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高齢者の約3分の1が一人暮らし!? 超高齢社会で広がる「社会的孤立」、ボードゲームで対策を学ぶ
- 「社会的孤立」とは「社会とのつながりがなく、誰にも頼れず困っている状態」のこと
- 超高齢社会が進み、高齢者やその家族の社会的孤立が深刻な課題となっている
- 社会的孤立を防ぐには、地域住民と専門職が連携し、悩みを抱える人と社会資源をつなぐことが重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
「高齢で体が思うように動かず、一人暮らしも難しくなってきたが、誰に相談すればよいのか分からない」
「近所付き合いも訪ねて来る人もなく、孤独を感じている」
「年老いた親の介護を家族だけで担い、疲れ切っている」
超高齢社会の現在、こうした「社会的孤立」の状態にある人が増加しています。
国は、2024年6月に「孤独・孤立対策推進法」を公布しました。この法律では「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」「相互に支え合い、人と人との『つながり』が生まれる社会」を目指すとしています。
ただ、日本の社会保障制度は、支援を必要とする人が自ら申請することで初めて支援を得られる「申請主義」を採用しているため、支援にたどり着けない人が少なくない現実があります。また、支援の担い手はすでに不足しており、今後さらに深刻化するともいわれています。
現在の若い世代が高齢者になるころには、高齢者の人口比がさらに上昇し、社会的孤立に陥る人が今以上に増えることが予想されています。つまり、若い世代こそ、自分の将来を見据えて真剣に向き合うべき課題と言えるでしょう。
社会的孤立に陥らない、陥らせないために、私たちにはどんなことができるでしょうか。10年以上にわたって、高齢者やその家族の相談支援に携わってきた一般社団法人コレカラ・サポート(外部リンク)の代表理事であり、超高齢社会をテーマにしたボードゲーム「コミュニティコーピング」を手がけた千葉晃一(ちば・こういち)さんに話を伺いました。

社会的孤立の正体と、誰にでも起こりうるリスク
――「社会的孤立」とは、どのような状態を指しますか。
千葉さん(以下、敬称略):社会的孤立を理解するには、まず「孤立とは何か」について考える必要があります。
「孤独」と「孤立」は混同されがちですが、孤独は「主観的な寂しさ」のこと。孤立は「物理的に頼る人や場所がなく、困り事を抱え込んでいる状態」です。そこに「社会的」と付く社会的孤立は、「社会とのつながりがないために、誰にも頼れずに困っている状態」と言えます。
コレカラ・サポートでは、こうした状態をより分かりやすく、「必要なときに必要な助けが届かない状態」と表現しています。社会的孤立の状態にある人は、頼る先がなかったり、どこに相談していいか分からなかったりして、必要なときも支援につながれずにいるからです。
――現在の超高齢社会では、高齢者の社会的孤立が深刻な課題になっていますね。
千葉:2022年の厚生労働省のデータによれば、65歳以上の高齢者がいる世帯は、全世帯の約半数。そのうち、3分の1が一人暮らしです。その上、かつては当たり前だった地域社会や血縁による支え合いも希薄化しています。多くの高齢者が社会的孤立に陥るのも無理はありません。
社会的孤立の状態にある高齢者は、次のような問題に直面する可能性があります。
- 一人での家事や炊事、お金の管理などが難しく、生活が成り立たなくなる
- 話し相手がおらず、孤独や生きがいのなさを感じる
- 訪問販売、電話勧誘販売などの犯罪に巻き込まれやすくなる
- 認知症が進行する、けがをするなど、健康状態が悪化しやすくなる
- 緊急時に支援の手が回らないと一層孤立しやすくなる
- 最悪の場合、犯罪や孤立死に至ることもある
――支えてくれる家族が近くにいれば、問題ないのでしょうか。
千葉:そうとも限りません。実は、家庭内だけでなんとかしようとして支援につながれず、家族も含めて社会的孤立に陥ってしまうこともあります。近年問題視されているヤングケアラーの中にも、社会的孤立の状態にある人は少なくありません。
埼玉県が2020年度に県内高校2年生を対象に実施した実態調査によると、「ヤングケアラーである(だった)」と回答した生徒は、全体の約4パーセント。そのうち20パーセントが「ケアについて話せる人がいなくて孤独を感じる」「ストレスを感じる」と回答するなど、孤立し、追い詰められている状況が明らかになりました。
このように、社会的孤立は高齢者だけでなく、若い世代にも関係する、深刻な問題なんです。しかし、現在困っていない人も含めて、みんながこの課題を自分ごと化するのは簡単なことではありません。
そこで、頭で理解するだけでなく「体験」してもらおうと、超高齢社会体験ゲーム「コミュニティコーピング」を制作しました。

ゲームを通して「自分にもできそうなこと」を見つけられる
――超高齢社会体験ゲーム「コミュニティコーピング」について、詳しく教えてください。
千葉:「人と地域資源をつなげることで、社会的孤立を解消する」ということを体験できるボードゲームです。舞台は、超高齢社会を迎えた地区。4から6人のグループで協力して、さまざまな課題を抱えた住民を支援につなげます。
登場する課題は、コレカラ・サポートに実際に寄せられた相談を基にしています。ゲームを通して現実の社会で起きていることを知ってもらい、解決のためのアイデアを模索してもらうことが狙いです。
このゲームを開発してから、自治体や行政機関の研修や、高校・大学の授業、地域のまちづくり講座プログラムなどで取り入れられてきました。


――ゲームの中では、どのように社会的孤立を解決するのでしょうか。
千葉:まず、参加者はゲームを始めるときに「カフェのマスター」「保険外交員」「世話好きなおばちゃん」「研修中の医大生」など、さまざまな肩書きや属性の人の中からプレイヤーを選びます。
各プレイヤーの強みやつながりを活かしながら、「介護福祉士」「訪問診療医」「ケアマネジャー」「弁護士」といった専門家と連携し、住民の課題への対処法を模索します。
住民は、「妻が亡くなったあと、体調がすぐれず眠れない」「両親が施設で暮らしており、空き家となった実家の管理が大変」「親族とは疎遠だが、お世話になった人に財産を遺したい」など、多岐にわたる悩みを抱えています。1ターンを1年間とし、地域内の住民の悩みごとを解決していきます。
そして、年の最後に、悩みを抱えた人が同じ地区に4人以上いると、地域体制が崩壊しゲームオーバーとなります。2030年まで地域を存続させるのが目標ですが、実際にプレイすると、クリアするのはなかなか難しいと実感してもらえると思います。


千葉:ゲーム参加者からは、「超高齢社会という全体像を把握しづらいテーマを、身近な課題として捉えられるようになった」「専門職だけで対処できる課題ではなく、地域住民同士のつながりや連携が大切だと感じた」「自分に何ができるかを考えさせられた」などの声が寄せられています。
ゲームではまず、超高齢社会という課題を“攻略対象”として捉え、夢中になって解決に取り組んでもらいます。そして最後に、「より良い地域にするために、自分には何ができるか」といった問いを投げかけ、振り返りの時間を設けています。
こうしたプロセスを通じて、ゲーム内の体験を現実に結びつけやすくしているのが特徴です。その結果、超高齢社会を自分ごととして捉えられたという声や、ボードゲームとして純粋に面白かったという感想をいただくことが多いですね。

――ボードゲームで超高齢社会という社会課題を体験する「コミュニティコーピング」の特徴を教えてください。
千葉:単純にゲームを楽しんで、みんなで力を合わせて課題を解決する喜びを味わってもらいながら、一人一人が超高齢社会に対して「自分にもできそうなこと」を見つけられるところですね。
「課題を解決できるのは専門家だけではない。地域住民も課題解決のプレイヤーである」と、ゲームを通して実感してほしいです。
また、ゲームならではのメリットは、いくら失敗してもいいところです。これまで誰も経験したことのない超高齢社会に向き合うには、自由な発想で多様なアイデアを生み出すことが欠かせません。
現実世界では、慣習や前例に縛られることも多いですが、ゲームの中ならさまざまな支援の形を提案し、挑戦できます。その柔軟な発想があれば、実際の社会にも風穴を開けられるかもしれません。
「コミュニティコーピング」を多くの方に、できれば繰り返しプレイしてもらい、ゲームを攻略するように反省を活かして改善を重ねていくことで、一人一人が課題解決に向けた具体的な行動を起こせるようになってくれたらいいなと考えています。
そんな期待のもと、各地での体験会や、ゲームを一緒に広めてくれる人材の育成に取り組んでいます。

お互いに歩み寄り、つながることで、一人では対処できない課題を乗り越える
――将来、社会的孤立に陥らないために、今からできることを教えてください。
千葉:さまざまなコミュニティと関わり、人や情報とのつながりを増やすことですね。と言っても、難しく考える必要はありません。
例えば「他のお客さんとは特に会話をしないけれど、なんとなく顔見知りになっている」くらいの行きつけのお店を持つことも、立派なつながりです。「居ていい場所」を増やす、というイメージでしょうか。そうした場所をたくさん持っておくことで、何かがあったときに助けを求めやすくなります。
そして、すでにコミュニティと関わりを持っている場合は、勇気を出して参加しようとしている人のために、温かく受け入れる体制をつくってほしいです。参加しやすい雰囲気のコミュニティが増えるほど、つながりは生まれやすくなり、お互いに孤立するリスクが下がります。
また、人は「助けてくれた人を助けたいと思う」ものです。今からできる範囲で誰かを助け、周囲と良好な人間関係を築いておくことも大切ですね。
――人とのつながりを大切にし、情報も含めて関係性を広げていくことが、巡り巡って自分の支えにもなるということですね。私自身も、助けてもらった相手には何か返したいと感じるので、とても共感します。
千葉:人を助けることに慣れていると、いざ自分や家族が弱ったときも、どんな助けを、どうやって、誰に求めればいいのかが分かるようになるのです。そういう意味でも、できる範囲で人の助けになれるといいと思います。
「個でできること」は限られていますが、他者とつながりを持って、「できること」と「できないこと」を補完し合えば、さまざまな課題に対処できます。一人一人が社会的孤立という課題に当事者意識を持ち、「自分にはどんなことができるか」を考えられる場を、今後も提供していきたいです。

超高齢社会において社会的孤立を防ぐために私たち一人一人ができること
超高齢社会において社会的孤立を減らすために、私たち一人一人にできることを千葉さんに伺いました。
[1] 日常の中で「ゆるやかなつながり」を増やす
行きつけのお店の人と会話をする、近所の高齢者とあいさつを交わすなど、深い関係でなくても人と関わる機会を持つことで、地域住民のちょっとした変化に互いに気づきやすくなる。無理のない範囲で「居ていい場所」を増やしておくことが、孤立を防ぐ土台になる
[2] できる範囲で人を支え合う関係をつくる
「高齢者のため」「地域のため」と気負って行動すると、負担感が大きくて続きにくい。趣味や仕事の延長線上にあることから無理なく関わり、助け合いを重ねることで支え合いのつながりが生まれる。そうした関係は自分や家族が困難に直面したときの支えにもなる
[3] 困り事をひとりで抱え込まず、相談先を知っておく
支援は、自ら声を上げて初めて届く場合が多い。地域の相談窓口や支援制度を調べ、必要なときに頼れる選択肢を持っておくことが重要。また、相談先を知らない人に情報を届け、適切な支援につなぐことも、孤立を防ぐ一助となる
住んでいる地域で行われた「コミュニティコーピング」の体験会に参加し、超高齢社会のリアルを肌で感じたことで、「この課題をもっと知ってもらいたい」「一人でも多くの人にゲームを体験してほしい」と考え、今回千葉さんに話を伺いました。
ゲームの中で特に興味深かったのが、相談対応の担い手として「世話好きなおばちゃん」や「おそば屋さん」といった身近な存在が組み込まれていた点です。日常の延長線上にいる人々が課題解決に関わる構造によって、専門職の存在だけでなく、市井の人々の多様な強みも、地域社会の重要な資源の一部だということに気づかされました。
社会的孤立の課題は、すでに私たちとは切っても切れない関係にあります。孤立しない、孤立させないために何ができるのか、ぜひゲームの体験を通して考えてみてほしいです。
撮影:永西永実
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。