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【スポーツマンガ100選】努力、根性、諦めない心。プロセーラー・白石康次郎さん、ライフセーバー・飯沼誠司さんがマンガから学んだこと
- スポーツマンガには競技の魅力や楽しみ方など、学びの要素がたくさん詰まっている
- 白石さん、飯沼さんも努力しながら成長する登場人物たちの姿に共感し、刺激を受けた
- 諦めない心はもちろん、素直に「楽しむ」気持ちが、夢や目標を実現する
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団と一般社団法人マンガナイトが取り組む、「学び」につながるマンガを選出し、世界に向けて発信する「これも学習マンガだ!〜世界発見プロジェクト〜」。同プロジェクトではスポーツの面白さや、普段知る機会の少ない競技の魅力を伝えることを目的に「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」(外部リンク)を選書した。
今回登場するのは、100作品の選書にも加わり、2021年2月、単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」でアジア人初の完走という快挙を成し遂げたプロセーラー・白石康次郎(しらいし・こうじろう)さんと、日本人ライフセ-バーとして初めてプロ契約を果たし、全日本選手権アイアンマンレース5連覇、海外のレースでも数々の好成績を収めてきた飯沼誠司(いいぬま・せいじ)さん。
白石さんは、アスリートの社会貢献を推進する日本財団HEROsプロジェクトのアンバサダーとしても活動。また、飯沼さんは、スポーツの力を生かし社会に大きく貢献したアスリートや NPO等の団体を称え、表彰する日本財団HEROs AWARD2018年の受賞者でもある。
海という大自然を相手に命懸けの活動に取り組んできた白石さん、飯沼さんに、自身も大きな影響を受けたというスポーツマンガの魅力について語っていただいた。
自分の気持ち、現状を認めることの大切さ
飯沼さん(以下、敬称略):まずは白石さん、ヴァンデ・グローブ(※)の完走おめでとうございます。日本に戻られてからは、どのような活動をされているんですか?
- ※ 4年に1度開催される単独無寄港無補給世界一周ヨットレース。全長約18メートルのヨットを1人で操縦し、無寄港で南半球1周およそ4万8,152キロメートルの航程を約100日間かけて帆走する
白石さん(以下、敬称略):ありがとうございます。2021年の2月に無事、帰国しました。今は4年後のレースに向けて準備を進めながら、若手の育成やヨット文化を日本で普及させるための活動に取り組んでいます。今日もフランスから運んできたヴァンデ・グローブで乗ったヨットを、横浜の子どもたちにお披露目してきました。
飯沼:レースでは、メインセールが破れるなど大きなアクシデントに見舞われたそうですね。
白石:ヴァンデ・グローブに参加したのはこれで2度目(※)なんですが、今回はアクシデントが多かったですね。レースの1年半前には、心臓の手術をし、回復したと思ったらコロナウイルスの感染拡大。レースの準備もできないし、チームメイトとも会えない日々が続きました。そして、いざレースに出たらメインセールが大破……。あの時はさすがに心が折れそうになりました。
- ※ 2016年の大会では、航海中にマストが折れるというトラブルに見舞われリタイア
飯沼:アクシデントが多い大会だったんですね。そんなさまざまな困難を乗り越えての完走、本当にすごいと思います。
白石:メインセールが破れた時は、泣くほど悔しかったです。でも、最終的に乗り越えられたのは、単純に「ヨットが好きだからやっている」という気持ちが根本にあったから。「できるから」「得意だから」やるというのではなく、うまくいこうがいくまいが、自分がやりたいからやる。だから続けてこられたんだと思います。あと、僕は心が折れても立ち直りが早い(笑)。
何事も認めることが大事なんだと思います。「やっちゃった。誰のせいにもできない。1人でやるしかない」という状況の中で、目の前で起きていることを素直に捉え、「まずは修理してみようか」、それができたら「赤道まで行ってみようか」と、今できることを諦めずにやっていったら完走できました。
飯沼:自分をごまかしたり人のせいにしたりしても、意味がないですものね。
白石:そう。どんなに騒いでも海には勝てない。自然の中ではいち早く状況を認めて「できることをやるしかない」というのを経験から学んできました。また、心のどこかでその状況を楽しんでいる自分もいる。そもそも楽しくなかったら、とっくに辞めていると思います。
飯沼:ごまかしも不純物も入っていない。白石さんのお話を聞いていると、自分に素直だからこそ強いし、困難を乗り越えられるのだと感じました。
白石:そうそう、生まれたままの自分(笑)。飯沼さんの近況はどうですか?
飯沼:変わらずライフセーバーとして海に立っています。コロナの影響で海水浴場を開いているところとそうでないところがあり、緊急事態宣言の発令などで状況はその都度変わります。
海水浴場は開設されないけど海岸利用自体は禁止されないといった場所も出てきて、安全対策が行われずに海難事故のリスクが高まるといった問題も。特にそういった場所で注意深く活動すると共に、海難事故を防ぐ新しい取り組みにも力を入れています。
白石:具体的にはどんなことを?
飯沼:感染リスクが高まるコロナ禍の中でスムーズに救助活動が行えるように、我々が第一発見者としての役割を強化し、海上保安庁や消防と連携し救助につなぐ。そのための合同訓練なども行っています。他には、安全面の見直し。日本の海水浴場では、エリアフラッグで遊泳できる区画が示されていますが、これも離岸流(※)など海の状況によって変えるべきかと。そういった安全対策やルールの見直しにも積極的に関わっていますね。
- ※ 海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとするときに発生する強い流れ
スポーツマンガで学んだ「諦めない心」
白石:今回はスポーツマンガのお話ということで、僕が好きな作品を紹介させてください。大好きなのは、『あしたのジョー』(講談社)(外部リンク)、『巨人の星』(講談社)、『タイガーマスク』(講談社)といった、いわゆる昭和の「スポ根マンガ」ですね。
今挙げた3作品は、どれも戦争の影が色濃く残っているのが共通点です。主人公が戦争孤児だったり、親が戦争で体を壊していたり、戦後の闇市や見世物小屋の描写があったり。昔は貧乏人と金持ちの格差が明確だったんですね。そんな背景があるからこそ、夢に向かって努力する主人公の熱い姿に共感したんだと思います。
あと、今のマンガみたいにやたらと仲良くなることもない。『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)を読んだ時に、「これは画期的だな」と思ったことがあるんですが、何だか分かります?
飯沼:……明らかに読んでいる人を泣かせようとするところですか?
白石:明らかな上下関係がないところ。『ONE PIECE』って「僕たちは仲間だ」というスタンスで物語が進み、上下関係って出てこない気がするんですよ。その辺りも昔のマンガと違いますね。
飯沼:確かに。白石さんって『ONE PIECE』も読まれるんですね。
白石:子どもたちに向けて講演する時の参考に読んだりしています。流行りのものを見て分析することで、時代の背景も分かってくる気がするんですね。例えば、昭和のヒーロー像は元気で明るく前向きな人。それって、多くの人が苦労していたけれど、将来に希望を持って生きていた。逆に今はそれほど苦労していないけど、将来に不安を感じている人が多い気がします。
飯沼:言われてみればそうかも。僕も「スポ根マンガ」は好きですね。昔から水泳とサッカーをやっていたのですが、『はじめの一歩』(講談社)(外部リンク)や『キャプテン翼』(集英社)(外部リンク)にはずいぶん刺激を受けました。主人公の大空翼くんのドライブシュートなんかも、必死で練習したものです(笑)。
もともとぜんそくで体が弱かった分、「強さ」への憧れが人一倍強かったんです。でも、テレビで観るオリンピック選手などは雲の上の存在で、現実感や親近感は持てなくて。でも、スポーツマンガの主人公って、はじめは弱くても努力を重ねて、地区予選で勝って、全国へ行き、そこから世界へ羽ばたくなど、自分を投影しやすいんですよね。水泳でタイムが伸び悩んだ時など、マンガを読みながら主人公の進化や変貌に共感し、努力することができました。
白石:僕は『エースをねらえ!』(ホーム社漫画文庫)(外部リンク)ですごく好きなシーンがあって、主人公が強敵と戦う時にラケットを紐で腕にくくりつけて挑む場面なんですが、自分より強いものに向かっていくハングリー精神に心を打たれましたね。
飯沼:同感です。ボコボコにされても諦めない、めった打ち状態だけどやり遂げる主人公の姿に感化されましたね。白石さんも同じだと思いますが、ライフセーバーには、「諦める」という選択肢がないんですよ。まず諦めたら命を救えない。全部受け入れて、自分で考え、決断しないといけない。
だからなおさら自分の実力やできることをしっかりと認識し、それを伸ばしていくことが大切なんです。そのためにもトレーニングや後進の育成は欠かせないんですよね。
子どもや若者にとって海をもっと身近な存在に
白石:これからは、もっと海の魅力を伝えてくれるマンガが出てくるといいですよね。
飯沼:そうですね。最近だと「海でどう子どもを遊ばせればよいのか分からないから教えてほしい」みたいな相談を、親御さんからされることもあります。
白石:海デビューみたいなことの相談ですか。
飯沼:はい。温暖化や海ごみの問題なども、海で遊ばないから実感が湧かないという人も多いと思うんです。少しでも子どもたちに、海の魅力や遊ぶときに気を付けなくてはいけないことを知ってもらうために、修学旅行生に向けたライフセービング体験講座なども実施しています。
あと海を身近に感じてほしいと、『スピノザの海 ~蒼のライフセーバー~』(講談社)というライフセービングをテーマにしたマンガの監修も手がけました。
白石:ライフセーバーとして監修しているんですか?
飯沼:はい。「溺れない社会をつくりたい」という気持ちで、リアルに自分の体験やライフセーバーの視点、水のリスクなどを伝えました。ちょっと熱い気持ちが入り過ぎて、昭和のノリになっている気もしますが(笑)。もっと今風に、癒やしの要素を入れてもよかったのかな。
白石:昔と今で、海に対するイメージは大きく変わってきていますよね。僕たちにとっては、「海」=「冒険」、「達成」でしたが、今の子どもたちにとっては、海は「癒やし」なのかもしれませんね。海に来て、世の中の嫌なことを忘れられるといったように。きっかけは何であれ、もっと海の魅力をたくさんの人に知ってほしいですね。僕もフランスからヨットを持ってきて、いろんな人に見てもらったりしているのもそのためだったりします。
飯沼:いつかライフセーバーのジュニアたちにも白石さんのヨットを見せたいな。
白石:ヨットはいいですよ。風がないと少しも進まないけど、風が吹き始めると、倍の速さで海の上を進む。人間の知恵と自然の恵みの両方の上に成り立っている、だからあんなに美しいんです。
飯沼:素敵ですね。白石さんの今後の目標は何ですか?
白石:今は、3つの目標に向かって取り組んでいます。1つは2024年の大会で8位以内に入ること。次に日本でヨット文化を広めること、そして3つ目はヨットを操縦できる若手やエンジニアを育成することです。ヨットは乗り手だけでなく、技術面で航海を支える人材を育てることも重要なんです。
飯沼:2024年の大会に向けて努力する白石さんの姿に、僕ら世代も勇気をもらっています。僕もたくさんの人に海の魅力を知ってもらうべく、ライフセーバーとしての活動を続けつつ、教育とスポーツを絡めて盛り上げていく仕組みづくりに力を入れたいと思います。
努力することの大切さ、夢を諦めない心、そんな多くのことをスポーツマンガから学んだという白石さんと飯沼さん。お2人が推薦する作品と共に、2024年に向けた白石さんのさらなるチャレンジ、海と命を守る飯沼さんの活躍にも、ぜひ注目しよう。
撮影:十河英三郎
「2021年夏!あなたの推しキャラ選手権~スポーツ編~」開催中!
スポーツマンガは、現実のアスリートの活躍やスポーツ大会と同じように熱狂を生み、強い感動と同時に新しい世界との出合いをもたらします。
あなたが応援したい、あなたの心を揺さぶる、あなたが目指したいと思うマンガの中のアスリート(キャラクター)をSNS投稿(#スポマン推しキャラ)で教えてください。ランキング上位に入賞したキャラクターの登場作品は、日本財団が全国で展開する「子ども第三の居場所」(外部リンク)に寄贈され、子どもたちのスポーツへの興味関心を高めるために役立てられます。
また、Twitter上では、選書に参加したアスリートらの寄せ書きサインが当たるプレゼント企画も実施いたします。いずれも募集期間は、2021年9月5日(日)まで。投稿方法や応募条件等の詳細は公式サイト(外部リンク)をご確認ください。
〈プロフィール〉
白石康次郎(しらいし・こうじろう)
少年時代に船で海を渡るという夢を抱き、高校在学中に単独世界一周ヨットレースで優勝した故・多田雄幸(ただ・ゆうこう)氏に弟子入りし、レースをサポートしながら修行を積む。1994年に26歳で、ヨットによる単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立。その他数々のヨットレースやアドベンチャーレースでも活躍し、2020年11月〜2021年2月にかけて行われた単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」では、メインセールが大破したにもかかわらず、アジア人初の完走という快挙を成し遂げた。
白石康次郎 公式サイト(外部リンク)
飯沼誠司(いいぬま・せいじ)
日本人初のワールドシリーズとプロ契約を成し遂げたライフセーバー。全日本選手権アイアンマンレースでは5 連覇という偉業を達成。2010年の世界選手権エジプト大会では日本代表キャプテンとしてSERC種目で準優勝。海外のレースでも数々の好成績を収める。2006年に「館山サーフライフセービングクラブ」、2015年に「アスリートセーブジャパン」を設立。国内外におけるライフセーバーの知名度・地位向上、次世代ライフセーバーの育成指導を行うと共に、現在も水難救助の第一線に立ち、海岸の安全と環境を保全する活動を行っている。
飯沼誠司 公式サイト(外部リンク)
一般社団法人ATHLETE SAVE JAPAN コーポレートサイト(外部リンク)
館山サーフクラブ 公式サイト(外部リンク)
特集【スポーツマンガ100選】
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