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大切なのは、日頃からの親子間コミュニケーション。親の介護が始まる前に“親のいま”を知ろう

- 日本では介護に対して親も子も不安を抱えている人が多い
- 介護経験や親との話し合いをしていない人ほど、介護をネガティブに捉えがち
- 事前に親子でコミュニケーションを図り、考えを共有しておくことが介護への不安軽減につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
2025年、日本では人口構造の変化によってさまざまな問題が発生すると懸念されています。国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になると予測されており、現行の医療制度、介護制度の課題が浮き彫りになりつつあります。
- ※ こちらの記事も参考に:迫る2025年問題とは?労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大(別タブで開く)
働く世代の中には、「いつか自分も親を介護する日がくるかもしれない」と頭の片隅で理解はしていても、「ちゃんと親の介護ができるのか?」と不安を抱える人は少なくないはず。また、親世代も「なるべく自立していたい、子どもに迷惑をかけたくない」と思っている人は多いのではないでしょうか。
そんな世代間で抱える思いを調査し、解決の糸口を導き出そうとしているのが、株式会社ダスキン(外部リンク)です。ダスキンというと清掃関連事業のイメージが強いかもしれませんが、介護事業にも注力しており、介護・福祉用具をレンタル・販売する「ダスキン ヘルスレント」(外部リンク)では、いつか直面する介護への備えを啓蒙するプロジェクト「いま、親のいまを知ろう。」(外部リンク)を立ち上げています。
今回、ダスキン ヘルスレント営業企画室室長の坂本記史(さかもと・のりふみ)さんに、事業立ち上げの経緯や、同社が公開している「親子で向き合う介護レポート2024」(外部リンク/PDF)の調査結果、親・子世代にそれぞれが介護への不安を軽減させるためにできることについて伺いました。

介護保険制度をきっかけにダスキン ヘルスレントを立ち上げ
――ダスキン ヘルスレントではどのようなものがレンタル、販売されていますか。
坂本さん(以下、敬称略):車いすや介護用ベッド、手すりなど厚生労働省が定める介護保険の給付対象の福祉用具13品目(外部リンク)を中心にレンタルをしています。月額制にはなりますが、介護保険が適応される場合は、レンタル料金の1~3割の負担額で利用できるようになっています。
販売品は、おむつやシャワーチェア、ゼリータイプの栄養補助食品など介護に必要なものを取り揃えています。

坂本:車いすや介護用ベッドのレンタルは、お盆や年末年始で親の退院が決まり、一時的にレンタルしたいという方や、本格的に介護が必要になったご家庭にご利用いただいています。
また、バスに車いすを常備しておきたいと考えている観光会社や、看護研修のときに教室で使用したいと考えている大学や看護学校などのご利用も増えています。
――介護に必要なものが網羅されているのですね。ダスキン ヘルスレントを立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。
坂本:ダスキンというと清掃関連のイメージが強いかと思いますが、実は1978年からベビー用品、災害用品、イベント用品、先ほど述べた介護・福祉用品まで幅広く貸し出しを行なうレントオール事業(外部リンク)を展開しています。
もともとレントオール事業の中で介護・福祉用品を取り扱ってはいて、ダスキン ヘルスレントを立ち上げるきっかけになったのは、2000年に創設された介護保険制度です。
介護保険制度ができてからは、福祉用具、介護用品に高いニーズがあり、介護に不安を持つ方も大変多いことが分かりました。福祉用具・介護用品を使って少しでも問題を解決し、より高いニーズに応えたいという思いから、介護や福祉の分野に絞り、事業を独立させました。

親と子で介護に対する考えは異なり、行き違いもある
――2022年から介護に関する世代間の考えや思いを調査する「いま、親のいまを知ろう。」プロジェクトを立ち上げています。調査の結果、どのようなことが分かりましたか。
坂本:顕著だったのは、介護経験の有無によって介護に対するイメージが異なるという点です。
実際に介護経験がある人の81.3パーセントは、介護を「親孝行」「恩返し」「家族の絆が深まる」といったポジティブなイメージを抱いていますが、介護経験がない人で同様なイメージを抱いている人は43.8パーセントと少なくなっています。
また、介護について親子で話し合いをしたことがある人とない人にも同様の質問をしたところ、「話し合いあり」の人は96パーセントの人がポジティブなイメージを持っているのに対し、「話し合いなし」の人は67パーセントで、約30ポイントも差があることが分かりました。

――実際に親子で介護について話し合っている割合はどれくらいなのでしょうか。
坂本:介護について親子で話した経験がある親世代は16.5パーセント、子世代で25.2パーセントと低いのが現状です。
また、話し合ったタイミングも遅く「介護が必要になってから」が30.2パーセント、「親の病気や介護に迫られてから」が46.8パーセント、「病気や入院をしてから」が30.6パーセントとなっています。

坂本:大きな理由としては、介護における親子間の「アンコンシャス・バイアス(※)」によって、家族で話し合うことに難しさを感じている点にあると考えています。
- ※ 無意識の思い込みや偏見
――親子間の「アンコンシャス・バイアス」というと、具体的にどのような思い込みがあるのでしょうか。
坂本:例えば、介護に対して望むことに関して、親世代からは「介護は外部施設や行政サービスの力を借りたい」という回答が多かったのですが、子世代の約半数は「親が要介護となったら、家族・親族による介護をしたい」と回答しています(※)。
また、親世代と子世代の就業者に「子どもは親の暮らしをサポートするべきか」と尋ねたところ、「そう思う」と答えた親世代は45.0パーセント、⼦世代は67.1パーセントと、子世代の方が高い結果となっています(※)。
――子どもは親をサポートしたいと思っているけど、親の方はできるだけ家族には頼りたくないと思っている、という結果ですね。こうした調査結果を通して、親世代と子世代にどのようなことを伝えたいですか。
坂本:どちらの世代にも通じることなのですが、お互いに介護について話し合う機会をつくってほしいと思っています。今回の調査で分かったように、親世代と子世代では介護に対する考え方は異なり、その結果行き違いも生まれてしまうのかなと思います。
「いま、親のいまを知ろう。」は、子世代へのメッセージにとられるかもしれませんが、「もっと親子間のコミュニケーションをとりましょう」という意味が込められています。最初は「今日、〇〇さんと会ってこんなことを話した」「会社でこんなことがあってさ」程度の話で構いません。
ご自身のいまの生活がどういうものなのかを、お互いに共有することから始めてみてほしいですね。
インタビューなどをきっかけに相手のいまを知ることが重要
――現代の介護における最重要課題は人材不足かと思います。その課題に対して取り組んでいることは何かありますか。
坂本:一企業が解決できるかというと難しい話なのですが、福祉用具・介護用品を正しく使うことで、介護にかかる負担が軽減できることも多くあります。例えば介護ベッドは、リクライニングの操作方法さえ理解していれば、1人で起き上がれる方もいらっしゃいます。
私たちができることは、そういった福祉用具をちゃんと理解して使っていただけるようにすることだと考えています。人の手が少なくても、少しでも満足できる介護が可能になればいいなと思っています。
また今後も高齢化が進むであろう日本では、共助や公助の力を活用して、介護に対する連携を深めていくことも重要だと思います。
――現在、介護に不安を抱えているけれど、何をしたらいいか分からない人ができることはなんでしょうか。
坂本:いざ介護が始まったとき、お互いが望み、かつ納得できる環境を整えておくことではないでしょうか。そのために必要なのは、先ほど述べたコミュニケーションです。
ただ、不安を抱えている人の中には、介護について話すきっかけが見当たらない人もいると思うんです。
そのような人には、「いま、親のいまを知ろう。」プロジェクト内で作られた「質問ノート(外部リンク)」を活用していただきたいです。

坂本:質問自体はとてもシンプルですが、親の好きなものから困っていることなどを知ることができるようになっています。実際にこのシートを活用して、「親が病院を3つも掛け持ちしていた」といったことや、「昔より噛み切れないものが増え、柔らかい食事を選ぶ傾向が増えた」といったことに気付いたという声をたくさんいただいています。
他にも、親のことをもっと知るきっかけとして、インタビューをすることをおすすめしています。幼少期の思い出やニックネームなどをきっかけに、最近の生活習慣や介護、看取り、遺産に関するに話につなげてみてはいかがでしょうか。
親御さんも子どもにインタビューしてもらうのはうれしく、喜んで答えていただけると思います。
こういったツールを活用しながら、家族間で介護について考えを共有してみてはいかがでしょう。

編集後記
昨年(2024年)、父親が定年退職を迎えたこともあり、ふと「そろそろ介護の準備をしないといけないのかな」と頭をよぎった瞬間がありました。とはいえ、親がどんな余生を望んでいるのか、介護が必要になったときにどうしてほしいのか、いまだ分からないことは多いなと感じています。
本取材をきっかけに親と少しずつ今後について話してみようと感じました。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。