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「私がいなくなったら、この子はどうなる?」病気や障害、8050問題を抱える家族の不安に向き合う「親なきあと」相談室とは?
- 病気や障害のある人の多くは親と同居しており、親は自分が亡くなった後の子どもの生活に不安を抱えながらも、その不安は多岐にわたるため、相談に踏み出しにくい
- 引きこもり状態の方は、福祉や医療につながっていないケースもあり、親が亡くなった後に社会とのつながりを失うリスクが高い
- 「親なきあと」問題は高齢化が進む日本社会全体の課題。全国どこでも同等の支援を受けられる体制が必要
取材:日本財団ジャーナル
病気や障害のある人のうち、親と同居し、日常的に介助や支援を受けて生活している人がたくさんいます。そのため、親は、「将来自分がいなくなった後、この子はどうなるのか」という不安を抱えています。
しかし、住居の確保や金銭管理、身の回りの世話や医療へのアクセスなど、課題があまりに多岐にわたるため、どこに、何を相談すべきかが分からないまま時間だけが過ぎていく……という現状があるのも事実です。
こうした背景を受け、大分県で障害児・者や高齢者への支援を行う社会福祉法人 大分県社会福祉事業団(外部リンク)は、2017年から県内6カ所に「親なきあと」相談室を開設。家族だけでなく、本人の相談を受け止め、専門家と連携した支援を展開しています。
この取り組みは「おおいたモデル」と呼ばれ、日本財団と協働して全国に広げる活動も始まっています。
この記事の前半では、「親なきあと」相談室を運営する同事業団の久保田明義(くぼた・あきよし)常務理事、矢野和彦(やの・かずひこ)さん、後藤寛子(ごとう・ひろこ)さんの3人に、後半では日本財団の事業担当者である箕輪拓真(みのわ・たくま)さんに、「親なきあと」問題の実情と、社会全体や私たち一人一人が取り組むべき支援について話を伺いました。


「親なきあと」問題は、親が元気なうちから始まっている
前半では、大分県社会福祉事業団の久保田さん、矢野さん、後藤さんに、「親なきあと」問題の実情や、「親なきあと相談室」での活動について伺います。
――「親なきあと」問題とはどういうものか、概要を教えてください。
久保田さん(以下、敬称略): 病気や障害のある方で、一人では金銭管理や意思決定ができなかったり、身の回りのことに介助が必要だったりする場合、日常的に支援をしてきた親を失った後に生活全般にわたる課題に直面してしまうことを指します。
この問題がなぜ深刻かというと、将来の不安を抱えながらも、具体的な備えに踏み出せない状況が少なくないからです。
その背景には、親が元気なうちに死後のことを考えるのは縁起が悪いと感じたり、身近な人に相談しづらかったりする事情があります。さらに、「住居」「福祉」「法律」「お金」「医療」など、悩みの分野が多岐にわたるため、どこから手をつけるべきかが分からず、必要な準備を先送りにしてしまうということがあります。
また、この問題は必ずしも「親が亡くなった後」に始まるわけではありません。親が高齢化したり、病気になったりして、これまで通りのサポートができなくなった時点で、すでに問題は顕在化していると言えます。

親の死によって引き継がれにくくなる、ケアの情報
――病気や障害のある方の親が亡くなった後、具体的にはどのような困り事が生じるのでしょうか。
久保田:1つは、情報の断絶です。例えば、意思表現や意思決定ができない方をケアしていた母親が急に亡くなったケースでは、通っている病院はどこか、どんな薬を飲んでいるのか、障害者手帳や通帳はどこにあるのか、といった本人の情報をほとんど把握できていません。
同居していない兄弟姉妹や親戚がいたとしても、そういった情報が分からなければ、本人の意思を尊重した支援ができなくなり、人生が望まない形に誘導されてしまう恐れがあります。
後藤さん(以下、敬称略): そういった医療や財産に関わる大きな問題のほか、日々の暮らしの中で生じる困り事もあります。
例えば、福祉作業所(※)に自転車で通っている障害のある子どもに対し、雨の日は母親が車で迎えに行き、自転車を積んで帰るという習慣を続けている家庭があります。
しかし、母親も高齢になり、「この先、車の運転ができなくなったらどうすればいいのだろう」と不安を抱えながら、具体的な解決策が分からないという相談もあります。
- ※ 「福祉作業所」とは、障害者の就労支援のための施設の1つ

「親なきあと」問題は引きこもり状態の家族がいる家庭も抱えている
――病気や障害のある方とその親のほかに、「親なきあと」問題の影響を受ける人はいますか。
後藤:兄弟姉妹といった、いわゆる「きょうだい児(※)」が抱える負担も存在します。「親がいなくなったら、次は兄弟姉妹がケアを担う」という前提で、親や親戚、福祉の支援者が接してしまうことがあります。
しかし、兄弟姉妹にも自分の仕事や結婚、育児といった人生があるため、親と同じようにケアを担えるわけではありません。離れて暮らしている場合はなおさらです。
親は「いつか頼まなければ」と思いながらも切り出せず、兄弟姉妹はプレッシャーを感じながらも本音を言えない。そういう重圧が、家族のコミュニケーションを難しくさせてしまうんです。
矢野さん(以下、敬称略):引きこもり状態の家族がいる方も「親なきあと」問題を抱えています。
引きこもり状態の場合は福祉サービスとのつながりがなかったり、医療機関にもかかっていなかったりするケースもあるため、社会から見えない存在になりやすいんです。親が元気なうちは生活が成り立っていても、親がいなくなった途端に本人は社会とつながる術を失ってしまうリスクがとても高いと言えます。
――こうした「親なきあと」問題の深刻さに気づき、相談室をつくろうと思ったきっかけを教えてください。
久保田:2015年度に当法人が行った調査の中で、障害者の家族会の方々から「高齢になったときに(子どもの)その後のことが心配だ」「気軽に相談できる場所がほしい」という声を数多く聞きました。
ただ、私たちは福祉を専門としており、お金や法律の問題には対応できません。そこで、いち早く「親なきあと」問題に着目し、東京で「親なきあと」相談室を立ち上げていた行政書士の渡部伸(わたなべ・しん)さんに相談してみることにしました。
その時、「悩みを解決する道筋が分かるだけでも安心する方が多い」「相談室は、具体的な解決をするよりも、適切な専門家につなぐことが大切」と教えていただいたんです。こうした方針をもとに、2017年1月に「親なきあと」相談室を開設しました。
後藤:私たちの相談室では「親なきあと」問題に関する研修を受けた「親なきあと」相談員が、家族の漠然とした不安を受け止め、必要に応じて専門家につないでいます。
大切にしているのは、解決を急がない、こちらが決定権を持たないという姿勢です。まずはお話を聞いて、「ここでちゃんと話を聞いてもらえた」という安心感を持っていただくことを重視しています。

- ※ 「きょうだい児」とは、障害者を兄弟・姉妹に持つ子どものこと
不安を受け止め、適切な専門家へとつなぐ「おおいたモデル」
――相談室の利用者や、寄せられている相談内容についてお聞かせください。
後藤:開設後から2025年度までの相談実績は251件で、相談対象となる方は20代から70代まで幅広い年代です。相談室を訪れるのは50代から80代の保護者が中心ですが、相談対象者の配偶者やきょうだい、親戚のほか、ご本人からのご相談もあります。県内在住者が主ですが、中には県外からインターネットで調べてお問い合わせいただくケースもあります。
お悩みの内容は、遺言書の作成や成年後見制度(※1)、年金の申請、相続など多岐にわたります。
ただ、「成年後見制度を利用したい」という具体的な目的があるというよりも、「成年後見制度って実際どうなのか話を聞いてみたい」「前に相談した社労士さんとは相性が合わなかったけれど、障害年金を申請したいと考えている」というように、気持ちや考えの整理を求めている方が多いと感じます。
――行政や専門家と連携して支援をする「おおいたモデル」の特徴や強みについて教えてください。
矢野:「おおいたモデル」の特徴は、私たちのような地域に根差した社会福祉法人が相談窓口となり、障害福祉(※2)に理解のある弁護士や司法書士、社会保険労務士、税理士などの専門家へと適切につなげていく仕組みにあります。
そして、こうした連携を一部の担当者にとどめず、養成を通じて地域内の相談員を増やし、法人内だけでなく地域全体へと広げている点が強みです。養成研修では、福祉の知識だけでなく、法律やお金の基礎知識についても学べるよう、さまざまな専門家の方に講師として関わっていただいています。
社会福祉協議会(※3)や相談支援事業所、行政の窓口担当者にも研修を受けていただき、地域として同じ視点で支援ができる体制づくりを進めています。
――専門家と連携し、相談員を養成することで、地域にはどのような変化が生まれていますか。
久保田:専門家の方々とは毎年欠かさず連携会議を行っています。年数を重ねる中で「親なきあと」問題全体に対して、それぞれの立場から主体的に意見を出してくださるようになっています。互いの立場や専門性への理解を深めることで、社会課題に向き合う意識や対応の質が高まっていると感じます。
矢野:こうした関係性を土台に、相談員と専門家が横につながり、専門性を高め合いながら、ご利用者に安心をお届けする。
大分県内にある6カ所の相談室を中核に、地域の相談員、そして専門家へとつながる重層的な体制が「おおいたモデル」の強みです。

- ※ 1.「成年後見制度」とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る人(「後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度のこと
- ※ 2「障害福祉」とは、障害のある方が自らの望む生活を営むことができるように支援すること
- ※ 3.「社会福祉協議会」とは、民間の社会福祉活動を推進することを目的とした営利を目的としない民間組織
早い段階から日常の中で相談できる、地域に浸透した相談室
――今後、「親なきあと」相談室をどのような形で発展させていきたいとお考えですか。
久保田:親が元気なうちから、気軽に足を運べる場所として、より多くの方に知っていただきたいです。
将来的には、病気や障害のある家族、引きこもり状態の家族を持つ方などが、日常の小さな困り事を気軽に相談でき、地域とつながるきっかけになる場所になれればと考えています。
矢野:それを実現するには、地域への浸透が欠かせません。
人はどうしても目の前の自分のやるべきことで精一杯になり、他人のことまで考える余裕を失いがちです。しかし、こうした問題を「我が事として考える」瞬間を増やしていくことが、「お互いさま」で助け合える社会の土台になるのではないでしょうか。
「親なきあと」相談室の存在が広く知られることで、困っている人に「あそこに相談してみたら」と声をかける、そんな小さなおせっかいが自然に生まれやすくなります。
後藤: そのためには、地域の中に相談員を増やし、身近な場所で気軽に話せる環境を整えていくことが必要です。大きな問題を抱えてから訪れるのではなく、日常の小さな不安から解消していける場所がいくつもあることが、本当の意味での安心につながるのではないでしょうか。
当事者としての実感から見えた、包括的な支援の必要性
日本財団では、2025年度から「親なきあと」サポートプロジェクト(外部リンク)を立ち上げ、「おおいたモデル」の「親なきあと」相談室の全国普及と制度化を目指す同事業団を支援しています。後半では、同プロジェクトを担当する日本財団の箕輪さんに、全国展開の意義と今後の展望について伺います。
――日本財団が「親なきあと」サポートプロジェクトに取り組む背景を教えてください。
箕輪さん(以下、敬称略): 日本財団が実施した全国調査では、障害者の家族のうち85.5パーセントが「親なきあと」の不安を感じていることが分かりました。一方で「親なきあとの準備ができずにいる」という人が4割程度いました。
また、「準備している」と回答した人でも、準備内容としては資金面(預貯金、生命保険等)が最も多く、住まい、「わが子の記録」のようなノートの作成、遺言書の作成といった障害者の「親なきあと」の生活に関する準備ができているという人は少ない結果となりました。
この背景には、日本の福祉制度が障害者本人へのサービス提供を中心としており、親が高齢化したり亡くなったりした場合の準備を含む、家族への支援が限定的であるという課題があります。
実は私自身も「親なきあと」問題の当事者です。重度知的障害のある妹がいて、親が日常的なケアを担ってきたのですが、ある日、突然倒れたことがあって。親からは「申し訳ないけど……もし、何かあったらあとは頼むね。」と言われたものの、妹の障害者手帳の保管場所はおろか、どこの、どんな障害福祉サービスを利用しているのかさえも分かりませんでした。
障害福祉サービスのことなら自治体の障害福祉課に行けば何とかなるかもしれませんが、親が亡くなってしまった場合の相続手続き、保険手続きやライフプランニング、金銭管理といった福祉領域以外の相談はどこに行けばいいのか。いろいろと考えを巡らせる中で強い不安を感じるとともに、ワンストップで包括的に相談できる場所の必要性を痛感しました。
そうした時、渡部伸さんや大分県社会福祉事業団が運営する「親なきあと」相談室を知りました。とりわけ、私が「おおいたモデル」に着目したのは、地元に根差した社会福祉法人が県内広域で相談室を運営し、障害者支援に理解のある士業の専門家とも連携しているところです。
地域に信頼されながら、支援のハブとなっている点が素晴らしいと感じ、この体制を全国に広げる必要があると考えたのです。

全国に広がる「親なきあと」相談室。国による制度化を目指して
――全国展開に向けて、プロジェクトではどのようなことに取り組んでいますか。
箕輪:まずは、この「おおいたモデル」を全国10カ所に広げることを目指しています。
具体的には、大分県社会福祉事業団が実施する相談員の養成講座・テキストの開発、広報、ネットワーキングに対して助成支援を行い、各地域で相談室を立ち上げる準備を進めています。目下の課題は持続可能性です。
全国には、士業やライフプランナーなどの専門家が、ボランティアで「親なきあと」相談を受け付けている事例もありますが、無報酬での支援には限界があります。どの地域でも均一な支援を届けられるよう、国の制度化を目指すのが最終的な目標です。
そのために、まずモデル地域で有効性を示し、その成果をもって「家族を支える仕組みが必要だ」と提言していく予定です。
制度化を実現するためには、この取り組みに共感し、一緒に運営してくれる自治体や団体を増やしていく必要があります。市の障害福祉課内に「親なきあと」相談室を設置した栃木県宇都宮市、業務委託で「親なきあと」相談を実施している大阪府八尾市など、ニーズの高まりを感じる動きも出てきているので、今後も働きかけを続けていきます。
他にも、「わが子の記録」のような素晴らしいノートをベースに、親が持つ貴重な支援・療育情報を「親なきあと」の次の支援者へ引き継ぎ、更には支援者間での情報共有・連携を可能にするプラットフォーム(アプリケーション)の開発と公的サービスとしての導入を目指しています。
また、当財団の調査で重度知的障害者の家族が「親なきあと」の住まいに関する支援の充実を求めているということも明らかになりました。
全国の入所施設やグループホームの待機者が2万2,000人以上いることを踏まえると、重度障害者でも入居可能なグループホーム、共生型、循環型(移行型)、重度訪問介護を活用した一人暮らし、シェアハウスなど地域に多様な選択肢がある状態をつくることが急務であると考え、この課題についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。
――「親なきあと」相談室を全国に広げていく上で、どのような社会を目指しているのでしょうか。
箕輪:まずは障害のある方の家族への支援(家族ケア)として制度を確立する。将来的には、引きこもり状態の方をはじめ、生きづらさを抱える全ての方が利用できる仕組みに発展させたいと考えています。
福祉制度につながっていない方々の中には、「もう少し早く支援につながっていれば・・・」というケースも少なくありません。そういった方々にも手を伸ばしていけるようにしていきたいんです。
現在、「親なきあと」相談室を必要としているのは、障害のある方の家族が中心かもしれません。しかし、高齢の親が、障害の有無を問わず子どもの生活を支え続ける状況は珍しくなく、「8050問題(※1)」「老障介護(※2)」といった社会課題も広がっています。
この「親なきあと」問題は特定の家庭に限られたものではなく、社会全体が取り組むべき課題だと言えます。将来的には困ったときに誰もが利用できる場所になっていくことを目指していきたいです。


- ※ 1.「8050問題」とは、80代の高齢の親と50代の未婚の子どもが同居する中で抱えている生活問題
- ※ 2.「老障介護」とは、高齢の親が障害のある子どもの介護をし続けること
病気や障害のある方の「親なきあと」を支える社会をつくるために、私たち一人一人ができること
「親なきあと」問題を社会全体で支えるため、私たち一人一人に何ができるのかについて、久保田さん、矢野さん、後藤さん、箕輪さんに3つのアドバイスを伺いました。
[1]できる範囲で、地域につながりを育てる
「親なきあと」問題を抱える家族は、周囲に悩みを話せず孤立しがちな傾向にある。何気ない挨拶やちょっとした立ち話など、自分のできる範囲で小さな関わりを積み重ねることが、地域にささやかなつながりを育て、当事者家族が抱える不安や悩みを見えやすくする
[2]「少しのおせっかい」を恐れず、情報を伝える勇気を持つ
相談の仕組みは、必要な人に届いて初めて意味を成すもの。困り事を抱えている人がいたら、少しおせっかいに思われるかも……という不安を乗り越えて、「こんな相談先があるらしい」とそっと伝えるだけでも、課題解決につながる一歩になる
[3]「自分には関係ない」ではなく、社会全体の課題として受け止める
「8050問題」をはじめ、「親なきあと」問題の当事者は、病気や障害のある家族を持つ方に限らない社会全体の課題。「自分には関係ない」と線を引くのではなく、困ったときに支え合える仕組みを地域で育てていくことが、誰もが安心して暮らせる社会につながっていく
病気や障害のある家族のケアを担っていた親が亡くなったときに必要となる手続きや、引き継ぎすべき情報などが想像以上に多いと知ったことをきっかけに、大分県社会福祉事業団に取材しました。
障害の有無にかかわらず、制度の狭間におかれ、医療や福祉につながれないまま課題を抱え込んでいる人は社会のあちこちに存在しています。そうした複雑な悩みに対して、複数の領域を横断して相談できる「親なきあと」相談室は困り事を抱える人が最初に立ち寄れる「入口」として機能し始めています。
専門的な支援につながる仕組みを整えることに加え、私たち一人一人が身近な人とのつながりを育むこともまた、孤立を防ぎ、安心して暮らせる環境をつくる一助になるのだと感じました。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。