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【スポーツマンガ100選】年齢や環境で新たな発見がある。マンガナイト山内代表、アルティメット中野選手が語るマンガの魅力
- スポーツマンガには競技の魅力や楽しみ方など、学びの要素がたくさん詰まっている
- マンガは自分の年齢や環境に応じていろんな発見があり、読むたびに新たな感動が得られる
- マンガは多様性の教科書。個性豊かな作品、キャラクターとの出会いが人生を豊かにする
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団と一般社団法人マンガナイトが取り組む、「学び」につながるマンガを選出し、世界に向けて発信する「これも学習マンガだ!〜世界発見プロジェクト〜」。同プロジェクトではスポーツの面白さや、普段知る機会の少ない競技の魅力を伝えることを目的に「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」(外部リンク)を選書した。
今回、マンガナイト代表の山内康裕(やまうち・やすひろ)さんと、選者として参加した注目のマイナースポーツ「アルティメット(※)」選手の中野源一(なかの・げんいち)さんが、スポーツマンガの魅力や、各々が推薦する作品について意見を交わし、談義に花を咲かせた。
- ※ フライングディスクを使って7人対7人で行う団体競技です。100×37メートルのコート内で落とさないように味方同士でパスをつなぎ、コートの両端にあるエンドゾーンの中でキャッチをすると得点になる競技
時代と共に進化するスポーツマンガ
山内さん(以下、敬称略):昔からスポーツマンガは、作品を通して競技に触れ、実際に競技を始めるきっかけにもなるなど、子どもや若者たちに大きな影響を与えてきました。最近はリアリティを追求する作品も多く、トレーニングや戦術など、プレーヤーの方も学べるような作品も増えています。
今回のプロジェクトでは、中野さんをはじめとするアスリートやスポーツ関係者、マンガ有識者、図書館員など、世代も職種もさまざまな 120名以上の方に選者としてご参加いただき、各競技最大5作品までに絞り、得票制でトップ100作品を選びました。
中野さん(以下、敬称略):パラスポーツやマイナースポーツ、eスポーツ作品も選ばれていますね。
山内:はい。マンガの良さは、そのスポーツを知らない人でも楽しめ、読み進めながら自然とルールを知っていけるところ。このプロジェクトを通して、新しいスポーツの楽しみ方が広がればいいなと思っています。今回、中野さんが選んでくださった中で、特にお気に入りの作品はありますか?
中野:高校バレーが舞台の『ハイキュー!!』(集英社)(外部リンク)です!一人ひとりのキャラクターがとても魅力的なんですよ。この作品をきっかけにルールやポジションを知った人が増えたという話を聞いて、競技の発展にも影響しているんだなと思いました。また、100選には選ばれなかったのですが、サッカーマンガ『DAYS』(講談社)も好きな作品です。僕も高校までサッカー部だったので、読みながら部活時代を思い出します。
山内:『ハイキュー!!』は臨場感がありますよね。この作品はボールの視点、つまりコートに立つ競技者でも見えないようなアングルで描かれているのがすごい。中野さんが共感するキャラクターはいますか?
中野:リベロ(※)の西谷夕(にしのや・ゆう)くんです。彼はとても背が低いんですよね。僕はアルティメットをやる前はずっとサッカーをしていて、主にゴールキーパーを任されていたのですが、キーパーとしては背が低くて、周りから「ちび」と言われながらプレーしていた自分と重なります。山内さんの好きなスポーツマンガは何ですか?
- ※ レシーブ専門、守備だけに特化したポジション
山内:『ピンポン』(小学館)(外部リンク)です。5人の主要キャラクターが登場するのですが、互いの才能に影響され、時に絶望しながらも自分自身と向き合い、立ち上がる姿が描かれています。中でもインターハイで優勝した実力者でもあるライバルの「ドラゴン」が好きなんですよね。終盤に主人公のペコに負けるシーン、全ての重圧から解放されて自由になるんですが、絶望や哀愁、喜びなどいろんな感情が詰まっていて、すごく印象的です。
それともう1つは、実話をもとに描かれた『遥かなる甲子園』(双葉社)(外部リンク)です。ろう(聴覚障害者)学校の生徒たちが硬式野球部をつくり、困難を乗り越えながら甲子園を目指すという作品で、改めて気軽にスポーツができる自分は恵まれていると気付かされます。
中野:今のお話を聞いてピンポンを読んでみたいなと思いました。超えられない壁に遭遇したときや絶望感を味わったとき、漫画の中のキャラクターがどうやってそれを乗り越えるのか。そのメンタリティや挫けずに頑張る姿に刺激をもらいたいと思っています。
マンガが人生のヒントになることも
山内:スポーツマンガ以外にも、中野さんの人生に影響を与えたマンガはありますか?
中野:王道ですが『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)です。この作品を読んでから、自分の夢や目標を話せるようになった気がします。『賭博黙示録カイジ』(講談社)も面白かったですね。作品で描かれる駆け引きや心理戦が、いつか自分の人生にも活かせるんじゃないかと思いながら読んでいました。
山内:なるほど。『ONE PIECE』が他の作品と違う点は、主人公が1人で努力してやり遂げるのではなく、自分だけではできないからと仲間を集め、チームで目標に向かって進んでいくところですよね。チームスポーツに携わる中野さんならではの選択だなと思います。『カイジ』の心理戦も、競技をする上で活かされそうな気がします。
中野:どこまで活かせているか分かりませんが(笑)。昔読んだマンガって、定期的に読み返したくなりますよね。
山内:それもマンガの良さです。その時の自分の年齢、環境に応じていろんな発見があるので、何度読んでも新しい感動が得られますよね。ところで中野さんは、どんなきっかけでアルティメットを始めたのですか?
中野:高校3年生の時、たまたまテレビで観たのがきっかけですが、実際に始めたのは大学に入ってからです。サークルの新歓コンパで出会った先輩が大学から競技を始めて日本代表になったという方で、「ゼロからスタートして日本代表になれるんだ!」ということに魅力を感じました。
山内:競技としての魅力は、どんなところにありますか?
中野さん:アルティメットには大きく3つの特徴があります。1つ目はフライングディスクを使うこと。ディスクは風の影響を受けやすいので、風を生かした投げ方が必要になります。向かい風や追い風に合わせて投げ方を工夫するんですが、これが複雑で面白い。また、キャッチする際にも例えば風で浮いたものを敵・味方で競り合ったり、前に流れてしまったものをダイビングキャッチするなど、見どころのあるシーンも多いです。2つ目は、審判がいないセルフジャッジ制であること。勝ち負けはありますが、各プレーヤーは「スピリット・オブ・ザ・ゲーム」というフェアプレーの精神に則って競技しています。3つ目は男女混合部門があること。男女の身体能力の差を考えながらディスクをパスし合うのは難しい反面、戦術にも活かせるため、非常に奥が深いです。
山内:他のスポーツにはない要素がたくさんあるんですね。選手としての目標はありますか?
中野:まずは日本代表に返り咲くこと。また、競技全体として2028年のロサンゼルスオリンピックでの種目入りを目指して活動しているので、そうなった時に国内で1人でも多くの方に応援してもらえる状況をつくれるよう、アルティメットを知ってもらうための活動もしていきたいです。
マンガは多様性の教科書である
中野:今回の「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」を通して、若者たちにどんな機会を提供していきたいですか?
山内:マンガって、たくさんの人生が詰まった良質なツールだと思うんです。多様性が求められている時代ですが、マンガはまさに多様性の教科書と言っても過言ではありません。若い方たちにはぜひ多様なマンガの、いろんなキャラクターの人生を追体験することで、いろんな価値観に触れてほしい。それが生きる力を養うのではないかと思っています。
中野:本当にそうですね。僕はマンガから人生にいい影響を受けてきました。ちょっとしたシーンで笑ったり、号泣したり……。スポーツもそうですが、人の心を動かす大切な存在ですよね。
僕は競技をする上で、後ろ向きな人には勇気を与え、前向きな人にはさらに刺激を与えられるような存在になりたいと思っています。これからもその実現に向けて頑張っていきたいと思っていますが、一人でも多くの若い方が、スポーツやマンガによる学びを通して世の中にこんな影響を与えたいとか、周りに対する視点が変わるような、何か新しい感情を持ってくれたらいいなと思います。
山内:僕は、インターネットやSNSなど情報が溢れている今の世の中を生きる若者は、情報をうまく取捨選択して自己を確立することが必要だと思います。自己を確立するのは大人でも難しいことだけれど、マンガから他者の人生を取り入れることで、少しずつ自分なりの価値観を築いていけるのではないでしょうか。情報社会に左右されずに生きていくための有効なツールとして、取り入れてもらえるといいですね。
中野:そうですね。僕は子どもの頃、親には「マンガばかり読んで」と叱られていましたが、いつか子どもができてマンガを読んでいたら「どんなところが面白いの?」と声をかけたいですね。
マンガは“多様性の教科書”。山内さんがそう話すように、個性を持ったいろんなキャラクターが、それぞれの特性を活かしながら物語の中で活躍するマンガは、教科書では教えてくれない、子どもや若者たちの成長につながる学びで溢れている。
特にスポーツマンガは、努力することの大切さ、仲間やライバルと競い合うことの楽しさ、勝利をつかんだときの喜びなど、いろんなことを教えてくれる。
夏休みや休暇を利用して、ぜひ「2021年夏 スポーツを100倍楽しむ マンガ100選」を参考に、特別な一冊に出会ってほしい。
撮影:十河英三郎
「2021年夏!あなたの推しキャラ選手権~スポーツ編~」開催中!
スポーツマンガは、現実のアスリートの活躍やスポーツ大会と同じように熱狂を生み、強い感動と同時に新しい世界との出合いをもたらします。
あなたが応援したい、あなたの心を揺さぶる、あなたが目指したいと思うマンガの中のアスリート(キャラクター)をSNS投稿(#スポマン推しキャラ)で教えてください。ランキング上位に入賞したキャラクターの登場作品は、日本財団が全国で展開する「子ども第三の居場所」(外部リンク)に寄贈され、子どもたちのスポーツへの興味関心を高めるために役立てられます。
また、Twitter上では、選書に参加したアスリートらの寄せ書きサインが当たるプレゼント企画も実施いたします。いずれも募集期間は、2021年9月5日(日)まで。投稿方法や応募条件等の詳細は公式サイト(外部リンク)をご確認ください。
〈プロフィール〉
山内康裕(やまうち・やすひろ)
1979年生。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科(MBA in accounting)修了後、税理士を経て、マンガを介したコミュ二ケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、2020年に法人化し「これも学習マンガだ!」事業(日本財団助成)を推進。また、マンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」にて、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。さいとう・たかを劇画文化財団理事、文化庁メディア芸術連携基盤等整備推進事業有識者タスクチーム員、国際マンガ・アニメ祭ReiwaToshim(IMART)共同委員長、日本マンガ学会監事他を務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)など。
一般社団法人マンガナイト コーポレートサイト(外部リンク)
中野源一(なかの・げんいち)
1994年生。慶應義塾大学経済学部を卒業後、人材会社を経てスポーツベンチャーAscenders株式会社に入社。高校まで10年間サッカー部に所属しゴールキーパーを務め、大学入学と共にアルティメット(フライングディスク競技)を始める。日本代表としてこれまでに5度の国際大会に出場。現在も会社員として働きながら競技活動を続ける。
[日本代表戦績]
WFDF2019アジア・オセアニアアルティメット&ガッツ選手権大会ミックス部門準優勝
WFD2019アジアオセアニアビーチアルティメット選手権大会ミックス部門準優勝
WFDF2018世界U24アルティメット選手権大会ミックス部門準優勝(キャプテン)
WFDF2016世界アルティメット&ガッツ選手権大会ミックス部門6位
WFDF2015アジア・オセアニアアルティメット選手権大会ミックス部門3位
特集【スポーツマンガ100選】
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。