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東日本大震災から15年、地域は誰が支えるのか? 石巻西高校の探究学習が育てる“次の担い手”
- 東日本大震災の被災地の多くは人口減少が進み、コミュニティの再生や地域を担う人材の育成が課題に
- 石巻西高等学校では地域と連携し、持続可能な未来をつくる探究学習プログラムを実施。地元での大学進学や就職を選ぶ生徒が大幅に増加した
- 学校だけでなく、地域全体で教育に取り組むことで、子どもたちの可能性を広げ、地元愛が育つ
取材:日本財団ジャーナル編集部
宮城県東松島市では、震災により地域の4割近くが浸水し、人口流出が急速に進みました。住宅やインフラの復旧が進む一方で、いま課題となっているのはコミュニティの再生と地域を担う人材の育成です。
こうしたなか、石巻西高等学校(外部リンク)では2019年度から、地域と連携した探究学習プログラムに取り組んできました。生徒たちは震災を知識として学ぶだけでなく、地域の人々との対話を通して自ら問いを立て、行動しています。
その経験は、課題解決力に加え、人と関わる力や自己肯定感、地元への意識の変化にもつながっています。実際に、学びをきっかけに地元での大学進学や就職を選ぶ生徒も大幅に増加しています。
本記事では、石巻西高等学校教頭の髙橋好伸(たかはし・よしのぶ)先生、プログラムを担当する平岡拓(ひらおか・たく)先生、そして3年間にわたってプログラムに参加した生徒4人への取材を通して、自分で考え行動するための力を育む探究学習の形と、地域づくりへの可能性を探ります。
地域への愛着を育て、持続可能な未来を担う人材を育成
――東日本大震災から15年目を迎えました。現在の石巻地域の復興状況や、地域が抱えている課題について教えてください。
平岡先生(以下、敬称略):あくまで学校周辺に限った話になりますが、復興公営住宅や新しい宅地造成が進み、移り住んでくる人が増えています。その影響で、周辺の小中学校がマンモス校になるといった状況も生まれています。
また、交通インフラも大きく変化しました。震災後、学校から徒歩10分ほどの場所にJRの駅が新設され快速電車が停車するようになるなど、アクセスは大幅に改善されています。
一方で、地域全体で見ると、石巻市、東松島市、女川町の3市町では、この10〜15年で約3万人が減少。小中学生の学力や体力の低下も課題として挙げられます。これは震災前からの課題でもありますが、学校と地域との関わりが薄く、子どもたちが身近な課題に主体的に取り組む機会が少なかったことも、背景の1つだと感じています。
髙橋教頭先生(以下、敬称略):どこまで復興しているかという点については、地域によって違っているように感じます。
震災から15年の月日が経ち、まだあの時点で時が止まっている方もいらっしゃるでしょう。一方で「これからどうしていくことが良いのか」と少しずつ前を向くことができるようになってきた人も増えているのかなと感じます。

――改めて、探究学習「震災を乗り越え持続可能な未来社会を創造する市民の育成プログラム」の実施背景と目的について教えてください
平岡:本校は、創立40周年を迎えましたが、石巻地域では比較的歴史の浅い学校です。人口減少が進み、少子化が加速するなかで、将来的には学校統廃合の対象になるかもしれないという強い危機感がありました。
そこで、伝統校と同じように進学実績だけを追求するのではなく、「石巻西高校に入らなければ得られない魅力」をつくっていく必要があると考えるようになりました。それがこの探究学習に取り組み始めた1つのきっかけです。
ちょうど2019年に文部科学省が実施した「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」に応募するタイミングと重なったこともあり、本格的に進めることになりました。
いまの生徒たちからは感じられませんが、以前は、自己肯定感の低さや失敗を恐れる姿勢、主体性や当事者意識の不足といった傾向も見られました。
そこで、地域と学校が協働し、持続可能な地域の未来を自らつくっていける人材を育てることを、学校全体の取り組みとして進めようと決めました。地域のことをもっと知ってもらい、地元愛も育てたいと考えたんです。

――このプログラムでは、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
平岡:単なる知識の習得ではなく、6つの力を3年間で段階的に育成することを目指しています。
- 地域社会貢献
- 自己調整力・自己決定力
- 学び続ける力
- 達成感と自尊感情
- 対話力・共感力・合意形成
- 他者と関わる力
1年次は「街ライブラリー」と呼ぶ取り組みを行っています。地域の企業や店舗、農園など、さまざまな事業者に集まってもらい、それぞれの想いや、解決したい「ミッション」を生徒が受け取ります。
生徒は4〜5人のグループに分かれ、ミッションに対する調査・検討を行い、自分たちで考えた内容を発表します。そして12月には「街ミッション」として発表の場を設けています。
この取り組みでは、本校の地域コーディネーターである一般財団法人「まちと人と」(外部リンク)さんと連携・協力をしており、学校と地域をつないでいただいています。
2年次の「街クエスト」では、1年次に扱ったミッションから一歩進み、生徒自身が取り組みたいテーマを設定します。自分たちでアポイントを取り、実際に現地へ足を運び、フィールドワークを行います。
どんな人に会えたら前に進めそうかも自分たちで考え、大学の専門家に意見を聞いたり、市役所を訪ねて取材をしたりと、活動の範囲は生徒によってさまざまです。
3年次の「地域課題研究」では、それまでの探究活動を土台に、地域の課題と本格的に向き合います。2年次のテーマをさらに深める生徒もいれば、これまでの経験を通して新たに関心を持った分野に取り組む生徒もいます。
なかには、活動を発展させてイベントを企画・実施する生徒もいます。具体的な内容については、ここにいる生徒たち自身の言葉で聞いてもらえたらと思います。


地域の人たちと出会い、対話するなかで学んだこと
――では、生徒の皆さんがそれぞれ「地域課題研究」で取り組んだことについて教えてください。
板坂翼輝(いたさか・つばき)さん(以下、板坂):僕はフードロスの問題に取り組みました。
出発点となったのが、2年生の時に仙台で参加したフードロスに関するイベントです。そのとき、味はおいしいのに、形が少し悪かったり、キズが付いていたりするだけで出荷されない野菜がたくさんあることを知り、自分にも何かできないかと考えるようになりました。
3年生の地域課題研究では、フードロスの問題を子どもたちにも伝えたいと考え、実践的な取り組みを行いました。
具体的には、津波で被災した小学校を再生した施設「KIBOTCHA(キボッチャ※)」で11月に行われた地域フェスに参加し、規格外の野菜を使ったピザづくりのワークショップを開催しました。
活動にあたっては、地元の農家さんを紹介していただき、11月に旬を迎える野菜の中からピザに合うものを相談し、野菜を無償で提供していただきました。食材を余らせないために、参加者も事前予約制としました。
- ※ 「KIBOTCHA」とは、東日本大震災で被災した宮城県東松島市の旧野蒜(のびる)小学校を再利用した、防災教育・体験型の宿泊施設。「希望」「防災」「Future(未来)」をコンセプトに、家族で楽しめるアスレチック、防災体験、グランピング、レストランなどを提供している


佐藤大成(さとう・たいせい)さん(以下、佐藤):僕は探究の授業をきっかけに、深海に興味を持ちました。
2年生の時、「海は命の源だと言われているけれど、深いところと浅いところでは、どちらで先に生命が誕生したのか」という疑問を持ったのが始まりです。石巻専修大学の鈴木英勝(すずき・ひでかつ)先生のもとを訪れて取材したり、自分でもいろいろ調べたりしたのですが、はっきりした答えは出ませんでした。
そこで3年生の課題研究では、視点を変えて、身近なところから取り組んでみようと考えました。もともと釣りが好きだったので、テーマは「釣れる条件を科学する」としました。
石巻・女川エリアではアイナメのゲームフィッシング(※)が盛んで、僕もよく釣りに出かけているのですが、アイナメが釣れる時間帯や潮の動きなどに注目して調べ始めました。
釣れる時間帯が分かるアプリもあるのですが、実際に釣ってみると、ほとんどアプリが示す時間とずれている。そこで、自分の釣果データ(釣りで得られた魚の成果や量)を集めて、潮の動きや風速、波の高さなどと照らし合わせながら、どんな条件のときに釣れやすいのかを分析。実は、釣りって探究そのものなんだと、実感することができました。
- ※ 「ゲームフィッシング」とは、魚を食料としてではなく、釣る過程の駆け引きやテクニック、魚との出会いを楽しむ「趣味としての釣り」のこと


遠藤美優(えんどう・みひろ)さん(以下、遠藤(美)):私たち2年生の時、探究活動に行き詰まり、どう進めたらいいのか悩んでいたところ、平岡先生から「宮城県が、地域のためにイベントをやってくれる人を募集している」と聞きました。
それをきっかけに、女川町内の中高生で構成されているボランティアサークルに参加し、地域との関わりを持つようになりました。
活動するなかで宮城県の生涯学習課の方とお話しする機会があり、「世代間交流をつくりたいが、どうしたらいいのか悩んでいる」という相談を受けました。そこで周囲の方に意見を求めたところ、「昔遊び」を通して子どもたちと高齢の方が交流できるイベントがよいのでは、というアドバイスをいただきました。
サークルの担当者をはじめ、さまざまな方のサポートを受けながら、夏休みに子どもたちを招き、地域の方にも参加してもらう形でイベントを開催することができました。


――プログラムに取り組むなかで、考え方や行動に変化はありましたか?
板坂:初めて自分でイベントを企画・運営することになり、「ひとりでもなんとかなるだろう」と、どこかで甘く考えていた自分に気づきました。実際に進めてみると、多くの人と関わり、いろいろな意見を聞くことの大切さと、その一方で自分が大切にしたい軸を持ったまま進めることも重要だと学びました。
子どもたちには、実際にピザに使う野菜に触ってもらいながら話をしました。野菜について伝えるときも、「形が悪い」「規格外」といった言葉ではなく、「個性的」「おもしろい形」と表現することを心がけました。
そうした関わりを通して、相手の興味・関心を引くための工夫ができるようになったと感じています。
佐藤:三陸・金華山(きんかさん)沖は世界三大漁場の1つとされ、魚が集まりやすい地形でもあります。ただ、探究活動を進める中で、この海の豊かさは決して当たり前のものではないと感じるようになりました。
環境の変化が魚の移動や漁獲量に影響していることも分かり、この海をこれからも守り続けなければならないと、広い視点でとらえられるようになりました。
遠藤(美):2年生の時はボランティアとしてイベントを「サポートする側」でしたが、3年生になって初めて自分たちが主催する立場になり、何から手をつければいいのか分からないところからのスタートでした。
周囲の方に相談するなかで言われたのが、「とにかく人を巻き込んでほしい」ということです。 そこで、昔遊びのプロフェッショナルである高齢者の方々に協力していただいたり、会場の手配や、子どもたちをどう集めるかを考えたり、イベントをゼロから形にしていくことの大変さを実感しました。
遠藤真優(えんどう・まひろ)さん(以下、遠藤(真)):私も、イベントづくりの大変さを体験できたことは大きかったです。それと同時に、ボランティアで関わってくださった方のなかに、役場の方がいたことも印象に残りました。皆さんが地域の方のために働く様子をすぐそばで見ながら、私も地域に貢献する仕事がしたいという気持ちが強くなりました。
――これから、地域とどんなふうに関わりたいと思っていますか?
板坂:僕は、まずはフードロス削減のイベントを市内で継続して開催し、しっかり成功させることが、地元に貢献するためのひとつのステップだと考えています。
その先では、自分が暮らす地域だけにとどまらず、別の地域にも取り組みを広げ、フードロス削減がどれだけ大変かということも含めて伝えていきたいと思っています。
イベントに関わってくれた人たちにノウハウを共有しながら、最終的には全国的な広がりにつなげていけたらと考えています。
佐藤:三陸沖の状況は、ここ数年で目まぐるしく変化しています。クエといった、これまで釣れなかった魚が釣れるようになるなど、海の変化を実感しています。
今後は大学で海洋学を学びながら、こうした海の変化を見つめ、海を守る活動につなげていけたらと考えています。
遠藤(真):この春から女川町役場に就職することが決まりました。これからは町民の皆さんを支える立場になるので、覚悟を持って仕事に向き合いたいと思っています。
困っていることはないか、どうしたら住みやすいまちになるかを考えながら、まちづくりを支える役割を担っていきたいです。
遠藤(美):私は東松島市への就職が決まっています。女川のイベントだけでなく、東松島市で行われたイベントにもボランティアとして参加する機会があったのですが、市役所の方が地域の方たちに接する様子がとても温かくて……。
これからは私たちも、地域の方々に寄り添いながら地元のために仕事ができる職員になりたいと思っています。

歴史、自然、人。さまざまな地域の魅力に出会ってほしい
――改めて先生にお伺いします。育成プログラムを実施することにより、地域の方々との関わり方に変化はありましたか?
平岡:地域との結びつきは強まっていて、プログラムに参加してくださった企業や団体のなかには、生徒たちの取り組みを他の場所で紹介してくださるところもあります。
また、卒業生の中には、地元の企業や役場に就職し、後輩たちのプログラムに積極的に関わってくれている人もいます。
さらに、プログラムに参加してくださった方々と一緒に協議会を立ち上げ、活動へのフィードバックをいただく仕組みも整えました。こうした取り組みを通して、今後は学校だけでなく、地域全体で子どもたちを育てていけたらと考えています。
――このプログラムを通して、生徒たちに望んでいることは何でしょうか。
平岡:これまでは将来、地元で就職するとしたら自分の未来はどうなるのか、自分のやりたいことはどうなるのか、地域にどんな魅力的な場所や人、資源があるのかなど、このまちの魅力を十分に伝えられないまま進路指導を進めてきた側面がありました。
だからこそ、プログラムを通して子どもたちに「このまちには、こんなに素敵なものがたくさんあるんだよ」ということを伝えていくと同時に、自分にとってロールモデルになるような「かっこいい大人」に出会ってほしいと思っています。
だから、先ほど遠藤姉妹から、プログラムでお世話になった方たちの働く姿を見て、「自分たちもこんな仕事がしたい」と感じたという言葉が聞けたのは、うれしかったですね。
生徒たちにも、プログラムや学校主催のイベントを通して地域の子どもたちと関わる機会があります。そんなときに、地域の子どもたちから「かっこいいお兄さん、お姉さん」と思われるような存在になってほしいと思っています。
――そのうえで、地域の皆さんに伝えたいことはありますか。
髙橋:地域の皆さんには子どもたちにもっと関心を持っていただきたいですね。学校だけでは子どもたち一人一人の力を引き出し、育てることはできません。だからこそ、ご家庭や身近な大人の皆さんも、子どもたちと対話を重ね、褒めたり、失敗を受け入れたりすることで、子どもたちの可能性を伸ばしていただけたらと思います。
子どもの生きる力と地元愛を育てるために、私たち一人一人ができること
最後に、髙橋教頭先生と平岡先生に、子どもの生きる力と、地元への愛着心を育てるために、私たち一人一人ができることについて伺いました。
[1]子ども一人一人の存在や思いを肯定する
若い世代をひと括りにせず、まずは話を聞いてみること。対話を通じて、若者ならではの視点や新しいアイデアに気づかされることもある
[2]学校や地域を「安全に失敗できる場所」と捉える
心を育て、自己肯定感を高めるためには、失敗を許容する姿勢が欠かせない。学校や地域は、子どもたちが挑戦と失敗を経験できる土台となってほしい
[3]ロールモデルとなる「かっこいい大人」を意識する
自分たちが暮らす地域で「この人、素敵だな」と思える大人に出会うことが、子どもたちにとって大きな力となる。そのことを大人たち自身が意識することで、地元愛を育てることにつながる
4人の生徒さんが探究プログラムを通して学んだ内容はどれも工夫に満ちていて、聞きながらワクワクしました。それと同時に、彼らが話す様子を、嬉しそうに温かく見守る髙橋教頭先生や平岡先生の姿が印象的でした。
身近な大人との信頼関係が、子どもたちの自信を育て、可能性を広げるのだと実感した取材でした。多くの地域でこうした取り組みが広がり、被災地はもちろん日本全体が元気になることを願ってやみません。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。