未来のために何ができる?が見つかるメディア
社会課題を「楽しさ」で届けるメディア。さまざまな人の小さな行動や気づきのバタフライエフェクトが社会を動かす
- 社会課題を伝えるメディアは敬遠されやすく、関心の広がりを妨げている現状がある
- RICEメディアはショート動画を活用し、「興味のない層」へのアプローチに成功
- 「正しさ」よりも「楽しさ」を入り口にすることで、小さな行動が連鎖し社会を動かす
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団が2024年2月に実施した18歳意識調査「国や社会に対する意識(6カ国調査)」(外部リンク)によると、「国や社会の役に立ちたい」と答えた若者は64.3パーセント、「自分の行動で社会を変えられる」と答えた若者は45.8パーセントでした。調査対象となった諸外国と比べると、日本は社会や社会課題に対する意識が低い傾向が見えてきます。

このような事象の背景には、社会課題が「真面目で重い」「説教くさい」といった理由で敬遠されやすいテーマであるという点がしばしば指摘されます。情報が飽和する現代において、社会課題に関する情報は、エンタメ性の高いコンテンツと比べて、人々に選ばれにくいことが、関心の広がりを妨げる要因になっているといえるでしょう。
しかし、社会課題を未認知の層にも情報を届け、結果として若い世代からの支持も集めている動画メディアがあります。総再生回数5.9億回(2025年9月時点)、視聴者の約半数が24歳以下というRICEメディア(外部リンク)です。
RICEメディアは「日本で最も面白く社会課題やSDGsを知れるメディア」を掲げ、約1分のショート動画で社会課題を軽やかに楽しく伝えることを特徴としています。YouTube(外部リンク) 、Instagram(外部リンク) 、TikTok(外部リンク)で、忙しい社会人や若者でもつい見たくなる切り口で発信を続けています。

今回、RICEメディア代表のトムさんこと廣瀬智之(ひろせ・ともゆき)さんにインタビューし、どのようにして社会課題を「見たくなる」形にしているのか、発信の工夫やその根底にある思いを伺いました。

忙しく情報に触れられない生活がメディア誕生のきっかけ
――RICEメディアを立ち上げたきっかけ教えてください。
廣瀬さん(以下、敬称略):最初のきっかけは、フォトジャーナリスト志望だった大学生時代に抱いた違和感です。報道の情報は「興味のある人」には届くのですが、それ以外の層にはなかなか届きづらい。社会課題はとっつきにくく、避けられがちなトピックであるということを感じていました。
世の中には困っている人がこんなに多いのに、なぜそこに興味を持つ人が少ないんだろう。なぜ多くの社会課題が当事者だけの問題として扱われてしまうんだろう。そして、どうすれば、この社会で生きてる人たち全員で社会課題について考えたり、解決に向けて動いたりできるのだろうか。そうしたことを常に考えていました。

――学生時代からすでに伝わらないもどかしさを感じていたんですね。
廣瀬:はい。ただ、自分が社会人になってみると、生活に追われてニュースを追えない時期がありました。TikTokやYouTubeなどでエンタメ動画を見るのが精一杯という状態になったんです。
この経験から、多くの人は社会課題に対してどうでもいいと思っているわけではなく、情報に触れる余裕がない、つまり、「未認知な状態にあるだけなのではないか?」という仮説を持つようになりました。これが、情報が多い現代でも、忙しい人でも見やすい、エンタメ的な入り口から社会課題を発信したいと考えるようになったきっかけです。
社会課題があることは理解している。でも、「自分にできることがある」と思う人は少ないのかもしれない、という印象です。
――その要因はどこにあるのでしょうか。
廣瀬:根本的には教育の形にあると思っています。日本の教育は与えられた答えに従うことや、決まったルールを守ることを重視してきました。また、自分で答えを探していくことや、何かを変えていく成功体験を積む機会が少ないまま育つため、大人になって突然「答えのない問題を解決する側」になるのは難しいんだと思います。
ただ、成功体験が1つあれば、社会を変えるプレーヤーになれるかというと、そう単純でもありません。継続的に社会課題への関心を保ち続けること、そして知り続けることがとても大切だと思っています。その役割を果たすのがメディアではないでしょうか。
掲げたのは「社会課題への無関心の打破」
――RICEメディアで特に大切にしていることはなんでしょうか。
廣瀬:僕たちのミッションは「社会課題の無関心を打破する」ことです。そのため、「社会課題に対して興味がない人に届ける」ことを最優先にしており、全てのコンテンツは「どうすれば見たくなるか」を軸に設計しています。
――具体的にはどんな工夫をしていますか。
廣瀬:一番工夫をしているのは動画冒頭の3秒です。RICEメディアの動画は基本的に長さ1分程度のショート動画なのですが、ショート動画では、何割の人がその動画を視聴し続けたかを示す「視聴選択率」というものがポイントになります。冒頭3秒の視聴選択率が5割を切ってしまうと、その動画が見られる可能性はぐっと低くなるんです。
そのため、冒頭にどの切り口を持ってくるか、どんな言葉で始めるか、表情やリアクションはどうするか、キャッチコピーを何にするか。細かい部分まで徹底的に考えます。
ただインパクトがあればいいわけではなく、成功法則を一元化できるものでもありません。地道に試行錯誤を重ねていくしかない世界なんです。

――たった3秒の勝負。とてもシビアですね。
廣瀬:はい。興味のない人に見てもらうという目的を達成するには、作り手の思いだけを軸にした構成ではなかなか難しいです。どうすれば視聴者が自然と見続けたくなるのか、その視点を徹底的に考え抜く必要があります。少しでも面白くないと感じられた瞬間に、画面をスワイプされて、すぐ次の動画へ切り替えられてしまいます。
社会課題を伝えようとすると、どうしても重くなりがちですが、そうなると「社会のことを考えるのはしんどいから、もう見るのをやめよう」と思われてしまう可能性があり、これは社会的に見てもあまり良いことではありません。
自発的に「この解決策っていいな」「自分もやってみたい」と思ってもらえるような、気づきの入り口になることをRICEメディアでは意識しています。
――社会課題を知ってもらいたいと願う団体や当事者は、多くの人に課題を知ってもらいたいと思う一方で、なかなか興味すら持ってもらえないことに悩んでいると思います。この状況はどう打開すればよいのでしょうか。
廣瀬:社会課題を深く考えたり、実際に行動したりしている方というのは、その課題に対してしっかりアンテナを張っていて、正しく真面目に取り組んでいるからこそ、そういった行動をしているのだと思います。
この「正しく真面目」はとても大事なのですが、「多くの人に広く届けるエンタメ性」とは必ずしも相性が良いとはいえません。
だからこそ、「正しく真面目」と、「多くの人に広く届ける」の役割分担が必要だと思います。
とはいえ、どんな活動でも切り口1つで、多くの人に届く可能性は秘めていると思います。そういう意味で、自身の活動を、「他者が見たときにどう思うか」という視点や、マーケティング的な観点を持つことが重要だと感じます。
――長く社会課題に携わっていると、一向に社会課題が解決せず、変わらないことに、無力感を覚えることはありませんか。
廣瀬:僕はあまりないかもしれません。というのも、この活動自体、自分がやりたくてやっているという気持ちが大きいからです。僕は制作したコンテンツが、これまで関心のなかった人の認知や興味を動かす瞬間に、興奮を覚えるタイプで、この気分の良さが何にも勝ります。
また、社会は一人で変えられるとは思っていません。人類史全体を見ても、一人の力で社会を変えた人など、ごくわずかしかいないはずです。社会は誰か一人の大きな力ではなく、バタフライエフェクト(※)のように、さまざまな人の無数の小さな行動や気づき、アクションが連鎖していくことで、少しずつ変化していくものだと思います。
だからこそ、今を悲観しすぎず、10年後、100年後の最悪の事態を避けるために、自分にできることを続けるしかないと思っています。
- ※ 小さな変化が時間の経過とともに大きな結果を引き起こす現象
社会課題を多くの人が認知し、行動していく社会にするために、私たち一人一人ができること
最後に廣瀬さんに社会課題を多くの人が認知し、行動していく社会にするために、私たち一人一人ができることを伺いました。
[1]社会課題に関する情報は自分からシェアする
情報は「人を介して広がる」ことで、もっとも力を発揮する。自分がシェアすることで、大切な人や友人に情報が届き、そこから新たな関心が生まれていく
[2]社会課題に関わることを楽しむ
人は「正しさ」よりも「楽しさ」に巻き込まれやすい。社会課題の取り組みを、自分が楽しみながら実践すれば、周囲に波及効果を生み出すことができる
[3]知り続ける姿勢を持ち、市民としての役割を果たす
関心は時間ともに薄れ、時間を置くと「無関心」となってしまう。これを防ぐためには、忙しいときでも情報やニュースに触れ、知り続ける姿勢が重要
社会課題を扱うメディアは数多くありますが、興味のない層へはなかなか届けられていないのが現状です。そんな中で若い世代へのリーチに成功しているRICEメディアの廣瀬さんにお話を伺いたいと考え、取材をお願いしました。
印象的だったのは、廣瀬さんが「正しさ」を軸に誰かを責めるのではなく、「楽しい」を入り口に社会課題へ近づける方法を追究していたことです。重いテーマだから届かないのではなく、届け方の工夫次第で可能性は広がる。そして廣瀬さん自身も楽しみながら発信を続ける姿に強く励まされました。
「正しいから取り組む」ではなく、「楽しいから続けられる」。私たちを含めてその考え方を持つことが、社会を変えていく力につながっていくのだと感じました。
〈プロフィール〉
廣瀬智之(ひろせ・ともゆき)
RICEメディア 代表。1995年滋賀県生まれ。学生時代報道写真家を志し、取材活動に取り組む。情報過多な現代において、社会的な発信が届きづらくなっている現状に課題意識を持ち、Tomoshi Bito株式会社を創業。社会課題を企画やキャッチコピーなどの力で分かりやすく、時に面白く届ける動画メディア「RICEメディア」を展開している。社会課題解決に取り組むZ世代・ミレニアル世代を表彰する「BEYOND MILLENNIALS 2024」に選出。第7回日経ソーシャルビジネスコンテストにて大賞を受賞。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。