバスケットシューズ」と表現した人がいましたよ(笑)。

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日本財団パラリンピックサポートセンターに飾られた、根木さんがパラリンピックで愛用した競技用の車いす

山岡:ぴったりの表現!このパラスポーツの熱さをもっといろんな人に知ってほしいですね。

根木:「できない」を「できる」に変えるためにチャレンジし続けるパラアスリートの姿はとっても魅力的です。彼らから得られる気付きがたくさんあります。一方で、僕は「そもそも人間の可能性ってすごいんだ」「障害があってもなくても、一人ひとりが輝ける存在なんだ」ということに気付いてほしいなと思っています。みんながそれに気付いて、自信を持って生活できる社会を想像するとワクワクします。

マンガによって仕事への向き合い方も大きく変わったという山岡さん。一方で、マンガによって生きる希望を見出した子どもを目の当たりにした根木さん。共にスポーツマンガが持つ可能性を大いに感じさせてくれるお話だった。

『リアル』の他にも、ブラインドサッカーを扱った『ブクロキックス』(講談社)(外部リンク)、車いすラグビーを扱った『マーダーボール』(講談社)(外部リンク)、パラ陸上を扱った『新しい足で駆け抜けろ。』(小学館)(外部リンク)など、「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」の中には、パラスポーツを扱った作品がたくさんある。その醍醐味や人間の強さや可能性に、ぜひ触れてみてほしい。

撮影:十河英三郎

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また、Twitter上では、選書に参加したアスリートらの寄せ書きサインが当たるプレゼント企画も実施いたします。いずれも募集期間は、2021年9月5日(日)まで。投稿方法や応募条件等の詳細は公式サイト(外部リンク)をご確認ください。

〈プロフィール〉

根木慎志(ねぎ・しんじ)

高校生の時に交通事故に遭い脊髄を損傷。知人の紹介で車いすバスケットボールと出会う。2000年のシドニーパラリンピックでは車いすバスケットボール日本代表チームキャプテンを務めた。20代の頃から「出会った人と友達になる」をテーマに、全国の小中高等学校を回って講演活動を行っている。東京2020パラリンピック競技大会を契機に「誰もが違いを認めて素敵に輝く世界」を目指して精力的に活動中。日本財団HEROsアンバサダーや、日本財団パラリンピックサポートセンター「あすチャレ!メッセンジャー」認定講師(外部リンク)、パラスポーツ体験型出前授業「あすチャレ!Shool」講師などを務める。

山岡彩加(やまおか・あやか)

理学療法士。病院で働く傍ら、公益社団法人日本ボート協会パラローイング委員会では普及・広報スタッフとトレーナーを兼任する。2020年には子どもたちにスポーツ外傷・障害・疾患の予防をポジティブに普及・啓発する「posimedsports」を立ち上げた。日本財団パラリンピックサポートセンター「あすチャレ!メッセンジャー」認定講師(外部リンク)を務める。

特集【スポーツマンガ100選】