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チョコレートの原料・カカオの生産者は現地の子どもたち。世界から児童労働を減らすためにできることとは?

世界の貧しい国を中心に、教育を受けられずに働く「児童労働者」が数多くいる。画像提供:特定非営利活動法人ACE
この記事のPOINT!
  • 世界には教育を受けられずに働く児童労働者が、約1億6,000万人もいる
  • チョコレートの原料であるカカオの生産には、児童労働問題が深く関連している
  • 児童労働を他人事として捉えず、製品の背景を知ろうとすることが大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

お菓子の定番として、世界中で愛されるチョコレート。原料となるカカオの主な生産地は、ガーナやコートジボワールなどの西アフリカ諸国ですが、そのカカオ生産における「児童労働」が長年問題視されています。

児童労働とは、「義務教育を受けるべき年齢の子どもが教育を受けずに、大人と同じように働くこと。また18歳未満の危険で有害な労働」と国際条約で定義されています。

2020年の国際労働機関(ILO)とユニセフの調査(外部リンク/PDF)では、世界ではいまだ約1億6,000万人の子どもが働かざるを得ない状況にあり、日本を含む先進国でも約160万人の児童労働者がいるそうです。

そんな児童労働問題を解決するべく活動しているのが、特定非営利活動法人ACE(外部リンク)です。副代表を務める白木朋子(しろき・ともこ)さんは、「児童労働にはさまざまな要因が挙げられます。児童労働者をなくすには、関連する企業だけではなく、社会全体で解決に向けて取り組む必要があります」と話します。

今回、私たちが普段口にするチョコレートの裏にあるつらい現状と、ACEの活動、また現状を変えるために一人一人ができることについて伺いました。

今回、取材に応じていただいたACE副代表の白木さん。画像提供:特定非営利活動法人ACE

児童労働撤廃を訴えたい。当時の学生5名で活動開始

――ACEではどのような活動を行っているのでしょうか。

白木さん(以下、敬称略):1つは、ガーナにあるカカオ生産地で児童労働の撤廃を目指す活動です。2009年から「しあわせへのチョコレートプロジェクト」(外部リンク)を立ち上げ、チョコレートを製造・販売する企業から支援をいただきつつ、ガーナで暮らす児童労働者や、経済的に貧しいとされる家庭の支援、カカオ農家の技術力の向上に力を入れています。

「しあわせへのチョコレートプロジェクト(2009年~)」に関する資料。
このプロジェクトは、カカオのサステナブルな生産と消費を促進し、カカオ生産における児童労働問題を解決することを目的としています。

・現地支援プロジェクト「スマイル・ガーナプロジェクト」
現場での直接的な問題解決
子どもの保護と参加促進
就学支援、教育環境の改善
カカオ農家の収入向上
児童労働防止システムの構築
自治体との連携など

・カカオ生産者とチョコレート消費者をつなぐ取り組み
消費者の教育と啓発
企業との連携
国内外での政策提言
「チョコレートを食べる人と作る人、みんなが一緒にしあわせになれるように」というコンセプトのもと立ち上がった、しあわせへのチョコレートプロジェクト。画像提供: 特定非営利活動法人ACE

――他にはどのような活動をしているのでしょうか。

白木:2020年にJICA(※1)が主導となって立ち上げた「開発途上国のためのサステナブルカカオプラットフォーム」(外部リンク)に参加しています。メーカーや商社と連携を取りながら、カカオがチョコレートとなり消費者に届く過程で、児童労働を予防、改善するための取り組みを推進しています。

他にも、ガーナ政府が国家政策と進めている「児童労働フリーゾーン(※2)」を認定する新しい制度づくりにも2018年から関わっています。

また、日本国内では児童労働だけではなく、「子どもの権利」を広い視野で普及するためのプロジェクトやフォーラムの実施に力を入れています。

  • 1.「独立行政法人 国際協力機構」の略称。開発途上国への国際協力などを行っている地域のこと
  • 2.子どもを危険な労働から守り、子どもの権利や福祉を保障するための総合的で一貫性のある取り組みが、継続して実行されている

――児童労働に関してさまざまな活動をしているんですね。ACEはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

白木:きっかけは1998年1月から6月にかけて行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」という、世界を練り歩いて、児童労働の撤廃を訴える世界的なムーブメントです。2014年にノーベル平和賞を受賞したインド人のカイラシュ・サティヤルティ氏の呼びかけで、計103カ国で展開されたのですが、日本で開催される予定はありませんでした。

そこで現在、代表を務めている岩附由香(いわつき・ゆか)が、当時ボランティアをしていたNGOで「日本でも『児童労働に反対するグローバルマーチ』をぜひやりたい」と提案したのですが、実施できず、自分たちで団体をつくって「児童労働に反対するグローバルマーチ」に参加しようと考え、声をかけて集まった5人でACEを立ち上げました。

貧困、国の支援不足。児童労働問題が現代まで続く理由

――児童労働の問題が長く続く要因として、どのようなことが挙げられますか。

白木:各家庭の経済的な要因というのが大きいと思います。経済的に余裕がない人たちはその日を生き抜くだけで精一杯で、豊かになる手段がありません。それによって、親は子どもたちの教育費を賄えないだけでなく、生活のために子どもを働かせざるを得ないんです。

私たちのようなNGOとして、家庭やコミュニティレベルで支援を届けていくことで改善できることもありますが、もっと大きな社会の仕組みを変えていかないと、規模の小さな改善にしかならないのです。

特に農業の場合、農家が受け取る収入水準を上げるには、作物の価格を上げる必要があり、特にカカオの場合には国際価格を決定する仕組みの変更や、国ごとに異なる取引方法の整備など、国際レベルでの構造変革が不可欠です。一朝一夕では解決できる問題ではありません。

学校に行かず、児童労働者として働く子どもたち。画像提供:特定非営利活動法人ACE

――児童労働が問題となっている国で、支援策などは講じられていないのでしょうか。

白木:誰にとっても、基本的な生活水準を維持できる仕組みを機能させるのが理想ですが、国によっては機能していないのというのが現状です。この状況は児童労働問題が続くもう1つの要因でもあります。

先ほどお話した「児童労働フリーゾーン」は、そういった仕組みを構築して機能させるためのもの。学校や教師の配置をはじめ、困窮家庭に対する福祉サービスの提供、就学年齢を過ぎた子どもには就業訓練の機会を提供するなど、セーフティネットの構築を自治体レベルで推進し、必要な行政サービスや支援を必要な人に届けることを目指しています。

ただ、こうした制度を構築すると同時に、児童労働に対する認識のずれを是正することも必要です。

――どのようなずれでしょうか。

白木:児童労働は当たり前で、それを良しとしている社会的風潮があるという点です。

児童労働の経験がある大人の中には、自分の子どもにも同じ道を歩ませてしまう人もいます。また、人身売買のような形で働かされている子どももいて、その裏には大人がいます。大人が子どもを使って利益を得ているわけです。

もちろん、なかには「自分が教育を受ける機会がなかったからこそ、子どもには必ず教育を受けさせて、より良い人生を送らせてあげたい」と考える大人もいますが、国の支援不足や経済的な問題によって、子どもが働くという道しか選べないのが現状で、負の連鎖となっています。

「貧しい家の子どもは働くことが当たり前」ではなく、「学校で学び、スキルを身につけ、自分で自分の道を切り開くというのは子どもの権利で、どんな境遇に生まれたとしても全ての子どもに保障されるもの」、そういった意識改革が個人レベルから国、国際単位で必要だと思っています。

――児童労働が続くことで、子どもたちにはどのような弊害が起こるのでしょうか

白木:学ぶ機会を失うことで必要な知識を得られず、将来の選択肢が狭まってしまうことと、健康被害です。

成長途上にある子どもにとって、長時間労働や重労働は、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。また、字の読み書きができないことで、農薬の適切な使い方が分からず、じわじわと健康が害されてしまうこともあります。結果、大人になって家庭を持ったとき、自分の子どもを働かせざるを得ないという、悪循環に陥ることもあるんです。

児童労働を監視・改善する仕組みを構築した地域のカカオで作られたチョコレートを開発

――児童労働の解決には、チョコレートを製造・販売する企業の努力も必要だと思います。企業はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

白木:例えば、ブラックサンダーで有名な有楽製菓株式会社が「スマイルカカオプロジェクト」(外部リンク)と称して、ブラックサンダーを含む全ての製品のカカオ原料を、スマイルカカオ(児童労働の監視・改善する仕組みを構築した農園で生産されたカカオ)に変えています。

江崎グリコ株式会社(外部リンク)は、原料に使用している、ガーナのトレーサブルカカオの調達地域で、「児童労働フリーゾーン」構築に向けた支援活動を、ACEを通じて実施しています。

また、森永製菓株式会社では「1チョコ for 1スマイル」(外部リンク)として、チョコレート商品の売上の一部をACEに寄付し、カカオ生産地での危険な児童労働から子どもを保護し、就学を徹底する取り組みを、2011年から長期にわたりご支援いただいています。

チョコレート商品を通じた寄付による支援は、通販会社のフェリシモ(外部リンク)も10年以上続けてくださっていて、2024年は新たにセブン‐イレブン(外部リンク)でも取り組みが始まりました。

――ACEではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

白木:2023年に団体設立25周年を記念して「アニダソチョコレート」(外部リンク)というチョコレートを開発しました。このチョコレートは、ACEの活動により児童労働をなくす仕組みを取り入れたエリアのカカオを使用しており、このチョコレートを1枚購入すると500円がガーナに寄付できる仕組みとなっています。

また、皆さんに安心して購入いただけるよう、株式会社UPDATER(外部リンク)の協力によりブロックチェーン(※)の技術を活用し、ガーナの生産地域から店頭に並ぶまでの過程を可視化できるようにしています。

ACEが開発したアニダソチョコレート。隠し味に八丁味噌を加えたコクのある美味しさ重視のチョコレートとなっている。画像提供:特定非営利活動法人ACE

商品を手に取って、その背景を知ろうとすることが大事

――児童労働問題は、先進国ではなかなか意識されにくい問題かと思います。

白木:そうですね。世界的に不況といわれる時代ですから、多くの人が自分の生活のことでいっぱいで、国境を越えた問題には意識が及ばないというのが、正直なところなのかもしれません。

ただ、私たちが活動を始めた27年前と比べると、児童労働の問題に触れる機会は増えている気がします。昔は児童労働といっても「何それ?」という声が多かったのですが、少なくともカカオやチョコレートに関連する問題であることは少しずつ認知されるようになってきたかなと感じています。

また、昨今、日本では求人サイトやSNS上などで「闇バイト」といって、高額な報酬と引き換えに違法行為の実行者を募集する求人があり、いつのまにか未成年者が巻き込まれるという事件が多発しています。実はこれも国際条約の定義では「最悪の形態の児童労働(※)」となります。こういった事件も裏で大人が糸を引いているわけです。

実際に、「日本にも児童労働がある」という状況は増えていると思うので、さらに自分ごととして“意識せざるを得ない状況になってきている”のかもしれません。

  • 児童労働の中でも、強制労働や人身売買、売春やポルノ、戦争や犯罪行為に子どもが使われることは「最悪の形態の児童労働」と呼ばれ、18歳に満たない子どもは、すぐにそこから保護されなければならないと決まっている

――本記事を読んで児童労働問題の解決に向けて、一歩踏み出したいと考える人もいるかと思います。何かできることはありますか。

白木:まずは、児童労働問題についてもっと知ろうとすることが大切だと思います。いまは先に紹介したさまざまな企業が、児童労働に関する動画やウェブ上のコンテンツなども作成していますから、それらをまず見て、理解を深めていただけるとうれしいです。その上で、1人でも多くの方に知見をシェアしていただきたいなと思います。

とはいえ、難しい社会問題を急に持ち出すのは、ハードルが高いかもしれません。そういうときに、チョコレートを会話の入り口に使ってもらえればと思います。

ガーナの支援につながる「アニダソチョコレート」は、味もパッケージにもこだわった自信作で、プレゼントにもおすすめです。そのおいしさを味わいつつ、伝えるツールとしてもご活用いただけたらうれしいです。

小学校での講演会の模様
ACEでは講演・イベント等を通じて、のべ8万人以上に児童労働問題や活動を伝えている。画像提供:特定非営利活動法人ACE

編集後記

幼い頃から大好きで、いまも頻繁に食べるチョコレートの裏側に、つらい現状があることにショックが隠せませんでした。児童労働によって生産されているものにはチョコレート以外にも、紅茶、コットンなどがあります。自分自身が普段利用しているものにも、児童労働によって作られたものがあると思います。

商品の背景を知り、消費者がその背景に価値を見出すことで、児童労働について、ムーブメントを起こしてくれる企業もあるかもしれません。まずは身近な人にチョコレートをきっかけに話してみようと思います。

特定非営利活動法人ACE 公式サイト(外部リンク)

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