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がん治療研究を応援するプロジェクト「deleteC(デリートシー)」って? 距離を感じてしまう社会課題を身近に!

「deleteC」のロゴ。がん(Cancer)の頭文字、Cの文字を消したデザインとなっている
この記事のPOINT!
  • 「deleteC」は、がん治療研究を応援するアクションを浸透させる活動
  • 社会課題解決のための行動は、ふだんの暮らしの中で気軽にできるカジュアルソーシャルアクションがコツ
  • 社会課題を伝えるには、みんなが思わず参加したくなる仕掛けが必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本人の2人に1人がなるという「がん」。誰にでも起こり得る身近な病気だといえます。

2019年に発足した認定NPO法人 deleteC(外部リンク)は、がん(Cancer)の頭文字“C”を消すというさまざまなアクションを通じて、寄付と情報発信を行い、がん治療研究を応援するというプロジェクト。

既に多くの企業や団体が参加し、SNSやお店を通じて、がん当事者や学生、スポーツ選手、俳優、個人など誰もが気軽に参加できる社会貢献活動「カジュアルソーシャルアクション」になっています。

たくさんの人を巻き込んだ「deleteC」の活動は、社会課題の解決に取り組む人にとって大きなヒントになるのではないでしょうか。

今回、「deleteC」代表理事の小国士朗(おぐに・しろう)さんにお話を伺いました。

取材を伺った小国さん。NHKで番組制作に携わったのち、独立。認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」(外部リンク)も手がけた。画像提供:deleteC

誰もが参加できる社会活動「カジュアルソーシャルアクション」とは?

――「deleteC」は具体的にどのような活動をしてきたのでしょうか。

小国:「deleteC」は「みんなの力で、がんを治せる病気にしたい」という思いを込めて、身近な商品やサービスからCの文字を消し、がん治療研究を応援するという活動をしています。

例えば、企業やブランドがCの文字を消した特別なパッケージの商品を販売し、消費者が商品を購入すると、売上の一部ががん治療研究の寄付になるといったものです。

過去にはサントリー食品インターナショナル株式会社とコラボして「C.C.レモン」から「C.C.」の文字を消したオリジナルパッケージの期間限定商品を発売しました。

Cの文字が消されたC.C.レモンの特別パッケージ。画像提供:認定NPO法人 deleteC

小国:当初はコラボパッケージの取り組みからスタートしましたが、2020年からはSNSで「#(ハッシュタグ)deleteC大作戦」といった活動も始めました。

これはユーザーがCの入った商品を購入し、Cの文字を消した写真を撮ってSNSに投稿すると、投稿やいいねの数だけ、参加企業や団体から「deleteC」を通じて、がん治療研究に寄付されるという取り組みです。

指でCの文字を消して撮影したC.C.レモン
Cを消して撮影した画像の例(編集部撮影)

小国:「deleteC大作戦」は毎年9月のがん征圧月間に実施しており、近年では投稿にとどまることなく、アクションが広がり、ひと月でおおよそ2,000万円以上の思いと寄付が集まる取り組みに成長しました。今では「deleteC」の代名詞といえる活動になっています。

新日本フィルハーモニー交響楽団
「deleteC」は他にも新日本フィルハーモニー交響楽団とのアクションで、Cの音(ド)を消す=演奏しないユニークなチャリティーコンサートも実施。チケット代金の全額を寄付に充てた。画像提供:認定NPO法人 deleteC

――さまざまな活動をされているんですね。誰もが気軽に参加できますし、素晴らしい取り組みだと感じます。

小国:我々は「カジュアルソーシャルアクション」という言葉を大切にしています。ソーシャルアクションは社会課題解決のための行動という意味ですが、社会課題解決というと「勉強してからじゃないとやっちゃいけないんじゃないの?」といったような、ハードルの高さをどうしても感じてしまうと思うんです。

そうではなく、「もっとカジュアルに軽やかにやりましょうよ」と呼びかけています。SNSで投稿したり、商品を買ったりすることが応援につながるソーシャルアクションになるので、年齢も国籍も関係なく誰もが参加することができるんです。2024年度は、「投稿」「買い物」「歩く」「学び」の4つのカジュアルソーシャルアクションを柱に展開しました。延べ60社・団体が「deleteC」の活動に賛同し、延べ250万人の方がアクションに参加してくださいました。

――「deleteC」はどのようなきっかけで始まったプロジェクトだったんでしょうか。

小国:中島ナオ(なかじま・なお)という友人がきっかけでした。彼女は31歳のときに乳がんになった、がん当事者でもありました。

2018年に彼女から「私はがんを治せる病気にしたい」と相談を受けたんです。もともと僕はNHKで番組制作をしていましたし、認知症の理解促進を目的とした「注文をまちがえる料理店」などのプロジェクトを手がけていました。そうした活動を期待しての相談だったんでしょうが、正直「がんを治せる病気にする」という相談に対して、自分が何かできることがあるなんて思っていませんでした。僕は当事者でもないし、できるとすればせいぜいお見舞いくらいだと思っていました。

ただ、たまたま彼女が見せてくれたアメリカのがん治療センターの名刺を見て、はっとしたんです。その名刺は「Cancer」の文字が赤線で消されており、「そうだ、文字を消せばいいんだ」と、「deleteC」の活動を思いつきました。

Cを消すことで、社会も我々も、がんを治せる病気にする未来を手繰り寄せられると思ったんです。

「deleatC」の創業理事の一人である中島ナオさん(左)。2021年4月20日にご逝去された(享年38)。画像提供:認定NPO法人 deleteC

仲間づくりではまず“素敵なうっかりさん”を探す

――企業が商品名やパッケージからCの文字を消すとなると、なかなか大変なことも多かったのではないかと推察します。

小国:大変でしたね。100社くらい回りましたけど、最初の頃はほとんど断られましたし、「このような形でがんに関わるのは炎上しそうだし不謹慎じゃないか?」という声もいただきました。

でもその中には「面白いね」と言ってくれる企業もいました。「C.C.レモン」も、担当者の「なんか面白いからやろう」という軽いノリで始まったものだったんです。

そうした人たちが形にしてくれたものを見て、二の足を踏んでいた人たちも参加してもらえるようになりました。そこからは、みんなで何をしようか考える、大喜利のような広がり方でしたね。

――コンセプトを伝えて、相手をどう説得していくかは大半の人が苦労するポイントだと思います。

小国:僕が心がけているのは、説得はしないということです。説得というのはそれなりの理屈が必要で、時間もかかりますし、打ち合わせや社内会議の場が盛り上がったとしても、ふとした瞬間に正気に戻って「やっぱりできない」と言われることはしょっちゅうでした。

何をしていたかというと「素敵なうっかりさん」を探していたんです。

――素敵なうっかりさんとはなんですか。

小国:会議の場で、うっかり「それ面白いね」って言っちゃう人です。その人はもう面白いって思っているわけだから、理屈じゃないんですよね。そういう人物が現れた瞬間、ばっとつかまえます。

そういう人は熱量を持ったまま、社内の人も勝手に説得して形にしてくれるので、スピードが早いんです。

イケウチオーガニック(外部リンク)というタオルメーカーとお話をしたときは、代表の方がすごく共感してくれて、翌日には「deleteC」コラボのオリジナルタグができているということもありました。

出来上がったプロジェクトを見て共鳴してくれる別の素敵なうっかりさんが現れて、どんどんプロジェクトが展開していきます。素敵なうっかりさんを見つけることが、仲間集めのひとつの手段だと思います。

イケウチオーガニックが毎年発売している、コットンヌーボーというタオル。タグの中の文字「COTTON NOUVEAU」の「C」の文字が消えている。画像提供:認定NPO法人 deleteC

思わず参加したくなる仕掛けづくりをまず考える

――「deleteC」はとても素敵なプロジェクトですが、コンセプトが相手に伝わらない葛藤もあったのではないでしょうか。

小国:ありましたね。今も常にあります。NHKでは社会課題を扱う番組を作っていたのですが、大事なことほどみんな見てくれないんですよね。

でもそれってみんなが悪いということではなく、伝え方が悪かったんです。北風と太陽の寓話に例えると、僕がやりがちだったのは北風側のアプローチでした。「こういうことをしないと大変になるぞ」と危機感を煽って気付いてもらうようなものです。

その方法も大事ではあるんですが、そればかりやると、例えば「認知症は怖いもの」「がんは暗い話なんだよな」など、マイナスのイメージを持たれて敬遠されてしまいます。

そうではなくて、太陽がぽかぽかと日差しを浴びせて旅人のコートを脱がせたように「思わずやってしまう」というアプローチが必要だよなと、自分自身の反省と共に思っていました。

――確かに社会課題を伝える活動は、不安や恐怖を与えて周知させるものもありますね。

小国:だから「deleteC」では、みんなが思わず飛びつきたくなるようなアプローチが必要だと思ったんです。

「がんを治せる病気にできたらいい」とはほとんどの人が感じている思いのはずです。だけど、そのために何をしたらいいのかは分かっていません。だから、「どう参加できるか?」の仕組みを考えることが重要でした。その仕組みが「deleteC」のカジュアルソーシャルアクションになっています。

もし社会課題を伝える活動に関わっていて「伝わらない」と悩んでいる人がいたら、思わず参加したくなる仕掛けの方向で考えてみてもいいかもしれません。

――参加者からの反響はいかがでしたか。

小国:「#deleteC大作戦」でSNSの投稿アクションが大きく広がっていったんですが、多い年だと月に2〜3万回も投稿されるんです。それを見た方が「2万回分のがんについて考えるきっかけがSNSに流れたかと思うと鳥肌がたった」と書いてくれていて、それはすごく心に残っていますね。多くの人ががんについて考えるきっかけをつくれたのはとてもいいなと思っています。

また、スーパーマーケットのサミットも「deleteC」に参画してくれているんですが、そこの店員さんが自主的に「deleteC」の概要をまとめた掲示物を作ってお客さんに伝えているのを偶然見かけたんです。一つ一つのアクションは小さいんですが、普段の暮らしの風景がちょっと変わるようなアクションが波及しているなとすごく愛おしくなりました。

明確な動詞があると、みんなが参加しやすくなる

――「deleteC」がここまで大きなプロジェクトになった成功理由を、小国さんはどのように分析していますか。

小国:やはり「カジュアルソーシャルアクション」という言葉が生まれたことだと思います。

普段の暮らしの中で、カジュアルに軽やかにソーシャルアクションをしようというコンセプトなら、自分たちにもできそうだと、企業の方や、個人でも感じてもらえたんでしょうね。

また、SNSに“投稿する”、商品を“買う”といった明確な動詞があると参加も容易です。「自分にもできることがあった」と実感を持ってもらうために動詞は大切だなと思いました。

中学生や高校生など若い世代の方が多く参加してくれていて、自主的に寄付を集めるためのプロジェクトを始めた子もいて、すごくうれしかったです。

――小国さんが「deleteC」の活動で将来的にどのようなことをしていきたいか、展望を教えてください。

小国:いつもの暮らしの延長線上に、がんの治療研究を応援するアクションが入っていくことが当たり前の営みになればいいなと思っています。大きいインパクトが1回あるだけのキャンペーンではなく、日々の営みの中に「カジュアルソーシャルアクション」がある状態をつくりたいと考えているんです。人口約1億人だとしたら、1億人が参加できるアクションをつくるにはどうするかをいつも自分たちに問いかけています。

僕たちが大切にしている価値観は「あかるくかるくやわらかく」です。社会課題というのは、どうしても暗くて固くて重いものなので、それをひっくり返すような活動をしていきたいですね。

編集後記

ニュースや新聞で重要な社会課題が周知されるたびに「当事者でない私がそれを知って何ができるか」と半ば他人事のような思いを抱えていました。

「deleteC」は、SNSで投稿したり商品を買ったりすることで、自分もがんの治療研究支援に参加することができます。

小国さんの「カジュアルソーシャルアクション」の考え方は、今後社会課題に関わる上で非常に重要になってくるのではないかと思いました。「素敵なうっかりさんを探す」「動詞をつくる」など、仕組みづくりも学ぶところが多数ありました。

「自然に参加したくなる仕組みづくり」、これは多くの社会活動を行う方々にとって、大事な心がけだと思いました。

〈プロフィール〉

小国士朗(おぐに・しろう)

株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー。2003年NHK入局。「プロフェッショナル 仕事の流儀」「クローズアップ現代」などのドキュメンタリー番組を中心に制作。その後、番組のプロモーションやブランディング、デジタル施策を企画立案する部署で、ディレクターなのに番組を作らない“一人広告代理店”的な働き方を始める。150万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」の他、個人的なプロジェクトとして、世界150カ国に配信された、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」なども手がける。2018年6月をもってNHKを退局し、現職。携わるプロジェクトは「deleteC」「丸の内15丁目プロジェクト」をはじめ多数。
deleteC 公式サイト(外部リンク)

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